話終わると顎を出す男
世の中には、理解できない趣味を持つ人々が存在する。
理解されたいのか。
はたまた、理解されたくないのか。
それとも、ただ見てほしいだけなのか。
ここは——
変わった趣味を持つ者たちが集う場所。
『カワシュミの館』
「司会は私、館主の——」
「黒岩です!」
「そしてアシスタントの——」
「はい!!
** それではぁあ?
** 次のカワシュミはコイツ!」
男が現れる。
普通の青年。
姿勢も良い。
礼儀正しそう。
「顎食 法師と申します。
** 26歳。**」
黒岩、
安心したようにうなずく。
「おお」
「若いね」
「んでわぁ?
あなたのー?
変わった趣味、ワッツ!?」
男、
丁寧に答える。
「はい」
一拍。
「私は——」
姿勢を正す。
「会話を終えた後」
一拍。
「顎を出します。」
その瞬間——
スッ
顎が前に出る。
静かに。
しかし確実に。
スタジオ、
ざわつく。
黒岩、
少し固まる。
「……」
「今」
「出た?」
男、
うなずく。
「はい」
一拍。
「出ました。」
——スッ。
また出る。
黒岩、
戸惑う。
「それ」
「どういうこと?」
男、
真面目な顔。
「話が一区切りついたとき」
一拍。
「達成感を込めて」
「顎を出します。」
——スッ。
顎。
川口、
黙って見ている。
黒岩、
なんとか進行しようとする。
「それ」
「いつから?」
男、
落ち着いて答える。
「中学二年生からです」
——スッ。
顎。
川口、
ついに口を開く。
「……」
一拍。
「それ趣味って言えるのか?」
スタジオ、
ざわつく。
黒岩、
驚く。
川口、
さらに続ける。
「癖じゃなくて!?」
鋭い。
完全に正論。
黒岩、
タジタジ。
「いや」
「まあ」
「そうとも言えるけど……」
男、
真剣な顔。
「違います」
一歩前に出る。
「意識してやっています。」
一拍。
「これは——」
胸を張る。
「趣味です。」
——スッ。
顎。
スタジオ、
妙に納得しかける。
黒岩、
完全に迷子。
「……」
カメラを見る。
……
……
「……どうなんだこれ」
川口、
腕を組む。
「いや」
一拍。
「ほぼ癖です。」
断言。
スタジオ、
ざわつく。
男、
少しだけショック。
「……」
一拍。
しかし——
すぐ立ち直る。
「では」
姿勢を正す。
「最後に一言」
深呼吸。
「本日はありがとうございました。」
一拍。
そして——
最大級に
グイッ
顎。
前に。
出る。
スタジオ、
静まり返る。
黒岩、
ゆっくりカメラを見る。川口がすかさずカメラ前に割り込む
……
……
「……かはぁーーっ……」
判断不能100%。
「やったwいえたw」
「まあいい、じゃ、川口くん」
「はい」
「つまみ出せ」
「どうぞ!!」
川口が
堂々と差し出す。
鶏とカシューナッツ炒め
** ガーリックソース。**
香りが立つ。
黒岩、
目が少し輝く。
「……」
「うまそうだな」
「つまみだせと……」
「これメイン料理だろ!!!」
その時——
男、
出口の前で振り返る。
「本日は——」
一拍。
「ありがとうございました。」
そして——
スッ
最後の顎。
ドアが閉まる。
沈黙。
……
……
黒岩、
ゆっくり言う。
「……」
「クセだな」
川口、
即答。
「クセです。」
——ここでCMが入る。
*
CM明け。
川口が
鏡の前で
小さく——
顎を出している。
「えぇ、いかがだったでしょうか?」
黒岩、
それを見て固まる。
「次回は——」
一拍。
「なんでも指尺で測りたがる男」
「おおおお!!」
「楽しみですなーー!!」
「また来週!!」




