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5 聖女ルネ

 学園の一年生も後半に差し掛かろうかという時、兄上にお茶に呼ばれた。

 身内なので正装でなくても良いのだが、マーヤとマテウスによって、いつもよりも少し豪華な格好にさせられた。


 離宮の母屋に居を構える兄上のティールームに向かう。マテウスも侍従として同伴させた。



「お招きありがとうございます、兄上」

「レオン、よく来たな」


 金髪碧眼の笑顔が眩しい。

 使用人が引いた椅子に座り、お茶が準備されるのを待つ。ミルクを多めに入れてもらった。


「学園生活はどうだ?」

「なんとか上手くやっています」

「そうか、ならば良かった。レオンは小さい頃から賢かったから、学園でも上手くやれると思っていた」

「買い被りすぎです、兄上。でも嬉しいです、ありがとうございます」


 微笑んだ兄上がティーカップを置いた。


「それで……、とある噂を聞いたのだ。デルフィーヌが未来の王太子妃らしからぬ行動をしているという噂をな」

「兄上のお耳にも届いておりましたか」

「仮にも同じ学校に通っているのでな」


 兄上は学園の3年生ではあるが、王太子としての執務もあるのであまり登校はしていない。

 社交界にすでに出ているので、学園での人脈作りの重要性も低い。持ち前のカリスマで人を惹きつけているからということもある。


「騎士団長の息子に関わる話はご存知ですか?」

「ああ、先日婚約が解消されたそうだな」

「そのようですね」


 謹慎明けしばらくは騎士団長の息子も大人しくしていたが、またすぐにデルフィーヌに侍るようになった。元よりも目に余るような有様だった。

 婚約者のご令嬢が再び父に相談し、円満な婚約解消が相成った。


 まあ表向きは円満とされているが、実際は騎士団長の息子側の有責だろう。慰謝料か何かを払い、円満になったのだろう。


「他の令息にも声をかけているらしいではないか」

「そうですね。公爵令嬢ですので、声をかけられた相手は非常に困っているようです」


 攻略対象の一人に、豪商の息子というものがいた。そいつにもデルフィーヌはちょっかいを出している。


「レオン、其方にも声をかけていると」

「私には、兄上の弟だから話しかけているようですよ。一歳しか変わらないのに、妙に姉振った様子で声をかけられます」


 おそらく乙女ゲームの攻略方法的に、母を早くに亡くしたレオンには母性をアピールすると良かったのだろう。

 今の俺にはなんのアピールにもならないが。


「レオンは確か、聖女と同じクラスだったな」

「はい。ルネ嬢ですね」

「彼女はどのような様子だ?」

「一生懸命授業を聞いており、友人関係も少数ですが、良好と思われます」

「そうか」

「兄上は、聖女と縁を結ぶおつもりで?」


 兄上は言葉は出さず、ニコリと微笑むだけだった。

 お茶で唇を濡らす。


「教会とは友好的な関係を築きたいものだ」


 デルフィーヌの悪評を聞き、聖女の様子を知りたがる。側近からすでに情報を掴んでいるはずだが、身近にいる俺にも確かめたのだろう。


 兄上は、デルフィーヌと婚約解消し、聖女ルネを妃に迎えようとしている。

 噂になるほど素行の悪いデルフィーヌよりも、学園入学前に見つかった聖女を取り込みたいと思うのも妥当だ。

 聖女は王家から独立した勢力の教会預かりで、乙女ゲームの主人公になれるくらいのスーパースターだ。一応ルネは平民の出だったので適当な貴族の養子になってはいるが、あくまで教会勢力である。


 教会はこの大陸全土で信仰されている宗教を掲げる勢力であり、特に隣国で力を持っている。王家としては、教会とどう付き合うか、というのは大きな課題の一つだ。

 もし、王太子と聖女の婚姻政策が成れば、王家と教会の明確な友好の証になるだろう。


「平民の生活に興味があるので、今度離宮に招いてみようかと思うのですが、いかがですか?」

「ああ、それは良いな。都合が付けば行こう」

「では、招待状を送っておきます」


 兄上は俺と聖女のお茶会に挨拶に来るのだ。そしてそこで2人は恋に落ちる。

 王太子と聖女のラブストーリーはここから始まるのだ。



 その後も和やかにお茶会は進み、無事終了した。







 数日後、学園でルネに声をかけた。


「レネ嬢、少しいいか」


 ルネはきょとんとした顔をしてから頷く。


「ええ、もちろんです」


 クラスメイトの驚いた顔が鬱陶しいので、場所を移した。





「レオン様から声をかけてくださるなんて、どうしたんですか?」

「それがなあ、兄上が君に興味を持ってるんだ。離宮でお茶会を開くから来てくれ」

「えー! レオン様の兄上って王太子様でしょ! 何で私?」

「そりゃあルネが聖女だからだろ。王家と教会は二大勢力なんだよ」


 周りに人がいないことを良いことに、ルネは態度を崩した。


 ルネと俺はもう知り合って5年近くになる。

 初めて出会ったのはルネが平民の時だったので、かつての方がもっと崩れた言葉遣いで話していた。

 未だに周りに人がいない時は気楽に話している。


「私とレオン様はもうお友だちじゃないですか」

「俺の権力はほとんどないからね」

「えー? そうですか?」

「そうなんだよ」

「じゃあ王太子様ともお友だちになれば良いんですか?」

「兄上はお友だち以上を想定しているみたいだけど」

「え!」

「極秘情報だから誰にも言うなよ。妃になる可能性も考えておいた方がいい」


 目をかっぴらいて驚くルネに、少し笑ってしまった。


「私平民出身ですよ!?」

「聖女というのはそれを上回る価値なんだよ」

「だからといって〜〜〜!!」

「声が大きい」

「すみません」

「いいじゃん、この国で1番の玉の輿だよ。そういうことだから、3日後離宮に来てくれ」

「……決定事項なんですね。分かりました」


 こうして俺は聖女と王太子の出会いの場のセッティングに成功した。

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