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創作能楽小説 『銘 黒椿』 翁付き五番立て  作者: 堀吉 蔵人


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11/11

十一 翁


 後戸(うしろど)、という場所がある。

 舞台の裏の、誰も見ぬ暗がりである。

 芸はみな、表で生まれて、ここへ帰る。


〽とうとうたらりの声も遠

 遠きは近き夢のあと

 湯はさめてなほ 匂ふなり


 翁が、座している。

 かたわらの暗がりに、いつからか、鼓を抱いた影が、座している。


 二柱のあいだに、碗がひとつ、置かれている。

 黒い碗である。

 ひび、ひとつない。


 どちらも、何も言わぬ。

 長い、長いあいだ、ただ碗を眺めている。

 灯りはないのに、碗の底の黒だけが、深い。


 やがて、影が、鼓を、ひとつ打った。


 ()めの一打である。


 めでたし、めでたし。

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