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騎士「強すぎてゴメンね!」王女「でもあなた女性恐怖症ですよね?」  作者: ルーシャオ


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第二十四話 これからのこと

 ハルトークは居住区の庭、地面に降り立っていた。


 降り立ってから、随分と立っているが、ぴくりとも動かない。


 服が魔神エキドナの滑りで濡れていて、気持ち悪かった。もし毒でもあれば危険だ、とユーディットはわたわたと抵抗してみるが、しっかり腕で抱き抱えられているため、一人では降りられない。


 お姫様抱っこのまま、ユーディットは声をかける。


「ハルトーク様、もう下ろしてくださってけっこうですよ」


 ユーディットがハルトークの顔を見上げると、ハルトークは必死に視線をどこかへ泳がせていた。


 調子外れた声でハルトークは叫ぶ。


「動けなくて! 下りて!」

「無理です。腕を外してください」

「怖くて動けないのおおお!」


 だめだこれは。ユーディットでなくとも、この姿を見れば皆、最強の騎士に幻滅しかねない。


 気を逸らさせるしかない、と判断したユーディットは、別の話題にすり替える。


「ところで、重いでしょうか、私」

「えっ!? いや、全然! めっちゃ軽い!」

「荷物と思ってくだされば、何もしませんから」


 ハルトークは、荷物、荷物とつぶやいて、自分へ暗示をかけていた。次第にハルトークは落ち着いてきたのか、ユーディットを見ることはできていないが、真下の地面を見つめることはできるようになった。


 大切な、繊細な宝物を置くように、ハルトークは腕を傾けて、ユーディットの足を地面へ着ける。


 そのまま、ユーディットは立ち、ハルトークからそそくさと離れた。


 まだあらぬ方向を見て、動きがぎこちないハルトークへ、ユーディットは頭を下げる。


「ありがとうございます。助けてくださって」


 ぎぎぎぎ、と出来の悪いブリキ人形のように、ハルトークはユーディットから首ごと顔を逸らした。ついでに、自分の顔を両手で覆う。


 これなら目の前のユーディットを見なくて済む、そういう考えなのだろうな、とユーディットは把握した。もう大体ハルトークのそういった思考は読めるようになってしまっていた。


 ただ、ハルトークは、少しは女性恐怖症もマシになっていた。


 顔を手で覆いながらも、ハルトークはユーディットへと話しはじめる。


「あの、さ」

「はい」

「えっと、こないだ、ファルヴィーズ王国っていう南の国に、手紙送って」

「ええ」

「魔神の死骸あげるから、技術者(アデプト)を送って支援してって頼んどいた。あそこ専門家多くてさ、だから、これから……この国は何とかなると思う」


 ユーディットは、どういう顔をすればいいのか、分からなかった。


 もちろん、感謝すべきことだろう。ハルトークは縁もゆかりもないこの国のために戦い、復興のための資金を稼ぐために、そこまで面倒を見てくれるのだ。おそらく、滅亡の淵にいるスメルナ王国へそんなことをしてくれる人間は、国は、この大陸にはハルトーク以外に存在しない。


 ユーディットは、まずはその感謝の気持ちを伝える。


「そうですか、よかった。誰かの生きる道は、確保されるのですね」

「それは、ユーディも」

「いいえ。王家の存続はもう無理でしょう。国を潰れさせた王家の人間が、この国に留まることはできません」


 それは、自分たちのせいで魔神を引き寄せたことの責任を感じてのことだった。


 ハルトークだけでなく、アーセナルたちも国民も、スメルナ王国王族を責めることはないだろう。ユーディットたちのせいではない、魔神の行動など人類は誰も読めはしないし、二百年以上前の伝説の要素を現代に生きる人間が留意することなど不可能だ。


 そう言ってくれると、ユーディットは知っている。


 だが、だめなのだ。国が潰れかけ、それを支えきれなかったことは、事実なのだから。


 すでに、ユーディットは覚悟を決めている。この国を離れ、どこかへ行かなくてはならない。


 その生きていく道を、探さなくてはならない。


「私、吟遊詩人になれるでしょうか。一人で生きていけるでしょうか」


 ユーディットの問いは、答えを求めたものではない。


 ハルトークはそれでも、誠実に答える。


「分かんない、けど……やってみるのは、悪くないと思う」


 だめだ、いや、できる、そのどちらでもない答えは、無責任とはほど遠い。


 ユーディットの未来のことなどハルトークに分かるわけもなく、その面倒を見ることまではさすがに考えられていない。やらないのではなく、そこまでしていいのだろうか、と考えていることだろう。


 だがそこには、ハルトークのお人好しな、助けたいという意思が見え隠れしている。


 となれば、少しだけ、背を押そう。ユーディットは提案してみる。


「ハルトーク様」

「な、何?」

「友達になりませんか」

「友達ぃ!?」

「結婚は無理でも、友達なら大丈夫でしょう? そのくらいがちょうどいい距離だと思いますし、あなたの女性恐怖症を治すお手伝いをこれからもしたいのです」


 そう、それはまだ、終わっていない。ハルトークの重傷すぎる女性恐怖症は、治さなければならない。ユーディットは至極真面目にそう思っている。


 恩返しや報酬という話もあるが、それ以上に——何とかしてあげたい、と思うのだ。誰かのために、何かをしたいと思う心は、抑えられない。


 それはハルトークも同じなのだと、ユーディットは分かっていた。


 口さがない人々は、善意につけ込む真似だと非難するだろう。下心あって近づく口実にしているだけだ、と邪推するだろう。そんなことはどうでもいいのだ。言いたいならば言わせておけばいい。


 ハルトークは、もごもごと恥じらいつつも、何とか顔から手を離した。


 視線は下を向いている。それでも、目をきつく閉じてみたり、口を開け閉めしてみたり、自分を奮い立たせて行動に移させようと努力していることが見て取れる。


 そして、やっと、ハルトークはユーディットを、正面から見た。


 この光景は初めて会ったときと同じで、しかし今は心構えが違う。話そうと、そう思って、ハルトークは口を開こうとしていた。


 そこへ、国王が走ってやってきた。


「ハルトーク! よくやってくれた!」

「ひゃいぃ!」


 肩を震わせて跳び上がって、ハルトークは何事もなさそうに着地した。驚きの行動に目を丸くする国王へ、ユーディットが何とか会話を繋ぐ。


「お父様、ハルトーク様のおかげで、怪我もなく助かりました」

「おお、それはよかった! 本当に、もう、お前が捕まったときは、生きた心地がしなかった」


 涙ぐむ国王は、土埃まみれの髪も顔も拭わずに、ユーディットを抱きしめた。ところがユーディットの服には滑りがまだ残っており、慌てて国王もユーディットも何とかしようとケープを脱いだり払ったりと忙しい。


 ハルトークがおずおずと、国王へ話しかける。


「王様」


 国王とユーディットは、ハルトークを見つめる。


 気恥ずかしそうに、ハルトークはこう言った。


「えっと……これからのこと、話しませんか」

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