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騎士「強すぎてゴメンね!」王女「でもあなた女性恐怖症ですよね?」  作者: ルーシャオ


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第八話 スメルナ王国王都行き絶賛討伐中

 星空の下、延々と続く荒野に、延々と続く魔物の死骸。


 この付近一帯は、魔物の体液と死骸があまりにも積み重なったことによる汚染で、醜悪な土地と化した。多少ならば自然の循環で毒性が抜けて大地の一部となるのだが、数百、数千の死骸を浄化するには、河川も雨水のない荒野では年単位の時間がかかるだろう。


 ヘドロ状になった血と肉を踏み締め、ハルトークは歩く。とりあえず視界に入っていた魔物の討伐は完了したが、討ち漏らしがいないかの確認に手間取った。何せ、気を抜けばすっ転んでしまう滑りのひどい足場だ。あとで鎧兜やブーツは洗わなくてはならない、そうしないと臭いし、どれほど対策を講じた素材を使っていても劣化が早くなる。


 ハルトークはやっと何もない土の地面を踏んで、一息つく。ただでさえ独特の体臭がある魔物の、さらに血やら内臓やら死骸のむせ返る生臭さは涼しい北風で緩和され、乾いた気候のおかげで他の地域ほどは気にならない。


 少し歩いて荷物を置いていた場所まで、休ませていた死骸馬アーデンスを目印に戻る。ハルトークが近づくと死骸馬アーデンスは首を丸めて、頭を撫でろと催促してきた。少年のネクロマキナトス曰く、「こいつは名馬の骨を厳選して、さらにドラゴンの皮やユニコーンの筋、世界牛クユーサーの四万本の足の一本を使ってる。知能は高いし耐久性も速度も並の死骸馬とは比べものにならん。一ヶ月と言わず、もっと使えると思うぞ」とのことだった。


 それでも念のため移動を主に使い、大型の魔物が出たときには乗って戦う、という方針でハルトークは行くことにした。できるだけ長く付き合いたい、と思ってのことだ。


 ハルトークはランタンで火を熾した。一切れで一晩は燃える特殊な炭をランタンへ放り込み、火が付いた頃合いで拾ってきた草木を薪に焚き火にする。とはいえ、荒野にはほとんど燃える材料はないため、途中で拾ってきたものや荷物の中に入れておいた燃料用の薪で何とかする。


 鎧兜を脱いで、焚き火で暖まりながら、ハルトークは背伸びをした。


「あー、疲れた」


 さすがに剣の残りが少なくなってきたため、ここまでは節約して、大型の魔物がいないかぎりは普通の剣で対処してきた。普通、とは言っても耐久性は抜群で、特殊性能がないだけである。


 テントを組み立てたり、食事の準備や装備品の手入れをやらなければ、とハルトークは思うが、ついだらけてしまう。それもそのはずで、今日はゆうに千匹を超える魔物を討伐している。主にゴブリンの群れで、珍しいところではマンティコアのつがいがいた。人面にライオンの体とさそりの尻尾を持つ魔物で、魔物の中でも特に人肉を好む人喰い(マンイーター)と恐れられている。


 そのマンティコアをハルトークは殴り倒し、また剣で真っ二つにしてきた。とはいえそれだけなら大したこともなく、単にゴブリンを片っ端から掃討していくことに時間がかかった。


 変異種のジャイアントゴブリンや統率するホブゴブリン、首なし馬を使役して騎馬隊を形成するグレムリン、空から襲いかかってくるグレムリンの変異種スパンデュールなどなど、どれも妙に知恵が回る魔物ばかりで、追いかけるにも一苦労だったのだ。空の敵は剣が届かず面倒なため、ハルトークはそのへんに落ちている石を投げて撃墜した。


 何にしても、ハルトークがスメルナ王国に入り、魔物を討伐しつづけてもう三日だ。毎日、ろくに荷物も持たず南へ避難していく人々、それを守る兵士たちを見ていると、早くしなくては、と焦る。


 しかしハルトークも人間だ、しっかり食べて寝て休まないと動けない。どうしても一日でできることは限られる。


 仕方なくだらけているハルトークの耳に、馬の足音が聞こえてきた。いくつもの重めの車輪が荒い地面を走る音も響いてくる。


 ということは、魔物ではなく、人間だ。ハルトークが音のする方向を見ると、スメルナ王国の兵士が簡単な馬車を引いて、一人の騎馬を先行させてやってきていた。


「ハルトーク様! 見つけました!」


 先にやってきた騎馬の兵士が嬉しそうにハルトークを呼ぶ。


 スメルナ王国に頼んでいた、ハルトークの食料と水を運んでくる輸送部隊だ。部隊といっても動きやすいよう、また限られた人員から移動するハルトークを追うため、少人数の班に分かれて毎日ハルトークを捜索し、荷を届けてくれる。


 馬車もすぐにやってきた。ハルトークは顔を綻ばせる。


「おー、いつもご苦労様。水くれる?」

「はい、こちらに樽一杯ございます!」

「いやそんなにはいらないかな! でもありがとう!」


 二人の兵士が積荷を下ろしはじめ、ハルトークも水の入った樽を持ち上げて手伝う。その水を桶に汲み、一口飲んだあと、地面に置いている鎧兜にかけ、血を洗い流す。それだけでは落ちないが、とにかくべとついているためまずは水分を与えなくてはならない。


「やっと鎧洗えるわー、もう返り血でベトベトでさー、汗も拭けないしイライラしてた」

「ははは、お手伝いしましょう。湯を沸かしますね、布も用意してあります」

「お、助かるー! 持つときは尖ってるから指切らないようにね」

「今からシチューを温めますから、もう少しお待ちください。近くの無事な村で作ってもらったんですよ、暖まりますよ」

「やったね、固いパン齧らなくて済む」


 すっかり仲良くなったハルトークと二人の兵士たちは、手際よく装備の洗浄と食事の用意を済ませていく。死骸馬アーデンスが、兵士たちの馬二頭と鼻をくっつけて挨拶をしていた。その後、馬たちはのんびり休む姿勢を取る。このあたりにもう生きている敵がいないことを、馬たちは分かっているようだった。


 ただ、人間はそうはいかない。魔物を見慣れない人間はなおのこと、人類の敵を知ってしまえば恐れる。いつやつらが襲ってくるか、と警戒する。


 それもそのはずだ、魔物は人間を最優先して襲う。そして何より、人類が恐怖を抱く最適な姿を取る。醜悪な姿が多いのは人間が不快に思うから、古い神々や怪物と同じ姿をしているのは人間が畏れるからだ。


 ハルトークはのんびりシチューを口にしながら、鎧をお湯に浸した布で拭いていく。いつものことだからそうも落ち着いていられるが、二人の兵士たちはどうにも落ち着かない様子だ。


 兜を外し、短い黒髪のほうの兵士がハルトークへ尋ねる。


「しかし、このあたりにはもう、魔物はいないんですか? あれほど……地面を覆い尽くすほどいたというのに」


 ハルトークは何てことはない、というふうを装って、答える。


「大丈夫だよ。俺が徹底的にぶっ殺しまくったのもあるけど、あいつらは遠征すると、夜はあんまし動かないのよ。でかい体で燃費悪い大食いばっかだしさ、それに人が避難して食べるものもないから夜寝ないと動けないってわけ。あと、ここいらは寒いから、ドラゴンなんかは暖かい地脈の上に拠点を作ってそっちに帰るんだよ。そういうわけで夜のここは安全よ。もっと北に行かないかぎりは安心安心」


 一応は魔物と長く戦ってそれなりに知っているハルトークの言葉だ、短い黒髪の兵士も、もう一人のくすんだ金髪の兵士も少しは安堵したのか、緊張した顔を緩める。


「何というか、ハルトーク様は予想外にフランクと言いますか、もっと近づきづらい方かと思っていました」

「よく言われる。誤解される。本当、何でだろうね」


 それに関しては、ハルトークはいつも不思議でたまらない。自分のことは何も言っていないのに、なぜか色々噂が立つ。


 大変気難しい人間だとか、食事を一日十回も食べるとか、生きている馬は食べるから死骸馬を使っているのだとか、徐々に化け物扱いがひどくなっている。否定しようにも噂の出所がはっきりしないし、ハルトークはおしゃべりが得意な性格でもないため、上手く反論もできなかった。


 さらにアーセナルは気にするな、の一点張りで、その意味するところは「お前ではどうにもならないから放っておけ」だった。ひどい話である。


 その点、スメルナ王国では知名度がないおかげで、ハルトークはとても居心地がいい。魔物を討伐したらちゃんと感謝されることも嬉しく、魔物の侵攻という緊急事態もあってハルトークを仲間のように扱ってくれるのだ。


 ただ、親しくなると——このスメルナ王国の未来を考えたとき、緊急事態を乗り越えたとしても厳しい現実が待ち受けていることを、彼らに告げようにも告げられなくなる。

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