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6 運の良い日

 今思えば、その日は朝から本当に運が良かった。


 朝ご飯で嫌いなものを残しマーヤに怒られた後、王子教育の授業が無い日だったので、マテウスを連れて離宮の東棟を走り回っていた。


 兄上の飼い殺しにならないためにどうしたら良いか考えており、頭がパンクしたので、10歳の子どもらしく東棟の探検に繰り出すこととした。

 前世を思い出した直後でハイになっていたのだろう。



 マテウスに小突かれて、人気無い廊下の端で躓くと倒れた先の壁が動いた。

 壁板を外してみると、奥に続く階段が現れた。


 こんなん行くしかないだろ!!


 マテウスに外套とランタン、そしてマーヤが調合した痺れ薬と傷薬を取りに行かせた。

 戻ってきたマテウスに強く止められたが、「じゃあ俺だけで行くからマテウスはここで待ってたら?」と言うと渋々ついてきた。


 古臭い匂いがするこもった空気と埃が多く積もっていたのが印象的だった。つまり、久しくこの隠し通路を通った人はいない。忘れ去られた隠し通路だったのだろう。

 でなかったら兄上がこの場所を俺に明け渡すはずがない。




 文句を言うマテウスを無視しながら通路を進むと、王宮の敷地の外、王都の町外れの墓地に出た。

 ひゃっほう、これこそ転生の醍醐味!


 とりあえず走り回った。王都を走り回った。

 マテウスはぜーはーしていた。


 走り回っていると、路地裏で絡まれている少年を見つけた。痺れ薬を投げつけ、少年を救出した。

 泣きながら感謝を伝えてくる少年の話を聞けば、王都第一の商会の御曹司であった。



 あれ、こいつ攻略対象の一人じゃね???


 豪商の息子、ニコラ。平民として学園に通い、同じ平民出身の聖女に惹かれていく。そして最後には隣国で一緒に商会を運営するのだ。船上で愛を確かめ合うスチルがあった気がする。



 おっとぉ? つまり、こいつの商会は隣国に伝手があるのでは?


 これは、ニコラを味方にしないとなあ!!




 ニコラを家まで送ると言って商会に突撃し、会長を出せと言った。恩着せがましく、ニコラのピンチをわざわざ助けてあげたことを伝え、命の恩人であると認めさせた。さらに目の前で傷薬も使ってあげた。

 無事、ニコラを子分にすることができた。


 ついでに商会と接触できたので、ニコラに使った傷薬を売りたいと言ってきた。

 傷薬くらいならば少数民族の秘術を使わなくても、薬師たちが作っているものがあるので、あまり目立たないと思ったし、事実そうだった。妙に品質の良い傷薬として取り扱ってくれた。



 その日から王子教育がない日には王都に降りて、ニコラとマテウスを従えてあちらこちらに行った。

 商会に卸す薬は徐々に増やし、傷薬、ハンドクリーム、リップクリームなどを売った。供給量が少ないものなので、とても高く売れた。前世チートを生かし、オセロと簪も売り捌いた。



 1年もすればある程度まとまったお金が手に入った。

 いよいよ、兄上に対抗する手段の中核として考えていたことを実行に移した。



 兄上はこの国で国王の次に偉い人だ。そんな人に対抗するためには、王家に匹敵するほどの権力を持ったところを味方にせねばなるまい。




 ────────つまり、教会である。


 幸いなことに俺は数年後に聖女が現れることを知っている。聖女は教会の命とも言うべき存在。聖女を助け、教会にその存在を教え、教育に関わることができれば、恩を売れるのではないか?

 教会は大陸全土に勢力を持つので、隣国に亡命する時に手助けになってくれるだろう。


 ゲームに、聖女は両親を亡くした後、親戚のパン屋で厄介になっていたとあった。

 1年間何も考えずに走り回っていたわけではない。王都にある大量のパン屋を一軒一軒見て回っていたのだ。

 そして、見つけた。王都の中央から少し南にあるこぢんまりとしたパン屋の娘。ピンクゴールドの髪に新緑の目。まだ幼いが、確かにゲームにあったヒロインの顔だ。



 薬を売って得た金を大量に教会に寄付する。そして豊穣の聖女を教会と引き合わせた。慌てたように司教が飛び出してきて、ルネは11歳で聖女と認められた。


 寄付金に物を言わせて、聖女の任命式は学園入学直前にしてほしいと頼み込んだ。貴族の養子として引き取られるならば、大々的に聖女と発表する前に貴族の礼儀作法や教養を身に付けさせなければ恥をかく、と説得した。

 ゲームでは、入学の直前に聖女として発見されたので、教育が施される前に学園にやってきた。だから、平民のくせに、と虐められるのだ。

 ならば、もう数年前から貴族教育を施せばいい。


 ルネには、玉の輿に乗るためには教養がないといけない、などと言いくるめて勉強させた。


 結果的にルネは学園に入るまでに最低限の礼儀作法と教養が身についた。もちろん生粋の貴族と同じではないが、見られる程度になった。

 おかげで学園では少し浮いているものの、虐められてはいないはずだ。




 その後もオセロのマージンや薬の売り上げを教会にとにかく寄付し、王都の教会のトップを務める大司教とも顔馴染みになった。

 教会には「弱き者を救えなくて何が貴族か、王族か。私には聖女を保護することと寄付を積むことしかできないが、貴方方と等しい志を持ち、常に同じ方向を向いている」とかなんとか言っておけば勝手に感動してくれた。

 チョロくて心配になるレベル。


 気づいたら聖人と認められるくらいになっていた。それも寄付金を積んで、頼み込んで内密にしてもらった。


 やはりマネーイズパワー。札束で殴ると人は黙る。世の中は金である。






 他にも孤児院に寄付して子どもを教会や商会の下働きに入れたり、商会の隣国支部のトップとおしゃべりしたり色々した。王都の探検も続けており、広い王都の南側半分はもはや俺の庭である。

 ニコラとルネには学園で会っても知らないふりをしろと言っておいた。


 6年間で薬品調合の秘術もある程度学んだし、お金もかなり溜まった。



 俺はもう何もできない餓鬼ではなくなったのだ。


 そして16歳になる。

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