諦めとココアと上目遣い
わたしの名前は平野ミウ。
今日も『異世界カフェ』へ向かって歩いているんだけど……。
『ねえ、あの人カッコよくない?』『うわぁ超美形~』『きゃあ~~。芸能人かな?アイドル?』『え!?どこどこ?王子様がいる?』『かっこええ~~』
わたしを見て振り向く人、ヒソヒソと話す人がたくさんいた。
これがいつもの光景だった……。
わたしは昔から、他の子に比べて背も高く顔も整っていて、”王子様”と呼ばれることが多かった。
学校で劇などあれば、満場一致で”王子役”だった。
(姫役はいつも小さくて、可愛らしい子だったな……)
昔を思い出し、額に手を当てて、憂鬱そうな顔をしていると……。
キャーーーー!! と叫ぶ声が聞こえてくる。
わたしは昔から、女子にモテた。告白してくるのは、女子ばかりだった。
わたしは至って、ノーマルなんだけどね。まあ、いいと思えた男子も居なかったけど。
周りからの期待も大きく、女性で構成された『歌劇団』のオーディションを受けた結果……、受かってしまった。
周りに勧められて入った形にはなってしまったけど、正直『歌劇団』での音楽劇はとても楽しかった。煌びやかな衣装、洗練された音楽、努力の結晶である魅せる演技……、全て眩しくて、高揚して、夢のような時間だった。
(だけど…………、わたしは”男役”だった)
どれだけ”女役”の演技や、発声やダンスなどを練習して覚えたとしても、仲間たちがわたしを”女役”にさせてくれなかった……。
そんなことを、思い出していた時――
わたしの隣を、小さな柴犬を散歩させていた女性が通り過ぎた。女性は振り返ってわたしを見て、固まっている。
わたしは小さな微笑みで返すと、女性は赤面して直立不動になってしまった。
しかし、わたしが微笑んでいたのは女性にではない。彼女が連れていた、小さな柴犬にだ。
柴犬が首をコテンッと曲げ、キョトンとした顔で見上げてくる。
(可愛いいいい!!!!)
脳内のわたしが、ウヒョ~っと走り回っている。
顔には出ないが……。
そう、わたしは可愛いものが、大好きだ――
ある月の企画会議の後、わたしは今日も姫役をもらえず、落ち込んでいた。
「……ほらよ。まあ、そんな落ち込むな」
甘く濃厚な匂いがした……。
店長がわたしに、甘いココアを渡してくれる。
「……ありがとう、ございます」
わたしは甘いものも、大好きだ。それを知っている店長は、わたしが落ち込むと、ちょくちょくこうやってココアを淹れてくれる。
(でも、今日も姫役の配役決めの時に、フォローしてくれなかったのは許してませんよ)
店長を睨んで、ココアを一口。
(あま~い。……美味しい)
すぐに表情が和らいでしまった……。
(我ながらチョロいのでは?)
そんなことを考えつつ、チビチビと頂く。
(そういえば、あの時もココアだったっけ……)
あれは、この店に来る前――
わたしは楽しかった『歌劇団』も、辞めてしまった。
”女役”に憧れ過ぎて、自分が”男役”をすることが辛くなってしまっていた。
周りのみんなは「ちょっとしたスランプだよ」と言ってくれたが、わたしはもう、限界だったのだと思う。
しばらくは”顔”の出ない、”声”だけの仕事をしようと考えた。
たまたまネットで目にしたSNSアドバイザーのメイに依頼して、声の仕事を始めた。
わたしの声はどうもイケメンボイスらしく、またまた王子役での需要があった。
(結局ここでも、男役か……)
何度かメイとやり取りをしていて、アドバイスを受けている時についポロっと、「男役なんて、本当はやりたくないんだよ」と話してしまった。
メイは話しやすくて、何度かランチなんかにも一緒に行って、甘いものが好きとか、可愛いものが好きとか、知られてしまっていたのもあった。
「……そうか~。ミウさんにお願いしたいことが、あったんだけど……」
メイのお願いは、お兄さんの店で働いてくれないか?というものだった。
どうやらお兄さんのお店が今とてもピンチで、メイの企画が通った時には助けて欲しいと言われたけど……。 正直な気持ちとしては、人前に出る仕事はまだちょっと辛いなと思っていて。だけど、メイの頼みだしなと悩んでいたら。
「一回、お兄ちゃんに会ってみてよ!」
メイと一緒に、件の喫茶店に来た。とてもシックで、落ち着いた雰囲気のお店だった。
「いい雰囲気だね。でもお客さんは、居ないんだね……」
メイは悲し気に、「そうなんだよね~」と返してくる。
「おっ。メイの友達か? いらっしゃい」
(えええええ!! お兄さんは!?)
バックヤードから出て来たのは、とても堅気の人間とは思えない、強面の男だった。
「お兄ちゃん。紹介するね、ミウさんだよ」
(やっぱりお兄さんなんだ……)
「初めまして、平野ミウです。メイにはアドバイザーとしてお世話になったんですけど、今はプライベートでも仲良くさせてもらってます」
「どうも。メイの兄の、誠です」
(声も渋くて、より怖い感じになってるなこの人)
「あ~。俺さ、こんなだから良く勘違いされるんだけど、ただの一般人だからな?」
わたしの顔が強張っていたのか、怖がっていると思われたようで、気を使ってくれた。
(意外と、優しい人?)
「そうなんだよ~、お兄ちゃんこんなだから昔から怖がられてさ~。話せば優しいって、分かるんだけどね~」
わたしは、ハッとした。この人も、見た目で苦労してきたんだと気づいた。そう思ったら、急に親近感が湧いてきた。
「見た目で判断されるって、辛いですよね……」
「お? 分かってくれるかい? 君は、いい子だね」
お兄さんは、うんうんと頷いている。
「ミウちゃんも苦労してるもんね~。いつもイケメン、イケメンって」
「そうなのか?」
「そうだよ~、甘いものとか可愛い物が好きな女の子なのにね!」
(メイ、ありがとう。そう言ってくれる君だから、仲良くしたいと思えるよ)
「そうだ。お兄ちゃん、甘いものないの?」
「あ~。今ちょうど、クリームとかアイスは切らしてるな。ココアでいいか?」
ココアは割と好きだ。
「はい」「いいよ!」
「ちょっと待ってろ」
お兄さんがココアを淹れてくれていると、甘い濃厚な匂いがしてくる。
「どうぞ」
「ありがとうございます」「いただきま~す」
口に含むと、ココアのほど良い甘みが口の中に広がる。
「美味しいです」「うん、本当。味は、いいんだけどね~」
この兄妹の雰囲気やココアの味で、わたしはメイのお願いに、付き合ってもいいかなと思ったのだ。
ココアを頂きながら、わたしはこの店に来たきっかけを、思い出す。
(やっぱり、店長のココアは美味しい。これで姫役も出来たら、最高なんだけどな……)
今月のレンの”持ち込み企画”、『異世界料理対決』は大成功だった。それもあって、来月の企画は『ドワーフ王国』になった。店長の赤ワイン煮やレンのナポリタンを、来月も継続させるために決まった感じだった。
(確かに美味しかったなあ。あれ? ”持ち込み企画”?)
――わたしは、わたしが”姫役”をするための勝利の方程式を閃いた。
「っ! 店長! ごちそうさまでした! わたし、帰ります!」
「お!? 急に元気になったな? ココア、うまかったか?」
「はい! それはもちろん!」
わたしは大慌てで帰宅して、明日提出できるように企画書を作成するのだった。
そして翌日――
「店長、メイ。今日の終業後に、みんなで会議をする時間を作って下さい!」
一晩で作成した企画書を手に、二人にお願いをした。
☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆
ミウに頼まれた俺は、終業後にみんなに残ってもらった。
「それでは、緊急企画会議を行います!」
「あれ? 昨日”ドワーフ”って決まりましたよね?」
ナポリタンを出したい、あるいは食べたいレンが、不安そうな反応をする。
「ごめん、違うんだ。来月ではなくて、再来月の企画をわたしが提出したんだ」
ミウが説明する。
そう、ミウは再来月の企画を提出してきた。内容を見たが、確かに準備が数日では間に合いそうもない企画だった。
(企画書を持ってきた時のあの目は、強い意志を感じる目だった……)
俺は、ミウの本気を感じて覚悟をしていた。メイを見て目が合うと、頷いてきた。メイも、同じ気持ちのようだ。
「ミウさんが言うように、今回はミウさんの持ち込み企画です。だからミウさん、説明をお願い」
「みんな、時間を作ってくれてありがとう。わたしは、どうしてもやりたい企画があって、今回は提案させてもらったんだ」
みんなを見て、ミウが言う。
「わたしの提案する企画は、『パラレル異世界姫パーティー』。様々な世界の姫たちが、一つの異世界に集まってしまったという設定だよ」
「おもしろそう〜」とリオ。「いいですね」とレン。「わたくしは、かぐや姫ね」とサエ。
(いやなんでサエは、もう”かぐや姫”って決まってたの? 今企画を、聞いたばかりだよね!?)
「じゃあ、みんな賛成で良いのかい?」
「でもミウちゃんは、王子なんでしょ~?」「ミウさんの王子は、鉄板ですもんね? ハーレムですよぉ」「…………」
「え、いや……」
ミウは絶望的な顔をして、うつむいてしまう。
まるで、これが“いつものノリでしょ”といった雰囲気……。
(分かるよ、そうだよな。いつもの関係、いつもの立ち位置、いつもの落ちってな。だけど、今回は違うんだよ)
「いいや。この企画は、全員を”姫”にする。…………もちろん”俺”もだ!」
「「「「ええええええ!!!!」」」」
(いやいやいや、ミウよ。なぜにお前も驚く方に回るの? 俺だって傷つくよ?)
「お兄ちゃんの言う通り、全員”姫”で行くわ。その方が、面白いからね!」
ミウはハッとした後に俺たちを見て、涙目になっている。
「……ありがとう、ございます」
「了解だよ~。みんな姫だけど、衣装とかは?」
「それだよリオ。だから今日、集まってもらったんだ。どんな姫か考えて、衣装を準備する時間が必要だろう。だから、早めに会議を開いてもらったんだ」
「なるほどですぅ」「何姫にしようかな~」「わたくしは、直ぐに用意できます」
(サエは、十二単持ってるの!?)
「そういうことで、再来月は『パラレル異世界姫パーティー』に決定! 進捗とか確かめないと危うそうだから、来月は何回か会議を開くから、そのつもりで!」
緊急会議が終わり、みんなが帰った後にミウがやってきた。
「……その。店長、メイ。今日は本当にありがとう。わたしのために無理聞いてくれて」
「お前が姫役したいの知ってたしな。いつか、後押ししてやろうとは思ってたんだよ」
「いつもは売り上げ的にNOだけど。今日のミウさんは、自分で企画を持ってきたからね。私は持ち込み企画は大事にしたいと思ってるんだ!」
ミウは俺たち兄妹に、何度も「ありがとう」と感謝をしてくれていた……。
時間は経ち、二回目の会議――
「では! 第二回『パラレル異世界姫パーティー』企画会議を開始します!」
「はい!」
「はい、レンちゃん!」
「あたしは、腹ペコ星から来た『腹ペコ姫』にしたので、ナポリタン下さい!」
「我慢なさい!」
「やだ~~!!」
「まあな。今日忙しくて、昼をまともに食えなかったしな」
「やった~~」「すぐに、甘やかすんだから!」
俺はレンに、”レン風のナポリタン”を作った。
「あたしのナポリタンも店長に作ってもらうとぉ、もっと美味しくなって不思議ぃ」
鉄板のジュウジュウという音が食欲をそそる。みんな食べたそうだったので、全員分を作った。
「じゃあ、みんな食べたら再開です!」
みんなで食べていると、それぞれ感想を言う。
「やっぱり最高ぉ~」「お兄ちゃん美味しいよ!」「美味ね……」「デリシャスっ」
「なんか~。レンちゃんと店長の、初めての共同作業みたいな料理だね~」
リオの一言に、みんなの手が止まる。
静寂…………。
その中で、リオだけがウマウマと食べていた。
「……それでは、会議を再開します」
ちょっと微妙な雰囲気の中、会議は再開した。
「レンちゃんの『腹ペコ姫』ってどんなキャラ?」
「……はっ! あたし!? あ~、腹ペコ姫ね。仕事中にお客さんと、一緒に食べれないかなって考えたキャラで……、あ! ちがくて!」
(考え事をしていて急に話を振られたから、慌てて本当のことを言っちゃった的な反応だな)
「ハァ。いいわよ、そのままで。たぶん需要あるから」
「え? そう?」
(本当だ。実際に、レンと一緒に食べたいと懇願するお客様は結構いる)
「衣装は進んでるの?」
「ちゃんと食べても平気な衣装を作成中だよぉ!」
(こいつ、ガチやん……)
「リオちゃんは決まったの?」
「もちろんっ! 私は『魔王軍の姫』だよ!」
「詳しく」
「え~とね。魔王の娘で〜、”超ナイスボディ”な、サキュバス設定だね~」
「リオちゃんにだけは、無理じゃない?」
「ひどいっ!」
メイはリオを、上から下まで見る。
「無理ね」
「メイちゃんの、ひとでなし~~!!」
リオは、走って出て行ってしまった。
(……そのうち戻るだろう)
「しょうがないからリオちゃんの”魔王の娘で姫”って設定だけ採用して、調整しましょ」
(リオ。ドンマイ!)
俺は心でエールを送った。
「サエちゃんは、かぐや姫だっけ? 詳しく教えて」
「ええ。占星術を生業にする、『月の民の姫』。わたくしは、伝承の世界から来たという設定ですね」
「サエちゃんはまんまよね、いつも……」「似合ってるね」「いいと思うよぉ」
「ありがとうございます」
(サエよ、メイは褒めているわけじゃないと思うぞ……)
「ハア。次は私ね。私は『猫獣人族の姫』! 黒猫族で、私の黒髪にそのまま黒猫耳を足して、コンタクトを金色のカラコンにして~」
「了解だメイ。よく解ったから。長くなるだろ、その話?」
「ぶ~! 自分的に可愛さがMAXキャラと思えたのを作れたから、説明したいのに~」
(今回のコスは気合が入ってるようだ。まあ、楽しそうでなによりだな)
「設定としては、獣人の国から来た一部族の姫だね!」
「いいね。メイっぽいよ」「黒猫メイちゃん可愛いと思う!」「大いに、賛成です」「いいと思う!」
(いつの間にかリオは戻って来て、参加してるし)
「ありがと!」
「わたしの番だね。わたしは王道。”ファンタジー世界の王国の姫”にするよ」
「普通の?」「普通のぉ?」「普通なの?」「基本の?」
「そう。わたしが姫をする時点で、サプライズでしょ?」
ミウはみんなに、イケメンウインクをする。
「「「確かに!!」」」
「そういうわけで、わたしは『王道の姫』をするつもりだよ」
「いいと思うわ。みんないいよね?」
「いいと思う」「納得したわ!」「運命ね……」
「じゃあ、みんな今の案で決定ね! それぞれ用意を、進めて行きましょ!」
メイが、会議を締めようとすると。
「はい! は~い!」
「はい! リオちゃん!」
「店長は~?」
全員が、ハッとして俺を見る。チッ、気づかれたか。
「……決まっては、いる。……用意も、……できてはいる」
「「「「おお~~」」」」
「それでお兄ちゃんは、何をするの? 私聞いてない!」
「…………スケバン」俺はボソッと言う。
「え? なんて?」
「……だから、スケバン」再びボソッと言う。
「え? 聞こえない!」
「だ~か~ら! スケバンだよ! スケバン! “不良の国“からやってきた、『スケバン姫』!!」
「「「「…………」」」」
(あれ? リアクションがない?)
メイが、手を挙げる。
「お兄ちゃん。”スケバン”って何?」
(ジェネレーション・ギャップううう!!!!)
そして準備も間に合い、
『パラレル異世界姫パーティー』が始まった――
「レンちゃん! A卓が、一口どうぞだって!」
「喜んでぇ~」
レンがマイフォークを持って、A卓へ向かう。
レンの『腹ペコ姫』は、深紅のエレガント・エンパイアって恰好だそうだ。
「色を深紅にしたことで、ナポリタンが飛んで付いても目立ちませんよぉ。それに、エンパイアドレスはお腹がポコッとなっても目立たないんですぅ~」
そんな説明をされた。……あいつはガチだ。
そんな食べて平気か?と心配した時も、「なんか全部胸に栄養が行くみたいで、太らないんですよぉ」と言っていた。……確かにと、納得してしまった。
困った点があるとすれば……。
“お客様が“追加料金を、置いていこうとするのだ。一口食べたれているのに。
払う事を懇願するお客様が居たが、丁寧に断らせて頂いた。
「リオちゃん、B卓のお客様お願い!」
「はい! は~い!」
リオは結局、サキュバス魔王になっていた。
黒と赤を基調にしたセクシーミニスカワンピ、角カチューシャ、羽根つきコルセット、黒のガーターストッキング。店的にアウトなのだが……。
(なんで、リオはセーフに見えるんだろうか……)
「あんたたち、また来たの~? 暇なの~?」
ツインテール小悪魔?が、ちょっと失礼な接客をしている……。
注意したいが、お客様に「そのままでお願いします」と、懇願されることが多い。
どうやら一部のお客様に、とても好かれているようだった。
「メイちゃん! チェキだって~」
「は~い!」
メイも黒猫耳のカチューシャをして、紫を基調とした、可愛いロリータドレスを着ていた。
「はい! ニャンニャン!」
大きな猫の手グローブで、ポーズをしてチェキしていた。
(あのグローブで接客ができる不思議……)
ちなみにお客様から要望があった、語尾を”にゃん”にする案は却下された。
(チェキる時だけニャンニャン言うせいか、チェキがすごく多い。まさかメイはそれを狙ったのか?)
「サエ様、今日も占いをお願いします」
サエは十二単だから動くことも難しいので、店の一部をサエスペースにしていた。お客様がサエの元に行くスタイルだ。
(いつもと、変わらないな)
サエは、サエだった……。
「店長~。お会計ですぅ~」
「おう」
俺は、昭和のスケバンスタイルだ。金髪ロングパーマのウィッグ、サングラス、バッテンを書いたマスク、丈の長いロングスカートにセーラ服。そして釘バットを持つ。
「っ!うおぉ」「ひぃっ!」「怖っ!」
反応は上々だ。みんなからは、笑われたがな。
そして、この企画の主役は――
「ようこそ、異世界カフェへ」
綺麗なカーテシーで、お客様を出迎える。
「わぁ……」「きれ~い」「可愛い……」「ほわぁ~」「……ポッ」
男女問わずミウの姿に驚き、感動していた。
金髪ロングをウエーブさせて編み込みをしたウィッグを着け、フリルのたくさんついたピンクのプリンセス・ドレス。綺麗な装飾のティアラや首飾り。
正に、王道の”姫”だった。
(さすがミウだ。”姫”の格好になれば、誰よりも姫役をしてるじゃねーか)
所作の一つ一つが、とても綺麗で。
姫らしく、笑顔が可愛くて。
いつもの”イケメン”ではないミウが、そこには居た。
お客様の反応も良かった。
「ミウ様の新しい一面が、見れました!」「ミウちゃん、可愛い方も行けたのね」「ミウさんの、受けも描けそう~」
最後のは、どうかと思うが……。
そんなわけで、今月は大繁盛だった。
☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆
わたし、平野ミウにとって、特別だった時間。
『パラレル異世界姫パーティー』の、最終日が終わってしまった。
(もう、終わっちゃったのか……)
わたしは名残惜しくて、まだ着替えずに店の中に残っていた。
「ミウさん、まだ着替えてなかったんですか?店長が今月売り上げ良かったから、打ち上げ行って来いって、お金くれたそうですよぉ~」
「そうだよ~! ミウちゃんも早く行こう!」
「皆で参りましょう」
「ミウさんも行こ!」
「店長も来てくれて、いいのになぁ~」
「何言ってんのよレンちゃん。お兄ちゃんなしの、女子会の方が楽しいって!」
「ええ~~」
「みんな、先に行っててくれないか。わたしはもう少しだけ、余韻に浸りたい気分なんだ……」
「企画終わったら、すぐにイケメ~ン!」
「こら! リオちゃん! からかわないで!」
メイがわたしを見て、
「……あとで、来てくれる?」
「もちろん」
「了解。店決まったら、メッセ送るね」
「ありがと、メイ」
みんなは先に、ワイワイと行ってしまった。
(本当に、楽しかったなぁ……)
わたしが余韻に浸っていると、店長がやって来た。
「あれ? ミウ一人か?」
「みんなは先に行きましたよ。わたしも後から、合流します」
「ん? そうか……」
「……はい」
奥に戻った店長が、しばらくして戻って来た。
「ほらよ」
「フフ。ありがとうございます」
いつものココアを、手渡してくれる。
(あたたかい。……甘くて、美味しい)
チビチビと飲んでいると。
「どうだった? 自分の企画やれて」
「とっても。とっても楽しかったです。終わりたくないくらい……」
(やっと出来た、”女役”。明日からまた、”男役”かあ……)
昔から期待されていたわたしは、”男役”だった。
今月のわたしは、特別な時間をもらえただけ……。
「良かったな。やりたがってたもんな、”姫”」
「”姫”というか、”女役”ですかね?」
わたしはココアをテーブルに置き、立ち上がって、くるりと一回りしてカーテシーをする。わたしは身長175㎝で高い方だけど、店長は185㎝でもっと大きいため、上目遣いの形になってしまう。
「フフ。可愛いでしょ?」
「お、おぉ……」
店長は照れてるようで、可愛かった。
わたしはうつむき、
「でも……、可愛い時間は、今日でおしまいです」
言葉にすると、胸が苦しくなった。
(嫌だな……。可愛いままで、いたいなぁ)
「なんでだ?」
わたしは、ちょっとデリカシーのない言葉だなと思った。
「なんでって! わたしですよ? みんなからイケメンって言われてる、わたしですよ!?」
イラっとしたので、語気が強くなってしまう。
「普段のわたしは、可愛いが似合わない。カッコイイが似合う人間なんだから!」
(なんで店長に当たってるのよ、わたし……)
「そうかな? 俺はココアを飲んでるミウを、いつも可愛いって思って見てたけど……」
「…………え?」
わたしは店長の言葉で、急に恥ずかしくなって顔が火照ってきてしまった。
(なになになに? え? どういうこと? 普段のわたしも可愛い!? え? ええええええ!!)
「ミウは普段から甘いもの好きだし、可愛いもん好きだし、すごい”女の子”だろうが」
「ちょっ!」
(わたし女の子!? いつも可愛い!? 甘い匂いがする!? え? なんて言ってるの!?)
「誰がなんて言ったってさ、俺もメイもミウがちゃんと可愛いって知ってるんだぜ」
「っ!!!!」
(ミウみたいな可愛い子と結婚したい!? ミウって誰?? わたし~~~!?)
わたしは、混乱の極みで目がグルグルしてきてしまった。頭から湯気が出ている気がする。
(店長! もう勘弁してくださ~~~~~~~い!!)
「……ミウ、大丈夫か?」
(大丈夫? じゃない~~~~!!)
気持ちを落ち着かせるために一旦座り、ココアを飲んだ。
店長を下から覗き込み、
「……わたしは可愛い?」
店長は、また照れて横を向きながら、
「可愛いよ」
「ハハッ。可愛いかぁ」
(なんだ、そうか。わたしは自分で自分を…………縛っていたのかもしれないなぁ)
わたしは、”イケメン”と言われて期待されることが多い。
でも、だからって”可愛い”がないわけじゃないんだ。
だって、わたしも”女の子”だもんね。
(…………本当に、”わたしたらし”な兄妹ですよね)
わたしは、演じるのが好きだ。
この場所でならわたしは……
”期待される役”だけじゃなくて、”自分がしたい役”も自由にできると
そう思えた――




