表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ようこそ!異世界カフェへ! ~迷える彼女たちの居場所探し~  作者: はひなひは


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/7

諦めとココアと上目遣い

 わたしの名前は平野ミウ。

 今日も『異世界カフェ』へ向かって歩いているんだけど……。


『ねえ、あの人カッコよくない?』『うわぁ超美形~』『きゃあ~~。芸能人かな?アイドル?』『え!?どこどこ?王子様がいる?』『かっこええ~~』


 わたしを見て振り向く人、ヒソヒソと話す人がたくさんいた。

 これがいつもの光景だった……。

 わたしは昔から、他の子に比べて背も高く顔も整っていて、”王子様”と呼ばれることが多かった。

 学校で劇などあれば、満場一致で”王子役”だった。

(姫役はいつも小さくて、可愛らしい子だったな……)

 昔を思い出し、額に手を当てて、憂鬱そうな顔をしていると……。


 キャーーーー!! と叫ぶ声が聞こえてくる。


 わたしは昔から、女子にモテた。告白してくるのは、女子ばかりだった。

 わたしは至って、ノーマルなんだけどね。まあ、いいと思えた男子も居なかったけど。

 周りからの期待も大きく、女性で構成された『歌劇団』のオーディションを受けた結果……、受かってしまった。

 周りに勧められて入った形にはなってしまったけど、正直『歌劇団』での音楽劇はとても楽しかった。煌びやかな衣装、洗練された音楽、努力の結晶である魅せる演技……、全て眩しくて、高揚して、夢のような時間だった。


(だけど…………、わたしは”男役”だった)


 どれだけ”女役”の演技や、発声やダンスなどを練習して覚えたとしても、仲間たちがわたしを”女役”にさせてくれなかった……。



 そんなことを、思い出していた時――

 わたしの隣を、小さな柴犬を散歩させていた女性が通り過ぎた。女性は振り返ってわたしを見て、固まっている。

 わたしは小さな微笑みで返すと、女性は赤面して直立不動になってしまった。

 しかし、わたしが微笑んでいたのは女性にではない。彼女が連れていた、小さな柴犬にだ。

 柴犬が首をコテンッと曲げ、キョトンとした顔で見上げてくる。


(可愛いいいい!!!!)

 脳内のわたしが、ウヒョ~っと走り回っている。

 顔には出ないが……。


 そう、わたしは可愛いものが、大好きだ――

 


 ある月の企画会議の後、わたしは今日も姫役をもらえず、落ち込んでいた。


「……ほらよ。まあ、そんな落ち込むな」


 甘く濃厚な匂いがした……。 

 店長がわたしに、甘いココアを渡してくれる。


「……ありがとう、ございます」


 わたしは甘いものも、大好きだ。それを知っている店長は、わたしが落ち込むと、ちょくちょくこうやってココアを淹れてくれる。

(でも、今日も姫役の配役決めの時に、フォローしてくれなかったのは許してませんよ)

 店長を睨んで、ココアを一口。

(あま~い。……美味しい)

 すぐに表情が和らいでしまった……。

(我ながらチョロいのでは?)

 そんなことを考えつつ、チビチビと頂く。


(そういえば、あの時もココアだったっけ……)



 あれは、この店に来る前――

 わたしは楽しかった『歌劇団』も、辞めてしまった。

 ”女役”に憧れ過ぎて、自分が”男役”をすることが辛くなってしまっていた。

 周りのみんなは「ちょっとしたスランプだよ」と言ってくれたが、わたしはもう、限界だったのだと思う。

 しばらくは”顔”の出ない、”声”だけの仕事をしようと考えた。

 たまたまネットで目にしたSNSアドバイザーのメイに依頼して、声の仕事を始めた。

 わたしの声はどうもイケメンボイスらしく、またまた王子役での需要があった。

(結局ここでも、男役か……)

 何度かメイとやり取りをしていて、アドバイスを受けている時についポロっと、「男役なんて、本当はやりたくないんだよ」と話してしまった。

 メイは話しやすくて、何度かランチなんかにも一緒に行って、甘いものが好きとか、可愛いものが好きとか、知られてしまっていたのもあった。


「……そうか~。ミウさんにお願いしたいことが、あったんだけど……」


 メイのお願いは、お兄さんの店で働いてくれないか?というものだった。

 どうやらお兄さんのお店が今とてもピンチで、メイの企画が通った時には助けて欲しいと言われたけど……。 正直な気持ちとしては、人前に出る仕事はまだちょっと辛いなと思っていて。だけど、メイの頼みだしなと悩んでいたら。


「一回、お兄ちゃんに会ってみてよ!」


 メイと一緒に、件の喫茶店に来た。とてもシックで、落ち着いた雰囲気のお店だった。


「いい雰囲気だね。でもお客さんは、居ないんだね……」


 メイは悲し気に、「そうなんだよね~」と返してくる。


「おっ。メイの友達か? いらっしゃい」


(えええええ!! お兄さんは!?)

 バックヤードから出て来たのは、とても堅気の人間とは思えない、強面の男だった。


「お兄ちゃん。紹介するね、ミウさんだよ」


(やっぱりお兄さんなんだ……)

「初めまして、平野ミウです。メイにはアドバイザーとしてお世話になったんですけど、今はプライベートでも仲良くさせてもらってます」


「どうも。メイの兄の、誠です」

(声も渋くて、より怖い感じになってるなこの人)


「あ~。俺さ、こんなだから良く勘違いされるんだけど、ただの一般人だからな?」


 わたしの顔が強張っていたのか、怖がっていると思われたようで、気を使ってくれた。

(意外と、優しい人?)


「そうなんだよ~、お兄ちゃんこんなだから昔から怖がられてさ~。話せば優しいって、分かるんだけどね~」


 わたしは、ハッとした。この人も、見た目で苦労してきたんだと気づいた。そう思ったら、急に親近感が湧いてきた。


「見た目で判断されるって、辛いですよね……」


「お? 分かってくれるかい? 君は、いい子だね」


 お兄さんは、うんうんと頷いている。


「ミウちゃんも苦労してるもんね~。いつもイケメン、イケメンって」


「そうなのか?」


「そうだよ~、甘いものとか可愛い物が好きな女の子なのにね!」

(メイ、ありがとう。そう言ってくれる君だから、仲良くしたいと思えるよ)


「そうだ。お兄ちゃん、甘いものないの?」


「あ~。今ちょうど、クリームとかアイスは切らしてるな。ココアでいいか?」


 ココアは割と好きだ。


「はい」「いいよ!」


「ちょっと待ってろ」


 お兄さんがココアを淹れてくれていると、甘い濃厚な匂いがしてくる。


「どうぞ」


「ありがとうございます」「いただきま~す」


 口に含むと、ココアのほど良い甘みが口の中に広がる。


「美味しいです」「うん、本当。味は、いいんだけどね~」


 この兄妹の雰囲気やココアの味で、わたしはメイのお願いに、付き合ってもいいかなと思ったのだ。



 ココアを頂きながら、わたしはこの店に来たきっかけを、思い出す。

(やっぱり、店長のココアは美味しい。これで姫役も出来たら、最高なんだけどな……)

 今月のレンの”持ち込み企画”、『異世界料理対決』は大成功だった。それもあって、来月の企画は『ドワーフ王国』になった。店長の赤ワイン煮やレンのナポリタンを、来月も継続させるために決まった感じだった。

(確かに美味しかったなあ。あれ? ”持ち込み企画”?)


 ――わたしは、わたしが”姫役”をするための勝利の方程式を閃いた。


「っ! 店長! ごちそうさまでした! わたし、帰ります!」


「お!? 急に元気になったな? ココア、うまかったか?」


「はい! それはもちろん!」


 わたしは大慌てで帰宅して、明日提出できるように企画書を作成するのだった。



 そして翌日――


「店長、メイ。今日の終業後に、みんなで会議をする時間を作って下さい!」


 一晩で作成した企画書を手に、二人にお願いをした。



☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆


 ミウに頼まれた俺は、終業後にみんなに残ってもらった。


「それでは、緊急企画会議を行います!」


「あれ? 昨日”ドワーフ”って決まりましたよね?」

 ナポリタンを出したい、あるいは食べたいレンが、不安そうな反応をする。


「ごめん、違うんだ。来月ではなくて、再来月の企画をわたしが提出したんだ」

 

 ミウが説明する。

 そう、ミウは再来月の企画を提出してきた。内容を見たが、確かに準備が数日では間に合いそうもない企画だった。

(企画書を持ってきた時のあの目は、強い意志を感じる目だった……)

 俺は、ミウの本気を感じて覚悟をしていた。メイを見て目が合うと、頷いてきた。メイも、同じ気持ちのようだ。


「ミウさんが言うように、今回はミウさんの持ち込み企画です。だからミウさん、説明をお願い」


「みんな、時間を作ってくれてありがとう。わたしは、どうしてもやりたい企画があって、今回は提案させてもらったんだ」


 みんなを見て、ミウが言う。

「わたしの提案する企画は、『パラレル異世界姫パーティー』。様々な世界の姫たちが、一つの異世界に集まってしまったという設定だよ」


「おもしろそう〜」とリオ。「いいですね」とレン。「わたくしは、かぐや姫ね」とサエ。

(いやなんでサエは、もう”かぐや姫”って決まってたの? 今企画を、聞いたばかりだよね!?)


「じゃあ、みんな賛成で良いのかい?」


「でもミウちゃんは、王子なんでしょ~?」「ミウさんの王子は、鉄板ですもんね? ハーレムですよぉ」「…………」


「え、いや……」


 ミウは絶望的な顔をして、うつむいてしまう。

 まるで、これが“いつものノリでしょ”といった雰囲気……。

(分かるよ、そうだよな。いつもの関係、いつもの立ち位置、いつもの落ちってな。だけど、今回は違うんだよ)


「いいや。この企画は、全員を”姫”にする。…………もちろん”俺”もだ!」


「「「「ええええええ!!!!」」」」


(いやいやいや、ミウよ。なぜにお前も驚く方に回るの? 俺だって傷つくよ?)


「お兄ちゃんの言う通り、全員”姫”で行くわ。その方が、面白いからね!」


 ミウはハッとした後に俺たちを見て、涙目になっている。

「……ありがとう、ございます」


「了解だよ~。みんな姫だけど、衣装とかは?」


「それだよリオ。だから今日、集まってもらったんだ。どんな姫か考えて、衣装を準備する時間が必要だろう。だから、早めに会議を開いてもらったんだ」


「なるほどですぅ」「何姫にしようかな~」「わたくしは、直ぐに用意できます」

(サエは、十二単持ってるの!?) 


「そういうことで、再来月は『パラレル異世界姫パーティー』に決定! 進捗とか確かめないと危うそうだから、来月は何回か会議を開くから、そのつもりで!」


 緊急会議が終わり、みんなが帰った後にミウがやってきた。  


「……その。店長、メイ。今日は本当にありがとう。わたしのために無理聞いてくれて」


「お前が姫役したいの知ってたしな。いつか、後押ししてやろうとは思ってたんだよ」


「いつもは売り上げ的にNOだけど。今日のミウさんは、自分で企画を持ってきたからね。私は持ち込み企画は大事にしたいと思ってるんだ!」


 ミウは俺たち兄妹に、何度も「ありがとう」と感謝をしてくれていた……。



 時間は経ち、二回目の会議――


「では! 第二回『パラレル異世界姫パーティー』企画会議を開始します!」


「はい!」


「はい、レンちゃん!」


「あたしは、腹ペコ星から来た『腹ペコ姫』にしたので、ナポリタン下さい!」


「我慢なさい!」


「やだ~~!!」


「まあな。今日忙しくて、昼をまともに食えなかったしな」


「やった~~」「すぐに、甘やかすんだから!」


 俺はレンに、”レン風のナポリタン”を作った。


「あたしのナポリタンも店長に作ってもらうとぉ、もっと美味しくなって不思議ぃ」


 鉄板のジュウジュウという音が食欲をそそる。みんな食べたそうだったので、全員分を作った。


「じゃあ、みんな食べたら再開です!」


 みんなで食べていると、それぞれ感想を言う。


「やっぱり最高ぉ~」「お兄ちゃん美味しいよ!」「美味ね……」「デリシャスっ」


「なんか~。レンちゃんと店長の、初めての共同作業みたいな料理だね~」


 リオの一言に、みんなの手が止まる。


 静寂…………。

 その中で、リオだけがウマウマと食べていた。


「……それでは、会議を再開します」

 ちょっと微妙な雰囲気の中、会議は再開した。


「レンちゃんの『腹ペコ姫』ってどんなキャラ?」


「……はっ! あたし!? あ~、腹ペコ姫ね。仕事中にお客さんと、一緒に食べれないかなって考えたキャラで……、あ! ちがくて!」

(考え事をしていて急に話を振られたから、慌てて本当のことを言っちゃった的な反応だな)


「ハァ。いいわよ、そのままで。たぶん需要あるから」


「え? そう?」

(本当だ。実際に、レンと一緒に食べたいと懇願するお客様は結構いる)


「衣装は進んでるの?」


「ちゃんと食べても平気な衣装を作成中だよぉ!」

(こいつ、ガチやん……)


「リオちゃんは決まったの?」


「もちろんっ! 私は『魔王軍の姫』だよ!」


「詳しく」


「え~とね。魔王の娘で〜、”超ナイスボディ”な、サキュバス設定だね~」


「リオちゃんにだけは、無理じゃない?」


「ひどいっ!」


 メイはリオを、上から下まで見る。


「無理ね」


「メイちゃんの、ひとでなし~~!!」


 リオは、走って出て行ってしまった。

(……そのうち戻るだろう)


「しょうがないからリオちゃんの”魔王の娘で姫”って設定だけ採用して、調整しましょ」


(リオ。ドンマイ!)

 俺は心でエールを送った。


「サエちゃんは、かぐや姫だっけ? 詳しく教えて」


「ええ。占星術を生業にする、『月の民の姫』。わたくしは、伝承の世界から来たという設定ですね」


「サエちゃんはまんまよね、いつも……」「似合ってるね」「いいと思うよぉ」


「ありがとうございます」

(サエよ、メイは褒めているわけじゃないと思うぞ……)


「ハア。次は私ね。私は『猫獣人族の姫』! 黒猫族で、私の黒髪にそのまま黒猫耳を足して、コンタクトを金色のカラコンにして~」


「了解だメイ。よく解ったから。長くなるだろ、その話?」


「ぶ~! 自分的に可愛さがMAXキャラと思えたのを作れたから、説明したいのに~」

(今回のコスは気合が入ってるようだ。まあ、楽しそうでなによりだな)


「設定としては、獣人の国から来た一部族の姫だね!」


「いいね。メイっぽいよ」「黒猫メイちゃん可愛いと思う!」「大いに、賛成です」「いいと思う!」

(いつの間にかリオは戻って来て、参加してるし)


「ありがと!」


「わたしの番だね。わたしは王道。”ファンタジー世界の王国の姫”にするよ」


「普通の?」「普通のぉ?」「普通なの?」「基本の?」


「そう。わたしが姫をする時点で、サプライズでしょ?」

 ミウはみんなに、イケメンウインクをする。


「「「確かに!!」」」


「そういうわけで、わたしは『王道の姫』をするつもりだよ」


「いいと思うわ。みんないいよね?」


「いいと思う」「納得したわ!」「運命ね……」


「じゃあ、みんな今の案で決定ね! それぞれ用意を、進めて行きましょ!」

 メイが、会議を締めようとすると。


「はい! は~い!」


「はい! リオちゃん!」


「店長は~?」


 全員が、ハッとして俺を見る。チッ、気づかれたか。


「……決まっては、いる。……用意も、……できてはいる」


「「「「おお~~」」」」


「それでお兄ちゃんは、何をするの? 私聞いてない!」


「…………スケバン」俺はボソッと言う。


「え? なんて?」


「……だから、スケバン」再びボソッと言う。


「え? 聞こえない!」


「だ~か~ら! スケバンだよ! スケバン! “不良の国“からやってきた、『スケバン姫』!!」


「「「「…………」」」」


(あれ? リアクションがない?)


 メイが、手を挙げる。

「お兄ちゃん。”スケバン”って何?」


(ジェネレーション・ギャップううう!!!!)


 

 そして準備も間に合い、

『パラレル異世界姫パーティー』が始まった――


「レンちゃん! A卓が、一口どうぞだって!」


「喜んでぇ~」

 レンがマイフォークを持って、A卓へ向かう。

 レンの『腹ペコ姫』は、深紅のエレガント・エンパイアって恰好だそうだ。


「色を深紅にしたことで、ナポリタンが飛んで付いても目立ちませんよぉ。それに、エンパイアドレスはお腹がポコッとなっても目立たないんですぅ~」

 

 そんな説明をされた。……あいつはガチだ。

 そんな食べて平気か?と心配した時も、「なんか全部胸に栄養が行くみたいで、太らないんですよぉ」と言っていた。……確かにと、納得してしまった。


 困った点があるとすれば……。

 “お客様が“追加料金を、置いていこうとするのだ。一口食べたれているのに。 

 払う事を懇願するお客様が居たが、丁寧に断らせて頂いた。


「リオちゃん、B卓のお客様お願い!」


「はい! は~い!」

 

 リオは結局、サキュバス魔王になっていた。

 黒と赤を基調にしたセクシーミニスカワンピ、角カチューシャ、羽根つきコルセット、黒のガーターストッキング。店的にアウトなのだが……。

(なんで、リオはセーフに見えるんだろうか……)


「あんたたち、また来たの~? 暇なの~?」


 ツインテール小悪魔?が、ちょっと失礼な接客をしている……。

 注意したいが、お客様に「そのままでお願いします」と、懇願されることが多い。

 どうやら一部のお客様に、とても好かれているようだった。


「メイちゃん! チェキだって~」

「は~い!」


 メイも黒猫耳のカチューシャをして、紫を基調とした、可愛いロリータドレスを着ていた。

「はい! ニャンニャン!」

 大きな猫の手グローブで、ポーズをしてチェキしていた。

(あのグローブで接客ができる不思議……)

 ちなみにお客様から要望があった、語尾を”にゃん”にする案は却下された。

(チェキる時だけニャンニャン言うせいか、チェキがすごく多い。まさかメイはそれを狙ったのか?)


「サエ様、今日も占いをお願いします」


 サエは十二単だから動くことも難しいので、店の一部をサエスペースにしていた。お客様がサエの元に行くスタイルだ。

(いつもと、変わらないな) 

 サエは、サエだった……。


「店長~。お会計ですぅ~」


「おう」

 俺は、昭和のスケバンスタイルだ。金髪ロングパーマのウィッグ、サングラス、バッテンを書いたマスク、丈の長いロングスカートにセーラ服。そして釘バットを持つ。


「っ!うおぉ」「ひぃっ!」「怖っ!」

 反応は上々だ。みんなからは、笑われたがな。


 そして、この企画の主役は――


「ようこそ、異世界カフェへ」

 綺麗なカーテシーで、お客様を出迎える。


「わぁ……」「きれ~い」「可愛い……」「ほわぁ~」「……ポッ」

 男女問わずミウの姿に驚き、感動していた。


 金髪ロングをウエーブさせて編み込みをしたウィッグを着け、フリルのたくさんついたピンクのプリンセス・ドレス。綺麗な装飾のティアラや首飾り。

 正に、王道の”姫”だった。

(さすがミウだ。”姫”の格好になれば、誰よりも姫役をしてるじゃねーか)

 所作の一つ一つが、とても綺麗で。

 姫らしく、笑顔が可愛くて。

 いつもの”イケメン”ではないミウが、そこには居た。

 お客様の反応も良かった。


「ミウ様の新しい一面が、見れました!」「ミウちゃん、可愛い方も行けたのね」「ミウさんの、受けも描けそう~」

 最後のは、どうかと思うが……。


 そんなわけで、今月は大繁盛だった。



☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆


 わたし、平野ミウにとって、特別だった時間。

『パラレル異世界姫パーティー』の、最終日が終わってしまった。

(もう、終わっちゃったのか……)


 わたしは名残惜しくて、まだ着替えずに店の中に残っていた。


「ミウさん、まだ着替えてなかったんですか?店長が今月売り上げ良かったから、打ち上げ行って来いって、お金くれたそうですよぉ~」

「そうだよ~! ミウちゃんも早く行こう!」

「皆で参りましょう」

「ミウさんも行こ!」


「店長も来てくれて、いいのになぁ~」

「何言ってんのよレンちゃん。お兄ちゃんなしの、女子会の方が楽しいって!」

「ええ~~」


「みんな、先に行っててくれないか。わたしはもう少しだけ、余韻に浸りたい気分なんだ……」

「企画終わったら、すぐにイケメ~ン!」

「こら! リオちゃん! からかわないで!」


 メイがわたしを見て、

「……あとで、来てくれる?」

「もちろん」

「了解。店決まったら、メッセ送るね」

「ありがと、メイ」


 みんなは先に、ワイワイと行ってしまった。 


(本当に、楽しかったなぁ……)



 わたしが余韻に浸っていると、店長がやって来た。


「あれ? ミウ一人か?」

「みんなは先に行きましたよ。わたしも後から、合流します」


「ん? そうか……」

「……はい」


 奥に戻った店長が、しばらくして戻って来た。


「ほらよ」

「フフ。ありがとうございます」


 いつものココアを、手渡してくれる。

(あたたかい。……甘くて、美味しい)

 チビチビと飲んでいると。


「どうだった? 自分の企画やれて」

「とっても。とっても楽しかったです。終わりたくないくらい……」


(やっと出来た、”女役”。明日からまた、”男役”かあ……)


 昔から期待されていたわたしは、”男役”だった。

 今月のわたしは、特別な時間をもらえただけ……。


「良かったな。やりたがってたもんな、”姫”」

「”姫”というか、”女役”ですかね?」


 わたしはココアをテーブルに置き、立ち上がって、くるりと一回りしてカーテシーをする。わたしは身長175㎝で高い方だけど、店長は185㎝でもっと大きいため、上目遣いの形になってしまう。


「フフ。可愛いでしょ?」

「お、おぉ……」

 店長は照れてるようで、可愛かった。


 わたしはうつむき、

「でも……、可愛い時間は、今日でおしまいです」


 言葉にすると、胸が苦しくなった。

(嫌だな……。可愛いままで、いたいなぁ)


「なんでだ?」


 わたしは、ちょっとデリカシーのない言葉だなと思った。


「なんでって! わたしですよ? みんなからイケメンって言われてる、わたしですよ!?」

 イラっとしたので、語気が強くなってしまう。


「普段のわたしは、可愛いが似合わない。カッコイイが似合う人間なんだから!」

(なんで店長に当たってるのよ、わたし……)


「そうかな? 俺はココアを飲んでるミウを、いつも可愛いって思って見てたけど……」


「…………え?」

 

 わたしは店長の言葉で、急に恥ずかしくなって顔が火照ってきてしまった。

(なになになに? え? どういうこと? 普段のわたしも可愛い!? え? ええええええ!!)


「ミウは普段から甘いもの好きだし、可愛いもん好きだし、すごい”女の子”だろうが」


「ちょっ!」

(わたし女の子!? いつも可愛い!? 甘い匂いがする!? え? なんて言ってるの!?)


「誰がなんて言ったってさ、俺もメイもミウがちゃんと可愛いって知ってるんだぜ」


「っ!!!!」

(ミウみたいな可愛い子と結婚したい!? ミウって誰?? わたし~~~!?)


 わたしは、混乱の極みで目がグルグルしてきてしまった。頭から湯気が出ている気がする。

(店長! もう勘弁してくださ~~~~~~~い!!)


「……ミウ、大丈夫か?」


(大丈夫? じゃない~~~~!!)


 気持ちを落ち着かせるために一旦座り、ココアを飲んだ。

 

 店長を下から覗き込み、

「……わたしは可愛い?」


 店長は、また照れて横を向きながら、

「可愛いよ」


「ハハッ。可愛いかぁ」


(なんだ、そうか。わたしは自分で自分を…………縛っていたのかもしれないなぁ)

 

 わたしは、”イケメン”と言われて期待されることが多い。

 でも、だからって”可愛い”がないわけじゃないんだ。

 だって、わたしも”女の子”だもんね。


(…………本当に、”わたしたらし”な兄妹ですよね)


 わたしは、演じるのが好きだ。

 この場所でならわたしは……

 ”期待される役”だけじゃなくて、”自分がしたい役”も自由にできると

 そう思えた――



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ