第1話:『ン』の付く無能と罵られた俺、義妹のビタミンと辺境の町『社畜』で無双する
「おい、カフェイン。お前は今日限りで我がパーティー『しりとり』から追放だ」
しりとり国の若手トップギルド。その一室で、リーダーの【ゴリラ】がドスの利いた声で言い放った。その隣では、彼の恋人である【リンゴ】が、小馬鹿にしたような笑みを浮かべてこちらを見ている。
「……追放、か。理由は?」
俺――カフェインは、静かに問い返した。
「ハッ、決まっているだろう! お前の名前の最後を見てみろ。『ン』がついてるじゃねえか!」
ゴリラが机を叩く。
「しりとり界において、語尾に『ン』がつく奴は一発アウトの無能、即座に敗北をもたらす呪われた存在なんだよ! お前みたいなゴミをパーティーに置いておいたら、俺たちの輝かしい実績に傷がつく!」
「そうよ、カフェイン」
リンゴがゴリラの腕にすがりつきながら、冷たい視線を向けてくる。
「ゴリラからラッパ、ラッパからパンツ、パンツからツミキ……そうやって綺麗に繋がっていくのが私たちの美しいコンボなの。そこに『カフェイン』なんて泥を塗るような存在、いらないわ。ギルドの方にも話は通してあるから。あんたの冒険者ライセンスは剥奪よ」
彼らは知らないのだ。
「ン」がつく成分こそが、世界を裏から支えるチート能力(栄養素)であるということを。
誠に、彼らが俺を繋ぎ役として使っていたからこそ、今まで徹夜のダンジョン攻略に耐えられていたという事実に。
「わかった。そこまで言うなら出ていくよ」
俺は未練なく立ち上がり、ギルドの重い扉を押し開けた。
ギルドの外では、一人の少女が不安そうな顔で待っていた。
「お兄ちゃん……どうだった?」
彼女は俺の義理の妹、【ビタミン】。彼女もまた、名前に「ン」がつくという理由で、周囲から「役に立たない引きこもり」と蔑まれてきた不遇の少女だった。
「クビになったよ。ギルドからも追放だ」
「そんな……! お兄ちゃんはみんなのために、あんなに頑張って夜通しバフをかけ続けていたのに!」
ビタミンが悔しそうに拳を握りしめる。俺は彼女の頭を優しく撫でた。
「いいんだ、ビタミン。しりとりしか脳がない奴らの国に、もう用はない。俺たち二人で、新しく生活費を稼げる場所へ行こう」
「うん……! 私、お兄ちゃんについていく!」
こうして俺たちは、しりとり国の王都を後にした。
目指すは、遙か東の最果てにある辺境の町――通称【社畜】。
そこは、過酷な労働と、終わらない書類仕事、そして慢性的などんよりとした疲労に喘ぐ、呪われた開拓地だった。
◇
数日後。俺たちが辿り着いた町「社畜」は、文字通り死んだような活気に包まれていた。
行き交う人々は一様に目の下に深いクマを作り、ゾンビのようにふらふらと歩いている。
「はぁ……もう駄目だ……今月も納期が間に合わない……」
「徹夜3日目……限界だ……」
その様子を見た俺とビタミンは、顔を見合わせた。
「お兄ちゃん。ここ、私たちの力が一番必要な場所じゃ……」
「ああ、間違いない。よし、一発キメてやるか」
俺は不敵に笑うと、町の中央広場で固有スキルを発動した。
「スキル――【脳内覚醒】!!」
俺の身体から放たれた漆黒のオーラ(微かなコーヒーの香り)が、広場にいた労働者たちに一斉に染み込んでいく。
その瞬間、どんよりとしていた社畜たちの目が、カッと見開かれた。
「な、なんだあこれは……!? 脳が、脳が冴え渡る……!?」
「眠気が一瞬で吹き飛んだぞ! 徹夜明けなのに、今ならあと3連徹は余裕で行ける気がする!!」
「やる気が満ち溢れてくるッ! よし、残業だァァァッ!!」
さらに、ビタミンが両手を広げて祈りを捧げる。
「スキル――【聖女の慈愛】!」
彼女から放たれた極彩色の光が人々の身体を包み込む。
「おおっ!? 口内炎が消えた!?」
「肌にハリが戻っていく……! 身体が軽い、これが『栄養が足りている』という感覚なのか……!」
「社畜」の町が、一瞬にして爆発的な活気に包まれた。
「おい、あのアニキと聖女様は一体何者だ!?」
「神だ……! 俺たちの救世主だ!!」
熱狂する社畜たちを前に、俺とビタミンはガシッと固い握手を交わした。
ここが、俺たちの新しい戦場だ。
一方その頃。
しりとり国の王都では、新進気鋭のパーティー「しりとり」のリーダー・ゴリラが、青い顔をして自分の頭を抱えていた。
「くそっ……どうしてだ……! なんでこんなに眠いんだ……!?」
「ゴ、ゴリラ……私、なんだか最近、肌が荒れて、足の先が痺れて力が入らないの……ウフフ、しりとり、ゴリラ、ラッパ、パ……パパ、パセリ……あ、頭が回らない……」
カフェインという「覚醒」を失い、ビタミンという「健康」を失った彼らに、静かな崩壊の足音が近づいていることに、彼らはまだ気づいていなかった。




