自動販売機にお礼をする男
世の中には、理解できない趣味を持つ人々が存在する。
理解されたいのか。
はたまた、理解されたくないのか。
それとも、ただ見てほしいだけなのか。
ここは——
変わった趣味を持つ者たちが集う場所。
『カワシュミの館』
「司会は私、館主の——」
「黒岩です!」
「そしてアシスタントの——」
「はい!!
** それではぁあ?(川口だ!覚えておいてk**
…ボフッ!!
** 次のカワシュミはコイツ!」
男が現れる。
やや前のめり。
目がギラギラしている。
手には、小銭。
「謝礼 保志雄 34歳。」
「んでわぁ?
あなたのー?
変わった趣味、ワッツ!?」
「はいっ!!」
男は勢いよくうなずく。
「わたしはですね——」
一拍。
「自動販売機にお礼を言うのが趣味です!!」
「……お礼?」
「はい!!」
男は胸を張る。
「ジュースが出てきたらですね——」
大きく息を吸う。
「有難う!!
** そんな!!
** マジで!!
** わりーなぁいつも!!」
スタジオ、
静まり返る。
「それを……」
「毎回?」
「毎回です!!」
黒岩、
目を細める。
「誰も見てなくても?」
「見てなくても!!」
「夜中でも?」
「夜中でも!!」
「壊れてても?」
「壊れてたら謝ります!!」
黒岩、
天を仰ぐ。
「……」
ゆっくりと口を開く。
「それな」
一拍。
「うるさいだけじゃない?」
一瞬。
空気が止まる。
「……は?」
謝礼 保志雄、
顔が引きつる。
「いや、だって」
「機械だし」
「感情ないし」
「周り迷惑だし」
「……」
謝礼、
震え始める。
「な……」
「なんだと……」
声が裏返る。
「こっちは!!」
「感謝してんだよぉ!!」
突然、
ヒステリックに叫ぶ。
手に持っていたマイクを
ぶんぶん振り回す。
「ありがとうって言って何が悪い!!」
スタジオ騒然。
スタッフが慌てて距離を取る。
黒岩、
静かにカメラを見る。
……
……
「……かはぁーーっ……」
深く、
長い吐息。
「川口」
「はい」
「つまみ出せ」
「どうぞ!!」
川口が、
スモークサーモン
を差し出す。
美しく並んでいる。
黒岩、
それを見る。
一拍。
「……」
「しゃれてんなぁ」
「つまみだせと……」
「魚は好きだが今じゃない!!!」
謝礼 保志雄、
まだ何かを叫びながら
スタジオの隅で
自動販売機の模型に向かって叫ぶ。
「ありがとぉぉぉ!!」
——ここでCMが入る。
*
CM明け。
川口のシャツに、
なぜか
レモンの輪切りが添えられている。
「えぇ、いかがだったでしょうか?」
黒岩、
静かに言う。
カンペを見る。
「次回は——」
一拍。
「改札を通るたびに敬礼する男」
「おおおお!!」
「楽しみですなーー!!」
「また来週!!」
ありがとぉおおお!!!wwww




