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ラブ ストーリー 彼女の中の私の時間  作者: 穏世青藍


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3/4

インターローグ 後半

 ある朝、郷里から、おじいちゃんが老衰で亡くなったとの連絡が入った。

 年の割には取り立てて目立った病気もなく、前の晩まで夜ご飯もきちんと食べ、お酒も飲んで、至って健康そのものだったそうだ。

 大往生だった。

 おばあちゃんが、かなり、動揺しているらしい。

 だから、喪主は、お父さんになった。

 葬儀があるから、戻ってくるようにとの事だった。

 急いで、車で高速に乗った。

 制限速度マックスをキープしながら走らせた。

 新幹線の方が早かったけれども、地元に着いたら足がないと困るので、車にした。

 いつ、そうなってもおかしくはなかったので、覚悟はしてきたが、いざそうなると、結構ばたばたしていた。

 途中で、職場に連絡を入れた。

 彼女にはラインとメールで連絡を入れた。

 新聞屋さんにも、連絡を入れた。

 郷里にも、あと数時間位はかかると連絡を入れた。

 何故、新幹線にしなかったのかと、叱られた。

 車は、郷里にもあるから、それを使えばいいじゃないかと、言われた。

 嗚呼、それもそうだな…と、思った。

 やはり、冷静に判断が出来ていなかった様だった。

 私も、動揺していた。

 やはり、子供の頃から、ずっと側で支えてくれたおじいちゃんと、もう、お別れになることが、悲しくて泣いていた。

 おじいちゃんを心の底から愛していた。

 だから、もっと、何かしてあげられなかったかと、悔やんだ。

 そして、よくよく考えたら、会社と彼女には、おじいちゃんが危篤だと伝えてしまっていた事に気付いた。

 その時は、もう、既に、亡くなっていた。

 動揺って、こういうものなのかと思った。

 お昼ご飯を軽く食べながら、少し、緊張を解いていた。

 彼女から、連絡があった。

 大丈夫だから、気にしないで、お家のことに集中して欲しいと書いてあった。

 何時もは、幼いけれども、やはり、年の功もあって、こういう時には、しっかりした対応ができるのだと、安心した。

何かあった時に、落ち着いてくれていることが、一番、私は心が休まる。

 有難く、そうさせて頂くことにした。

 夜の電話は出来るのかどうか、分からないと返信した。

 申し訳ないと思ったが、それしか選択が出来なかった。

 私は、精神的余裕を、とても、欠いていた。

 勿論、余裕が出来るようならば、連絡を取りたいと思っていた。

 その後、会社と彼女には、その日の朝には、おじいちゃんが亡くなっていたと、訂正した。

 都合がつく限り、連絡を取り合った。

 葬儀は、とても、ハードスケジュールだった。

 代々、農家をやってきたから、そのつながりもあって、沢山の方々も、最後の別れの挨拶にいらしてくださった。

 ふと、私の時には、こんなに、沢山の方々に、別れの挨拶に来ていただけるのだろうかと、不安になった。

 やっぱり、おじいちゃんの、人徳もあってのことなのだと、思った。

 かなわないな。

 沢山の方々に来ていただけなくても、私の事を最後の別れをしたいと思ってくれる方がいらっしゃれば、それで、とても、幸せな人生なのだろうと思いながら、お経を聞いていた。

 無事、葬儀が終わり、直近の色々な手続きが終わったので、とりあえず、職場へ復帰することにした。

 数週間ぶりの職場で、沢山のお悔みの言葉を頂いた。

 それをお父さんに伝えた。

 全然、仕事は、溜まっていなかった。

 とても、驚いた。

 覚悟していたので、気が抜けてしまった。

 私の仕事は、誰がやっても、出来るのだなぁ…と、寂しくなった。

 まぁ…、そうでなくては、会社は回っていかないかと…、理解したけれども、やっぱりね…、切ない。

 会社は、ISOに入っているので、SOPで滞りなく、仕事は回ったらしい。

 やっぱり、何かあった時には、ISOは、必要なんだなぁ…と、しみじみ思った。

 職場に戻ったものの、実家でまだ色々な手続きが残っていたので、難しいということで、手伝いに頻繁に帰った。

 お父さんは、申し訳なさそうにしていた。

 私は、家族なんだから、別に、そこまで気を使わなくても良いのに…と、逆に、申し訳なかった。

 何か、実家を離れたことで、見えない壁が、あるのかもしれなかった。

 それを、私は、とても寂しく思った。

 なので、実家に帰った時には、なるべく、時間ギリギリまで、家族と話をして、間を埋めていく様に努めた。

 それからは、毎日、少しだけでも、電話で連絡を取って、お互いの事を話すようにした。  

 おばあちゃんも、お父さんも、お母さんも、毎日話をしていたら、何も話すことなんてなくなるよ…、と言って、笑っていた。

 当然、話すことがなくなって、沈黙することもままあったけれども、尊い暖かい空気を感じた。

 マザコン、ファザコンだと、思われても構わなかった。

 言いたい奴らには言わせておけばいい。

 大切な家族だ。

 私が守らなくては。

 大切なおじいちゃんを亡くして、色々と、思うことが増えたようだ。

 彼女との時間が限られてきたことを、肌で感じていた。

 実家へ帰ったある日、お父さんが、私の顔を見て、申し訳なさそうに、話があると言って、林檎畑までついてきてほしいと言った。

 畑を継いでほしいとおじいちゃんが言っていたから、戻ってきてほしいと、言うのだろうと思った。

 

 おじいちゃんが、お前に家も畑も継いでほしいと、常日頃から、言っていたよね。

 おじいちゃんは、老衰で亡くなったから、遺言はないけれども、これが、おじいちゃんの願いだということは、心に留めておいてほしいんだ。


 そう、淡々と、お父さんが話しだした。

 私は心を決めていたので、動揺しなかった。


 あの女性を…見てほしい…。


 お父さんが、私から目を反らして、林檎畑で、脚立に乗って作業をしている女性に手を向けた。

 私は、初め、意味がわからなかった。

 そして…、次の瞬間、私とお見合いをさせようとしていると、悟った。

 恐る恐る、驚いたの顔を見た。

 お父さんは、俯きながら、口を決まりが悪そうにもごもごしながら、ぽつりと、小さな声で言った。


 おじいちゃんが…、お前とあの女性との縁談話を、進めていたらしい…。

 おばあちゃんから、一昨日、聞いたばかりで、驚いたよ…。

 あの女性は何も言わないから、この話を、持ち出そうとはしないかもしれないけれども、放っておくのは…、それは、とても、失礼だよね。

 お前…、悪いんだが、一度、お見合いをしてみてはくれないだろうか…。

 お前には、とても…とても、悪いと思っている。

 でも、あの女性は、家で長年働いていてくれていて、おじいちゃんが見込んだ人なんだ。

 私も、あの女性なら、いいと思っているよ。

 考えてみてくれないか…。

 返事は、もう少し、待つから…。


 そう言って、私の方を、ばつが悪そうに、こちらを向いた。

 私は、何と言って、怒ったのかは分からない。

 忘れてしまった。

 彼女のことを思って、ぽろぽろぽろぽろと、涙を流した。

 お父さんは、私のその様子を見て、とても驚いていた。

 

 お前…、もしかして、いい人がいるのか…?


 静かに、優しい声で、尋ねてきた。

 私は、頷いた。


 そうか…。


 お父さんは、困っていたように見えたけれども、とても、喜んでいた。

 

 なら、その人を、お父さんに、紹介して欲しいんだ…。

 そうならば、あの女性には、丁重に謝るから、心配しなくてもいいんだよ。


 とても、嬉しさを抑えきれない声だった。

 私は、彼女とのことを話すことが、悲しくなった。

 私達は、未来に、家庭を持てる人が現れたら、別れることになっていたから。

 とても、とても、鼻水とともに泣いた。


 嗚呼…。

 嗚呼…。

 とうとう…、この日が来てしまったんだ…。

 もう、彼女と、お別れしなければいけなくなってしまったのだ…。

 彼女は、きっと、私から、離れていくだろう。

 この話をしてしまったら、終わってしまうだろう。

 彼女の笑顔に、もう、会えなくなってしまうのが、辛い。


 様子のおかしい私に気付いたのか、お父さんが、私の側に来て、私の手を取った。

 

 どうしたんだ…?

 何かあったのなら、言っていいんだよ。 

 お父さんは、何時でも、お前の見方だよ。

 …、どうした…?


 手続きで右往左往して、困りきったお父さんの声とは打って変わって違う、堂々とした深みのある優しい声だった。

 それにつられて、彼女とのことを、話しだした。

 お父さんは、とても、驚いていた。

 そりゃそうだろう。

 分かれることが前提でお付き合いをしてきたなんて、聞いたこともない。

 私は、彼女といて、この事がとても心に引っかかっていた。

 それならば、いっそ、深い関係にはならない。

 ただの、恋愛を楽しめばいい…。

 それで充分だ…。

 と…、思ってきた。

 でも…、彼女と一緒の時を過ごしてきて、彼女から離れられなくなっている私がいた。

 好きだ。

 大好きだ。

 愛している。

 愛おしい。

 本当に、そう思う。

 でも…、でも…、でも…、私に、将来を見る事の出来る人が現れた。

 彼女の望んだ事だ…。

 嗚呼…、これが、現実なんだ…。

 私達は、とうとう、この日が来てしまったんだ。

 …私は、彼女に何をしてあげただろうか…。

 もう少し、時間が欲しい。

 彼女を心から満たしてあげたい。

 そして…、そして、何よりも、彼女と一緒にいて、私の心を満たしたい。

 私の欲望が見えてきた。

 彼女を、全てを、愛したい。

 最初から、分かっていた筈じゃないか。

 お互いに時間がないことを。

 私は、私の事で精一杯で、彼女を心の底から受け止めてあげてはいなかったんだ。

 何で、今迄、私は、頑なだったんだろう…。

 何で、早く、抱いてあげなかったんだろう…。

 何で、何で、何で…。


 後悔の念が一気に吹き出してきて、声を上げて、肩で泣いた。

 林檎畑のパートさん達が、こちらに気付いて、顔を見合わせていた。

 お父さんが何でもないと、叫んだ。

 あの女性が、こちらを、じっと、見つめていた。

 何か、感づかれたのかもしれなかった。

 大人の対応で、何もないふりをしたかったけれども、心の底が激しく揺れていて、とても、無理だった。

 これでいいんだ…。

 もし、あの女性に嫌われてしまっても仕方がない。

 私は、彼女の事を、最後まで、大事にしたい。

 分かれても、友達でいたい。

 愛する友達でいたい。

 それが、私の、答えだ。

 それを受け入れてくれる女性を、これから、探していこう…。

 今回のあの女性とは、どうなるのか分からないけれども、おじいちゃんの願いだと思って、お見合いをしてみよう。

 何故、泣いていたのかと、いつか尋ねられたのならば、隠し立てしないで、きちんと、彼女とのことを、話そう。

 もし、それで、受け入れてもらえなかったら、諦めよう。

 無理強いはしない。

 確かに彼女の事は、あの女性は、苦しむ事になるだろう。

 だから、もう、伝えてしまおう。

 そして、考えてもらおう。

 彼女は、私に、家庭を持ってほしいと願っている。

 そして、私も、そう思う。

 だから、あの女性との未来には、誠実に、向き合っていくと、きちんと伝えよう。

 彼女は、私に、子供を持ってほしいと思っている。

 そして、私も、そう思う。

 だから、あの女性との子供には、きちんと、子育てを手伝っていくと、伝えよう。

 彼女は、私に、家を継いでほしいと思っている。

 そして、私も、そう思う。

 だから、あの女性との行末には、覚悟を決めて、この家を支えていくつもりだと、伝えよう。

 彼女が望んだ未来を、私は、叶えようと思う。

 そして、それは、私なりの、彼女への、最大級の愛の形だ。

 渡すことのない、影で捧げる、最大級のプロポーズだ。

 あの女性には、とても悪いと思っている。

 でも、これが、私だ。

 隠さずに話そう。

 私は、これ以上、追い詰められると、心の底が、潰れてしまう。

 もう、限界だ。

 薄々、感じてはいたけれども、私は、何時も、何故なのか、心の底に余裕がない。

 多分、何時も、精一杯、全力疾走しているのか、心の底に、ゆとりが無かった。

 でも、彼女と一緒にいる時は、とても、心の底が穏やかに安らいだ。

 とても、心地のよい、時間が流れた。

 だから、現実世界では、夫婦になれなくても、心の底は、繋がっていたい。

 私の心の底の時間は、ずっと、永遠に、彼女のものだ。

 私は、そうじゃなきゃ、心の底が、潰れてしまう。

 女々しいかもしれない。

 別に、いいんだ。

 だって、愛しているんだ。

 私に、愛を教えてくれたのは、彼女だけだった。

 これまでの、彼女達は、足元にも及ばない。

 とても、大事な、愛の形の全てだった。

 彼女は、私にとって、全てを与えてくれた人だった。

 彼女の行末を、とても、心配した。

 生涯、一人かもしれない。

 そんな事に、絶対、させたくない。

 だから、私は、彼女を任せられる人を、探そうと、心に決めた。

 時間がない。

 早く、職場に戻らなくては…。

 会社の中から、彼女を任せられる人を探す事は、前から決めていた。

 気持が焦った。

 もう、泣いてはいなかった。

 お父さんに、お見合いをすると、伝えた。

 お父さんは、無理をしなくてもいいんだよと、心配そうに言った。

 私は、暫くは、彼女との思い出を作りたいから、お見合いはもう少し待って欲しいと言った。

 そして…、あの女性の元へと向かった。

 そして、話があると言って、呼び寄せた。

 とても、迷った顔をしていた。

 他のパートさん達が、行くように言ってくれた。

 私は、頭を下げて、その女性と、林檎畑から離れた所に行った。

 とても、何かを、期待した光のある目をしていた。

 顔は、気まずそうにも見えるし、はにかんでいる様にも見えた。

 

 突然、すみません。

 おじいちゃんとの間で、縁談が持ち上がっていたことを、先程知りました。

 私は、縁談をしようと思っております。

 無理にとは申しません。

 おじいちゃんが他界したので、この話はなかったことにしてもいいのです。

 …、私は、いつか、家庭を持ちたいと思っております。

 そして、この家と畑を継ごうと思っております。

 私は、今の会社を、退職しようと思っております。

 この土地で、生涯を共に過ごしていただける女性を、探しておりました。

 もし、この考えに、お困りの所がございましたら、いつでもいいので、おっしゃって下さい。

 そして…、とても申し訳ないのですが、私には、現在、彼女がおります。

 正直に申しあげます。

 私は、一生、彼女の事を忘れることはないでしょう。

 彼女は、私と誰か相応しい女性との結婚を、とても望んでおります。

 彼女とは結婚できません。

 それは、彼女が私の事を心底思って、決断した結果です。

 彼女は、家庭に憧れています。

 私に、子供に恵まれた家庭を持つ事を、願っています。

 彼女は…、もう…、子供が産めません。

 それでも私は構わないと申したのですが、彼女は、私に子供に囲まれた幸せを、望んでいるのです。

 ですので、私達は、どちらかに将来を見ることが出来る人が現れたら、別れることにしております。

 でも…、時間を下さい。

 とても、即には、別れられません。

 お互いに慕っております。

 どのくらいかかるのかは分かりません。

 でも、必ず別れます。

 そして…、


 そう言って、言葉を飲んだ。

 女性の顔色がみるみる青土色になっていくのが分かった。

 とても、悲しそうな目をしていた。

 下を向いたり、横を向いたり、鼻水をティッシュで押さえたり、かんだり…、落ち着きがなかった。

 初めの様子とは打って変わって違っていた。

 それは、仕方ない。

 こんな話をされて、怒らない人は、まずいない。

 でも、彼女の事を隠して、この女性との縁談を進めてしまうのは、卑怯な気がした。

 だから、この女性には、打ち明けた。

 

 …どのくらい、待てばよろしいのでしょうか…。


 私は、驚いた。


 最低でも、半年は欲しいです…。


 ぽつりと呟いた。

 彼女とのカウントダウンが始まったんだ。

 悲しくて、涙が溢れてきた。

 林檎畑の景色が、モネの絵の様に、光を帯びていた。


 …私も、慕っている人がおります…。


 そう言うと、ばつが悪そうに、目を横にそらした。


 私は、はっとした。

 そうか、この女性にも、好きな人がいるんだな…、とショックを受けた。

 自分の事は棚に上げておいて、この女性には、好きな人がいる事を咎めている自分に呆れた。

 これから私の心の底で、彼女は1番目で、この女性は2番目になるだろう。

 1番目にしてあげられないのに、この女性の慕う誰かは私ではなければ嫌だと思わずにはいられなかった。

 酷い話だ。

 でも、我慢ならない。

 

 …あの方です…。


 その女性は、手を、林檎畑の中にいる、お父さんの姉の3番目の息子へ、向けた。

 …つまり、親戚だ。

 嗚呼…、しまった…、そう思った。

 どうすればいいのか、途方に暮れた。

 

 お付き合いをされているのですか…?


 恐る恐る尋ねた。


 お付き合いをしておりません…。

 それに、もう、ご家庭をお持ちの方です。

 お仕事で一緒に頑張ってきました。

 尊敬しております。

 お仕事に対する姿勢や、お仕事を離れた時の人となりを、とても、慕っております。

 縁談話があってからは、少し、距離を取ってまいりました。

 でも…、申しわけございません。

 心の整理がついておりません。

 私も、最低でも、半年は、時間を下さい。

 でも、私も、家庭を持つ事を願っております。

 子供も欲しいです。

 ですので、前向きに、検討させて頂たいです。

 宜しくお願い致します。

 

 その女性は、そう言って、頭を下げた。

 私も、つられて、頭を下げた。

 厳しい展開になりそうだ。

 お互いに思い人がいる。

 これが、私の乗り越えなければならない現実なのだ。

 その女性の事は、とても、責められない。

 お互い様のようだ。

 少し、気を張っていたが、気が楽になっている私がいた。

 彼女の事は、一歩も引かないつもりだったから、ある意味、これはこれで、良かったのかもしれない。

 その女性に、思っている人を忘れなくてもいいよ…と、言ってあげようと思ったけれども、本当にこれからそれでいいのかどうか分からなかったので、言葉を飲んだ。

 少しすつ、これからの未来を、描いていけばいい。

 少し、その女性に、興味を持った。

 正直な人だ。

 私には、それが、安心できる。

 見た目は…、彼女には申し訳ないが、彼女より上だ。

 服のセンスは、農作業服なので、よく分からないけれども、帽子やエプソンや手掛などから、悪くはなさそうだ。

 タイプかどうかは、姿形だけでは、分からない。

 どうしても、私は、性格も重視する。

 一緒にいて疲れない人がいい。

 何より、安心できる人が、一番いい。

 家庭を持つなら、素敵な家庭にしたい。

 この人となら、未来を描けると思える人がいい。

 …、その日に降って湧いた話なのに、もう、次から次へと、とめどなく未来を思い描き出した。

 

 半年後に、お見合いを致しましょう。

 お待ちしております。

 心の整理の時間はかかっても構いません。

 お互いに、慕っている人がいるようですので、一緒に、この先どうすればいいのか、折り合いをつけて、考えて頂ければ嬉しいです。

 後悔のない生き方をしたいと思っております。

 勿論、家庭を大切にしようと思っております。

 一緒に働いて、苦楽を共にしていきたいと思っております。

 お身体、お気を付けて下さい。

 また会いましょう。

 お元気で。

 さようなら。


 そう言って、その女性に頭を下げて、その場を立ち去った。

 お父さんは、心配そうに、ずっとこちらを見ていたらしい。

 私が近づくと、何か聞き出そうな顔をしながらも、何も言わずに、肩に手を置いた。

 そして、何も話さずに、無言で家まで歩いて帰った。

 私は、即に帰ろうと思った。

 おばあちゃんとお母さんは、泊まっていけばいいのにと、不満そうだった。

 お父さんは、私を駅の改札口まで送ると、気まずそうに、ぼそぼそと話しだした。

 

 林檎が…、これから収穫の時期を迎えるのは、知っているよね。

 本当に申し訳ない…。

 とても人手が必要なんだ…。

 おじいちゃんの抜けた穴は、とても大きいんだ。

 頼む…。

 手伝ってくれ…。

 仕事を…、仕事を…、辞めて、こっちへ戻ってきてくれ…。

 そして、畑を継いでほしいんだ…。

 

 初めて、お父さんが、私に畑を継いでほしいと言った。

 彼女との約束の時から、家も畑も継ぐつもりだったから、すんなり受け入れられた。

 安心させたかった。

 お父さんは、何か、苦しんでいる様に見えた。

 だから、即に、笑顔で、大丈夫だから、都合がついたら、戻ってくるよ、と、答えた。

 でも、お父さんの顔は、笑ってくれたけれども、複雑そうな雰囲気が見え隠れしていた。

 帰って、計画を立て始めた。

 そして、上司にも総務部にも退職の意向を伝えた。

 3ヶ月後に、退職する事になった。

 彼女には、正直に伝えた。

 私の実家の林檎が、これから収穫の時期を迎えるから、とても人手が必要で、おじいちゃんの抜けた穴を埋める為に、私が急遽戻る事になった、と伝えた。

 お見合いの話は、伏せておいた。

 私が、急に、離れていくことは、彼女には耐えられないだろう。

 少しずつ、頃合いを見計らって、話していこうと思った。

 これからの半年間を、大切に一緒に過ごそう思った。

 私と彼女とのカウントダウンは、始まってしまった。

 毎日、ただ、一緒にいたかった。

 でも、私はストレートに感情表現が苦手だったので、下を向いて話をしながら、刺し子をした。

 穏やかな時間に感じた。

 彼女を喜ばすために、スイーツに気を配った。

 たまに、手作りのスイーツも持っていった。

 太ってしまうけれども、嬉しそうに、食べてくれた。

 私は、その笑顔を見ると、とても心の底が満たされた。

 そして、色々とデートを重ねた。

 やはり、喧嘩もした。

 彼女と今迄お付き合いしてきた人達は、皆、車から降りる時には、助手席のドアを開けていたらしい。

 私は、それをした事はなかった。

 なので、それを彼女から質問された

 質問というか…、お、お、お、怒っている…。

 何故だ…。

 何故だ…。

 何故なんだ…。

 私が…、私が…、私が悪いのか?

 そんな話、聞いたこともない。

 まるで、イタリア映画だ。

 彼女は、夢の中にいるのか?

 始めに聞いた時、あまりにおかしくって、笑って、そんな事するのかと、驚いてしまった。

 私は、そこまでして、必死にならなくてもいいのにと言った。

 すると彼女は、必死ではなくて、自然と出来るのだよと言った。

 友達でも、きちんと、車の助手席のドアを開けてくれるとぷんぷんして言った。

 私は、頭の中がお花畑が咲いているのかと、いつも言いたかったけれども、そこは、ぐっとこらえて、やめた。

 好きになった女性だ。

 その思いも大切にしたい。

 でも、笑える…。

 私が、私が、私が…、ドアを開けるのが、全く想像できなかった。

 そんな事を、周りの人に見られたら、どんだけ冷やかされることか…。

 とても、耐えられない。

 だから、私はやらないと、必死に言い張った。

 彼女は、いつも、肩をがっくり落とした。

 そんな彼女も、可愛かった。

 畳み掛けるように、面倒臭いから、やらないと言った。

 もし、妊婦さんや身体の不自由な方や荷物を沢山持っている人ならば、やると言った。

 彼女は、懲りずに、しょっちゅう、その話をした。  

 だから、私は、面白そうに笑ってうけながしたので、彼女は、撃沈した。

 彼女は、車から降りる時には、助手席のドアを開けてくれるまで、待ってしまう癖があった。。

 私は、いつも、小馬鹿にしていた。

 そして、私のアパートで、デートを重ねた。

 いつも料理を一緒にした。

 沢山作って、お腹いっぱいに食べた。

 私は、彼女の食べきれなかった料理を、黙々と、食べた。 

 二人共、お酒は飲まなかった。

 私は、彼女を家まで送る為に、お酒を飲まなかった。

 そうした、小さな心遣いをする事が、彼女に愛情を注いでいる感じがして、楽しかった。

 そのかわり、紅茶や珈琲の、色々な種類を楽しんだ。

 前の彼女から教えてもらった知識を、ここぞとばかりに披露した。

 彼女が、楽しそうに聞いてくれることが、とても嬉しかった。

 側にいる機会が、増えていった。

 とても嬉しかったけれども、限られた時間があるということ事を、思い知らされて、いつも、切なくなった。

 彼女は、いつも、私の膝の上に頭を乗せて、横になり、ごろごろした。

 私は、いつも彼女の頭を撫でた…、でも、たまに、会話に出てきた内容を詳しく調べるために、スマートフォンを触っていた。

 分からないままで会話をし続けるのは、嫌だった。

 それに、分からないことを調べることは、とても楽しかった。

 世界が広がる。

 彼女特有の世界観を、楽しんだ。

 彼女は、私が頭を撫でる手を止めると、私の手を取り、頭を撫でさせた。

 私は、笑って、頭を撫でた。

 そして、私達は、深く結ばれた。

 そうすることに、私は、とても迷った。

 閉経していると言っていたとはいえ、それはかもしれないことかもしれなかったから、もし、妊娠させてしまったら…、と、考えた。

 別れなければならないのだから…、と思うと、とても、苦しかった。

 だから、慎重に、愛した。

 本当は、心の底から、本能に任せて愛したかったけれども、彼女の事を思うと、それは男として出来なかった。

 だから、何処か、理性的になってしまった。

 彼女は、いつも、何かを感じて、我慢しているようだった。

 明るく振る舞っていたけれども、悲しそうな目は隠せなかった。

 私は、彼女に、本当に、性欲が無いんだよと、言った。

 彼女は、それを、責めなかった。

 きっと、彼女には、屈辱的な事なのだろう。

 私だって、もし逆の立場だったなら、そう思う。

 苦しい思いをさせて、悔しかった。

 もし、あと、10年早かったら、後先考えずに、結婚しただろう。

 彼女の事が、大好きだから。

 それをするには、私達は、年を取りすぎた。

 暫くすると、上半期の決算月になった。

 すると、残業が重なり、私達は思いとは裏腹に、疲弊していった

 特に、彼女は、生産部の工程管理だったので、あちらこちらの部署や工場内を歩き回ったり、下請け業者やあちこちの部署や工場内との交渉をし続けていたので、とても疲弊していった。

 頭をフル回転させて頑張っていた。

 でも、とても、楽しいと言っていた。

 それもそうだろうなぁ。

 全てを見通して交渉するなんて、滅多にできるものではない。

 自分の持てる限界の才能を試すのには、うってつけの部署なんだろうなぁ。

 それに、生産部の上司にも同僚にも後輩にも恵まれていると、いつも言っていた。

 特に生産部の管理職は、人徳がなければつとまらないだろう。

 交渉するのに相手を不快な思いをさせてしまうような人では、まとまる話も拗れる│(こじれる)│。

 ただ人が良いだけは、舐められてしまう。

 こちらの要求もしっかりと出来なければならない。

 まるで、外交官だ。

 かっこいいなぁ…。

 本当は、何故か、私にも、引き抜きの声がかかっていた。

 大型プロジェクトを上手く乗り切ったことで、その手腕を認めてもらえたのだそうだ。

 でも、始めは、興味がなかった。

 きつい、汚れる、精神が疲弊する…、色々と囁かれていた│(ささやかれていた)│。

 だが、一緒にお仕事をするようになって、やりがいがあると、思った。

 少しでもいいから、やってみたかった。

 何処まで出来るのか分からないけれども、挑戦してみたかった。

 だから、彼女の事が、とても羨ましかった。

 でも、勿論、調達部のお仕事も、楽しかった。

 私はこんなにも仕事人間だとは思わなかった。

 お昼の休憩は、疲弊している彼女を休ませてあげたいと思った。

 だから、決算で疲れているからお昼は眠りたいと彼女に言った。

 私の我儘だと思わせたかった。

 彼女に気を遣わせたくはなかった。

 刺し子もせずに、机に伏せたまま、仮眠をとった。

 それとなく、お互いに、手を絡ませて、手を繋いだまま、眠った。

 とても、心が穏やかになった。

 夕食は、私のアパートで食べる事にした。

 少しでも、一緒に時間を作って、側にいる事にした。

 帰りは、私が車で送ると言ったが、私も疲弊しているから、ゆっくり休んで欲しいと言われて、私の申し出に感謝をして帰って行った。

 私は、疲れていても、送りたかった。

 彼女との時間がなくなっていく…。

 彼女が動揺しないように、まだ、言えなかった。

 感情が乱れて、仕事に支障が出てしまったら、申し訳ないと思った。

 彼女が誇りに思っている仕事を、きちんとやり遂げさせてあげたかった。

 私は、非難されるのを覚悟で、退職する日に、この事を言おうと思った。

 彼女の悲しみを受け止めようと、決めた。

 愛しているから。

 それが私の愛し方だった。

 いよいよ月末が近づくと、休日出勤もする様になった。

 彼女との休日のデートは、仕事帰りに私のアパートで、一緒にお鍋を突付く様になっていった。

 私は、その頃から、彼女をじっと見つめては、堪えきれない│(こらえきれない)│感情が沸き起こってしまいました、苦しくなって、全てを話してしまいたい衝動に駆られた。

 彼女は、何故か、私をきちんと見つめてくれなくなっていった。

 もしかしたら…。

 私が根回しした人が、動き出したのかもしれない…。

 これでいいんだ…。

 私は、彼女から離れていく。

 彼女は、ひとりぼっちになってしまう。

 それは、とても、やるせない。

 だから、上司に相談して、色々な方をそれとなく紹介してもらい、数名に絞って、彼女の条件に一番合いそうな一人に彼女との事を話た。

 かなり、渋っていた。

 もう、結婚は考えていないと言った。

 とても、頼み込んだ。

 この人しかいないと思った。

 その人は、品質保証部の人で、彼女より年上で、離婚して、子供がいるという。

 結婚は、もう、うんざりだと言っていた。

 彼女なら、素敵な家庭が出来ると、太鼓判を押した。

 まぁ…、会ったばかりの人に、太鼓判を押されているからって、信用するかどうかなんて、無理な話だ。

 私も、どうかしていた。

 彼女は、その人と、いい感じになっていて、将来を考えられるかもしれない人が現れたのかもしれないと思い、私の事を、迷い出したのかもしれないと思った。

 私が彼女の事を思って選んだ人だ。

 とても良い人に決まっている。

 彼女も、受け入れてほしい。

 彼女から、その人の話が出てこないのは、少しは気を持ってくれたのかもしれない。

 彼女から、お互いに、将来を見られる人が現れたら、別れる約束をしていたのに、やはり、気を遣って、言い出しにくいのかもしれない。

 本当は、とても、複雑な心境だ。

 好きな女性を、他の男に紹介するんだ。

 泣きそうだ。

 悔しい。

 ここは、冷静にならなくては。

 私は、ここから、我慢だ。

 仕方ないんだ。

 その時が来たんだ。

 彼女の為に、私が出来ることをしてあげよう。

 余計なお世話だろうが、彼女は、なかなか、その人にたどり着けないだろう。

 だから、いいんだ。

 非難を浴びても、これが、私の愛し方だ。

 仕事は、これで、終わるんだと思うと、悲しくなった。

 最後の最後まで、頑張ってみた。

 この会社での、私の私なりの集大成だった。

 それに、引き継ぎの人にも、充分に教え込んだ。

 始めは困ったちゃんだったが、教えていくうちに、どんどん吸収していってくれて、あっという間に、独り立ちしてくれた。

 質問も大分、少なくなった。

 見ていて、安心できる。

 私の役目は終わったらしい。

 そして、決算が、無事、終わった。

 帰りに、職場から、花束と餞別を頂いた。

 感謝の礼をして、帰った。

 総務部で、タイムカードやロッカーの鍵や制服…等を返却して、お礼を言って、帰ってきた。

 私のアパートで、二人でお疲れ様会をする事になった。

 私は彼女に、支度があるから、ゆっくり来てと言って、先に帰った。

 近所のスーパーで、すき焼きと杏仁豆腐の素を買った。

 彼女の好物だ。

 きっと、喜ぶだろうな。

 彼女の笑顔を思い浮かべて、にやにやした。

 私は、まだ、この年でも、青春真っ只中のようだ。

 帰ったら、部屋がとてつもなく汚く見えた。

 男の一人暮らしとはいえ、恥ずかしくなった。

 彼女には、こんな所を記憶に残して欲しくなかった。

 だから、急いで、片付けて、掃除をした。

 とても綺麗ではないが、足の踏み場は出来た。

 もう、時間がない。

 昨日の夜に、やっておけばよかった…、と、反省した。

 材料を切って、すき焼きの鍋に入れて、煮出した。 

 彼女は、野菜がくたくたになっているのが大好きなので、早めに煮出した。

 お肉は固くなるといけないので、彼女が来てから焼いてから、お鍋に入れようと思った。

 お肉を台所で焼いては居間に戻ってくるを繰り返すと、彼女との時間が減ってしまうので、ガスコンロを2個用意して、一つはお鍋用に、一つはフライパン用にした。

 杏仁豆腐は、杏仁との素を入れて、牛乳でかき混ぜて、冷蔵庫で冷やして固めた。

 お腹いっぱいに食べて欲しかった。

 彼女が、丁度、来た。

 呼び鈴が鳴った。

 ドアを開けると、彼女が嬉しそうに立っていた。

 手には花束とお菓子が入っていそうな紙袋を持っていた。

 気を使わなくていいよと、一言言っておくのを忘れたと、反省した。

 頭を撫でながら、アパートの中へ彼女を入れた。

 ドアを閉めると、キスをして抱きしめた。

 彼女は、部屋に入って、コートを脱いで、マフラーを取つている時に、やっぱり、今から言おうと思った。

 

 明日から、僕は、一旦、郷里に戻るよ。


 彼女は、私を凝視した。


 えっ…。


 そう言ったものの、落ち着いていたので、半ば、落ち込んだ。

 もう、私なんて、必要なくなっているのかもしれないんだと、悲しくなった。

 もう、彼女の世界は、品質保証部のあの男性を受け入れているのだと、苦しくなった。

 だけれども、取り乱すわけにもいかないから、平然を装った。

 

 運転、気を付けてね。


 彼女は、それしか言ってくれなかった。


 あぁ。


 私は、深く動揺した。

 暫く、食卓を囲んで、沈黙が流れた。

 一緒に作った陶器のお器の中にある卵2個を、悲しみを隠すために心の底の焦点を合わせずに、無心にかき混ぜて、箸を、一緒に作った七宝焼の箸置きに置いた。

 今、心の底の焦点に合わせてしまうと、ぼろぼろに崩れ落ちてしまう私がいた。

 こんなにも彼女を愛していた。

 春菊のいい香りが立ってきた。

 お互いに、美味しそうな香りにつられて、嬉しそうにはにかみながら笑った。  

 

 さぁ、沢山食べよう。


 私は、ご飯を一緒に作った陶器のお茶碗によそいながら、彼女をしっかり目に焼き付けるようにまじまじと見て、出来るだけ彼女を安心させる声で言った。

 

 うん。


 彼女は、悲しそうな目をしながらだろうか…、私の欲望でそう見えたのだろうか…、微笑んだ。

 

 美味しいね。


 私は、泣かないために、慌てて何かを口に入れて、そう言った。


 美味しいね。


 彼女は答えた。


 そして、黙々と、食べた。

 その日は、彼女の大好物の杏仁豆腐がデザートだった。

 ちょっと、いつもより、固めだったかなぁ。

 それを彼女に言ったら、大丈夫だと、固いほうが美味しいと言ってくれた。

 いつもの様に、お腹に入りきらない位、沢山食べた。

 そして、いつもの様に、私の膝の上に彼女の頭を乗せて、ごろごろさせた。

 彼女の頭を優しく撫でた。

 やる事が沢山見えてきた。

 彼女が嫌がるのに、スマートフォンを触ってしまった。

 

 何を見てるの?


 膝の上から私を見上げて、私の頬を触りながら彼女が聞いた。 


 写真。


 彼女の目を覗き込んで、暖かい気持ちで言った。

 待ち受けの画面を、彼女だけにするのか、一緒に写っているのにするのか迷っていると言った。

  暫く、無言の時が流れた。

 すると、私は、彼女の頭をぽんぽんした。

 彼女はいつも、それで、身体を起こしていたので、その日も、そうした。

 私は、胡座をかいて、彼女の両手を取り、話し出した。

 

 これから、いよいよ、林檎の収穫が始まるよ。

  

 そう、切り出した。


 年末には終わるよ。


 そう言って、そわそわしだした。


 だから、月に3回しか会えなくなるよ。

 

 彼女が、目がきよろきよろしくと忙しくなった。


 来年になったら、もう少しは、会えるようになるよ。


 泣きそうになった。


 電話もラインも毎日するよ。

 モーニングコールもしようか。

 何かあったら、即に、連絡するんだよ。

 

 彼女は、肩で泣いていた。

 私は続けた。


 そして…、そして…、そして、いつか、終わりが来るよ。

 

 彼女は、両手で顔を覆い、泣きながら、下を向いて、頷いた。


 僕達は、お別れをするよ。


 彼女は、大きな声で、泣き出した。

 そして、私も、こらえきれずに、大きな声で、泣き出した…、鼻水も一緒に。

 

 その日まで、私は、君に、沢山の愛を注ぐよ。

 いらないなんて、言わないでね。

 最後の最後まで、君との思い出は、愛で埋め尽くしたいんだ。

 それは、私を選んだ、君の、義務だ。

 

 そう言うと、彼女をそっと抱きしめて、溢れ出ていた涙を右手の人差し指で撫で、親指で優しく拭った。

 そして、彼女の頬を両手でくるみ、おでこにキスをしてから、唇にキスをした。

 その余韻を楽しんでから、明かりを消さずに、横になった。


 私達は、毎日、連絡を取り合った。

 そして、月に3回、会った。

 10月が去り、11月が過ぎ、12月が終わった。

 収穫を終えた私は出稼ぎに、また戻ってきた。

 出稼ぎとは、口実の、私なりの、これまで仕事を頑張ってきた事への、リラックスの仕方だった。

 私はパズルにはまってしまった。

 完成しては写真に撮り、額縁に入れて、飾っていた。

 ミルクパズルにはまりだした。

 難しいかったが、逆に燃えた。

 私は譲渡会へ行き、子猫を二匹貰って来た。  

 オスとメスの二匹。

 おっとりとしてのんびりやのオス。

 気の強い甘えん坊のメス。

 選びに探しまくった。

 オスは、私の性格に似ている子猫を。

 メスは、彼女の性格に似ている子猫を。

 帰って来て、即に、子猫達のお家を作った。

 朝から晩まで、慣れない手付きで、とんかちを持って釘を打った。

 うるさいと、隣人に言われた。

 でも、その時には、作り終えていた。

 私はテレビで、譲渡会の事を知ったそうだった。

 とても泣いた。

 一役買おうと思った。

 夜中に何冊も本を買ってきて、私の苗字の画数と相性のいい名前を、一生懸命に探した。

 キラキラネームにしたくて、頑張っで探した。

 その内に、飽きてしまって、キラキラネームから、程遠い、画数の合う古風な名前にした。

 でも、オスに王子、メスに姫、とあだ名を付けた。

 王子と姫にめろめろで、猫可愛がりした。

 私は、毎日、彼女を会社まで迎えに車で行った。

 そして、私のアパートで、王子と姫と遊ぶようになった。

 王子と姫も、彼女に慣れてくれた様だった。

 おっとりとしてのんびり屋さんの王子は、私そのものだった。

 そして、気の強い甘えん坊の姫は、彼女に似ていた。 

 私は、こんなにも猫好きになるとは、思わなかった。

 彼女から、沢山のペットフードをプレゼントしてもらった。

 私は、こんなに沢山どうするんだと、呆れて思わず、笑ってそう言ってしまった。

 そして、勿論、電話もラインも、毎日した。

 でも、3月になると、彼女がいる時は、電話は控えてほしいとお願いをしていたけれども、お父さんから電話が来てしまい、困った声を出すお父さんを放っておけないから、長々と電話で話すようになっていった。

 彼女は下半期の決算だったので、帰りが遅くなった。

 私は、頑張ってる彼女を応援したくて、美味しい料理を作って、待っていた。

 沢山食べて、沢山話した。

 彼女との時間が、終わりに近づいてきた。

 私は、焦っていた。

 何を…と言われると、よく分からない。

 でも、落ち着かなかった。

 お父さんからの電話が来ると、申し訳ないと思いながらも、ため息が出た。

 夕食をとっているから、今は駄目だと、語気を暴めて言ってしまった。

 本当に、誰にも彼にも、申し訳ないと思った。

 自分で自分がとても情けなかった。

 そして、スマートフォンを置くと、彼女に申し訳ない気持ちで向いた。

 そして、お別れを言った方が良いのかどうか迷いながら、言いたい衝動を抑えて、言葉を飲んだ。

 適当に、当たり障りのないことを言った。

 彼女を動揺させてはいけない。

 でも、本当は、彼女に話してしまって、心の底を吐き出したかった。

 彼女の心の底を吐き出させてあげたかった。

 突然お別れを言われて、彼女が壊れてしまわないか、心配で心配で仕方がなかった。

 その度に、私は、いつもの様に、彼女の頭を撫でた。

 そして、軽く、じゃれあった。

 帰りは、車で送った。

 その車の中で流れる音楽と一緒に歌って楽しんでいた。

 そう言う日々が過ぎていった。

 決算が終わった。

 私は、お疲れ様でした会をした。

 彼女の大好物のすき焼きと杏仁豆腐で。

 その日は、念入りに、頭を撫でた。

 彼女は、気持ちよさそうに、ごろごろしていた。

 そして、家の近くのコンビニエンスストアまで送った。

 車から降りる時に、際に、彼女をじっと見つめて、心の底を鬼にして男らしい声で言った。


 今度の土曜日は、久々にお出かけデートをしよう。

 ここのコンビニエンスストアで10時に待っている。

   

 そう言って、私は、帰宅した。

 帰りの車の中で、私を慰めてくれる音楽を聴きながら一緒に歌って、泣いていた。



          つづく

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