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騎士「強すぎてゴメンね!」王女「でもあなた女性恐怖症ですよね?」  作者: ルーシャオ


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第十一話 暗澹たる交渉・後

 アーセナルはすぐさま了承した。大臣たちを広間に残し、国王に伴われて、王宮の地下へとやってくる。


 兵士の配されていない、本物の砦とばかりの頑強な作りの廊下の先にあったのは、鍵のかかった鉄扉だ。国王は鍵を取り出し、自ら鉄扉を開ける。


 開いていく鉄扉の先にあったのは——がらんどうの部屋だ。部屋の隅に木箱が一つ、そして小麦でも入っていそうな大きさの麻袋が一つ。それ以外は、何もない。


 しかし、おそらく棚や箱を動かした形跡はあり、それがごく最近のものだということは床の砂や埃の擦れ具合、壁紙の変色で分かる。


 ここはスメルナ王国の国庫、宝物庫だ。アーセナルは、自身の予想が当たったことに落胆と同情の念を抑えられそうになかった。顔を引き締めるよう努めても、悲しそうに目を伏せる美しい国王を、どうしても憐憫の視線で見てしまう。


「これが、この国の現状だ。あそこに積んである箱と袋が最後の資金だ。すべて放出して、食糧や生活物資を買い、民に配った。すまぬ、まずは避難してくる民を養わねばならなかった」


 これが血気盛んな傭兵や打算に溢れた商人だったならば、どんな事情があろうとも国王は無事では済んでいない。アーセナルはこの国王に利用価値があるなどと下衆な考えをするつもりはなかった、それに仮にも王と名の付く存在をぞんざいに扱うのは、リスキーすぎる。


 これほど民を思う国王なら、何かあれば民たちは害を加えた者を許しはしないし、たった数千人であろうとも、魔物の討伐を生業にしている者が守るべき人間を敵に回すことは、不名誉極まりない。


 厳しい現実とこれからの未来とを念頭に置きながら、アーセナルは現実的な着地点をどうにか得ようとする。


 そこへ、国王が顔色悪く無理に笑って、アーセナルへこう言ってきた。


「まあ、それはさておいて」

「まだ何か問題でもありますか?」

「いや、問題といえば問題だが……ハルトークは未婚か?」

「ええ、そうです」

「では」


 国王の顔は笑いつつも、目は笑っていない。企んでいるというよりは、それはもっと別の強い感情を秘めていた。


「我が娘ユーディットなど、どうであろうか」


 国王のその言葉の意味するところを、アーセナルは的確に、瞬時に把握した。


 その上で、反対する。


「陛下、お言葉ですが、それはやめておいたほうがよろしいかと」

「や、やはりか」

「確かにハルトークは家柄もよく、性格も決して悪くなく、気遣いのできる男です。おまけに腕っぷしが強いだけに年齢の割に余裕もあり、若くして魔物の討伐で大商人に匹敵する財を築いています。しかし!」


 鬼気迫るアーセナルの言に、国王は冷静に尋ね返す。


「貴殿のハルトークの人物評を聞くに、優良物件としか思えぬのだが」

「そのようなことはありません。本人たちのためです。そればかりはお考え直しを」


 国王は未だ納得せず、アーセナルはどうにか国王の——ハルトークが聞けば断固拒否するであろう提案を取り下げさせるための説得材料を探す。


 国王も困惑しているだろう、未婚の男性、それも優秀で強い騎士と自分の娘は釣り合わないのだろうか、と。


 決してそんなことはない。だが、その提案はだめなのだ。そして、その理由をアーセナルは知っている。


 二進も三進もいかない状況の中、宝物庫の外から声がかけられた。


「陛下、ハルトーク様がいらしておりまして」


 国王はその知らせに、宝物庫から飛び出して、伝令の兵士を驚かせる。


「おお、急いで出迎えをせねば!」

「そ、それが、すでに帰られまして」

「何?」

「迎えに出た大臣から銀貨三枚を受け取り、宿で休むとおっしゃり……疲れたので二、三日誰も会いに来ないよう、とのことです」


 国王の顔には、「どういうことだ?」と書いていた。


 アーセナルは分かっている。ハルトークは本当に疲れているが、それ以上に王宮へ来て、国王に会いたくないのだ。嫌なことからは子どものように逃げようとする、しかしさすがにハルトークも事の重大さは分かっているだろう。


「逃げはしませんから、放っておきましょう。やつは仕事を終えました」

「う、うむ、そうだな」


 上手く話題を逸らし、アーセナルはしばし国王と一対一で話し合った末、今後の対処を考えて報酬は後回しにする、ということで決着した。国王が満足していないのは明らかだったが、何もハルトークもアーセナルも借金の取り立てに来たわけではない。必ず何らかの形でもらうが、それが何かはまだ決めない、ということで国王を説得した。


「はー、やれやれ」


 王宮を辞し、アーセナルは騎士団が借り上げている宿へ歩いていく。


 ところが、王宮のささやかな石造りの門の影に、見覚えのある少女がいた。


 吟遊詩人のファシパルーズだ。おさげを揺らしてぴょこんとアーセナルの前に飛び出して、気にせず歩くアーセナルを追いかける。


「アーセナル団長、どうでした?」

「まあ、思ったとおりだな。スメルナ王国は立て直せる気配がない」


 アーセナルはできるだけ小声で、門番には聞こえない距離に来てそう言った。


 ファシパルーズはやっぱり、という表情だ。


「うーん、ただでさえ目立った産業もない貧しい国ですからね! 最強の騎士が来ても、これでは張り合いがないですね……」


 それはそのとおりだが声を落とせ、とアーセナルは心の中で諌める。わざわざ口に出さないのは、おそらくファシパルーズは諫言を大人しく聞くような性格ではないからだ。


 それはさておき、アーセナルは気を取り直して、次の仕事に入る。ファシパルーズにも協力してもらわなくてはならない、とある重要な任務があった。


「君は打ち合わせどおり、王都の各所を取材してくれ。できるだけ詳細にな」

「分かっていますよ! 本命は怪しい人物の捜索ですね!」

「頼んだぞ。あとでハルトークにいくらでも取材させてやるから」

「約束ですよ! それでは!」


 ファシパルーズは元気よく、ハルトーク取材のための取引材料の頼まれごとを快諾して、街中へと姿を消した。


 王宮から離れて独り、ここまで来れば、誰もアーセナルを見咎めない。


 アーセナルは思いっきり、ため息を吐いた。


 アーセナルの推測が当たっていれば、今回のスメルナ王国への魔物の侵攻はまだ終わっていない。それどころか、根本的な解決のためには、荒唐無稽な推測の裏付けをきちんと取って、王国の協力も得てそれに備えなくてはならない。


 無論、その解決のため、最終的にはハルトークの力が不可欠だ。今しばらくハルトークをスメルナ王国へ留めておくためには——。


 アーセナルは考えを巡らせながら、見知らぬ国の見知らぬ都を、少しでも知ろうと歩きはじめた。

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