エスカレーターでスキーする男
世の中には、理解できない趣味を持つ人々が存在する。
理解されたいのか。
はたまた、理解されたくないのか。
それとも、ただ見てほしいだけなのか。
ここは——
変わった趣味を持つ者たちが集う場所。
『カワシュミの館』
「司会は私、館主の——」
「黒岩です!」
「そしてアシスタントの——」
「はい!!
** それではぁあ?(川に口をつけておいc!おいc!おい**
ッジョ!!
** 次のカワシュミはコイツ!」
男が現れる。
背中が妙に丸い。
膝が常に少し曲がっている。
腕の角度が、もうスキー。
「猿渡 綿 乱蔵(さるわたり わた らんぞう)
** 57歳。」
黒岩、
名札を見て言う。
「……」
一拍。
「渡るのか猿w
** 渡らないのか猿w**
** 猿なのか君は!」
スタジオ、ざわつく。
猿渡、
静かにうなずく。
「はい」
「エスカレーターを
降りたり登ったりする時にですね」
一拍。
姿勢を低くする。
膝を曲げる。
両腕を前に出す。
「直滑降のスタイルで
** 上下屈伸運動をします。」
その場で
小刻みに屈伸。
スタジオ中央。
エスカレーターの模型。
動き出す。
男、
乗る。
すぐに——
膝を深く曲げる。
腕を左右に振る。
体を左右に傾ける。
「シュプール!!」
空中に線を描くように
手を振る。
黒岩、
思わず声が出る。
「ひょええー!
** 勇気いるなそれ**」
「そうでもないんすわ」
一拍。
「ないんすわと
** フランソワが**
** 似てるんすわ**」
沈黙。
……
……
黒岩、
完全にツボに入る。
口を押さえる。
「……」
一拍。
カメラを見る。
……
……
「……かはぁーーっ」
今回は
完全に笑い混じり。
「K点超えてるわ」
スタジオ、
ざわつく。
猿渡、
まだ滑っている。
下りきっても
その場で屈伸。
止まらない。
黒岩、
満足そうにうなずく。
「川口」
「はい」
「つまみ出せ」
「どうぞ!!」
川口が、
しょっつる
を差し出す。
小皿に入っている。
黒岩、
それを見て言う。
「……」
一拍。
「しょっぱいなこれは」
「つまみだせと……」
「魚は好きだが今じゃない!!!」
猿渡、
エスカレーターを降りたあとも
その場で——
屈伸。
左右に体を振る。
そして
静かに言う。
「まだ斜面があるんすわ」
——ここでCMが入る。
*
CM明け。
川口のズボンの裾に、
なぜか
**白い粉(雪っぽいもの)**が付いている。
「えぇ、いかがだったでしょうか?」
黒岩、
かなり機嫌がいい。
カンペを見る。
「次回は——」
一拍。
「ドアノブを二度回してから入る男」
「おおおお!!」
「楽しみですなーー!!」
「また来週!!」




