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騎士「強すぎてゴメンね!」王女「でもあなた女性恐怖症ですよね?」  作者: ルーシャオ


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第二十三話 衝撃の一言、必勝の策

 ハルトークは最強の騎士である、ただし女性恐怖症だった。


 魔神エキドナであっても女性の姿形をしていれば恐怖対象に含まれるらしく、ハルトークの動揺は一目見て分かるほど、しかし力量差もあって魔神エキドナとは睨み合いが続いている。


「ハルトーク様……ひょっとしなくても、そうですね?」


 そうだとしても、ユーディットは諦めない。


 ハルトークの足手まといどころか、目の前で自分が魔神エキドナに殺されればハルトークの女性恐怖症はさらに悪化すること間違いなしだ。


(そんなものを、最強の騎士に背負わせるなんて、絶対に嫌!)


 ユーディットは、後先を考えるよりも、すぐさま行動に移す。


 ハルトークを正気に戻してやる、とばかりに、自身を捕まえている滑った指から右腕を引き抜き、魔神エキドナの体へと手のひらを叩きつける。


「えい!」


 ぺちん、と固い石に皮膚を打ちつけたちっぽけな音が響く。


 魔神エキドナはハルトークから視線を外さない。非力な少女に叩かれる程度では、弱体化していても魔神エキドナには痛くも痒くもない。せいぜい髪の毛が触れたようなものだ。


 だが、その油断こそがユーディットの生死を分け、ハルトークを正気に戻す策を成功させる。


 ユーディットは、起死回生の一手を放った。


「ハルトーク様! これは女性ではありません! だって」


 魔神エキドナの胸をぺちぺちと叩きながら、ユーディットは厳しい表情のハルトークへ、衝撃の事実を伝える。


「これは石です! 偽乳です!」


 倉庫の床に片膝を突いて見上げていた国王が吹き出した。


 貞淑な娘が偽乳などという単語をなぜ知っているのか、今聞いた言葉は空耳か何かだ、と魔神エキドナを前にしていながら慌てふためていている。


 しかし、それは戦局を左右する重要な情報だ。


 ユーディットが危険を顧みず、ハルトークへ知らせたそれは、ハルトークの意識をすぱっと切り替えさせるには十分すぎた。正確には、単語の理解と状況の再認識によって、迷いが吹っ切れたのだ。


 ハルトークは、きょとんとして、それから思いっきり破顔一笑した。


「そっかぁ!」


 ハルトークは納得し、ユーディットは満足げだ。


 魔神エキドナは、獲物のはずの人間から、言い知れぬ狂気を感じ取った。


 獲物でありながら、狩人を前にして笑う。食われるだけの人類が、魔神へとその狂気をもって、刃を喉元へと突き立てる。


 もはや、魔神エキドナを支配しているのは、恐怖だ。人類でありながら、魔神を一蹴しかねない絶対強者を前に、脳裏に浮かぶのはただ一つ、自身の死出だ。


 ハルトークは氷剣ガルムレイドを手放し、背中の剣を引き抜く。


「アルグムドの杖、召喚せよ!」


 高らかに、その文言を唱えながら、ハルトークはアルグムドの杖を天へと力一杯投げた。


 間もなく、それは現れる。


 夜空を煌々と照らす、炎と死を司る魔神の影は、咆哮した。炎の体からは怒気を、その口からは灼熱の息を、その翼からは陽炎を生み、そして手には一本の、ただの棒にも見える槍を持っている。


 魔神の影の炎が、槍へと移る。すると、三叉の刃が現れた。そこに初めからあったかのように、徐々に槍の輪郭が形作られる。


 穂先を靡かせ、支柱を擁し、華炎の意匠が光を放つ。


 それを見た魔神エキドナの叫びは、もはや慟哭に近い。


「まさか、まさかまさか! イフリートを、使役だと!?」


 まあ、同じ魔神としては、信じられないだろう。


 ハルトークもそう思う。だからこそ使った。魔神エキドナの目を逸らすために。


 魔神とて、ハルトークにかかればただの目眩しの道具だ。


 ひょいと、ハルトークはユーディットを持ち上げる。魔神エキドナの指は滑りを持っていて、惚けていたこともあってすんなりと体を抜くことができた。


「よっと」


 魔神エキドナが気付いたころには、もうハルトークはユーディットを両手に抱えて離れている。


 魔神の影は、槍を振るう。その行動と同時に、結果は現れる。魔神エキドナの石の肌の胸から背中へと、燃える槍で貫かれていた。


 石は燃えない。だが、砕かれることなく、そのまま魔神エキドナの体は持ち上げられる。


「あ、あ」


 上空から漏れ聞こえてくる声は、どこか痛々しい。しかし、ここにいる誰もが同情はしない。


 着地したハルトークは、魔神の影へ命令する。


「遠くに吹き飛ばしといて。死骸はあとで回収するから」


 魔神の影は無言で、肩を上げて槍を構え——北の荒野へと、軽々と、魔神エキドナを貫いている槍ごと投擲した。


 ハルトークは魔神エキドナへ向けて、特に何も思わない。強かったなー、とか、悪いやつだった、とか、そんな思いすらない。


 しいて言うなら、裸で破廉恥だったので困ったが、思い出さないようにしたかった。とはいえ、何かいたから倒した。


 そういうものだ。確かに諸々の事情はあったが——それも含めて、ハルトークは何とかなるという確信に近い自信しかなかった。


(だって、俺は最強の騎士だし)


 配下の魔物と同じく、魔神エキドナも断末魔を発する。


「うぉのれえええええ!」


 流星のように、魔神エキドナごと槍は空を切り裂いていく。


 役目を終えた魔神の影は、元の剣に戻って、地面へと落ちて突き立っていた。

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