operation.74_青い機体と赤い機体
3機の大型輸送ヘリがジパング・インダストリー都市外施設上空でホバリングを始めた。
内2機にはMⅢが1機ずつ懸架されている。赤いMⅢと青いMⅢは彩度は落とした塗装のため、遠目から悪目立ちすることはないだろうが、都市迷彩や野戦迷彩と比べるとやはり派手だ。
もう1機の大型輸送ヘリには6mほどの20Fコンテナが懸架されていた。
「ずいぶん派手なMⅢね」
「パイロットの趣味か、あえて目立たせるためだよな。特に赤い機体は突撃型っぽいし」
セイカの感想に、アルフレッドが補足する。青い機体も大概派手に見えるが、夜間なら比較的目立たないだろうか。
大型輸送ヘリ2機は管制塔の誘導でジパング・インダストリーの専属傭兵部隊が利用している駐屯地エリアの直上にたどり着くと、MⅢ2機を分離ボルトに点火し切離した。
ホバーエンジンの出力を最大にしたMⅢ2機が、地面にダウンウォッシュを吹き散らしながらゆっくりと高度を下げてくる。
強い風圧に、セイカは思わずコグモを風よけにする。
「青い方はアルビオン社の最近出たモデルのMⅢリンクス、赤い方はMⅢファングでこっちも最新鋭機だな」
「アル、詳しい?」
「この手の仕事するなら、企業連合製の市販モデルのスペックは覚えとくべきだ⋯⋯ってウェインに言われた」
ミヤビが首を傾げ、アルフレッドは少し得意気な様子だ。
「私は知らない」
「これから勉強だな。特徴は⋯⋯」
アルフレッド曰く、MⅢリンクスは一世代前のMⅢパンサーの後継機とのことだ。胸部装甲と頭部にオプションが増えており、青いMⅢはオプションの装甲と頭部を取付けた射撃戦の装備となっている。
盾を胸に貼り付けたような胸部装甲は分厚い前面装甲が胴関節までカバーしていて重機関砲でも正面から貫通できず、頭部パーツは大型の望遠カメラを内蔵している。
オプションパーツはアルビオン・バイオニクスのコンセプトモデルMⅢであるMⅢアルテミスの設計を移植したものらしい。
「MⅢアルテミスって?」
「俺は画像資料だけだけでしか知らないけど、馬鹿でかい砲を背負った支援型のフル装備MⅢって感じ」
MⅢファングは高出力と高機動に特化したアルビオン・バイオニクスの機体コンセプトを体現した機体とのことだ。ホバーエンジンを脚部に2機、腰のユニットに2機搭載しており、重量のある格闘装備や大型砲を搭載しても瞬発力と最高速度を維持できる。その代償に重量による慣性も酷く、取り回しが難しい上パイロットへの負荷が大きい。高速戦闘機に腕と下半身を取付けたような鋭利なシルエットは一目見ただけで速そうだと印象づける。
こちらにもコンセプトモデルがあり、MⅢオルトロスという高機動機体をベースにダウングレードしているとの事だ。
「アルビオン・バイオニクスの特徴だけど、コンセプトモデルは"それ、人が乗ること考えてんのか?"って機体が多い。そこから性能を調整したのが市販品になってる」
「ジパング社は違うの?」
「基本的にコンセプトモデルから変わんないな。うちの場合は仮組み立てした機体が次世代機のコンセプトモデルだし」
基本的にはジパング・インダストリーのような開発が主流でフェデラル・エンジニアリングとアルメニア・エレクトロニクスも同様とのことだ。昔はアルビオン・バイオニクスもそうだったらしいと、アルフレッドも人伝にしか知らないとのことだ。
「アルビオンは機体に合わせてパイロットを作れるから」
「ああ、人造人間技術⋯⋯笑えない冗談ね」
そんな話をしている間に2機のMⅢが地に足を着ける。地上の誘導員の支持に従い、機体をMⅢハンガーのある格納庫に向かって歩き始めた。
「⋯⋯あの方向は、私達のハンガーと同じ場所に駐機するの?」
「そうだ」
後ろからウェインの声が飛んできた。アルフレッドはいつの間にやら姿勢を正してウェインの方を向いていた。
「アルフレッド、彼女等の案内は任せる。向こうからの要望については可能な限り答えて構わないが、判断に迷った場合はこちらに回せ」
「了解」
彼女等⋯⋯という事はあの2機のパイロットは女性なのか。
セイカとミヤビもすでに会った事があると言っていたが、知り合いの女性の顔を連想するが当てはまりそうな人物がいない。
流石にカズサということはないだろう。だったら初対面の時にセイカとミヤビに助けられていないはずだ。
「それじゃ、俺等は先に顔合わせに行こうぜ」
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セイカとミヤビがアルフレッドと共に格納庫に入った時、ちょうど2機のMⅢをハンガーに固定する作業をしている最中だった。
「整備機器の規格や仕様はメーカーが違うだけで自社のと変わんねえな」
「この辺りの足並みが揃ってんのは助かりますね」
見慣れない作業着の整備士が会話をしている。おそらくアルビオン・バイオニクスの整備士なのだろう。その中の整備士長なのだろう1人が、ジパング・インダストリーのこの格納庫の整備士長と何やら話し込んでいた。
「整備士長!」
「おお!来たかアル」
アルフレッドが声をかけると整備士長が気付いて手を振り替えしてきた。
その流れでアルビオン・バイオニクスの整備士達もこちらを向き⋯⋯ギョッとした顔で固まった。
「⋯⋯何?」
「⋯⋯何かしら?」
どうにも視線はセイカとミヤビに向いているらしかった。
「なんだ?ウチにも美人のパイロットがいて驚いてんのか?美人はお宅の特権じゃないんだよ」
「あ、ああ。そうだな⋯⋯魅入っちまったよ」
どうにも整備士長はこの空気感に気付いていないらしい。苦笑いなアルビオンの整備士長と異なりゲラゲラと笑っていた。
流石にアルフレッドは気付いたようでミヤビとセイカに目を向ける。
「何かしたの?」
「私達は何も⋯⋯。ただ、そんなに似てるのね」
クレアが持っていた写真の画像データを思い出す。アルビオン・バイオニクスがわざわざ他所の経済圏で活動していたという事は、そういう事なのだろう。
「その辺りのことは、私達からお話しますので」
聞き覚えのある声がセイカの言葉に答えを返してきた。
聞き間違いかと目を向けると、そこには数日前に別れたばかりの青い髪の少女が立っていた。
「コバルト・キースと申します。アルビオン・バイオニクス情報戦略部所属の傭兵です。"はじめまして"」
「⋯⋯」
白々しい自己紹介なのは百も承知なのだろう。コバルトの動きは少し固かった。
赤いMⅢからもパイロットが降りてくるところなので、彼女は青いMⅢのパイロットなのか。
コバルトを見据えた後、セイカはアルフレッドに目を向ける。
「俺は口外禁止って言われてたから」
視線の意図をくみ取った少年は口の前に手でバツ印を作り無実を主張した。
指示であるなら仕方がないか。
セイカの視線がコバルトに戻る。そんなに怖い顔をしていただろうか。目を向けられた少女はビクリと肩を震わせた。
「⋯⋯ウェイン・リヒト隊長から多少は聞いていないのでしょうか?」
「⋯⋯聞いてないわね」
セイカの解答に、コバルトは絶句した様子でアルフレッドの視線を向けた。少年はバツが悪そうな様子で頭を掻く。
「あ~⋯⋯、アルビオン社の問題はアルビオン社に喋らせろっていうのが、隊長から俺への指示だな。間に入るとややこしいって」
要はジパング・インダストリーはコバルトがこそこそと忍び込んでいた事やアルビオン・バイオニクスとしてセイカ達への接触について我関せずの態度を取るとの事らしい。
コバルトは苦虫を噛み潰したかのような表情になる。
「根回しくらい、してくれても良いではないですか⋯⋯」
「あの男はそういう奴よ」
流石に少し気の毒になってきた。
この少女もどちらかと言えば被害者側なのだろう。
ただ、それでも
「こそこそと嗅ぎ回られてたっていうのは、いい気はしないわね」
「それは⋯⋯」
「まーまー。あんまりうちの妹をいじめないであげてくださいよ」
後ろからコバルトに体当りするように抱き着いた女性が割って入ってきた。
コバルトを妹という事は姉なのだろうが⋯⋯色白なコバルトに対してその女性は褐色の肌に赤毛、容姿も異なっている。
姉妹と言うにはあまりにも似ていない。
「貴女は?」
「ルージュ・キースです!今回の仕事では味方だね。よろしくー。そちらさんは?」
「⋯⋯セイカ⋯⋯今さら隠しても仕方なさそうね。セイカ・キースよ」
「ミヤビ。ミヤビ・キース」
セイカの返答を聞いてから、ミヤビも自己紹介をした。
2人の名前を聞いてアルフレッドが目を丸くする。
「へー。それが本名?」
「そう」
「いいな。語呂も良いしキースってなんかかっこいいな」
特に意図もない感想なのだろうが、妹は照れた様子で少年から視線をそらした。普段なら微笑ましく眺めていたいところだが、今はそういう状況ではない。
「⋯⋯そちらの目的は?」
「私達としては、サンプルを貰ってミランダ・キースの死亡確認ができれば文句は無いんだよねー」
「何のために?」
「あれ?調べてない?でも察しはついてるよね?うちの技術を外に持ち出しちゃった研究者なんだ」
「ルージュ!」
「こういうのは正直にお願いしちゃった方が楽だよ」
ペラペラと事情を喋ってくれるルージュという女性をコバルトは咎めようとするが、胸と腕で押さえ込まれた少女に抵抗する術が無かった。
「遺骨⋯⋯遺灰だっけ?サンプル貰って分析できればいいの」
「本当にそれだけ?」
「それで私達の最優先任務は完了。漏れた技術で作られた粗悪品のお掃除もあるけど⋯⋯その対象にお2人は含まれてないから安心してよ」
おそらく嘘はついていない。
言っていない事はあるかもしれないが。
要望などの手札を先に見せてしまうということは、隠し事や駆引きが苦手という自覚があるのだろう。
「それくらいなら融通するわ」
「やったね。あ、1つ質問良い?」
「何かしら?」
「それ、ずっと繋がってるの?」
ルージュはセイカのうなじから伸びたコードの先のコグモを指差した。
「そうね。私の優秀なボディーガードよ」
「やっぱり便利なの?」
「質問は1つよね?」
「これは失敬」
ルージュが両手を挙げて降参ポーズを取ったことで、ようやくコバルトも解放された。
コバルトは肘でルージュを押しのける。
「情報交換もできればと思います。少なくとも、私達とお2人は敵対関係ではないはずです」
「そうね。彼女の言うとおり"今のところは"」
セイカの返答にコバルトは怯みつつも、隣のルージュの脇腹を肘で小突く。
ペロリと舌を出すルージュに反省の色は見られなかった。




