悲観とチュロスと紅い顔
わたくしの名前は道枝サエ。
わたくしは、代々”未来視占術”を生業にする一族の直系として生まれました。
今でも政界の著名人が、国内外から相談に来るような名家です。
幼い頃のわたくしは、そんな名家の中でも歴代最高と言われるほどの”神童”と、もてはやされました。
(それはそう。だって”未来が本当に視える”のですもの……)
幼いわたくしは、未来が視えることが楽しくて周りの大人の未来を視ては、予言しました。 そして、その全てが確実に起きたんです。
”神童”と家の者に担がれたのは、外部のお客様を視る機会があるまででした。
周りの期待を受けつつ行った”未来視占術”でしたが……。
(え?……何も……視え……ない……)
そう、わたくしの”未来視占術”は――
”対象者との、自分の未来”を視ていたのだと、分かりました。
この日を境に、わたくしの扱いは逆転しました。
”神童”から”役立たず”へ。
ある日、勘当を当主より言い渡され、わたくしは家を追い出されました。
(まあ。知ってましたけどね……)
こうなると知っていたわたくしは、今日のためにいろいろと準備をしていました。
なので特に慌てることなく、街へ溶け込んでいきました。
「……さて」
わたくしは家電量販店の前に立ち……。
「……占い配信でもしてみますかね」
こうして、わたくしの新生活が始まりました――
☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆
俺こと堂本誠には、最近少し悩みがあった。
「店長ぉ~。ナポエネが足りません~。あたしに力をぉ~」
小腹が空くと俺のところにやってきて、食べものを欲しがるレン。
(ボディタッチが多い気がするし……)
「店長。このポーズはどうかな?」きゅるんっ。
可愛いポーズを思いつくと、俺のところにきて評価を求めてくるミウ。
(可愛いって言わせたそうな目で見てくるんだよな……)
「誠~。みんなが私のことを、可愛いってばっかり言うっ!!」
俺のところにきて、ツインテを振り回しながら愚痴るリオ。
(周りに誰もいないけどさ、誠って。君、秘密にするって言ってなかったっけ?)
最近、三人の距離感が近くなっている気がするのだ。
「嬉しいといえば、嬉しいが……」
俺は、対処方法が分からなくて困っていた……。
「それでは! 今日も来月の企画会議を始めます!」
今回の会議でも、俺に役が回ることのないようにと心で祈っていると……。
書記をするために俺の後ろを通ったサエが、肩に触れてから一言。
「……店長、その考えはフラグですよ」
そう囁いて、ホワイトボードのところへ行ってしまった。
(え? それはどういう……)
「何か意見のある人~!」
「はい!」
「はい!レンちゃん!」
「ナポリタン!」
「許可とか関係なく注文!?」
いつもの件を経て、会議を再開する。
「では、意見を!」
「はい! はーい!」
「はい!リオちゃん!」
「最近、ちょっとSFに寄ってる気がします!」
「「「確かに!!」」」
「じゃあ来月は、ファンタジー寄りにしましょうか」
「さんせ~い!」「いいと思いますぅ」「……いいと思います」
「また姫ができるの」「それはなしで!」
ガーンという表情をして、ミウはうつむいてしまった。
(そういうところは変わらないな、ミウ)
「う~~ん。何がいいかな~」「いろいろしてきましたしねぇ」
「出来れば新しいのが良いよね~」「何か方法がないものか……」
(ミウは諦めてないようだ……)
「……いいですか?」
珍しくサエが、手を挙げていた。
「お! サエちゃん! いいよいいよ~。意見言って~」
「では失礼して。わたくしの提案は『女神』です。ファンタジーに相違ないですよね?」
「「「「おおお~~。いいね~~」」」」
「理由も聞いていい?」
「はい。わたくし常々、みなさんのことをとても美しいと思っていたんです」
「「「「え?」」」」
意外な人物からド直球に褒められて、みんな照れていた。
(すごいぞ、サエ……)
「その美しさを表現する方法を、ずっと考えていて……。今、浮かんだんです」
「「「「なるほど~」」」」
(それだけで納得していいのか? お前たち……)
「じゃあみんな! どんな女神様になる?」
「あたしは”食の女神”ペコレンにするぅ~」
(ブレないな! レンよ)
「わたしは姫の」「ミウさんは”美の女神”ミウ-ナスね!」
(え?って顔して落ち込みそうになったけど、よく考えたら良かったって顔してるううう! 良かったな、ミウ)
「私はね~、”魅了の女神”アリオディテ!」
「「「……頑張ってね」」」
(みんな諦めてるううう!)
「私は”猫の女神”メイテト!」
(メイよ。そんなに猫が好きだったのか……)
「わたくしは”未来視の女神”サエルド。わたくしが運命を導きますわ」
「「「「おおお~~~。ぽ~~い!」」」」
(正に適役だな)
「じゃあ、来月はこれで行きましょう!」
会議が終わろうという瞬間、始めの言葉が気になってサエを見ると……。
ニコリと笑顔で、リオを指さした。
(ま、まさか……)
「はい! はーい!」
「はい、リオちゃん!」
「店長は~?」
「「「あっ!」」」
(あっ! じゃなーーーい!)
「……神々を纏める役」
「おお! じゃあお兄ちゃんはゼウスね!」
(おお、神よ……)
☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆
わたくしは、今日の会議も楽しくて、気分が高揚したまま帰路に就きました。
(本当に楽しい毎日ですね……、あの出会いのおかげですわね……)
わたくしの占い配信の精度はそこそこ良く、だんだんと視聴者が増えていましたが、お金にはなっていませんでした。
「……わたくしの独力だけでは、限界があるようです」
助言や協力を得ようとして、いろいろな方に会いましたが……。
(……この方とも上手くいく未来が視えません……)
大体の方が、わたくしを利用して破滅する、わたくしを騙して破滅する、わたくしを亡き者にしようとする……。
(酷い未来しか、視えません……)
そんな時に、最近若い女の子のSNSアドバイザーをしているメイという子を知りました。
何度かチャットやメールでのやり取りをして、徐々にわたくしの配信も伸びて来ていた時に、一度会ってお話をしてみませんかとお誘いがありました。
(……あまり気乗りはしませんが……)
連絡を取り、ある雑居ビルのシックな喫茶店で会うことになりました。
店の中も落ち着いた雰囲気で、ゆっくり話すにはいい場所だと思いました。
「え~と。道枝サエさんで、いいんですよね?」
「ええ。こんにちは。メイさん」
メイさんが、同じ年くらいだったことにも驚きました。それにとても話しやすく、すぐに打ち解けられました。
(きっと彼女との未来も……。せっかくお友達になれそうなのに……)
わたくしは今までの経験から、期待が出来ませんでした。
(でも、確認しなければ。いい子だからこそ、わたくしと関わることで不幸になってほしくない……)
「知ってると思いますが、わたくしの占いは当たりますよ? 試してみませんか?」
わたくしは、スッと手をだしました。
「え~。お高いんでしょ~?」
「今回だけ、特別に無料ですよ」
「マジっ!? お願いします!」
差し出された手を、握る――
(……どんな、嫌な未来が……)
彼女とわたくしの未来の風景が……
映し出される――
――笑顔が溢れていた
――現実的じゃないような内装の店内
――彼女もわたくしも一緒に笑って働いていた
「……え?」
「え!? 何その顔! なんか酷い結果だったの!?」
あんなに楽しそうな未来は、初めてだった……。
自然と、わたくしの目から涙が零れ落ちる……。
「えええええ!! 泣くほどの酷い結果だったの~~!!」
わたくしはフフッと笑い。
「違いますわ。良い未来すぎて、泣けてきたのです」
「なんだ~~! ビックリさせないでよね! そうか~良かったよ~」
「なんだ、大丈夫か?」
奥から堅気と思えない人がきました。まずいですね。あの未来に辿り着く前に、わたくしの命運は尽きてしまうのでしょうか……。
「あ。お兄ちゃん」
(…………それは、読めないですよ)
メイさんが、経緯を説明してくれました。
「そうか。仲良くしてやってくれな」
いいお兄さんのようです。顔は怖いですが。
「タダで占ってもらうのも、申し訳ないからな。なんか食べたいものとかあるか?」
(急に言われても、思い浮かびませんね。そんなに食に頓着しませんし……)
その時、たまたまテレビに映っていた、某夢の国の食べものが目に留まる。
「あれが、食べたいです」
指さした先のテレビ画面を、兄妹で見て。
「作れる?」「たぶんな」
そう言ってお兄さんは奥に戻っていきました。
しばらくして、先程見たアレを持って戻ってきました。
「どうぞ、召し上がれ」
わたくしはその時初めて、”チュロス”を食べました。
一口。
「っ!……おい、ひい」
できたてで熱かったですが、表面はサクサクとした食感なのに、中はフワフワ。それに絡まるシナモンシュガーの上品な甘みと、口の中に広がる香り。
(……し・あ・わ・せ)
先程の、幸せな未来を彷彿とさせるような味だと思いました。
あの優しい未来と、優しい味に、わたくしは涙を止められませんでした――
「お? 泣くほど美味かったか?」
「ウッ、ウッ、はい。……美味しいです」
わたくしは、この兄弟と未来を共に歩いていきたいと、
この時に思ったのでした――
今日からテーマ『女神』が始まりました。
テーマ『女神』では神秘的な印象を持ってもらえるように、古代ギリシャのペプロス風の衣装に統一しました。店内の雰囲気も神界をイメージしました。衣装が同じな分、みなさん個性が出るように小道具などで差をつけています。
「……みなさん、美しいです」
「え?そうかなぁ。ちょっと恥ずかしいかもぉ」
(確かに、レンさんはお胸が大きいから目立ちますね。恥ずかしがって隠そうとすると、余計に目立ちますね。あの腰に着けているポーチは、フォークが入ってるのでしょうか?)
「わたしは美の女神、美を振り撒くよ!」
(ミウさんは今回も決まってます。何故かキラキラしたものが見える気が……。せっかく金髪ロングのウィッグを着けているのに、”美”に拘り過ぎて”可愛い”を忘れている様子です。ドンマイですミウさん)
「フフフッ。今日から私の魅了が唸ること、間違いないわ!」
(リオさんは普段から、一部の方々を魅了しているのですけど……)
でも、そうですね。
今回は神秘的な雰囲気を演出するために、全員髪をストレートに統一しました……。
(ツインテじゃないリオさん。黙っていれば、みんな魅了されそうです……)
「なんか、失礼なこと考えてる?」
「気のせいです……」
「サエちゃん!今月も頑張ろうね!」
(メイちゃんは今回も、猫耳がとても可愛いです。本当に可愛い。……可愛い。抱きしめたいです。ダメ。ダメよサエ。メイちゃんに嫌われたら、生きていけない……)
必死にメイちゃん愛を、抑え込んでいると。
「サエちゃんもめっちゃ神秘的だし、めっちゃ可愛いよ~! やっぱり白髪ストレートに赤眼は神秘って感じだよね! マジ神可愛い!」
(この子はわたくしを、悶え殺す気でしょうか?)
そして――
今回の『女神』も大盛況で終えました。
途中で『女神が降臨したカフェがある!』と、バズってしまった時は大変でしたけど。
でも、今月も楽しかったと思える日々でした。
企画責任者として後片付けを申し出て、みなさんを先にお返ししました。
「後片付け、手伝ってもらって悪いな」
「いいえ。発案者ですから」
「そうか」
「ええ」
二人で黙々と片付けていると、店長が質問してきました。
「そういえばさ。他人の未来は視えないのに、どうやって占いを当ててるんだ?」
わたくしは、この兄妹には”未来視”の秘密を打ち明けていました。
知っても変わらずに一緒に居てくれるこの兄妹が、わたくしは本当に大好きです。
「これは、わたくしの持論なのですけれど……」
「おう」
「占いが当たるというのは、正確ではなく。占いを聞いて、行動した。あるいは、失敗しても行動し続けたから、欲しい未来を掴み取れたと、考えています」
「……なるほど?」
「フフッ、未来は決まっていません。行動しだいで、選択しだいで、変わるってことですね」
「そうかぁ~」
(半信半疑みたいですが、わたくしは本当にそう思っているのです……)
「そうだな。俺もメイの手を取ったから、この店を続けていられるんだもんな」
「そうです。意外と行動に移せない人は多いと思います。だって怖いし、きっと嫌なこともありますから……」
「行動した過去の俺が、グッジョブだな」
「そうですね。わたくしも感謝しています」
(わたくしの居場所を、作ってくれたんですもの……)
後片付けも終わり帰り支度をしていると、店長が”チュロス”を揚げてきてくれた。
「おう、今日はありがとう。これ食べな、好きだったろ?」
(良い匂い……)
普段は意図的に、他者へ触れないように気を付けている。
幸せな時間の余韻と、幸せな匂いに油断していたわたくしは――
チュロスを受け取る瞬間に、
店長へ触れてしまいました――
――
――
――
視えた光景に驚き固まっていましたが、店長の声で意識が戻ってきました。
「おい? 大丈夫かサエ?」
動揺を隠したまま。
わたくしは意味深い微笑みを作って。
彼を赤眼で射貫き。
そして一言……。
「店長に、女難の相が出てます」
それだけを告げ、
”チュロス”を受け取ったわたくしは、店を後にしました。
「え!? ちょっ!? どういうこと!? 他人の未来は視えないんじゃ……」
わたくしは、振り向きませんでした。
いいえ。振り向けませんでした。
だってこんなにも紅潮した顔を、彼に見せることはできませんでしたから――




