ずっとあなたがすきでした―⑥―
R-15程度の表現ありますので、苦手な方はご注意。
『好き』って気持ちは未だによくわからない。
嬉しかったり、悲しかったり、ムカついたり、楽しかったり。
まさに喜怒哀楽、全部の感情を使って感じるその思いの全て。
そもそも頭では理解出来ないんだろう。
『好き』は理解ではなく、感じるものだから。
* * * * * * * * * * * * *
『俺がお前に惚れてるってこと。』
何を言うかと思ったら、一体なにを…。
冗談?
今日、私は秀人お兄ちゃんへの想いを失くしたばっかり。なのに、何てタイミングの悪い…しかも全然面白くない冗談。
私はぽかっと口を開けて、全っ然笑えない冗談を言った目の前の大人を見ていると、むにーと唇を抓まれた。
「むー!?むむむんむーー!!(何すんのーー!!)」
「何言ってんのかわかんねーっつの。」
それは亨お兄ちゃんが私の唇抓んでるからでしょーが!!
やめてよ、アヒル口になってるしーー!!
そう言いたいのに一向に手を放そうとしない意地の悪い大人を睨め付けて、べちべちその手を叩く。そう言えば忘れてたけど、お兄ちゃんの膝に乗っている状態になっているから私の体勢は不安定。べちべち叩いている内、いつの間にかお兄ちゃんとの距離が近くなっていることに気付くのが遅れた。
はっと我に返った時には既に時遅し。
ようやく放されたと思ったら、また軽くキスされて。
何だかもう訳がわからなくなってきた。
随分と近いところにある顔を見る。
昔からよく知っていて見慣れているとは言え、思わず見惚れるほど男前な顔をしているお兄ちゃんに今更ながらドキドキする。
しかも何故か今、お色気むんむんしてる…ような気がする。
パパとか秀人お兄ちゃんがよく皆に言われてる、『ふぇろもん』って言うのはよくわからないけど、多分今目の前にいるお兄ちゃんがしているような、何て言うか…お色気?むんむんしてる感じ?が所謂『ふぇろもん』っていうやつなんだろう。
その『ふぇろもん』を免疫のない私に当ててどうするの!
は…恥ずかしいんですけど!!
そりゃあ…昔、好き、だったしー…?
そんな目で見られると、ドキドキどころじゃ……。
と、その事実を思い出してしまえば急にものすごく恥ずかしくて、お兄ちゃんの顔を見る事なんて出来なくなる。
今更ながらに熱くなってくる顔を隠そうと俯けば、それを許さないとばかりに顔を上げさせようとしてくる強引な両手。だけどその手に負けじと俯けば、意固地な私に観念したのか頬から両手を引き上げた。
だけど、その手は私の背に回り、気が付けばぎゅっと抱き締められていた。
びっくりして思わず固まってしまった私を抱きしめたまま、お兄ちゃんはぽつぽつと話しはじめた。
「ま、お前が俺の事を信じられなくて当然だろうな。それだけ俺の遊んでたの、間近で見てたしわけだから。」
「………」
「さっさと言っときゃ良かったんだよな。そうすれば、お前が桐生さんの事で失恋せずに済んだ。…ごめんな。本当にごめん。」
違う。
亨お兄ちゃんのせいじゃない。
そう言おうと思って伏せていた顔を上げると、自嘲気味に笑っているけど、だけどどこか寂しそうな顔をしたお兄ちゃんの視線とぶつかった。
「俺がお前への気持ちを認めずに、ずっと逃げてたせいだな。お前が今日の式の最中泣いてたのは…」
「え…?」
「泣いてただろ。桐生さん達の誓いのキスの時。」
「…み、見てたの…?」
「ああ。その時、俺は物凄い後悔した。お前にそんな悲しい涙を流させた。俺はずっと逃げてたんだって事を。昔、お前が俺に抱いてた気持ちも薄々気付いてた。だけど、それをお前の思いに応える訳にはいかなかった。」
「なんで…」
「一回りだぞ、一回り。十二も離れてれば立派にロリコンだろ、俺。現に今も法に触れるような事してるんだし。」
教師でもあるしな?
と嘯いた亨お兄ちゃんだったけど、当然それに納得出来ない私はぶすくれた。
何でそう、いつも茶化すの。
だからいっつも真剣に話してるんだか、面白がって茶化してるんだかわかんないのに。
「ろりこん。」
「お前限定でな。」
「変態。」
「お前限定でな?」
「女たらし。」
「否定はしない。だけど、お前が俺のもんになるって言うなら、それはすぐさま止める。」
「私はものじゃないもん。」
「知ってるよ。」
きー!
口では勝てない!!所詮しがない女子高生と、ご立派な大学を出た『先生』様には知識も口の達者さにも天と地ほどの差があるわけで。
て言うか、いい加減放して欲しいんだけど。
お兄ちゃんの腕の中は懐かしくて安心するんだけど、今更ながらに、は…は、恥ずかしいんだよーーー!!
しかもいつの間にタバコ消したのか、持っていたはずのそれは無くなっていた。だけど、無くなったからと言っても、タバコの匂いはなくならない。しかも、口の中もなんか苦い。
「タバコ嫌い。」
「…禁煙するか…」
「タバコくさい。」
「止めるって。」
「なんか口の中が苦い。べぇぇぇー…にがー…」
「あー…キスしたからな。ま、コレからは止めるんだし、今日限定ってことで。」
何か納得出来ない。
私のファーストキスがタバコ臭かったって想い出って…なんかびみょー…
むっつり黙り込んだのを面白そうに見ていたお兄ちゃんだったけれど、ふと腕時計に目線を下げた。私もつられて同じ時計を覗きこむと、結構な時間が経っていたのに驚いた。
「え、もうこんなに時間経ってるの!?早く行かないと…パパが心配してる。」
「そうだな、そろそろ行くか。」
同意したお兄ちゃんの返事を聞き、ようやく抱き締められていた腕と座っていた膝から解放されると思ってほっとしていたら、お兄ちゃんが私を呼んだ。勿論抱きしめたまま。
「唯。」
「…?なに?」
「好きだ。」
「………え?」
「ずっと好きだった。俺はお前が生まれた頃から大事に思ってた。それは単純に、妹みたいな存在が出来て嬉しって言う感情で、年を取るにつれて千歳先生の子供だからって言う事もあるんだと思ってた。いや、そう思い込もうとしてた。だけど、お前が中学に上がった頃にはもう駄目だった。無意識のまま俺に小さい頃と同じようにくっついてくるお前に、邪まな感情を抱いてた。だからこそ、逆にお前に手を出すわけにはいかなかったんだ…」
確かに、お兄ちゃんは私が小学生の高学年に上がる頃になると女性関係が派手になって。それは珠緒おばあ様や雅ちゃんが「全く困った子ねぇ」と愚痴っていたので知っている。
そして何より、あれだけ遊んでくれていたお兄ちゃんが私と距離を取り始めたのも同時期だったように思えた。
つまり、何か?
子供の私によからぬ思いを抱いたってわけ?あんなに綺麗な、大人なお姉さん達と付き合ってた亨お兄ちゃんが?
まっさかぁ。
そう言って半目になりながらお兄ちゃんを見ると、盛大なため息をつかれた。まるで、わかっていないなとでも言いたげに。何でだ。
「お前、童顔なくせに身体の発育がいいって自覚あるか?」
「良くない!身長伸びてないし!」
「背じゃねえ。胸とかケツとか。…まあ、ケツやら腰に肉付いてないけどな。」
!!
なんて事を!!
「せ…っ、セクハラーー!!!!セクハラオヤジーーー!!!!!って、どこ触って…!!…やっ!バカー!触んないでよ、痴漢!!」
「うるせーなー。どうせ俺のもんになるんだから、今触るか、後から触られるかの違いだろ。」
「なっ!なにそれ!!私まだ何も言ってないじゃん!!て言うか、俺のもんって何ー!!」
「俺のものは俺のもの。お前のものも俺のもの。だから、お前は俺のもの。」
「何その、ジャイアン的思考!!ジャイアニズムの人って嫌だし!離してよっ!」
離せ、バカー!
そうもがいていると、遠くから私を呼ぶ声が聞こえてきた。丁度私達がいるこの場所は影になっているからわかりずらい。
この声からすると、きっとお姉ちゃんだ。
ああ、お姉ちゃん!!
正に天の助けとばかりにお姉ちゃんを呼ぼうとしたら、大きな手の平で口を塞がれそれは叶わなかった。
小さな声でお姉ちゃんに聞こえないようにして、亨お兄ちゃんが私へ問いかける。
「ふぁに!?(なに!?)」
「返事、聞いてないぞ。」
「………」
「唯、お前は俺が好きだろ?」
何その自信。
そんでもって、否っていう言葉を受け付けない様な目。
だけど、絶対的な自信の裏に見え隠れする寂しさのようなものが私の返事を鈍らせる。
だって、私は…
「唯。」
「……………すき、です……」
「誰が誰を?」
「…私が………お兄ちゃんを……」
「だ・れ・を?」
「!!」
「誰を?ほら、唯。言わないとわからないぞ?」
にやにやと余裕ありげに笑う、目の前の男が憎い。
一方の私はと言えば散々だ。泣きっ面に、顔面への血流集中。おまけにメイクも涙やらなにやらで溶けかかってるに違いない。
だけど、お兄ちゃんはこんな状況の私をさも愛おしい気に撫でている。
ああ、悔しい。
だけど、駄目だ。
好きだ。
悔しいけど、この人が好きなんだ。
「…亨、おにいちゃ…っ…!ちょ、…んぅ!」
「もう『お兄ちゃん』はいらないからな。亨でいい。お兄ちゃんポジションは桐生さんだけにしとけ。」
だからってドサクサに紛れてキスしないでよ!バカー!!
散々な告白と、長かった恋が実った余韻に浸る間もなく、お兄ちゃん…もとい、亨は爆弾を投げた。
「ようやく思いも通じたし、早いとこ結婚するか。ああ、ちょうど、チャペルもあるしここでするか?」
「は…はあ!?」
「俺んとこはお前を早く嫁にしろって昔からよくせっついてたから、今更挨拶とかしなくていいぞ。嫁姑問題も、お前と母さんだったら無いし。やっぱり昔から家に連れて可愛がらせてたのは間違いじゃなかったな。」
「なっ、なにそれ!!」
「根回しはしておくもんだな。ま、最終難関はお前んとこの家族だけど、オヤジは何と無く気付いてたらしいし、そもそも千歳先生にも祥子さんにも許可はもらってあるから、心配すんな。よかったな、ご両親にも報告できて。」
「はー!?」
「式場決めとくついでに、今日ここのホテル泊まってくか。今から部屋取れる…あー、駄目だな。一番いい部屋は桐生さん達のプレゼントだって言ってたし。…俺のマンション行くか。そうだな。そうするか。」
「え、あの、ちょっ…」
「十数年間の思い、ちゃんと受け止めろよ?」
へ…変態!!
そう叫びたかったのに、結局はズルズルと連れ込まれ。
翌日亨のマンションで目覚めた私は、亨のあまりの絶倫さに絶望的なほど後悔し始めていた。
私、早まった…。
後日翼さんから聞かされたところ、亨の根回しは私が小さかった頃から始まっていたらしい。お父さんやお母さん、はたまた遠藤家の皆さんに『私と結婚する!』と宣言していたそうで…。
この根回しの良さ!
全く本当に恐ろしい!!
勿論、パパとお兄ちゃんに亨は鉄拳制裁され。
お姉ちゃんにはブラボーチョークを見事に決められ、落とされ。
ナイトにいたっては本気咬み。あれは痛い。
なんだかそんな事が沢山あったのだが、結果的に見れば私は遠藤亨と言う人の隣にいる事を許されたわけで。
まあ、多少の早まった感はあるものの、結局の所は亨が好きだから嬉しい方が大きいし。
「ねー、先生。」
「先生って呼ぶなっつの。」
「だって、学校で名前呼んじゃったら駄目でしょ?だから先生って言いなれておくの。」
「………」
「ちょっと、無視しないでよー!」
ちょっと呆れた顔も。
「神崎さん、何か質問ですか?そう言えば日本史の点数、また赤点すれすれでしたねえ。」
「ひっ!ち、違うの!!あれ…が、頑張ったんだよ!?だけど、山が外れた問題ばっかりで…それにみんなも範囲がバカ広だって言ってたし!!」
「あれだけ山かけるなって言ったのに、このバカ!!大体、『坂本竜馬』を『芸術家』って答えるバカがいるか!!」
「え、ち、違うの…?」
「………」
怒った顔も。
「来い、頭の一番底からかき混ぜてやる。そしたら、少しは日本史に対する愛情も出てくるだろ。」
「いーやー!!そんなのいらないー!!大体、先生が夜ねちっこいから!」
「…ほぉう…そんなにしたいのか。そうかそうか。随分と積極的になったなぁ。」
「ちっ、違!!違う、違う!!断固として違うよ!!」
意地悪そうに笑う顔も。
「ま、違っても違わなくても。お前は俺が大好きだもんなー?」
「……くっ…くやしい………その通りです…」
「なんで悔しいんだよ。」
「あー、もう!好きですー!大好きですーーー!!コレで文句ないでしょ!?」
「逆ギレかよ。ま、いいや。ベッド行くぞ。」
「はー!?い、行かない、行かないよ!!だいたい昨日もしたじゃん!!」
「朝もな。」
「あーーーーっ!言わなくていい!!バカ亨!!」
「バカは余計。」
嬉しそうに微笑む顔も。
「愛してる、唯。」
全部全部、愛してる。
ずっとあなたが好きだった。
これからもどんどんあなたを好きになる。




