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10 司教様

 俺の庭である王都の南側を通り、ニコラの家に手紙を投げ込んでから森を抜けて隣町に出た。そこの町にある教会から馬車を借りて移動を続けた。

 途中でニコラの商会から手配された馬車が追いついたので、最新型に乗り換えた。

 教会には悪いが乗り心地が全く違った。


 各地域に点在する教会で食料をもらったり馬を交換したりして、半月ほどで国境を越えた。


 最初にこのあたりの地図を見た時、地続きじゃんと思った。乙女ゲームに出てきた船出のスチルはなんだったんだ。



 隣の国に着いてからは中心都市の教会の司教として任命された。

 聖人認定を使った裏口採用である。

 じゃなかったらぽっと出の亡命してきた隣国の王族とかあり得ないくらい面倒な存在だからね。





 数日してからルネと一緒に商会の会長がやってきた。

 もう教会に執務室を与えられていたので、偉そうに2人を出迎えてやった。


「ようこそ、我が城へ」


 2人は微妙な顔をした。


「お久しぶりです、レオン様。本当に逃げるとは思ってませんでした。しかも誘われなかったし」

「そん時近くにいなかったからさー。大司教から手紙もらった?」

「読みましたよ」

「一応あれが一声かけたってことで」


 まだぶすくれた顔をしている。

 だってルネがちょうど西の方行ってたんだから仕方ないだろー?


「レオン様にはほとほと驚かされますな」

「いやーそれほどでも」

「褒めておりませんよ」


 なんだと、俺は第二王子改め、司教様だぞ。


「ルモニエ商会はこちらに拠点を移すことに致しましたので、今後も何卒ご贔屓に」

「うん。商会とはこれからも仲良くしたい」


 狸親父の会長が満足げに微笑んだ。


「レオン様が亡命して私も出奔したから、アンリ様が弟に婚約者を寝取られた王太子って言われてるみたいですよ」

「はあ? 寝取ってないんだけど。兄上ブチ切れてそうだなー」

「何はともあれ、私の評判傷ついたので、レオン様には責任取ってもらわないとなあ」

「それはごめんなさい。責任持って相手探します」

「え。そうじゃない……」


 ルネがもにょもにょ言いながらそのまま退出した。

 会長はやれやれとでも言いたげな顔をして、マテウスには小突かれた。


 そりゃあ俺だって、これ俺に娶れって言ってる?って思ったけどさ。さすがに自意識過剰かなって。

 あと弱みにつけ込む感じがして嫌だなって。







 当然豊穣の聖女をこの国の王族も放っておくはずがなく、ルネは辺境伯家の養女になった。


 ブチ切れた兄上からこの国の上の方の人に書状が届き、国境のあたりは非常に緊張感が高まった。

 反乱勢力の移住を丸ごと許可し、亡命王族を匿っているのだから当たり前。


 聖女を今さら手放すわけもなく、こっちだってやってやんよという状態。


 


 せっかくなので『虐げられた王子様』と『操られていた聖女様』という2本の物語を作って、絵本と紙芝居と舞台に仕立てて王国で流行らせた。どちらも人名と国は架空の名前を使って、ストーリーも盛りに盛ったざまあ物語にしたが、自然と俺とルネの話だと捉えられた。

 紙芝居はこの世界にはまだなかったようで、子どもから大人まで大人気になり、世論に影響した。


 俺がしたのはそこまで。ここからは王国の人々が勝手に推し進めていった。




 王国各地で民衆の貴族王族に対する反感意識が高まった。領主貴族たちは早々に王家を切り、側妃の息子だから王位にはつけなかったがものすごく優秀だった王兄が担ぎ出されることになる。

 侯爵になっていた王兄は、同じく秀才な自分の息子と王女を婚姻させ、緩やかな王位簒奪が成った。


 俺の父上である国王は子どもたちにあまり興味がない人だったが、政治も同じだったようで、重臣に任せきりだったらしい。王兄の侯爵が実質政務を担っていたことが、大きな抵抗なく王位簒奪に至った理由だろう。


 父上は王宮の塔に実質の幽閉。王妃は実家に戻り、兄上は王兄が見繕った伯爵家に婿入りとなった。


 妹王女だけは王族に残るが、離宮での実質軟禁生活だろう。







 俺はというと。


「レオン様!」

「もうルネの方が身分高いじゃん。様とかいいよ付けなくて」

「分かりました、レオン」


 くすぐったそうにルネが笑った。

 乙女ゲームのヒロインやれるくらいの可愛い女の子からアプローチされて惚れないはずもなく。

 真面目で一生懸命で素直なルネだ。当たり前に惚れる。


 薬の流通経路開発などで慌ただしくしていたら、気づいた時には教会側と辺境伯の根回しが済んでいた。


「俺なんかでいいの?」

「なんかとか言わないでください!」

「自分のことだもん」

「それでもです。私の好きな人のことを悪く言わないでください」


 ルネが膨れてみせた。


「王子様じゃなくなったし、地位も変わったよ。今のルネは俺がいなくても生きていける」


 ルネを惹きつけておける明確なものがもう俺にはない。

 どうしてルネは俺のことを好きなのだろう。


「別に第二王子だったから好きになったわけじゃないです。しっかり者なのに弱いところもあって、私をずっと気にかけてくれた人だからです。それに……」


 ルネがとびっきりの笑顔を向けた。


「初めて会った時から今までずっと、レオンは私の王子様ですよ」


 本当に嬉しそうに笑うルネは可愛くて。なんだかこちらも嬉しくなってきて。

 自分でも単純だなーと思う。





 結局俺は攻略対象だったのだ。

ブックマークや評価をつけてくれた方はもちろん、最後まで読んでいただいた全ての皆様、お付き合いくださりありがとうございました!

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