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騎士「強すぎてゴメンね!」王女「でもあなた女性恐怖症ですよね?」  作者: ルーシャオ


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第三話 怒られるのいやだから

 ハルトークは前線から帰還するなりさっさと自分のテントを片付け、アーセナルの騎士団の陣地に紛れ込んでいた。稼げなかった周りの人々から怒られる、と本気で苦慮した結果、指揮を取ったアーセナルのせいになることは考えずに逃げ込んだのだ。


「おっ、ハルトーク、出戻りか?」

「ごめん匿ってマジで怒られそう」

「ははっ! 今回も大活躍だったからな! いいさ、団長を呼んでくるから飯でも食ってろ」

「助かるー」


 そんな気軽なやり取りのあと、騎士団の後方支援の世話人たちが用意していた温かい夕食とたっぷりの茶を差し出した。肉ではなく、ブラウンソースのかかったマッシュポテト中心の簡易的なものだったが、てんで料理のできないハルトークにとっては久しぶりのまともな料理だ。


 まだ動きを止めていない死骸馬が、陣地の隅で食事に勤しむハルトークの傍で膝を折り、休んでいた。日が暮れれば死骸馬は徐々に動かなくなり、再生可能な骨などの素材を残すのみとなる。無事に帰ってきたのなら、そうなる前にネクロマキナトスへ返さなくてはならない。そういう決まりだ。


 それでも戦いの間は立派な愛馬だった。ハルトークは少し煤けている死骸馬を眺め、憐憫とも惜愛とも言えるような、それとも夕闇の寂しさで戦闘の熱もすっかり冷めてしまったせいなのか、よく分からない気持ちだった。


 無名の死骸馬へ、ハルトークは語りかける。


「ご苦労様。お前の名前はナスティーシャだ、ちゃんと憶えとくよ」


 無名の死骸馬は、ナスティーシャという名を肯定するかのような無音の嘶きを返した。いくつもの戦場を、死骸馬何頭と駆けたか、騎士は憶えたりはしない。愛用のものでもない、数時間限りの付き合いの使い捨ての道具に名を与えることもない。


 ハルトークは荷物の中から万年筆と古いメモ帳を取り出し、名前の列にナスティーシャの名を書き足した。数ページに及ぶ名前の列は、時折眺めてはそのときの戦場を思い出すことに役立っている。一度、あの少年のネクロマキナトスにメモ帳の話をしたら、彼は照れ臭そうに笑って、いつか見せてくれと言っていた。


 それに比べて——ハルトークが今日使い潰した四本の剣の製作者たちは、「いくらでも使え、もっといい武器を作ってやる、どんどん魔物をぶっ殺してこい!」と言う始末だから、狂っている。一回の戦闘ごとに剣が壊れるような、とんでもない威力と引き換えに耐久性をかなぐり捨てた試作や実験的な剣を勝手に送りつけてくるものだから、ハルトークも使い道に困ることが少なくない。


 とにかく使わないとどんどん溜まるため、毎回大盤振る舞いをしていた。ちなみに、それらの剣の使い心地については製作者たちと会うと根掘り葉掘り聞かれる。そしてその情報がまた奇妙で強力な武器に生まれ変わる。負のサイクルである。


 剣の名前に関しても、ハルトークは最初のうちは教えられた名前をちゃんと書き記していたのだが、一度に渡される数が多すぎて管理しきれなくなってきたため、とりあえず入手時に針金と紙でタグを作って書いておくだけに留めている。


 預けている倉庫から持ち出して、使う日の朝に外してメモ帳の片隅に名前を記録する、というスタイルが定着した。それもまた、ハルトークは製作者たちに剣の使い心地を話すときに活用している。


 皿のマッシュポテトがなくなるころ、アーセナルがやってきた。


 鎧兜を脱いで、どこかの国の高級官僚でもやっていそうな優男風の風貌だが、実際昔は別名でとある国の官僚兼騎士団長をやっていた。今は独立した騎士団を率いて自由に放浪し、魔物討伐の集団指揮で功を立てて色々な場所で重用されている。


 それだけのことをこなせるほど頭がいい、ということはハルトークや騎士団の面々でなくとも認めるところだ。


 アーセナルは手に書類をいくつか持っていた。まだ仕事の途中のようだ。それでも客のハルトークを気遣ってやってくる、律儀な性分でもある。


「今日は早かったな」

「一時間かからなかった」

「鎮火に時間はかかるがな。素材回収屋(スカヴェンジャーズ)が文句を言うぞ」

「俺、そっちからはお金もらってないし。全部周りにあげてるんで」

「お前はまたそういうことを」

「毎回毎回、金貨は重いから持ちたくないんだよ」


 アーセナルは魔物討伐にやってきた者らしからぬハルトークの態度を戒めようとしたが、すぐに口を閉ざした。言っても無駄だと思ったのだろう。


 ハルトークが金に困っていないことは、誰もが察するところだ。大規模討伐の一番槍、常に最多の討伐戦果、魔物が現れたとなればどこへでも駆けつける。


 それらは広く巷間で知られているところだし、素材を自分のものにしないとしても、直近の戦闘報酬だけで何ヶ月も遊んで暮らせるだろう。


 しかし、ハルトークは自身についてろくに語らないせいで、謎の人物像が一人歩きしている有様だ。曰く、魔物に家族を殺された復讐をしているだとか、いやいや神の遣わした英雄に違いないだとか、自身の国を建国するために銀行の秘密口座に莫大な隠し財産を持っているだとか、楽しく口々に語られるものの、尋ねられればまずもって本人は否定することばかりだ。なお、ハルトークの家族は全員人間で無事生きているし、魔物がいても誰もが一人で何とかできる実力を持っているので心配する必要はなかった。


 ハルトークを諌めることは諦めても、世話を焼くことは諦めない。アーセナルは矢継ぎ早に質問と確認をする。


「荷物は全部引き上げてきているか?」

「うん」

「なら、今日は泊まっていけ。次の戦場はどうする」

「あー、せっかく遠くに来たから、適当に近場を巡ろうかと思って」

「相変わらず無計画だな」

「急ぎの話でもないかぎりは」

「武器や消耗品は?」

「剣はまだあるんだけど、飯がちょっと心配」

「分かった、とりあえず当面の飯は用意してやる。今日の奢りの話はそれで手を打て」

「りょーかい、助かるわー」


 まるで心配性の父と適当な子のような微笑ましい光景だが、そう評されればアーセナルは険しい顔をするだろう。


 ハルトークの浮世離れした一面を知る人間は少ない。そもそもアーセナルにとっては世話を焼くのは元団員のハルトークだから、という理由もあるが、それ以上にアーセナルは面倒見がいい。それゆえに、職を辞して国を離れるときに騎士団がまるごとアーセナルについてきたほどだ。


 アーセナルは近くにいた騎士団員へ少年のネクロマキナトスを呼ぶよう指示を出し、その騎士団員が陣地の入り口に行こうとしたところ、ハルトークとアーセナルは入り口が騒がしいことに気付いた。

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