ずっとあなたがすきでした―⑤―
熱に飲み込まれるように翻弄される。
それまではずっと穏やかな岸にいたはずなのに、沖へ沖へと引きずり込まれる。
足が付かないことへの恐怖と、その事にどこか解放感を感じざるを得ない興奮と。
わからないのは、それを私自身がどこかで望んでいるって言うことだ。
* * * * * * * * * * * * *
色素の薄い茶色い瞳が、私の瞳をのぞき込むように近付いて来たかと思ったら、そのまま私の唇に何かが触れた。
驚いて目を見張るのとほぼ同時に、少し離れたと思ったソレが私の呼吸を奪った。
「んぅ…ふぁっ…ぅん…」
何がなんだかわからない状態でされるがままになっていたら、いつの間にかがっちりと後頭部を押さえ込まれて身動き取れなくなっていた。
しかも息が出来ないくて苦しいくて、少し唇離れた時にこれ幸いと私が口開いた瞬間狙って舌入れてくるしー!!
あぁもう何がなんだかわからない。
最中、鼻にかかった私のうめき声ももう耳を塞ぎたい位恥ずかしいし!
気持ちがいいんだかなんだかわからないまま、半分酸欠状態で頭がぼーっとしてくるのに音だけはやけにリアルすぎて。それがすっごい恥ずかしい。
そのうちとうとう息苦しくなった私は、力の入らない手でどんどんと固い胸を叩いた。実際はどんどんじゃなく、ぺしぺし程度だったんだろうけど、どうせひ弱な私が叩いた所で痛くもかゆくもないと思う。でも、それでようやくお互いの唇が離れた。
離れた時にキラリと光った糸を私の唇ごとべろりと舐められた。その時の顔が、もうこれでもか!って位エロかったので、ものすごい恥ずかしくなって急いで俯いた。
長い、しかもいきなりのキスのせいで若干の酸素不足になった私が俯きながらはふはふ喘いでいると、いつの間にか膝に座っている状態になって、背中に回された手でゆるゆると撫でられているのに気づいた。
い…いつの間に膝に…!
あまりの素早さに驚くのと同時に、半分呆然としてしまう。
何のために私とキスしたのかわからない。
失恋を慰めるためだったら、わざわざキスする必要はない。
だったらこのキスは嫌がらせ?
ああ、そうか。
嫌がらせか…。
それがすんなりと私の頭の中に抵抗なく、浸透する。急に泣きたくなったけど、それが何故かはわからない。
反射的に、私は抱えるようにして乗っていた膝から急いで降りようとしたのだけれど、当の本人がそれを許してくれなかった。
「おりる。はなして。」
「嫌だっつったら?」
「おりる!はなしてよぉ!!」
「駄目だっつってんだろ。」
「なん…何で!?嫌がらせならもうやめてよ!…そ…そんなに私が鬱陶しいならもう構わなくていいし!私が嫌いならそう言えばいいじゃない!嫌いなんでしょ!?だったらっ!」
「何だよ、それ。」
一向に放してくれない腕から躍起になって暴れていた身体を、低い声が押さえつけた。
びくりと口を閉ざして驚いて声のした方を見ると、目の前の整った顔がやけに怖かった。それは今までに見た事の無いほどの、怒った顔で。
何で怒っているのかわからない。むしろ怒りたいのはいきなりキスされたこっちの方なのに、その私の怒りもこの人の怒り具合には勝てないらしい。
「誰が鬱陶しいって言った。」
「……だって…」
「俺は鬱陶しいとも、お前が嫌いだとも言った覚えはねえぞ。」
「………だって、言ってたもん。」
「誰が。」
「……亨お兄ちゃんと付き合ってた女の人達。私みたいな子供が付きまとってたらお兄ちゃんにとって邪魔なだけだって。」
「……誰がそんな事お前に吹き込んだ。」
な、何かさっきより気温が下がったんですけど。
明らかに機嫌が悪くなってませんか、先生。
「…それに、さ、さ…さっきの………アレだって……義理のお兄ちゃんを勝手に好きになって勝手に失恋した私を馬鹿にし……んぅ!」
急に顎を上げられたと思ったら、また急にキスしてきたし!
逃げようにもがっちり押えられてるから逃げられないし、そもそも力が入らない。さっきよりは短い時間で唇が離されたとは言え、既に息も絶え絶えな私はもう何か投げやりな気持ちになって、力の入らない身体を亨お兄ちゃんにもたれさせた。
「誰がお前に何を吹き込んだのかは知らないが、俺がお前を嫌ってるって事は無いぞ」
「…で、でも…」
「馬鹿にもしてない。それに、キスの事も謝る気はないからな」
な…なんて俺様野郎…!!
あまりの俺様発言にカチンと来た私が顔を上げると、タバコを咥えながら私を見ている亨お兄ちゃんがいた。
「お前鈍いから気付いてないと思うけど。」
「にぶっ…!何が!!」
「俺がお前に惚れてるってこと。」
………
え?




