涙と笑顔とナポリタン
あたしの名前は山田レン。
メイちゃんに『異世界カフェ』へ誘ってもらう前は、”食べてみた系の配信者”をしていました。
あたしは小さい時から食べるのが大好きで、おばあちゃんから「レンは本当に美味しそうに食べるね」と、よく言われていました。
”食べてみた系の配信者”を選んだきっかけは、学校の先生やクラスメイト、大学の同期の子たちにも「美味しそうに食べるね」と、言われ続けたことでした。
友達にはよくズルいと言われたけど、栄養が全部胸に行くので、太らないのも幸いでした。
配信を始めた時は鳴かず飛ばずだったけど……。
たまたまSNSアドバイザーをしていたメイちゃんと知り合い、アドバイスをもらって活かしていき、徐々に知名度も向上していきました。
そんなある日、ある企業さんにコラボを持ち掛けられたんです。
「うちの店の新作を、食レポしてくれませんか?」と。
タダで美味しいものが食べられて、コラボの報酬まで出るなんて神か! と、その時は思ったんです。
でも――
(……あまり、美味しくない?)
食べた時、正直そう思いました。
でも、企業側があたしに期待しているのはきっと、美味しいと食べるあたしで。
あたしは失礼のない程度に、笑顔で“美味しそうに“食べたと思います。
そう、“美味しそうに食べられて“しまったんです。
思いの外にウケてしまったのか……。
同じような案件が増えてしまいました。
不味いわけじゃない。美味しくないだけ。
でも、あたしにとっては天地ほどの差がありました。
そんな悩みを抱えて頭の中がグルグルしていた時に、久しぶりにメイちゃんが訪ねて来たんです。
「レンちゃん久しぶり〜。その後どう? 最近企業コラボで、引っ張りだこらしいじゃん?」
芸能人になるの?などとメイちゃんは言っていましたが、今のあたしにそんな気持ちの余裕はありませんでした。
いろいろと近況を話しているうちに、配信を始めた頃を思い出してしまって……。
「大丈夫? なんか顔色も良くないよ?」
「本当に美味しいものだけ食べたいよぉ」
あたしは自然と、そう呟いてしまいました。
メイちゃんは、泣きそうになっているあたしを見て、「ちょっと来て!」とあたしの手を引っ張って、強引に連れていきました。あたしは抵抗もする元気も出なくて、素直に着いていったんです。
しばらく歩いていくと、雑居ビルの中にある、シックな喫茶店に着きました。
「ここに座って待ってて」と席に座らせられ、メイちゃんは店の奥へ行き、何かギャーギャーとすごい勢いで言っていました。
(メイちゃんの知り合いのお店?)
しばらくボーっとしていると。とても懐かしくて、食欲をそそるような、香ばしいケチャップの匂いがしてきました。
(すごく美味しそうな匂い!!)
口の中によだれが溢れてきて、すごい期待と共に視線を向けると……。
店の奥からメイちゃんと一緒に、とても怖い顔の男の人が現れました。
(ヒィ! あたし売られるの!?)
さっきの食欲も引っ込み、恐怖に震え心臓がバクバクする中で、怖い人が近づいて来ました。
そして――
「……食べな」
あたしの目の前に”ナポリタン”を置いてくれました。
「お兄ちゃんのナポリタン、美味しいから食べてみて!」
(”お兄ちゃん”!?)
その事実にビックリしたけれど、それよりも強烈に良い匂いを出す目の前の”ナポリタン”に負けて、あたしはフォークを持った……、
一口、食べる。(っ!!!!)
程よい食感なモチモチの麺、その麺に絡まった甘酸っぱいケチャップ、香ばしく焼けたベーコン、少し焦げ目の付いた甘い玉ねぎ、その全てが、あたしの口の中で調和している――
あたしは気付いたら、泣きながら「美味しいよ、美味しいよ」と”ナポリタン”を頬張っていた……。
☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆
あたしは『異世界カフェ』で働き始めてから、ずっと考え・温めてきたこの企画を今日、メイちゃんに提出します。
(あの時の感動をみんなにも。ううん、たくさんの人たちに届けたい……)
そんな想いを胸に、企画書の入ったファイルを持って『異世界カフェ』に出勤しました。
あたしはメイちゃんに、今日の終業後にみんなで話がしたい旨を伝え、終業を待った。
そして……、
「みんな、レンちゃんから話があるって!」
「なんだい?」「なになに~?」「…………」
「みんなお願い! 来月の企画でどうしてもやりたいことがあるの!」
あたしはテーブルに、自分の企画書を置いた。
その表紙には、『異世界料理対決』と書いてある。
「レンちゃん、まだ月末じゃないけど……、何か理由があるんだね?」
メイちゃんはあたしの本気を、察してくれたようだった。
「はい。簡単に説明すると、各自で異世界風の料理を開発して、一か月掛けて人気ランキングする企画ですぅ」
「……面白そうね」「いいね、楽しそうじゃないか」「いいじゃん!」「その企画、ウケそうです」
良かった。大体みんな同意してくれた。
「それで、”今”企画を出した理由はなんだ?」
店長に指摘されると怖いです。顔が怖いです。
「はい。さっき言った通り、”各自”で料理を開発する時間を確保するためですぅ」
「料理の研究期間ってことか……」
「異世界風なので、自分が開発する料理に合わせた、コスをしてもらいますぅ。その種族の料理人って設定ですね」
「それも面白いわね。いいと思うわ、レンちゃん」
「ありがとう。メイちゃん」
「料理か~。わたしはあまり自信がないなぁ」
ミウさんは料理が苦手なんだ。でも頑張ってほしい。
「私も! 私も~」
リオちゃんはできないのに、何でそんなに自信満々なの?
「わたくしは問題ありません……」
サエさんはいつも落ち着いているなぁ。
「できない子は、私とお兄ちゃんでフォローするから、やってみよ!」
頼りになるよ、メイちゃん!
「まあ、了解だ」
店長は、嬉しそう?
「じゃあ、来月は『異世界料理対決』に決定! 各自、月末の会議までに形にしてくるよーに!」
良かった。企画が通った。絶対成功させよう!
☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆
「今回の企画は、珍しくレンの持ち込みか。持ち込みなんて初めてだったが……」
俺は、レンの企画書を見ながら彼女の表情を思い出す。
提案してきたレンの目は、店長の俺から見ても真剣だった。
(それほどに、この企画への思い入れがあるってことか……)
俺もメイも他のメンバーを補助しつつ、自分の料理を考えていった。
そして、月末の企画会議――
「みなさんお疲れ様です! それでは毎月恒例、来月の企画会議を始めます!」
(やはりレンの表情が真剣だ、いや、緊張してる?)
「今回は企画が『異世界料理対決』に決まってますので、さっそく料理の発表に移っていきましょう!」
料理に自信がない順になった。
一番手はリオ。
「私の料理は”カレー”! そして種族は”魔王”! 今回の料理名は”魔王暗黒カレー”!」
「「「「おおおお~」」」」
「俺が一緒に考えたんだ。ちゃんと食える」
「ちょっ! 店長、ひどくない!?」
「最初に”食べれない物”を煮込もうとしたやつに、言われたくないぞ?」
「ま、ま~ね。でも言い方~!」
店長、グッジョブ!というみんなの視線に、親指を立てて答えておく。
「いわゆる黒カレーに、ローストスパイスとカラメルを足した。普通の黒カレーより黒くなったと思う」
「それで”魔王”感を出すために〜、その上から”血の池”を作ります!」
「トマトソースを上から掛ける」
俺はみんなに、試食を出す。
「食べてみてくれ」
俺も一緒に食べる。うん、黒カレーの香ばしさにトマトの酸味が混ざってうまいな。
「「「「美味しい」」」」
「リオちゃん美味しいよコレ!」「見た目よりあっさりしていて良いね」「合格です」
レンも表情が綻び、
「うん。美味しいよリオちゃん」
「あったり前でしょ! 私が考えたんだからっ!」
リオはドヤ顔だった。(まったくな)
次の番はミウ。メイが手伝ってくれた。
「わたしは”プリンセス・パフェ”を提案させてもらうよ!」
メイを見ると、ヤレヤレポーズをしていた。
「でも衣装は、料理長スタイルだからね。王宮のイケメン宮廷料理人ね」
「……え?」
ミウは聞いてないよ?という顔をする。
「言ってないもの。でも考えれば分かることでしょ?」
ミウは、崩れ落ちた。
「そんな感じで、ミウさんと私で作ったのはパフェ。プリンセスだから桃を基調にしたわ」
冷蔵庫からパフェを持ってくる。
「生クリームも桃色にして、アイスも桃味、中のゼリーもピーチジュースをゼラチンで固めたの。プリンセスらしくキラキラさせたいから、固めた層と砕いた層を作ってキラキラ感を出したわ」
「「「「おおおお~~」」」」
「見た目も良いじゃないか」「めっちゃ可愛い!」「合格です」
レンも笑顔で、
「うん。可愛いし、美味しそう」
「……まあ、みんなに喜んでもらえて良かったよ」
ミウはギリギリの笑顔で、返していた。
三番手はサエだ。何が出るか、検討もつかない。
「わたくしは……コレですわ」
サエがテーブルに置いたのは、皿に乗った六つのたこ焼きだった。
「「「「…………」」」」
「名前は”占星術ボール”。異世界占い師が、今日の運勢を占う食べ物……」
「「「「…………」」」」
「一個だけ激辛だから、食べた人は今日は運が悪いわねと……」
((((ただのロシアンルーレット!!))))
みんなの心の声が聞こえた気がした。
「まあ、サエのキャラなら行ける?」「まあサエだし」「うんうん」
レンも困惑の表情のまま一個食べる。
「ん? 普通に美味しい」
「明石焼きみたいに、ダシにこだわってますから……、店長もどうぞ?」
「おう、ありがとう」
モグッ。
「があああああああああ!! なんじゃk ゴホゴホッ!!」
「辛さにも、こだわりました……」
(ふざけんなあああ!!)
四番手はメイ。
「私の題材は”異世界メイド”、空想上に居そうなメイドね。料理はこれよ!」
写真とかで見たことあるやつが出た。それ、金銭的に平気なのかメイよ?
「ジャーン! アフタヌーンティーセットです! やってみたかったのよね~」
「良いね。可愛いね」「めっちゃいいじゃん」「合格ね」
レンも、目をキラキラさせている。
「うんうん。憧れだよね~コレ!」
俺は資金面で心配だった……。
五番目は発案者のレンだ。
「あたしの料理は”鍛冶場の鉄板ナポリタン”。コスは”ドワーフ(女子)”です!」
厨房からレンが持ってきたのは、鉄板でジュウジュウと焼かれた熱々のナポリタンだった。
「みんなで味見、してくださいな」
小皿に取り分けて、一口。
(こいつはっ! うまいじゃねーか)
麺もモチモチでいい感じだし、玉ねぎやベーコンの火入れもいい。ケチャップやバターもよく絡んでいるし、鉄板で焼かれていてライブ感もいい。
「悔しいけど、こいつは美味しいよ。レン」
レンが今日一番の笑顔になる。
「ありがとうございますぅ! 店長っ!」
「いや、お兄ちゃんが褒めるのわかるよコレ」「デリシャス」「やばっ! これ、やばっ!」「……満点です」
みんなの反応も良好だった。
「良かったぁ。みんなに褒めてもらって安心したよぉ。何気に、不安だったんだからぁ」
レンが改めて「頑張るぞぉ~」と気合を入れている様子は微笑ましかった。
最後は俺の番だ。結構、気合入れました。
「俺の料理は”賢者の赤ワイン煮込み”だ」
「賢者?」「賢者?」「賢者?」「賢者?」「賢者(笑)?」
(時間差で突っ込むのそこっ!? しかも最後のやつは(笑)って!)
「賢者はコスの話だ。とりあえず味見してくれや」
俺は少量ずつ取り分けて、渡していく。
みんながフォークを入れるだけで、ホロホロと肉が崩れる。
「美味しい……」「これはこれは……」「うわぁ~」「…………」
レンも口に入れ、咀嚼して、飲み込む。
「すごく、美味しい。お肉がとても柔らかくて、口に入れた瞬間に赤ワインの芳醇な酸味が広がっていって、後からお肉の甘みが追いかけて来ました。とても気品のある味です」
みんなで驚く。
「「「「おおおお~~」」」」
俺は単純に感心して、「すごい上手な食レポだな」と言ってしまう。
レンはハッとして、ちょっと悲痛な表情の後に、笑顔で返してきた。
「……ありがとう、ございます」
企画会議が終わり、みんな帰宅した後に店内を片付けていると、メイが話しかけてきた。
「お兄ちゃん、あれは」「すまなかった!」
「お兄」「ちょっと気分、良くなっちまって。失言だったよな。あの時のレンの涙の理由を、メイから聴いてたのにな。すまなかった!」
「分かってるならいいよ。それに私に謝ったって、しょうがないでしょ?」
「ああ、分かってるよ。でも、レンに謝るのも違うよな……」
「そうね。これからの行動で挽回しようか、お兄ちゃん」
「そうだな。ありがとうな、メイ」
「べ、別に! お兄ちゃんのために言ってるんじゃないんだからね!」
そう言ってメイは、走って行ってしまった。どこのツンデレキャラなんだろうか?
☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆
事前告知をメイちゃんにしっかりとしてもらったので、あたしの企画『異世界料理対決』は大成功に終わりました。
今までで一番の来客数だったと店長は言ってましたが、支出も多かったようで、売り上げが最高だったとは言ってなかったです。世知辛いですね店長……。
今回のランキングは、アナログで行いました。入店時に投票用紙を渡して、帰りに回収するという形にしたんです。
そして、月末の結果発表日――
「今日もお疲れ様でした。今月の『異世界料理対決』のランキング結果が出たので、発表したいと思います!」
(今回の”鍛冶場の鉄板ナポリタン”は自信作だった。お客さんの反応も上々だったと思うし、店長やみんなもたくさん褒めてくれたしね!)
あたしはこの企画で、本当の美味しいをたくさんの人と共有したいって、その想いを全力でぶつけたつもり。
(ここで勝てれば、あたしは自分の本当の美味しいを届ける人間に、きっと……)
「ではっ!第一位から!」
(え!? 一位から!? ドキドキするなぁ……)
「「「「「…………」」」」」
「一位は~~~」
「「「「「…………」」」」」
「店長の”賢者の赤ワイン煮込み”でした!おめでと~お兄ちゃん~!」
パチパチパチパチパチ
「あ、ありがとな」と店長は照れていた。
(……まあ、店長のワイン煮込みは美味しかったもんね~)
ほんのちょっとだけ胸がズキッとしたが、あたしは素直に称賛する。
「では、続いて~、二位は~~」
(ううぅ。またドキドキしてきたよぉ~)
「サエちゃんの”占星術ボール”でした~。おめでと~」
パチパチパチパチパチ
「ありがとうございます。未来視の通りでしたね」とサエさんはドヤ顔だった。
(……確かに、グループのお客さんはみんな頼んでたもんなぁ。しょうがない、しょうがない)
また胸がズキッとしたが、アイデアで負けたかなと納得した。
「続いて~。三位っ!」
(今度こそ来ちゃうかなぁ? どうかなぁ~)
「ミウさんの”プリンセス・パフェ”でした~。おめでと~」
パチパチパチパチパチ
「ありがとう。可愛さこそ、正義ってことだね」と、ミウさんはイケメンスマイルで言った。
(…………ま、まあね。スイーツは人気だもんね)
デザートは別枠と、納得する。
「それでは、四位ですよ~」
(……………)
「リオちゃんの”魔王暗黒カレー”でした~!」
パチパチパチパチパチ
「当然の結果ねっ!」リオちゃんは、胸を張って言った。
(……………)
あたしは、まだ笑えているのかな……、大丈夫かな?
「残りはサクッと。五位はレンちゃん。私が最下位でした。みんな~、拍手は頂戴~」
メイちゃんは気を使ってか、おちゃらけた感じで締めてくれていたけど……。
パチパチパチパチパチ
「やっぱりみんなのに比べると私のアフタヌーンティは普通だったよね~、レンちゃん?」
ダメだ……、もう限界だよ。
「ご、ごめんねみんな、ちょっと出てくるっ!」
みんなが何か声を掛けてくれていたが、あたしは店の外へ走って出てしまった……。
ハアハアハア。店が入っている雑居ビルの屋上まで上がってきたあたしは、手すりに身体を預けて空を眺めていた。
(……上を向いてないと、涙が零れそう)
悔しくて、恥ずかしくて、いろんな気持ちがグチャグチャで、視界が滲んできてしまう……。
「何やってんのよ。あたし……」
企画は大成功だった。みんなで楽しく過ごせた。美味しいものを、たくさん提供できた。
いいことずくめな、日々だったじゃないか……。
だけど……
悔しい……
勝てると思ってた……
勝ちたかった……
(自信あったんだよぉ。みんな美味しいって言ってくれたのにぃ。だけど、負けちゃった……)
そう思うと、更に涙が溜まってきてしまう……。
「……もう、やだ……」
「何言ってんだよ、レン」
急に声を掛けられ驚いて見ると、店長が息を切らして汗だくになって立っていた。
「…………」
あたしは何も言えず、うつむいてしまう。
(下を向くと涙が落ちそうだから、向きたくないのに……)
「……悔しかったのか?」
(見ればわかるでしょっ!)
悔しさと悲しさが、だんだんと怒りの感情になってくる。
「……レンは今回、すごく本気だったもんな?」
(それを分かってて! 一位を取った店長が言うっ!?)
店長を睨みつける――
その時――
あたしの目の前に投票用紙の束が、突きつけられていた。
(っ! 何!?)
「いいからこれを見ろ! これは”お前を推してくれたお客様の声”だ」
――そこには。
『レンちゃんのナポリタンが一番うまい』
いつもの常連さんが、美味しそうに食べながら褒めてくれた。
『ナポリタンをシェアしました。二人で”これが一番”ってハモっちゃったよ』
カップルで来てたお客様が、二人して笑顔で褒めてくれたっけ。
『このクオリティなら、これ目的で来れる味だった』
食通さんっぽい人が、丁寧に褒めてくれた。
他にも、たくさん、たくさん……。
本当にたくさんのお客様が、”美味しい”って食べてくれていたことを思い出す。
あたしの目からは、自然と涙が零れ落ちていた。
「ちょっ! レン!? 大丈夫か?」
あたしが泣いたので、すごく慌てる店長。ざまーみろですよぉ。
涙は止まらない。
でも、さっきまで溜まっていた悔し涙じゃない。
たくさんのお客様を幸せに出来た、嬉し涙に変わっていた――
「えと、ちょっ、レン。そうだ!」
止まらない涙を止めようと、何か思いついたのか店長は……
「俺はレンの食レポする時のさ、あの美味しそうに食べる顔がさ、すごく可愛いと思っててさ、好きだぞ」
告白された!?
「え!?」
あたしはビックリして、瞬間的に顔が真っ赤になって、涙も止まってしまう。
あたしの反応で察した店長は、
「あ! ちがくて! あー、いや、食べる顔が可愛いくて好きって意味で! 違うんだぞ!」
顔を真っ赤にして、必死に言い訳をする店長が可笑しくて、
「ぷっ、くくっ、もう、何言ってんですか店長はぁ!」
あたしは店長をバンバンと叩きながら笑った。
「……やっぱり、笑顔が似合うよ、レンは」
その言葉に、想わず叩く手が止まり、赤面してしまった。
あたしは恥ずかしくなり、うつむいたままくるりと回って、歩き出す。
そして、振り返らずに、
「……ありがとうございます店長。順位じゃない大切なこと、ちゃんと思い出せました」
「そうか」
「あたし、みんなを幸せにできましたか?」
「前にも言ったが、俺もお前の料理が一番だと思ったよ」
あたしは振り返り、店長に笑顔で言う。
「じゃあ、あたしの勝ちですね!」
「そうだな」
「へへっ。ありがとうございますぅ」
たくさんの”美味しい”って言葉をもらった……
あたしの原点は、美味しいって気持ちを届けることだったと思い出せた。
(ああ。この店で店長やみんなに、会えたおかげだなぁ)
今のあたしならきっと、心からの笑顔で”美味しい”を、みんなに届けられるんじゃないかなぁ――




