ようこそ!異世界カフェへ!
俺の名前は堂本誠。
コーヒーが好きな俺は、都内某所で夢だった喫茶店を開店した。
しかし、現実は甘くなかった。落ち着いた雰囲気にうまいコーヒーだけでは客入りも少なく、赤字続きで経営は火の車だった。
(このままじゃ、来月の家賃で限界か……)
店のカウンターで突っ伏していた俺に、妹のメイが話しかけてきた。
「お兄ちゃん。諦める前に、私の企画をやってみない?」
そう言って、一枚の企画書を渡してきた。
妹のメイは、本当に俺と同じ遺伝子なのかと疑うくらいの美少女だったりする。サラ艶な黒髪ロングにつぶらな黒い瞳、まるで何かのヒロインみたいなビジュアルだ。
「いやいやいや、お前なぁ。現実は甘くないんだぞ」
ちなみに俺は、極道の人と間違われるくらいの強面だった。同じ黒髪でも天然のパンチパーマ、つり目の上に、眉間にシワを寄せるのが癖で、眼光が鋭くなってしまうのだ。
「まあまあまあ、とりあえず見てみてよ! 見るだけ!」
ウインクをして指差してくる姿は、まるでラノベのキャラクターみたいだ。
「見るだけだぞ。ちょっと今は、余裕がないからな」
そうぼやきつつも、メイの企画書を読んでみる。
「…………」「…………」
内容を見て驚いた俺は、メイを見て、
「本気?」
「マジマジ。ちなみに、知り合いの可愛い子を、四人押さえてあるよ」
「本気かよ……」
「あとは、お兄ちゃんの覚悟だけだよ!」
この時の俺は、まだ知らなかった。
メイの企画を通した先に、あんな波乱の毎日が待っているなんて――
そして、数か月後……。
経営は好転した。今では、連日にぎわうカフェになっている。
都内某所、雑居ビルの中にある、ちょっと変わったカフェ。
その扉を開けると――
「「「「「ようこそ!異世界カフェへ!」」」」」
個性的な美少女達が、”異世界”をイメージしたコンセプトカフェで、今日も元気に働いています。
☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆
俺の店『異世界カフェ』は、”異世界”をイメージしたコンセプトカフェだ。
“今月“のテーマは『エルフ』。
森をイメージした空間造り、緑を基調にした妖精のような衣装、エルフ耳のカチューシャ、エルフっぽいドリンク&フードメニュー。
うちの店は、毎月テーマを変えるという離れ業をやり、お客様が飽きない仕様にしている。月替わり戦略ってやつだ。
恐らくこれが、SNSでの拡散率の増加や、リピート率の増加に寄与しているのは疑いようがないと思っている。
しかし――
この前の『企画会議』を思い出し、ため息が出てしまう。
(身体が重い。動くのが辛い。まさかカフェの中で、〇〇〇になるなんて……)
――どうしてこうなった?
☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆
先月末に遡る――
毎月恒例の『企画会議』が始まった。
いつも会議は、チーフであるメイが司会・進行を行っている。
「みなさんお疲れ様です! それでは毎月恒例、来月のテーマは何にする? 会議を始めます!」
「はいっ!」
「はい、レンちゃん!」
「お腹が空きました!」
「我慢しなさい!」
「ぶぅ~」
(ほっぺを膨らまして、怒る子が実在してるううう!)
「はぁ~、しょうがないわね。お兄ちゃん、お願い」
「ナポリタンで良いか?」
「店長のナポリタン好きですぅ~」
茶色の瞳をキラキラさせながら、満面の笑顔になったこの子は『山田レン』。
元々は”食べてみた”系の配信者だった子だ。明るめの茶髪のゆるふわウェーブを躍らせながら俺のナポリタンを待っている。
「ほらよ」
俺の得意料理、ナポリタンを置く。喫茶店と言えばナポリタンという固定概念から、これだけは自信があった。
「ありがとうございますぅ~」
(美味しそうに食べてくれて、俺も嬉しいぜ)
「会議に戻るわ。というか始まってないわね」
(頑張れメイ)
「では、いつも通り来月のテーマから決めていきます!」
「いいかな?」手を挙げてスッと高身長の彼女が立ち上がる。
「はい!ミウさん!」
「わたしはお姫様が良いなと」「ダメです」
発言の途中でズバッと切られて、固まっているこの子は『平野ミウ』。
歌劇団で男役をしていたが辞め、その後に声だけの配信をしていた子だ。
「ミウさんは、女性受けが良いから”姫”とかダメです。それに異世界のコンセプトと違うでしょ!」
「そんな~」
落ち込み、うつむく姿もイケメンだった。
金髪ショートを掻き上げて、蒼い瞳が俺を捉える。
「店長は見たいですよね!? わたしの姫姿!」
(俺に振るんじゃない。メイの視線が怖いんだよ!)
「お兄ちゃん?」
「あ~。とても見てみたいが、今じゃないな!」
「っ! そうですか……」
(あぁ、落ち込んじゃったよ。いつか姫役を押してあげるから許してね)
俺は心で手を合わせた。
「他に意見はありますか?」
「はい! は~い!!」
「はい! リオちゃん!」
「私の方が年上なのに、なんでいつも”ちゃん”付け?」
桃色の瞳をうるうるさせて、桃色のロングツインテールを両手でいじりだした。
(あらら。あの様子はだいぶ気にしてるぞ?)
「私はチーフですから」(だってリオちゃん、ちっちゃいから!)
(本音を目で、語ってるううう!)
「そ、そうね。私たち、大人なビジネスパートナーだもんね。仕方ないよね!」
(気付かずに、大人な対応されたと喜んでいるううう!)
このちっちゃい子、ゲフンゲフン。この子は『佐久間リオ』。
元Vチューバーだ。合法ロリと、お客様が言っていたのを聞いたことがある……。
「それで、リオちゃんの意見は?」
「そう、そうよ! 私、思ったの。異世界といえば、お姫様じゃない!?」
(あ、ミウが復活して目を輝かせてる)
「チッ! 話を聞いてなかったの? リ・オ・ちゃん?」
「え? 舌打ちした? メイちゃん目が怖いんだけど、ゴメンて、怒らないで?」
(あぁ、もっと小さくなっちゃった。ミウの目も、また暗くなっちゃったよ)
「まずみんな、人の話を聞きましょう。サエちゃんは意見ない?」
「わたくし? わたくしは何にでもなれるし、何者にもなれないですから」
「え~と、つまり?」
サエは艶のある白髪ストレートミディアムをファサーっと掻き上げ、「お任せしますわ」と一言。
「…………」
(メイがちょっとイラっとしている)
この不思議な感じの子は『道枝サエ』。
すごい当たるって噂になった、元占い配信者だ。吸い込まれそうな赤眼で神秘的な雰囲気を出している子だ。
メイが連れて来た面々はみんな個性的だけど、メイも含めて、全員が超絶美少女だ。カフェが繁盛するもう一つの要因は、この子たちだろう。
「ハァ。じゃあみんな意見ないってことかな?」
レンがナポリタンを頬張りながら、手を挙げる。
ちょっと期待したメイが、レンを指す。
「お! レンちゃん何? 何かアイデア浮かんだ?」
モグモグゴックン。 「おかわりください!」
「もうっ! いい加減にしてーーーー!!」
☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆
ちょっとイライラを蓄積しすぎたメイを、別室で落ち着かせて会議室へ戻る。
レンはおかわりを食べ終わり、満足そうにしていた。
「悪いな、待たせた」「途中でごめんね」
「大丈夫です店長、メイちゃん」
ナポリタンをいっぱい食べたレンは、やる気に満ちていたようで、
「特に意見が出ないなら、今までで一番集客出来たテーマにしませんか?」
(レンがすごくマトモな意見を言っている……)
俺は素直に感心した。
「そうね、そうね。メイちゃん、何の企画が一番良かったの?」
(リオがノリで、すぐに乗っかった!)
「ちょっと待って下さいね。え~と、エルフですね」
「おお、エルフ。あれはみんな神秘的で可愛かったね。じゃあ、わたしは今回、精霊女王役にしよ」「ダメです」
(ミウがまた撃沈した〜!)
ミウが俺を見てくるが。俺はゴメンと手を合わせた。
「配役は、前回と一緒にします!」
前回『エルフ』でやった時は、メイとレンがエルフの民、ミウが精霊騎士でリオが精霊女王、サエは占い師だった。
(サエだけエルフ関係無い気がしたけど、受けてたなぁ)
「ちょっと待って! 私またあんな可愛らしい服を着るの嫌なんですけど! 騎士がやりたいわ! 騎士!」
(あ、ミウが嬉しそうにしてるけど。答えは分かるだろうに……)
「却下に決まってるでしょうが! 誰がリオちゃんが着た小さいサイズ着れるのよ? 逆もそう、ミウさんとじゃサイズが違い過ぎるでしょ? 衣装は値段が高いんだから、無理です!」
二人一緒に、うつむいてしまった。
(ドンマイ!)
「来月のテーマは『エルフ』。詳細を詰めていきましょう」
サエがホワイトボードに、スラスラと書いていく。
(えっ! いつから書記をやってたの!?)
俺はマジで驚いていた。
「ありがとうサエちゃん。衣装は良いし、内装や小道具も平気よね。あとは何かあるかしら?」
「ウィッグとかエルフ耳カチューシャもあるし。前と同じなら、何もいらない?」
「……同じテーマ。以前と変わらない。変化しないなんて、わたくしたちらしいのかしら?」
サエの一言に、全員がハッとなる。
俺はすかさず、
「あんまり金の余裕はねーぞ」
「分かってるよ、お兄ちゃん。でも、サエちゃんの言う通りだよ。私たちの強みは個性。そんな私たちが、前回と全部一緒なんて、あり得ない!」
俺以外が、うんうんと頷いている。
「じゃあ、どうするぅ? メニューにナポリタンを足す?」
「それはレンちゃんが食べたいだけでしょ! エルフにナポリタンは無いでしょ!」
「残念ですぅ。じゃあ金色のパスタで、エルフ髪パスタ!」
「そんなの食べたくないよ!?」
「だよねぇ。あたしも想像したけど、食レポ無理って思った」
(なら言うなやっ!)
「いっその事、みんなエルフの姫にす」「諦めなさい」
(どれだけ姫がしたいんだ、ミウよ)
「はい! はーい!」「今度は何!? 真面目にやって!!」
リオが涙目になる。
俺はメイの肩を、「落ち着け」と言って叩く。
「ごめん、リオちゃん。何? 言ってみて」
「うぅ。店長にも、コスさせたらどうかな?」
「「「「……………」」」」
「「「それだっ!!」」」
(それだ! じゃねーし!!)
☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆
そして冒頭へ戻り――
「店長〜、チェキ撮るから来て〜」 カシャ!
「店長〜、一緒に撮るよぉ」 カシャ!
「あそこで撮影すると……、明日運命の人に……会う確率が50%になる……」
(それは占いなのか? サエよ)
今月の『エルフ』企画で最もチェキに写ったのは俺だった。まあ誰か他のスタッフと一緒だが。
「お兄。店長〜、チェキるから来て〜」
俺はため息をついた後に、身体を持ち上げようと最大限の力を入れる。
(うおおおおお!!)
ギシギシと身体が悲鳴を上げるが、何とか立ち上がって、ズンズンと移動する。
周りのお客様も、おお〜と言って俺に注目する。
「店長!ナイスな“世界樹“だねっ!」
そう、俺は“世界樹“にされていた。
(どうして! こうなった〜〜!!)
俺は今日も『異世界カフェ』で立派な“世界樹“をしています――
これは、俺と彼女たちが、この『異世界カフェ』を自分たちの居場所だと、
そう思えるようになるまでの物語――




