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十一 翁
後戸、という場所がある。
舞台の裏の、誰も見ぬ暗がりである。
芸はみな、表で生まれて、ここへ帰る。
〽とうとうたらりの声も遠
遠きは近き夢のあと
湯はさめてなほ 匂ふなり
翁が、座している。
かたわらの暗がりに、いつからか、鼓を抱いた影が、座している。
二柱のあいだに、碗がひとつ、置かれている。
黒い碗である。
ひび、ひとつない。
どちらも、何も言わぬ。
長い、長いあいだ、ただ碗を眺めている。
灯りはないのに、碗の底の黒だけが、深い。
やがて、影が、鼓を、ひとつ打った。
留めの一打である。
めでたし、めでたし。




