ずっとあなたがすきでした―④―
些細なこと
どんな些細なことでも貴方は気付く
誰もが気付かないことでも
貴方だけは
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暫く泣いていると、急に亨お兄ちゃんが近くにあったベンチへと私を座らせた。
ずっと亨お兄ちゃんの胸にしがみ付いて泣いていた私も、少しばかり落ち着きを取り戻して来たのかひっくひっくとしゃくり上げはするものの、ようやく涙は止まったように思える。持っていたバッグからハンカチをのろのろと取り出して涙を拭おうとするものの、それは大きな手によって阻止された。
「そのまま拭いたら目腫れるぞ。待ってろ、冷やしたタオル貰ってきてやるから。ついでだ、飲み物ももらってくるから大人しくここにいろよ。わかったか?」
うんと頷いてハンカチを握り締めていると、やっぱり大きな手で頭を優しく撫でられた。
そう言えばこの大きな手が好きで、昔はこうして特に理由もなく頭を撫でて貰っていた事もある。さすがに高校生にもなって昔みたいに撫でてもらう機会はなくなったけど、やっぱりこうして亨お兄ちゃんに撫でてもらうのが一番安心出来る。
生まれた時から…いや、お母さんのお腹の中にいた頃から知ってるらしい翼お兄ちゃんと亨お兄ちゃんは、機会があればこうして私の事を構ってくれるけど、二人ももうそろそろ彼女と身を固める年頃だ。事実、翼お兄ちゃんの結婚の話はそろそろ本格的になりそうだし。
いつまでも子供で、しかも彼等の実の妹でもないし、親類関係でもない、単なる『知り合いの子供』って言うだけの私は、いつまで経っても甘ったれのまま。
だからこそ、こうして慰めて貰うのが常になっている現状。
それでも、確実に取られている距離。
初めに距離を取ったのは、亨お兄ちゃんからだった。
今まではくっついたりしてるのが当たり前だったのに、いつからかそれを良しとしなくなった彼によって一緒に遊んで貰うことも少なくなった。
まあ、一回りも年が離れているのだからそれも当然なのだろうけど、幼い頃の私にはそんな事情も理解できるはずもなく。
『たすくととおるとあそぶのー!!』と泣きながらお母さんにしがみ付いたのは、懐かしい想い出だ。
距離を取ったと言えど、翼お兄ちゃんはやっぱり優しくて。私が泣く前に機嫌を取ってくれたりしたのだけれど、亨お兄ちゃんはそれをしなかった。私の駄々が本当にどうしようもなくなって、お母さんがほとほと困り果てても亨お兄ちゃんは私を突き放したままだった。
そんな事が繰り返される内、私は幼いながらも悟った。
亨お兄ちゃんは私を鬱陶しく思ってるんだ。
だから私が嫌いなんだ。
と。
パパとお母さんが再婚してからも遠藤一家とは懇意にしてもらったけれど、そこに亨お兄ちゃんの名前はない。
何故なら、私にかまけているよりも他の綺麗な大人の女の人と付き合うようになったから。
たまたま街で見かけた時、亨お兄ちゃんの隣に居たのは綺麗なモデルさんのような人だった。まあ、お姉ちゃんの方が綺麗だしスタイルもいいし、かっこよかったって言うのは置いておいて。とにかくまあ、かっこいい亨お兄ちゃんとはお似合いすぎて、なんだかもう端から見ていてため息の出るような二人が腕を組んで歩いているのを見てしまったのだ。
それから私は、亨お兄ちゃんに取られている距離を自分で更に広げた。
その距離を埋めるように優しくしてくれたのが、秀人お兄ちゃんだったって言うわけで…。
お兄ちゃんは本当に優しかった。
再婚した当初こそ辛辣に当たられたけれども、それを乗り切ったお兄ちゃんからの愛情は本物だった。
ま、まあ、周りからはシスコンが過ぎると言われている節があったけれど、本人はどこ吹く風で私を可愛がってくれた。
だから、私も思いっきり甘える事にした。
そこに亨お兄ちゃんの代わりだとか言う考えはあったのかもしれないが、私からしたらその自覚は全く無く、単純に安心出来る優しい兄だという思いからだった。
そんな義兄への愛情が、恋心に変わるなんて、本当に笑えない。
しかも、その恋は告白もさせてもらえずに終わった。
優しいお兄ちゃん。
残酷なお兄ちゃん。
でも、嫌いになれない私。
「ほんと…笑えないなぁ…」
「何がだ?」
まさか独り言に返事があるとは思っていなかったので驚いて身体が跳ね上がらせると、私の様子を胡乱気な目をして見ていた亨お兄ちゃんが、缶コーヒーを二つとタオルを持って立っていた。
「ほら、タオル。一応冷やしとけ。」
「あ、ありがとうございます…」
「それと。ほら、ミルクティーでいいか?」
「あー、ありがとうございますー。ふわ、あったかい…」
「もうパーティ始まってるみたいだぞ。」
「ん、そうなんですか。」
甘くてあったかいミルクティーを一口飲んで、答える。
隣ではコーヒーを飲みながらタバコを取り出している亨お兄ちゃん。
むぅ、タバコ嫌いなのに。
「…タバコ嫌い。」
「お前、おばあ様と同じこと言ってんな。」
「せめて一言断ってくださいよ。」
「タバコ吸うぞ。」
「…それ断ってるって言わないんですけど…」
はっと鼻で笑われ、ムカついたけど私はそのままタバコに火を着けるのを見ていた。
私は別になんとも思わないけど、友達の綾乃や愛理ちゃんなんかは亨お兄ちゃんをカッコイイ、カッコイイと騒いでいる。まあ、確かに顔はいいと思うけど…。性格が…。
「なんだ?人の顔をじろじろと。」
「性格がなぁ………」
「あ?」
「亨お兄ちゃん、性格が悪いからなぁ…」
「…おい…」
「せめてパパみたいな…いや、パパは駄目か。…お兄ちゃん…あ、駄目だ。フェミニストじゃないもんな…」
「おい…!」
「早乙女先生…あーもっと駄目だ、ヘタレだもん。翼お兄ちゃん…あーそっか。翼お兄ちゃん!!双子だし!!」
「おい!」
あれ?何かすっごい睨まれてるんだけど…。もしかして今の考え口に出てた?
すっごい不機嫌そうなと亨お兄ちゃんに睨まれつつ、私はへらっと笑ってみる。
あ、あは…?フォロー出来るかな…?
「き、聞こえてました…?」
「ああ。ばっちりな。」
「…え、えへ?」
「はははは」
笑ってない!!目が笑ってない!!
亨お兄ちゃんは私を睨んだまま、タバコを一口吸い込んだ。
だってさぁ。同じ顔で同じ体格してるのに、性格が真逆だし。そりゃあ翼お兄ちゃんの方を好ましいとか思っちゃう。
実際、お兄ちゃんみたいに優しいし。反対に亨お兄ちゃんは優しく無いし。
…まあ。なんでか今日みたいに泣きたい時に限って翼お兄ちゃんじゃなく、亨お兄ちゃんが来るんだよね。
何でだろう。
「知りたいか?」
「え?そりゃあ…昔はエスパーかと思ってましたし。」
「生憎、俺は超能力者じゃない。」
「じゃあ、なん」
その先は続けられなかった。
亨お兄ちゃんにキスされてるから。




