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4 奥ゆかしい友人

 3ヶ月もすれば皆学園に慣れてくる。


 俺の友だちも増えた。

 「おはよう」と言えば「おはようございます」と返ってくるし、「この問題分からないんだけど教えて」と言えば「すみません、私も分かっていなくて……。ロラン様にお聞きするのがよろしいかと……」と言われる。

 休み時間に話すのはもっぱらロランのみ。他のクラスメイトは奥ゆかしい人ばかりで、なかなか向こうからは話しかけてこない。

 気後れしちゃってるのかな。愛い奴らめ。




 デルフィーヌが問題を起こしたと聞いたのはそんな頃だった。


「彼を悪く言うのはやめて!」


 野次馬が発生している中心部には、女子生徒2人と男子生徒1人がいた。デルフィーヌと、騎士団長の息子とその婚約者だ。


 ロランと食堂に向かうところだったが、クラスメイトから珍しく声をかけられて連れられてこられた。


 デルフィーヌにはちょこちょこ声をかけられていたが、大したことはなかったので流していた。その間に、どうやら攻略対象の1人、騎士団長の息子にちょっかいをかけていたようだ。


 もしかして逆ハールート狙ってるのか? 普通に考えて、婚約者がいる高位貴族の令息を何人も誑かすなんて危険因子過ぎるだろ。


「フィーヌ様。彼女はフィーヌ様の美しさに嫉妬しているのでしょう」

「まあ、そうなの? それでも人のことを悪く言うのは良くないことだわ」


 野次馬の外側から見ていたのだが、周りに徐々に円の内側に押し出される。隣にいた生徒に状況説明を求めた。


「何があったの?」

「れレオン殿下! ……えっと、あの2人がお話しされていたのですが、令嬢側が苦言を呈し始めたあたりで、デルフィーヌ嬢がいらっしゃったのです」

「あー、最近デルフィーヌ嬢と仲がよろしいですね的な苦言?」

「は、はい」

「なるほどね、あんがと」


 デルフィーヌは公爵令嬢だ。学園内では身分の貴賤はないと言う建前があるが、実情はそんなはずもなく。

 この学年ではデルフィーヌよりも身分が高いのは俺しかいない。だから奥ゆかしいクラスメイトたちは俺に助けを求めたのだろう。


「悪くなど言っておりません。もう少し婚約者の私を立てるべきだと申し上げただけです」

「あら? あなた、婚約者として大切にされていらっしゃらないの?」


 デルフィーヌの言葉にご令嬢の顔がカァっと赤くなる。


「そ、そんなわけございませんけれども! どなたかわたくしの婚約者を誘惑しようとしている方でもいらっしゃるのかもしれないですわね!」

「そんなことないのね? ならいいじゃない、そんなに怒らなくても」

「誰のせいで……!」


 野次馬たちから、早くどうにかしてくれという視線が刺さる。けれどもこんな楽しい茶番を見られる機会はなかなかないので、しばらく放置する。


「婚約者だからといって、彼の心までは縛れないのよ? 彼が他の人を好きになってしまっても仕方がないことだわ。だって家同士の約束で、彼が望んで婚約したわけではないんですもの」

「そのようなこと存じ上げております。彼の心がどこにあろうと、家同士の約束であるからには、婚約者を立てるべきでしょう」


 婚約者のご令嬢は、この国の貴族としては至極真っ当なことを言っている。


 デルフィーヌは騎士団長の息子の腕に胸を押し当てるようにしがみついた。


「駄目じゃない、ちゃんと彼女にも贈り物をしないと」


 騎士団長の息子の鼻の下が伸びる。


「フィーヌ様のお手を煩わせてしまい、申し訳ありません。今すぐ何か手配します」

「この前わたくしにルビーのネックレスをくれたじゃない。あれをあげたらどう?」

「あれはフィーヌ様を思って作らせたものですので」

「ではサファイアに変えたら良いじゃない?」

「名案ですね! そういたします」


 ご令嬢が目を見開き、手に持っていた扇子が今にも折れそうなほど握りしめている。


「デルフィーヌ様に、ネックレスを贈ったのですか……?」

「ああ。フィーヌ様に似合うと思ったのだ」

「わたくしには手紙も遣さないのに……?」

「だってお前とは学園で話すだろう?」

「デルフィーヌ様との方がお話になっていると思いますが」

「フィーヌ様は格別だからな」


 話にもならない。騎士団長の息子は兄上の側近候補に名前が上がっていたはずだが、こんなに馬鹿だったのか。あるいは乙女ゲーム補正が入って馬鹿になってしまったのか。


「わたくしとの婚約がお嫌みたいですので、父に伝えておきます」

「別に嫌ではない」

「承知しました。あなたがそうおっしゃっていたと父に伝えておきます。……皆様方、お騒がせして申し訳ありませんでした。わたくしはこれで失礼致します」


 ご令嬢が野次馬たちをくるりと見て、大層綺麗なカーテシーをした。そしてそのまま野次馬の輪の中に消えていった。


 俺が仲裁する間もなく、場を納めていった。見事だ。


「見事だね。そう思わないか、ロラン」

「はあ、左様でございますか」

「じゃあご飯を食べにいこう」

「え、今からですか」

「1時間後じゃ授業が始まっちゃうだろ」

「それはそうですが……」


 まだ何かぶつくさ言っているロランの肩に腕を回した。

 王族に楯突くとはなんぞや。不敬であるぞ。


 我が親友は以心伝心なので、口に出さなくても思いが伝わったようである。黙って俺に付き従った。








 後日、騎士団長の息子は父親から酷く怒られて、数日間の謹慎をした。自宅の訓練場で騎士団長に叩きのめされる息子がいたとかいないとか。

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