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9 曲者

 マテウスとマーヤに宥められ、大人しくソファに座る。目の前には俺の叔父を自称するイケオジが紅茶を飲んでいた。


「ど、どういう状況? 面会予約とかしてきた人?」

「申し訳ありません、レオン様。……引き入れました」


 マーヤは苦虫を噛み潰したような顔をした。


「曲者ってこと? 近衛呼ばなきゃじゃん」

「レオン様、お待ちなさい。少し私の話を聞いてくだされ」

「は? 曲者の立場で何言ってんの? 今お前、危険人物だから。不法侵入者だから。てかマーヤもマテウスも何やっちゃってくれてんの?!」


 やばいやばいやばい。

 この男が本当に俺の叔父ならば、今王家に対して反感を持っている人物だ。そんな人を王宮に引き入れたなんて重罪だ。

 どうしよう、勝手にこいつが入って来たことにすればいい? とりあえず近衛騎士呼ぶ? そうするとこいつは極刑で死ぬ。


 うわ、叔父かどうかなんて知らないけど自称叔父を見殺しにするのきつぅ。

 そう言っとけば俺の判断力鈍ると思って叔父って言ったの? 策士過ぎんだろ。


 やばいどうしようどうしよう。


「レオン様は、お母上の出身をご存知ですか?」

「そんなん知ってるよ!」

「素晴らしい。では、どのような経緯でイェリンが嫁いだかはご存知ですか?」

「人質だろ! そんくらい分かるさ! てか今そんなことどうでもいいから! お前、不審者、分かってる!?」


 落ち着いた様子の男に苛つき、混乱して叫びまくってしまう。

 マテウスが落ち着けと言ってくるが、落ち着いてられるかこんなん。

 こいつの存在を無かったことにしないと、どうしたって誰か死ぬじゃん。


 一人であわあわしていると、男が表情を変えた。


「……まずい、誰か来るぞ。仕方がない。マーヤ、行くぞ」

「ちょ、え」


 男が立ち上がり何かを手に持って近づいてくる。その時、扉が大きな音を立てて開いた。



「動くな!!! 両手を背で組んでうつ伏せになれ!!」


 複数人の近衛騎士が雪崩れ込んでくる。その後ろに、なんと兄上がいた。


 まるで演劇を見ているかのようだ。

 左右に割れる騎士の間から、素敵な王子様が現れる。


「レオン、賊と繋がっていたのか、残念だ。だが、今手を切れば咎めはしない」


 朗々と兄上が言う。


「おいで、レオン。私の元で今まで通り何不自由ない暮らしをしたいだろう? 引き立ててやるぞ」






 ────────────ああ、なるほど。


 兄上は知っていたのか。知っていて、見過ごしたのか。


 兄上につけ込まれる弱みができてしまった。


 賊が入ってきたのは確かだ。だが、俺が手引きしたわけではない。それを兄上は繋がっていたと決めつけた。

 兄上がそう言ったのだから、そうなのだ。これで俺には一生賊を手引きしたという致命的な瑕疵がつく。

 それを兄上が黙っていてくれるのか、あるいは公表した上で許すとするのか。そうすることで俺の地位を保ってくれる。ただ、兄上に一生逆らえなくなる。


 でなければ、賊を王宮に引き入れた大罪人として裁かれるのだろう。

 首輪はつけられたくねーし、まだ死にたかもねーよ。


 となると俺が取れる道は一択。




「兄上、私は貴方のことが大好きです。昔も今も、それは変わりません」

「私もだよ。良い子だ、こちらにおいで」

「兄上は信じてくれないと思いますが、神に誓って賊の手引きはしていません」

「そうか、レオンがそういうならそうなのかもしれない。調べなければいけないな」

「私の心の弱さが耐えられなかったのです」


 あの時と同じように、俺の元へやってきた兄上。格好良い兄上。

 大好きなのは本当だ。

 でも。


「私の人生は何にも縛られたくないのです。………………さようなら、兄上」


 自称叔父が手に持った瓶を割ると一面が白い煙に覆われる。


 マテウスに手を引かれて逃げ出した。






 隠し通路を走り、王宮の外に出る。ひとまず行き慣れた教会に転がり込んだ。



「大司教、俺は隣国に行く」

「おや、準備しておいたものが本当に使われてしまうのですね。残念なことです」


 緊急で来たのに大司教に会うことができた。


「各教会に連絡を入れといてくれ」

「ええ、もちろんです。レオン殿下、いえ、もう聖レオン様と申し上げた方がよろしいでしょうか」

「はは、その名前が解禁されようとはね」


 第二王子である限りは聖人として公表しないように言っておいたのだ。


「ルネが戻ってきたらこれを渡してくれ」

「手紙ですか?」

「うん。逃げる時は一声かけてくれって言われてたんだ」

「律儀なことですね。聖女もお喜びになるでしょう」


 少しばかり空気が弛緩した。


「馬車を用意しますか?」

「いや、いい。もう王都は閉鎖されてるだろうから。隣町から馬車か馬を借りたい」

「王都を出るまでは徒歩で?」

「うん。慣れてる」


 マーヤとマテウスと自称叔父の方を振り向く。


「今から教会の協力で隣国に脱出する。ついてくるだろ?」

「もちろんです」


 マーヤとマテウスが当然だと言わんばかりに頷く。


「レオン様は……、こうなることを予想していたのですか?」

「予想はしてないね。警戒はしてたけど」


 自称叔父は思案顔で押し黙った。


「で、一緒に来る? ミノリテート族の人たちも、どんくらいの人数か知らないけど、このまま王国には暮らせないでしょ?」

「……左様でございます。お供してよろしいので?」

「マーヤ、この人ってほんとに俺の叔父なの?」

「ええ、確かにイェリン様の弟です」

「んじゃ、いいよ」


 ミノリテート族はぶっちゃけすごい民族だ。普通の薬師が作れるような薬から、魔法薬のようなものまで大抵なんでも作れる。

 チートかな?

 超助かってます。


 父上や兄上が縛っておきたかったのも当然だ。そんなものが流通したら大変なことになる。


「ただ、隣国に行った先では教会預かりになるかもしれない」

「というと?」

「俺が教会に入るからね」


 聖人として認められたので、隣国に行っても教会からは保護される。逃亡先ではおそらく教会の要職に就くことになるだろう。


「分かりました。一族と合流した後、お供させていただきます」

「あとさ、俺の叔父さんなんでしょ? 敬語とかやめてよ」

「……分かった。レオンと呼ぶぞ」

「うん」



 こうして第二王子レオンは隣国に亡命した。

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