表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラブ ストーリー 彼女の中の私の時間  作者: 穏世青藍


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/4

エピローグ

 土曜日が来た。

 とうとうこの日がやってきてしまった…。

 この日は、彼女とお出かけデートをすることになっていた。

 もう、何をするのか、行くところは、決めていた。

 私は、彼女の好きなシトラスの香水をつけ、身支度を整えて、待ち合わせの場所へと向かった。

 桜が咲き誇る時期になった。

 陽気な風が、心地良い。

 花びらも、それとなくひらめいて、空に舞っていた。

 私はこの光景を、決して忘れないだろう。

 私達の恋愛は今日で終わる。

 待ち合わせの場所で、少し待った。

 車は、とりあえず、駐車場に置いてきた。

 歩いて待ち合わせの場所まで来たが、もう、涙が止まらなかった。

 彼女が見えだしたので、手を大きく振って、彼女の笑顔を探した。

 涙は下を向いて隠した。

 でも、最後のデートだ。

 彼女の顔を見たい。

 でも、顔がこわばってしまって、恐る恐る彼女の方を見た。

 彼女は、どことなく、ぎこちなかった。

 きっと、品質保証部の男の人の事が気になって、私から距離を取り始めたのだろう…。

 言わないのは、もう、最後に波風を立てなくはないという考えだろう。

 彼女はそういう人だから。

 両天秤にかけるずるさではなくて、ただ、私に対する優しさを最後まで注いでくれているのだろう。

 そう思うと、悲しかった。

 嗚呼、やっぱり、私の腕に、手を回さなかった。

 心が張り裂けそうだった。

 会話は、おあつらえだった。


 いつもの様に、いつもの喫茶店に入った。

 いつもの様に、いつもの席に座った。

 いつもの様に、いつもの飲み物を頼んだ。

 お互いに一口飲み終わると、私は、ゆっくりと彼女を見つめた。

 もう、よく分からなくなって、泣いていた。

 彼女も、泣き出した。

 きちんと話さなければ…。

 一息ついてみた。

 声に出して泣き出しそうなくらいの気持ちになっていた。

 息を吸ったら、口の間口に重く蓋がされている様に、呼吸が上手くできなかった。

 でも…、覚悟を決めた。

 そして、一気に言った。


 おじいちゃんが他界したのはは、もう知っているよね。

 おじいちゃんは、私に家も畑も継いで欲しいと、常日頃から言っていたのも、知っているよね。

 だから、私は会社を辞めて、郷里に戻ることにしたんだよ。

 そして、家も畑も継ぐことにしたんだよ。

 そして…、私は…、来週に、お見合いをすることになったよ。


 彼女の反応が気になった。

 目がきょろきょろしていた。

 私と目を合わせてくれなかった。

 でも、私も、気を緩めてしまうと、これ以上言えなくなってしまいそうだったので、気を引き締めた。

 

 相手は、林檎を手伝ってくれているパートの女性だよ。


 彼女の視点がどことなく遠い所を見ていた。

 大丈夫かなぁ…。


 前々から、おじいちゃんが、知らない間に、縁談を進めていたらしいんだ。

 だから、私は、それをお父さんから知らされた時に、怒ったんだ。

 でも、おじいちゃんは、即に、他界していたから、おじいちゃんには怒れなかったよ。

 お父さんに怒ったけれども、それがおじいちゃんの私に対する最後の切実な願いだったという事を聞いたよ。

 私は、今迄とても色々としてくれたおじいちゃんに、とても感謝をしている。

 とても、大好きだった。

 とても、抗えない。

 とても、迷ったんだ。

 でも、答えは、初めから…、初めから決まっていたよね。

 私は、君の望んだ答えを、大切にしようと思うんだ。

 私は、君を、愛しているから。


 そこまで言い終えた。

 私は、言い残したことがないかと考えながら、彼女の様子を見ていた。

 私は馬鹿だなぁ…。

 何処かで、すがって欲しい心の底があった。

 だからといって、結果は動かせないが…。

 完全に自己中だ。

 でも、少しでも、愛してくれている片鱗を見せてほしかった。

 私は、品質保証部の男の人に、嫉妬していた。

 私は、どうしたいんだ…。

 彼女を優しく見つめた。

 彼女は泣きながら頷いた。


 うん…。


 私は、涙声で、話しだした。


 だから…、だから、別れてほしい…。


 心の底とは正反対の事を言わなければならない現実を呪った。

 私が次男だったのならば…。

 彼女は目をそらし続けた。

 こっちを向いて…。


 私は、こらえきれずに、嗚咽を、しだした。

 彼女も、嗚咽しだした。

 少し、心が、ほっとした。

 まだ少しは、彼女の心の中に、私がいるようだった。

 とても、愛おしく感じた。

 頭を撫でたかったが、そうしてもいいのか分からなかったので、やめた。

 もし、嫌がられたら、とても、この先の話を続けられる精神力が私にはなかった。


 だから、見つめようと思った。 

 ゆっくりと、彼女に優しい眼差しを注ぎ出した。

 彼女も、ゆっくりと、私に優しい眼差しを注ぎ出した。

 私達の時間は、ゆっくり、流れているかのように感じた。

 この時間を、忘れない。

 髪を、撫でたかった。

 彼女に手を伸ばして、指を絡め合って、暫くじっとした。

 腕時計の針の音が聞こえるくらい、静かに、見つめ合った。

 最後に見る、愛する人を、見つめ続けた。

 今は、まだ、私のものだ。

 こう考えると、安心をした。

 だからといって、深い悲しみにも襲われた。

 私の心は、落ち着くまで、時間がかかった。

 思ったほど彼女が乱れてないのは、彼女が思った以上に大人だからかもしれない。

 もしくは…、もしくは、考えたくもないが、品質保証部の男の人が心の支えになっているのかもしれないと、悲しくなった。

 彼女の事を思ってしたことだったけれども、とても、私を苦しめた。

 いっそ、結婚なんてするな!!!、生涯私の女でいろ!!!、…とでも、言って騒いでしまいたかった。

 彼女が私と別れるということを受け入れられないという感情の、全てを受け止めてあげたかった。

 だから、私を、責めて欲しかった。

 何故、急に、この様な話を持ち出すんだと言って、駄々をこねてほしかった。

 私は、彼女の全てが欲しかった。

 だから、彼女の我儘に振る舞わない態度に、撃沈した。

 …、暫くすると、私のかなりの欲望と妄想の深さに呆れた。

 …、私は、結構、ロマンチストだったようだ。

 でも、そんな私も嫌いじゃない。

 いいじゃないか。

 一生懸命に恋愛をしてきたら、こういう感情になっただけだ。

 そういう私を、始めて知った。

 私が私を、許してあげたい。

 人に迷惑をかけない自己中、万歳!!!

 大切な人だからこそ沸き起こる感情を、私は初めて経験した。

 彼女だから、こういう感情に出会えたんだ。

 俺って、とっても、可愛いなぁ。

 一生懸命って、素敵だなぁ。

 俺、頑張った。

 この恋愛に、胸を張れる私がいた。

 何か、悲しい。

 だけど、楽しい。

 何故か、ときめく。

 おかしくなってしまった。

 吹き出して笑いそうになった。

 我慢をしたが、げ、げ、げ、限界だった…。

 …、嗚呼…、我慢できない…。

 そして、お互いに、私達は、笑った。

 何故か、彼女も笑った。

 何故か、彼女の顔は、もう、穏やかだった。

 私は、心の底が、チクリとしたが、何故かおかしくって、笑ってしまっていた。

 苦しいのに、笑ってしまった。

 彼女は、呆れたように、私を見て、吹き出して笑った。

 何かがおかしい…、とは思ったけれども、大切な人とのお別れはこんなものかと思ってしまった。

 それに、彼女としたいことが、まだまだこれからあったから、次々と考えを巡らせなければならなかった。

 まず最初は、彼女と初めて一緒にデートした場所に行った。

 手を、繋ぎたかった。

 手を繋いでみた。

 指と指をくるくると絡ませ合いながら、歩いた。

 夕暮れだった。

 綺麗な、綺麗な、夕日だった。


 最後に、2人で、これをまた見たかったんだ…。


 顔立ちがはっきりしている彼女に夕日が当たると、茜色と陰影がついて、贔屓目だけれども…、綺麗に見えるから、更に愛おしい感情が湧く。

 この感情を、もう一度味わいたかった。

 ぞくぞくする。

 私だけの特別な思い出だ。

 死んでも忘れない。

 生涯、心の底に留めておいて、共に生きていこう。

 ふっと、彼女を見つめた。

 彼女もこちらに気付いた。

 そして、彼女のおでこに、キスをした。

 そして、最後のキスをした。

 彼女が好きな、軽い、軽い、キスをした。

 何も言わなくても、そのまま、抱き合った。

 男としてなんにもしてあげられなかったと、歯がゆさが出てきた。

 もっと、彼女を喜ばせてあげたかった。

 私は何て強情だったのだろう…。

 幼いと思ってきたけれども、彼女の方が、大人だったかもしれない。

 彼女の背中に、腕をきつく回してしまった。 

 離れたくない…。

 

 忘れないよ…。


 そう言った。

 

 絶対に、忘れないよ…。


 私は、嗚咽しだした。


 彼女は、私の目を見て、微笑んだ。


 有難う…。


 そう言って、私の頬にキスをした。

 私は目に涙を溢れさせながら、また、彼女を抱き寄せ、激しく泣き出した。

 暫く、そうしていた。

 彼女はそっと、頭を私の頭に擦り寄せた。

 少し迷って、 私の肩に、頭を乗せて、暫くずっとそのままだった。

 気持ちが落ち着いた様だった。

 そして、彼女は私頭突きをした。

 なんて女だ。

 でも、彼女らしい。

 私は笑っていた。

 頭をぐしぐしと撫でた。

 そして、また、抱き合った。

 最後の温もりを、静かに、静かに、確かめ合った。

 そうして、また、手を繋ぎ、指と指を絡ませ合いながら、ゆっくり、ゆっくり、歩いていった。

 そして、私の車まで行って、彼女の家の側のコンビニエンスストアまで、送った。

 車が、止まった。

 もう、終わりの時が来た。

 以前彼女から車のドアの話を聞いて、しばらく経った時に、最後はこうしようと決めていた。

 運転席のドアを開けて、外へ出ていった。

 そして、助手席のドアを、開けてあげた。

 彼女がとてもこだわっていた事だった。

 最期には、特別な女性として、開けてあげたかった。

 恥ずかしかったけれども、彼女を大切にしたいという思いが湧き出ていた。

 彼女は、最初、何が起こっているのか、分からなかったのか、固まっていた。

 その様子を見るのは、とても面白かった。

 これで、本当に終ってしまうのだと思って、泣けてきた。

 彼女に笑顔を見せたくて、微笑みながら、泣いていた。

 彼女も、微笑んで、泣いていた。

 嗚呼…、大人な嬉しさの表現は、微笑みなのだと、私は思った。

 悲しみをまとったその微笑みは、とても、美しく感じた。

 彼女の人となりがにじみ出ている、素敵な微笑みだった。

 彼女にとって、分かってないだろうが、年齢を重ねた大人しか生み出せない、最強のカードだ。

 年を取るのも悪くはないと思わせてくれる、成熟した落ち着きのある大人を感じさせてもらった。

 一緒に大人になったんだなぁ…。

 いい女になった。

 私の女だ。

 惚れ惚れする。

 この微笑みを一生忘れない。

 

 そして、私の顔を、じっと見つめた。

 私も、彼女の顔を、じっと見つめた。

 お互いに、深く息を吐いた。

 そして、家のほうへ向かいながら、歩き出した。


 終わる、彼女の中の私の時間。

 終わった、彼女の中の私の時間。

 終わってしまった、彼女の中の私の時間。

 

 彼女の家の近くに着いた。

 これ以上近づいてしまうと、彼女の両親に気づかれてしまう。

 ここでお別れだ…。

 心が空っぽになった。

 私が立ち止まって、彼女の方を見た。

 優しい、優しい、眼差しだった。

 言いたいことが山のようにあった。

 言い忘れたくはなかったから、メモを見て安心したかった。

 恥ずかしくて出来なかった。

 彼女に最後はかっこいいと思わせたかった。

 別に、ださい、私でもいいのだけれども、彼女がわんわん泣いても、しっかりと男らしく受け止めたかった。

 懐が深いと思わせたかった。

 私は、息を、深く、吸い込んだ。


 今迄、僕に愛を教えてくれたのは、君だけだった。

 今迄、僕を愛してくれたのは、君だけだった。

 今迄、僕が愛したのは、君だけだった。

 きっと、きっと、僕が愛し続けるのは、君だろう。

 心の底で、愛し続けるのは、君だろう。 



 彼女が、うるうるし始めた。


 だから、だから、泣かないで。

 君の選んだ事だから。


 彼女は、声を出さずに、頷いた。


 僕は、君の為に、強くなる。

 必ず、君の想いを、遂げてみせる。

 僕は、君に愛されていたいから。

 ずっと、ずっと、君に、愛されていたいから。

 死んだ後も、ずっと、ずっと、君に、愛されていたいから。

 だから、僕は、強くなる。

 君の為に、僕は、強くなる。


 もう、終わりだ。

 彼女の顔を、まじまじと見た。

 涙で、彼女が優しい色調の、光を帯びていた。

 私は、もう、心の底が、落ち着いていた。        


 今迄、有難う。

 体には気を付けて。

 息災で。

 さようなら。


 嗚呼…、終わってしまった…。

 微笑んでみせた。

 ぎこちなくなってしまった。

 もっと、ゆっくり話しても良かった…。

 彼女は、あっさり終わったからか、戸惑っている様に見えた。

 でも、笑顔を見せてくれた。

 この笑顔は、明日からは、品質保証部の男の人のものになるのだなぁ…。

 悲しくなった。 

 そして、惨めだった。

 彼女のもとを、離れて歩いて車に戻リかけた。   

 急に、苦しくなって、以前は、感情のままに大声を出す人を小馬鹿にしていたけれども、抑えきれない思いが蓋を空けて、悲鳴をあげた。

 大きな声で、彼女に向かってを叫んだ。


 君を、愛している。

 愛している。

 …、何回も繰り返して叫んでいた。

 

 君を


 …、声が裏返った。


 愛してる。


 …、無心だった。

 

 

 愛している。

 

 …、何回も何回も繰り返して叫んでいた。


 ずっと、ずっと、愛している。

 

 私は、ずっと、ずっと、叫び続けた。

 抑え込んできた感情が、一気に噴き出した。

 突然、わーっと、叫びながら泣き出した。

 体ごと崩れ落ち、膝を付き、手を地面に付け、大きな声で泣き出した。

 私の心の底は、壊れていたんだ。

 やっと、気付いた。


 彼女が駆け寄ろうとした。 

 はっと、冷静になった。

 彼女の為に、決意したことだ。

 彼女の為なんだ。 

 台無しにしてはならない。

 遮るようにこう言い放った。

 

 来ちゃいけない!!!

 来ちゃいけない!!!

 来ちゃいけない!!!

 

 彼女は、驚いたように、私を凝視した。

 

 君は、来ちゃいけないんだ!!!

 君は、来ちゃいけないんだ!!!

 君は、来ちゃいけないんだ!!!


 思っても見ない言葉が、すらすらと出てきた。


 僕は、僕は、強くなる!!!

 君の為に、強くなる!!!


 出来るだろうか…。

 これは、ただ単に、私の、願望に過ぎない。


 幸せな家庭を作ってみせる!!!

 君の夢見た幸せな家庭を作ってみせる!!!


 そうだった。

 私には、これからしなければならないことがあったんだ…。

 いつか、やり遂げて、彼女に胸を張りたい。

 だから、頑張れるだろう。


 それが、僕の、出した答えだから!!!

 それが、僕の、許した答えだから!!!

 それが、僕の、認めた答えだから!!!


 私って、土壇場で、こんなにも強くなれるのか…、と、驚いた。

 

 そして…、そして…、そして…、

 それが、僕の、プロポーズだから!!!

 それが、僕の、最初で最後のプロポーズだから!!!

 それが、僕の、とても愛した君への最大級のプロポーズだから!!!


 嗚呼…。

 私はきっと、彼女にこう言いたかったんだと気付いた。

 私は、駄目だと分かっていても、彼女には、プロポーズをしたかったんだと、理解した。

 とても、もやもやした気持が晴れて、すっきりとした。

 そして、彼女を、泣きべそをかきながら真っ直ぐに見つめた。

 

 彼女が大声で叫んだ。

 

 不束者ですが、謹んで、喜んで、お受け致します!!!

 末長く、宜しくお願い致します!!!

 貴方を生涯、支えます!!!

 貴方の心の底を、生涯、支えます!!!

 貴方の中の私の時間を、生涯、支えます!!!

 生涯、生涯、支えます!!!


 とても大きなプレゼントをもらった気がした。 

 顔が緩んだ。

 その先を、聞きたくなった。

  

 だから、どうか、泣かないで!!!

 私達の世界は繋がっているわ!!!

 だから、どうか、泣かないで!!!

 私は、貴方の側にいる!!!

 ずっと、ずっと、側にいる!!!

 貴方の心の底の、側にいる!!!

 貴方の中の私の時間の中の、側にいる!!!

 だから…


 そう言うと、彼女は、物思いにふけってしまった…。

 何を言いたかったんだろう…。

 でも、そっとしておいてあげた。

 彼女の心の底に触れて、壊したくはなかった。


 支えてくれると言った。

 私も、支えよう。

 彼女を心の底から、支えよう。


 受けると言ってくれた。

 その思いを受けとめよう。

 彼女の返事をを、受けとめよう。

 

 愛を注ごう。

 愛を注ごう。

 溢れる私の愛を、注ごう。


 離れよう。

 離れよう。

 彼女の別の暮らしから。


 離れよう。

 離れよう。

 彼女の別の日常から。


 …、彼女が、…、泣き出した…。

 何かを抱えているかのような泣き方だった。  

 私との別れを納得していないのだろうか…。

 …、品質保証部の男の人は、タイプじゃなかったのだろうか…。

 壊れてしまわないだろうか…。

 恋愛は理屈じゃない事もあるから、彼女は、今になって、それに気付いて、悲しんでるのだろうか…。

 頑張り屋さんの彼女だ。

 感情を、抑え込んできたのかもしれない。

 いつも、そうやってきたんだな…。

 気の毒だなぁ…。

 私は、頭を撫でてもいいのだろうか…。 


 暫くすると、すうっと、彼女は息を深く吸い込んだ。

 そして、私に向かって、微笑んだ。

 私が愛した笑顔を、見せてくれた。

もう、お互いに、泣いてはいなかった。

 理屈ではなくて、愛の答えを見つけた。

 愛する者に注ぐ、愛の形を見つけた。

 彼女は、こちらを向いて、微笑んだ。

 そして、暫くすると、私は、こう言った。


 あともう一つ、君の願いを叶えよう。

 それは、私の願いでもある。


 …、私は…、何を言っているのだろう…。

 彼女との間を埋めたくて、何でもいいから言葉が出てきてしまう衝動が抑えきれなくなっていた。


 私達が、この先、いつか親を看取って、お互いに、フリーだったのなら、私は君をもらいたい。

 私は、君を、お嫁さんにしたい。


 嗚呼…、私は、これを言ってみたかったんだ…。

 私の人生の中での、恋愛におけるクライマックスは、彼女を最初で最後の終焉にしたかったんだ…。

 彼女しかありえない…。

 私の恋愛は、今日で、一生分を終えるんだ。

 

 君の全ての時間が欲しい。

 君の全ての時間を、私に注いでほしい。

 君は、それで、きっと、いいよね?


 そう、思わないと、私が可哀想だ。

 そうではないなら、とても、惨めだ。

 縋ることは│(すがることは)│、男として絶対に出来なかった。

 彼女に、心の底で、私に縋って欲しかった。

 だって、そうじゃないか。

 最後くらい、花を持たせてくれ。

 私は、心が、崩れ落ちそうだ。

 愛してる人を手放すんだ。

 おかしくなっても、大目に見て欲しい。

 私の我儘も、聞いて欲しい…。


 私は、この先、どうなるのか分からないけれども、それまで、夢を見ている。

 君を側で見つめていける、夢を私は見続けている。

 私は、一生懸命に生きて、最後に君を妻にする。


 欲望を口にしてしまった…。

 私の中の、男が崩れた…。

 悔しい…。

 こんな思いをさせる彼女を忘れられない私が情けなかった。

 言葉を発する事をやめてしまうと、もう、彼女へと二度と戻れない事が、理性ではっきりと分かっていたから、思っている感情を、全て吐き出させる事にした。

 いいんだ…。

 これでいいんだ…。

 彼女だから許せるんだ…。

 私は、本当に、心の底から、彼女を愛しているんだ…。

 彼女を思うと、暖かい気持ちになるが、これから訪れる、彼女のいない生活を思うと、途方もなく何処かにエネルギーを吸い取られていく感じがした。

 いつか、私の側に置きたい…。

 それくらい、夢を持たせてくれてもいいだろう…。

 それくらい、許してくれ…。

 言いたいことを、心の底から湧き上がる感情を、全て吐き出すから、受け止めてくれ…。

 これが、私だ。

 なるべく心の底を見せないで、クールに決めてきたけれども、この泥臭い人間らしい感情が私にもあるって事を、最後に知っておいて欲しい。

 格好悪い、私を、受け止めて欲しい。

 本当の私を、愛して欲しい。

 そして、私の手を取って、いつか、私の妻になると言って欲しい…。


 私の妻になって下さい。

 一生、一生、側にいる。

 君じゃなきゃ、駄目なんだ。

 君の願いを叶えてあげる。

 だから、どうか、私の願いも、叶えて欲しい。

 君の全ての時間を、私に注いで欲しい。

 ずっと、ずっと、ずっと…側にいて欲しい。

 

 何か、恩着せがましくなってしまった様な気がした。

 彼女の願いを叶えてあげる…、本当は、私の願いを叶えて欲しいだけだ。

 これは、ただの、私のちっぽけな見栄だ。

 何処かで、どうしても彼女より上に立ちたかった。

 恥ずかしいが、どうやら、これが、私らしい。

 彼女との恋愛は、私が、彼女の願いを叶えてあげるために頑張ったものにしたいと言う考えもあるが…。

 それなら、それで、微笑ましい。

 いいんだ。

 これで。

 高飛車だと思われても構わない。

 こんなの最後に持ってくるなんて、とっても可愛い高飛車じゃないか。

 彼女の方を、彼女への思いを込めて見つめた。


 さぁ、笑って。

 私に、君の笑顔を見せて。

 私が愛した君の笑顔を見せて。


 泣いている彼女を、愛おしく思った。

 でも…、お願いだから、笑って見せて…。 


 そう、その自然な笑顔が、私は好きだ。

 その笑顔を心の底の側に置いて、私はこれから歩んでいく。

 君への心にある愛の火は消えない。

 ずっと、ずっと、灯し続ける。

 そして、いつか、君を、妻にする。


 彼女は、頷いた。

 そして、笑顔が涙と共に溢れていた。

 私は、彼女に駆け寄った。

 私は彼女の頭を撫でた。

 優しく、彼女の頭を撫でた。

 そして、指と指を絡めながら手を繋いだ。

 彼女は、絡めた手を強く握り返した。

 心が熱くなった。

 すると…。


 痛っ!!!


 私は、そう言った。


 ふふふ…。


 彼女は笑った。


 彼女のマネをして、指と指の関節に力を入れた。

 

 痛いよ。


 彼女が、そう言った。


 そして、お互いに、笑った。

 暫く、お互いの笑顔を見つめ合っていた。

 私は、この先、生まれてくるであろう何かに対する愛おしさを、今、この瞬間に全てを凝縮して閉じ込めたかの様な感覚になった。

 そして、いつもの様に、彼女の頭を何回も何回も優しく撫でた。

 本当は、膝枕をしたかった。

 彼女の頭を撫でながらスマートフォンを見て、手が止まると彼女が催促する事に、とても、木陰が揺れている元でお昼寝をする心地良さを感じていた。

 さぁ…、お別れだ…。

 私は決心した。

 彼女も決心したかの様な顔をしていた。

 繋いだ手を少しずつ緩めていった。

 離れてしまった…。

 じっと彼女を見つめた。

 彼女も私をじっと見つめた。

 お互いに、悲しい目をして、笑顔で会釈をして、帰って行った。

 彼女の遠くなる背中を、小さくなっても見続けていた。

 まだ、見続けている間は、私達は恋人同士のような感じがした。

 見えなくなっても見続けていようかと思ったけれども、彼女が振り返ったときに、ドン引きされるのが怖くって、その考えに促されるままに、踵を返した。


 そして、私達は、自分達の世界に戻っていった。


 また、車の中で、泣き始めた。

 私って、仕方のない男だなぁ…。

 女々しいか…。

 いいんだ。

 これが私だ。

 この恋愛に、すべてをかけた。

 それだけの価値が、私のなかではあるものだった。

 だから、悲しくって泣いてしまっても、別にいいんだ。

 私は、頑張ったんだ。

 彼女に、心の底から、愛を注ごう。

 それは、彼女の中の私の時間は、まだ続く事を意味する。

 これが私の愛の形の様だ。



 私達は、今、それぞれの世界で生きている。

 月に一度は、電話で、話をする。

 たまに、お互いの恋愛のパートナーと共に、お茶をする。

 その彼女が連れてきたのは、私が彼女の事を心配して会社の人の中から彼女を任せられる人を探して、根回した人…、品質保証部の男の人だ。

 結婚を渋っていたので心配していたが、無事、彼女と結ばれた。

 彼女を一人にしないですんだ…。

 本当にほっとしている。

 でも、何処かで、嫉妬している。

 お互いに、それぞれの恋愛のパートナーに、私達の事を、素直に話した。

 最初は、色々、咎められた。

 でも、その内に、認めてもらえる様になった。

 有難かった。

 でも、駄目ならば、別れようと決めていた。

 随分と、酷い話かもしれないが、私にとって、その話を通さなければ心の底が折れてしまいそうだった。

 だから、必死だった。

 そして、私は、家庭を持った。

 野菜と林檎のパートの女性だ。

 お互いに、一番好きな人は、そのまま一番好きでいいという事になった。

 私達の関係は、2番目に好きになった人でいいと言うことにした。

 両親は呆れていた。

 あちらのご両親も。

 始めは、ふざけるな、と、言われて、揉めた。

 でも、私達はお互いに一番好きな人を忘れられなくて、やっと頑張って立っているということを言った。

 今度は申し訳なさそうに、しおれてしまった。

 でも、私は、女好きなレッテルを貼られてしまった。

 色々、苦労はしているけれども、子供にも恵まれ、とても幸せだ。

 いつも、彼女に、訳あり品で出荷出来ない野菜や林檎を、沢山贈った。

 彼女は、本当は、林檎が苦手だった。

 でも、シナノスイートとぐんま名月とはるかがお気に入りのようだ。

 沢山の野菜や林檎を贈る御礼に、彼女は素敵なCDと美味しそうなお菓子を贈ってくれる。

 子供たちは、とても喜んでくれる。

 毎年、私の家族が写った写真付き年賀はがきが送った。

 私が提案した。

 彼女に私は元気に幸せにやっていると、彼女の夢を叶えてあげたことを、伝えなければならないと思っていた。   

 家族は、反対した。

 でも、私は、押し切った。 

 彼女が望んだことだから、きっと、喜んでくれると思った。

 きっと、犬だったのならば、ご主人様にお腹を出しているようなものだと思った。

 そして、彼女も、家庭を持った。

 私が熱烈にアタックして根回した品質保証部の人だった。 

 離婚して子供を抱えた次男坊だった。

 もう、これと言っていいほど、完璧な人だった。

 彼女は、母になれた。

 良かった。

 何とか彼女にも、彼女が思い描く人並みの生活を、送ってもらえるのだと、安心した。

 子供達は、彼女に慣れるまで、大分かかったらしい。

 本当は、まだ、無理をしているのもしれない、と言っていた。

 でも、受け入れようとしてくれている事が、愛おしいとも言っていた。

 だから、彼女は、大丈夫だ。

 一人じゃない。

 子供が成長して家を出ていったので、彼女はパートナーとボランティアをすることにした。

 週に1回だけだそうだ。

 町内会のお花を植えている。

 花にはうるさい私だけれども、とても、綺麗だ。

 たまに、見に行くのを楽しみにしている。

 彼女は、顔がとても嬉しそうだ。

 今、私は、心が満たされて、愛で溢れている。

 とても、素敵な人生になった。

 

 

 

 友としての道を、私達は選んだ。

 愛のある友になった。


 周りに対しては、自己中的なのは分かっている。

 でも、必死だった。

 これは、私のケース。

 これは、私の選択。

 これが、私の愛の形。

 他の方は、分からない。

 でも、どんな形でも、一生懸命に向かい合って、心を込めて、頑張ってみる時期が一度でも、あってもいいと思う。

 その経験は、後の私を導いてくれる。

 だから、目の前の現実を受け入れて、無理をしない程度に歩んでいく。

 


 今、この日本は、少子化社会だ。

 私の様に、一人っ子同士の恋愛も沢山あるだろう。

 どちらか一方の家庭に入るという事は、その入らなかった方の家庭が困るだろう。

 揉めている家庭も多いだろう。

 私の選択が、正しかったのかどうかは、分からない。

 もっと頭のいい人ならば、何かいい考えがあっただろう。

 でも…。

 人それぞれだ。

 人それぞれに、与えられた条件が違う。

 人それぞれの心の底も違う。

 どの選択をしても、その後の人生に愛を注いで、そこから愛の花を咲かせてあげればいい。

 私達だけの、事では無いかもしれない。

 貴方なら、どう生きる?

 貴方なら、どういう選択をする?

 貴方の愛の形は、どういうの?

 愛する人の中の貴方の時間は、貴方に何をもたらすの?

 どの選択をしても、皆、幸せになります様に。

 私は、そう、祈っています。


 最後の迄、お読み頂いて、有難うございました。

 私なりの、愛の形を書いてみました。

 今、この日本は、少子化社会です。

 彼等だけの話ではないかもしれません。

 他の方達は、どういう選択を乗り越えていっているのか、不思議です。

 この話は、フィクションです。

 貴方にとって、素敵な愛の形が見つかります様に。

 愛を込めて。


           終




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ