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ようこそ!異世界カフェへ! ~迷える彼女たちの居場所探し~  作者: はひなひは


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2/7

涙と笑顔とナポリタン

 あたしの名前は山田レン。

 メイちゃんに『異世界カフェ』へ誘ってもらう前は、”食べてみた系の配信者”をしていました。

 あたしは小さい時から食べるのが大好きで、おばあちゃんから「レンは本当に美味しそうに食べるね」と、よく言われていました。

 ”食べてみた系の配信者”を選んだきっかけは、学校の先生やクラスメイト、大学の同期の子たちにも「美味しそうに食べるね」と、言われ続けたことでした。

 友達にはよくズルいと言われたけど、栄養が全部胸に行くので、太らないのも幸いでした。

 

 配信を始めた時は鳴かず飛ばずだったけど……。 

 たまたまSNSアドバイザーをしていたメイちゃんと知り合い、アドバイスをもらって活かしていき、徐々に知名度も向上していきました。


 そんなある日、ある企業さんにコラボを持ち掛けられたんです。

「うちの店の新作を、食レポしてくれませんか?」と。

 タダで美味しいものが食べられて、コラボの報酬まで出るなんて神か! と、その時は思ったんです。


 でも――

(……あまり、美味しくない?)

 食べた時、正直そう思いました。

 でも、企業側があたしに期待しているのはきっと、美味しいと食べるあたしで。

 あたしは失礼のない程度に、笑顔で“美味しそうに“食べたと思います。


 そう、“美味しそうに食べられて“しまったんです。

 

 思いの外にウケてしまったのか……。

 同じような案件が増えてしまいました。


 不味いわけじゃない。美味しくないだけ。

 でも、あたしにとっては天地ほどの差がありました。


 そんな悩みを抱えて頭の中がグルグルしていた時に、久しぶりにメイちゃんが訪ねて来たんです。


「レンちゃん久しぶり〜。その後どう? 最近企業コラボで、引っ張りだこらしいじゃん?」


 芸能人になるの?などとメイちゃんは言っていましたが、今のあたしにそんな気持ちの余裕はありませんでした。

 いろいろと近況を話しているうちに、配信を始めた頃を思い出してしまって……。


「大丈夫? なんか顔色も良くないよ?」


「本当に美味しいものだけ食べたいよぉ」

 あたしは自然と、そう呟いてしまいました。


 メイちゃんは、泣きそうになっているあたしを見て、「ちょっと来て!」とあたしの手を引っ張って、強引に連れていきました。あたしは抵抗もする元気も出なくて、素直に着いていったんです。

 しばらく歩いていくと、雑居ビルの中にある、シックな喫茶店に着きました。

「ここに座って待ってて」と席に座らせられ、メイちゃんは店の奥へ行き、何かギャーギャーとすごい勢いで言っていました。


(メイちゃんの知り合いのお店?)

 しばらくボーっとしていると。とても懐かしくて、食欲をそそるような、香ばしいケチャップの匂いがしてきました。

(すごく美味しそうな匂い!!)

 口の中によだれが溢れてきて、すごい期待と共に視線を向けると……。

 店の奥からメイちゃんと一緒に、とても怖い顔の男の人が現れました。

(ヒィ! あたし売られるの!?)

 さっきの食欲も引っ込み、恐怖に震え心臓がバクバクする中で、怖い人が近づいて来ました。


 そして――

「……食べな」

 あたしの目の前に”ナポリタン”を置いてくれました。


「お兄ちゃんのナポリタン、美味しいから食べてみて!」


(”お兄ちゃん”!?)


 その事実にビックリしたけれど、それよりも強烈に良い匂いを出す目の前の”ナポリタン”に負けて、あたしはフォークを持った……、


 一口、食べる。(っ!!!!)


 程よい食感なモチモチの麺、その麺に絡まった甘酸っぱいケチャップ、香ばしく焼けたベーコン、少し焦げ目の付いた甘い玉ねぎ、その全てが、あたしの口の中で調和している――


 あたしは気付いたら、泣きながら「美味しいよ、美味しいよ」と”ナポリタン”を頬張っていた……。



☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆


 あたしは『異世界カフェ』で働き始めてから、ずっと考え・温めてきたこの企画を今日、メイちゃんに提出します。

(あの時の感動をみんなにも。ううん、たくさんの人たちに届けたい……)

 そんな想いを胸に、企画書の入ったファイルを持って『異世界カフェ』に出勤しました。

 

 あたしはメイちゃんに、今日の終業後にみんなで話がしたい旨を伝え、終業を待った。


 そして……、


「みんな、レンちゃんから話があるって!」


「なんだい?」「なになに~?」「…………」


「みんなお願い! 来月の企画でどうしてもやりたいことがあるの!」


 あたしはテーブルに、自分の企画書を置いた。

 その表紙には、『異世界料理対決』と書いてある。


「レンちゃん、まだ月末じゃないけど……、何か理由があるんだね?」


 メイちゃんはあたしの本気を、察してくれたようだった。


「はい。簡単に説明すると、各自で異世界風の料理を開発して、一か月掛けて人気ランキングする企画ですぅ」


「……面白そうね」「いいね、楽しそうじゃないか」「いいじゃん!」「その企画、ウケそうです」

 

 良かった。大体みんな同意してくれた。


「それで、”今”企画を出した理由はなんだ?」


 店長に指摘されると怖いです。顔が怖いです。


「はい。さっき言った通り、”各自”で料理を開発する時間を確保するためですぅ」


「料理の研究期間ってことか……」


「異世界風なので、自分が開発する料理に合わせた、コスをしてもらいますぅ。その種族の料理人って設定ですね」


「それも面白いわね。いいと思うわ、レンちゃん」


「ありがとう。メイちゃん」


「料理か~。わたしはあまり自信がないなぁ」

 ミウさんは料理が苦手なんだ。でも頑張ってほしい。


「私も! 私も~」

 リオちゃんはできないのに、何でそんなに自信満々なの?


「わたくしは問題ありません……」

 サエさんはいつも落ち着いているなぁ。


「できない子は、私とお兄ちゃんでフォローするから、やってみよ!」

 頼りになるよ、メイちゃん!


「まあ、了解だ」

 店長は、嬉しそう?


「じゃあ、来月は『異世界料理対決』に決定! 各自、月末の会議までに形にしてくるよーに!」


 良かった。企画が通った。絶対成功させよう!



☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆


「今回の企画は、珍しくレンの持ち込みか。持ち込みなんて初めてだったが……」

 俺は、レンの企画書を見ながら彼女の表情を思い出す。

 提案してきたレンの目は、店長の俺から見ても真剣だった。

(それほどに、この企画への思い入れがあるってことか……)

 俺もメイも他のメンバーを補助しつつ、自分の料理を考えていった。

 


 そして、月末の企画会議――


「みなさんお疲れ様です! それでは毎月恒例、来月の企画会議を始めます!」


(やはりレンの表情が真剣だ、いや、緊張してる?)


「今回は企画が『異世界料理対決』に決まってますので、さっそく料理の発表に移っていきましょう!」


 料理に自信がない順になった。

 一番手はリオ。


「私の料理は”カレー”! そして種族は”魔王”! 今回の料理名は”魔王暗黒カレー”!」


「「「「おおおお~」」」」


「俺が一緒に考えたんだ。ちゃんと食える」


「ちょっ! 店長、ひどくない!?」


「最初に”食べれない物”を煮込もうとしたやつに、言われたくないぞ?」


「ま、ま~ね。でも言い方~!」


 店長、グッジョブ!というみんなの視線に、親指を立てて答えておく。


「いわゆる黒カレーに、ローストスパイスとカラメルを足した。普通の黒カレーより黒くなったと思う」


「それで”魔王”感を出すために〜、その上から”血の池”を作ります!」

「トマトソースを上から掛ける」


 俺はみんなに、試食を出す。

「食べてみてくれ」


 俺も一緒に食べる。うん、黒カレーの香ばしさにトマトの酸味が混ざってうまいな。


「「「「美味しい」」」」


「リオちゃん美味しいよコレ!」「見た目よりあっさりしていて良いね」「合格です」


 レンも表情が綻び、

「うん。美味しいよリオちゃん」


「あったり前でしょ! 私が考えたんだからっ!」

 リオはドヤ顔だった。(まったくな)


 次の番はミウ。メイが手伝ってくれた。


「わたしは”プリンセス・パフェ”を提案させてもらうよ!」


 メイを見ると、ヤレヤレポーズをしていた。

「でも衣装は、料理長スタイルだからね。王宮のイケメン宮廷料理人ね」


「……え?」

 ミウは聞いてないよ?という顔をする。


「言ってないもの。でも考えれば分かることでしょ?」


 ミウは、崩れ落ちた。


「そんな感じで、ミウさんと私で作ったのはパフェ。プリンセスだから桃を基調にしたわ」


 冷蔵庫からパフェを持ってくる。


「生クリームも桃色にして、アイスも桃味、中のゼリーもピーチジュースをゼラチンで固めたの。プリンセスらしくキラキラさせたいから、固めた層と砕いた層を作ってキラキラ感を出したわ」


「「「「おおおお~~」」」」


「見た目も良いじゃないか」「めっちゃ可愛い!」「合格です」


 レンも笑顔で、

「うん。可愛いし、美味しそう」


「……まあ、みんなに喜んでもらえて良かったよ」

 ミウはギリギリの笑顔で、返していた。


 三番手はサエだ。何が出るか、検討もつかない。


「わたくしは……コレですわ」

 サエがテーブルに置いたのは、皿に乗った六つのたこ焼きだった。


「「「「…………」」」」


「名前は”占星術ボール”。異世界占い師が、今日の運勢を占う食べ物……」


「「「「…………」」」」


「一個だけ激辛だから、食べた人は今日は運が悪いわねと……」


((((ただのロシアンルーレット!!))))

 みんなの心の声が聞こえた気がした。


「まあ、サエのキャラなら行ける?」「まあサエだし」「うんうん」


 レンも困惑の表情のまま一個食べる。

「ん? 普通に美味しい」


「明石焼きみたいに、ダシにこだわってますから……、店長もどうぞ?」


「おう、ありがとう」


 モグッ。

「があああああああああ!! なんじゃk ゴホゴホッ!!」


「辛さにも、こだわりました……」


(ふざけんなあああ!!)


 四番手はメイ。


「私の題材は”異世界メイド”、空想上に居そうなメイドね。料理はこれよ!」


 写真とかで見たことあるやつが出た。それ、金銭的に平気なのかメイよ?


「ジャーン! アフタヌーンティーセットです! やってみたかったのよね~」


「良いね。可愛いね」「めっちゃいいじゃん」「合格ね」


 レンも、目をキラキラさせている。

「うんうん。憧れだよね~コレ!」


 俺は資金面で心配だった……。


 五番目は発案者のレンだ。


「あたしの料理は”鍛冶場の鉄板ナポリタン”。コスは”ドワーフ(女子)”です!」


 厨房からレンが持ってきたのは、鉄板でジュウジュウと焼かれた熱々のナポリタンだった。

「みんなで味見、してくださいな」


 小皿に取り分けて、一口。

(こいつはっ! うまいじゃねーか)


 麺もモチモチでいい感じだし、玉ねぎやベーコンの火入れもいい。ケチャップやバターもよく絡んでいるし、鉄板で焼かれていてライブ感もいい。


「悔しいけど、こいつは美味しいよ。レン」


 レンが今日一番の笑顔になる。

「ありがとうございますぅ! 店長っ!」


「いや、お兄ちゃんが褒めるのわかるよコレ」「デリシャス」「やばっ! これ、やばっ!」「……満点です」


 みんなの反応も良好だった。


「良かったぁ。みんなに褒めてもらって安心したよぉ。何気に、不安だったんだからぁ」


 レンが改めて「頑張るぞぉ~」と気合を入れている様子は微笑ましかった。


 最後は俺の番だ。結構、気合入れました。


「俺の料理は”賢者の赤ワイン煮込み”だ」


「賢者?」「賢者?」「賢者?」「賢者?」「賢者(笑)?」


(時間差で突っ込むのそこっ!? しかも最後のやつは(笑)って!)


「賢者はコスの話だ。とりあえず味見してくれや」


 俺は少量ずつ取り分けて、渡していく。

 みんながフォークを入れるだけで、ホロホロと肉が崩れる。

 

「美味しい……」「これはこれは……」「うわぁ~」「…………」


 レンも口に入れ、咀嚼して、飲み込む。

「すごく、美味しい。お肉がとても柔らかくて、口に入れた瞬間に赤ワインの芳醇な酸味が広がっていって、後からお肉の甘みが追いかけて来ました。とても気品のある味です」


 みんなで驚く。


「「「「おおおお~~」」」」


 俺は単純に感心して、「すごい上手な食レポだな」と言ってしまう。


 レンはハッとして、ちょっと悲痛な表情の後に、笑顔で返してきた。

「……ありがとう、ございます」



 企画会議が終わり、みんな帰宅した後に店内を片付けていると、メイが話しかけてきた。


「お兄ちゃん、あれは」「すまなかった!」


「お兄」「ちょっと気分、良くなっちまって。失言だったよな。あの時のレンの涙の理由を、メイから聴いてたのにな。すまなかった!」


「分かってるならいいよ。それに私に謝ったって、しょうがないでしょ?」


「ああ、分かってるよ。でも、レンに謝るのも違うよな……」


「そうね。これからの行動で挽回しようか、お兄ちゃん」


「そうだな。ありがとうな、メイ」


「べ、別に! お兄ちゃんのために言ってるんじゃないんだからね!」


 そう言ってメイは、走って行ってしまった。どこのツンデレキャラなんだろうか?



☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆


 事前告知をメイちゃんにしっかりとしてもらったので、あたしの企画『異世界料理対決』は大成功に終わりました。

 今までで一番の来客数だったと店長は言ってましたが、支出も多かったようで、売り上げが最高だったとは言ってなかったです。世知辛いですね店長……。

 今回のランキングは、アナログで行いました。入店時に投票用紙を渡して、帰りに回収するという形にしたんです。


 そして、月末の結果発表日――


「今日もお疲れ様でした。今月の『異世界料理対決』のランキング結果が出たので、発表したいと思います!」


(今回の”鍛冶場の鉄板ナポリタン”は自信作だった。お客さんの反応も上々だったと思うし、店長やみんなもたくさん褒めてくれたしね!)


 あたしはこの企画で、本当の美味しいをたくさんの人と共有したいって、その想いを全力でぶつけたつもり。

(ここで勝てれば、あたしは自分の本当の美味しいを届ける人間に、きっと……)


「ではっ!第一位から!」

(え!? 一位から!? ドキドキするなぁ……)


「「「「「…………」」」」」


「一位は~~~」


「「「「「…………」」」」」


「店長の”賢者の赤ワイン煮込み”でした!おめでと~お兄ちゃん~!」

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「あ、ありがとな」と店長は照れていた。 


(……まあ、店長のワイン煮込みは美味しかったもんね~)

 ほんのちょっとだけ胸がズキッとしたが、あたしは素直に称賛する。


「では、続いて~、二位は~~」

(ううぅ。またドキドキしてきたよぉ~)


「サエちゃんの”占星術ボール”でした~。おめでと~」

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「ありがとうございます。未来視の通りでしたね」とサエさんはドヤ顔だった。


(……確かに、グループのお客さんはみんな頼んでたもんなぁ。しょうがない、しょうがない)

 また胸がズキッとしたが、アイデアで負けたかなと納得した。


「続いて~。三位っ!」

(今度こそ来ちゃうかなぁ? どうかなぁ~)


「ミウさんの”プリンセス・パフェ”でした~。おめでと~」

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「ありがとう。可愛さこそ、正義ってことだね」と、ミウさんはイケメンスマイルで言った。


(…………ま、まあね。スイーツは人気だもんね)

 デザートは別枠と、納得する。


「それでは、四位ですよ~」

(……………)


「リオちゃんの”魔王暗黒カレー”でした~!」

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「当然の結果ねっ!」リオちゃんは、胸を張って言った。


(……………)

 あたしは、まだ笑えているのかな……、大丈夫かな?


「残りはサクッと。五位はレンちゃん。私が最下位でした。みんな~、拍手は頂戴~」


 メイちゃんは気を使ってか、おちゃらけた感じで締めてくれていたけど……。

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「やっぱりみんなのに比べると私のアフタヌーンティは普通だったよね~、レンちゃん?」


 ダメだ……、もう限界だよ。

「ご、ごめんねみんな、ちょっと出てくるっ!」


 みんなが何か声を掛けてくれていたが、あたしは店の外へ走って出てしまった……。



 ハアハアハア。店が入っている雑居ビルの屋上まで上がってきたあたしは、手すりに身体を預けて空を眺めていた。

(……上を向いてないと、涙が零れそう)

 悔しくて、恥ずかしくて、いろんな気持ちがグチャグチャで、視界が滲んできてしまう……。


「何やってんのよ。あたし……」


 企画は大成功だった。みんなで楽しく過ごせた。美味しいものを、たくさん提供できた。

 いいことずくめな、日々だったじゃないか……。

 だけど……

 悔しい……

 勝てると思ってた……

 勝ちたかった……


(自信あったんだよぉ。みんな美味しいって言ってくれたのにぃ。だけど、負けちゃった……)


 そう思うと、更に涙が溜まってきてしまう……。


「……もう、やだ……」


「何言ってんだよ、レン」


 急に声を掛けられ驚いて見ると、店長が息を切らして汗だくになって立っていた。


「…………」

 あたしは何も言えず、うつむいてしまう。

(下を向くと涙が落ちそうだから、向きたくないのに……)


「……悔しかったのか?」


(見ればわかるでしょっ!)

 悔しさと悲しさが、だんだんと怒りの感情になってくる。


「……レンは今回、すごく本気だったもんな?」


(それを分かってて! 一位を取った店長が言うっ!?)

 店長を睨みつける――

 

 その時――

 あたしの目の前に投票用紙の束が、突きつけられていた。


(っ! 何!?)


「いいからこれを見ろ! これは”お前を推してくれたお客様の声”だ」


 ――そこには。


『レンちゃんのナポリタンが一番うまい』

 いつもの常連さんが、美味しそうに食べながら褒めてくれた。


『ナポリタンをシェアしました。二人で”これが一番”ってハモっちゃったよ』

 カップルで来てたお客様が、二人して笑顔で褒めてくれたっけ。


『このクオリティなら、これ目的で来れる味だった』

 食通さんっぽい人が、丁寧に褒めてくれた。


 他にも、たくさん、たくさん……。


 本当にたくさんのお客様が、”美味しい”って食べてくれていたことを思い出す。

 あたしの目からは、自然と涙が零れ落ちていた。


「ちょっ! レン!? 大丈夫か?」


 あたしが泣いたので、すごく慌てる店長。ざまーみろですよぉ。

 涙は止まらない。 

 でも、さっきまで溜まっていた悔し涙じゃない。

 たくさんのお客様を幸せに出来た、嬉し涙に変わっていた――


「えと、ちょっ、レン。そうだ!」

 止まらない涙を止めようと、何か思いついたのか店長は……


「俺はレンの食レポする時のさ、あの美味しそうに食べる顔がさ、すごく可愛いと思っててさ、好きだぞ」


 告白された!?


「え!?」


 あたしはビックリして、瞬間的に顔が真っ赤になって、涙も止まってしまう。

 あたしの反応で察した店長は、


「あ! ちがくて! あー、いや、食べる顔が可愛いくて好きって意味で! 違うんだぞ!」

 顔を真っ赤にして、必死に言い訳をする店長が可笑しくて、


「ぷっ、くくっ、もう、何言ってんですか店長はぁ!」

 あたしは店長をバンバンと叩きながら笑った。


「……やっぱり、笑顔が似合うよ、レンは」


 その言葉に、想わず叩く手が止まり、赤面してしまった。

 あたしは恥ずかしくなり、うつむいたままくるりと回って、歩き出す。

 そして、振り返らずに、


「……ありがとうございます店長。順位じゃない大切なこと、ちゃんと思い出せました」


「そうか」


「あたし、みんなを幸せにできましたか?」


「前にも言ったが、俺もお前の料理が一番だと思ったよ」


 あたしは振り返り、店長に笑顔で言う。


「じゃあ、あたしの勝ちですね!」


「そうだな」


「へへっ。ありがとうございますぅ」

 

 たくさんの”美味しい”って言葉をもらった……

 あたしの原点は、美味しいって気持ちを届けることだったと思い出せた。


(ああ。この店で店長やみんなに、会えたおかげだなぁ)


 今のあたしならきっと、心からの笑顔で”美味しい”を、みんなに届けられるんじゃないかなぁ――


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