operation.73_間章 助教から見た姉妹
「ミヤビさんはMⅢジェミニのシステムと相性が良いですね」
「そうなの?」
「スコルピウスの遠隔操作より反応速度が早くなっていますが⋯⋯自覚はありませんか?」
「動かしやすい⋯⋯気がする」
「ご感想ありがとうございます」
研究者達の間で、ミヤビへの対応は基本的にメアリ・シェリー助教が行うのが通例となっていた。不在の場合はモニス教授が対応している。
物心ついてから戦闘訓練を受けていたミヤビの鋭敏な観察眼と感覚の為か、男性の邪な視線にも敏感ですぐに機嫌を損ねてしまうためだ。
そういう女性は別段少なくない。男の目線は本人達の自覚はともかく分かりやすいものだ。
モニス教授は違う意味で避けられている。
精密機械好きなこの博士は珍しい機器に目がない。その対象はジパング社から出奔した教授でもギルドの技師でもない彼女らの母親が取付けたインプラントにも向いていた。
そこが気持ち悪いようだ。
「メアリ、これは姉さんの機体と何が違うの?」
「設計思想ですかね」
MⅢジェミニは強化人間用インプラントでMⅢのフレームをベースとした無人兵器を同時に操縦できる機体だ。大型機動兵器のヤソマガツの指揮機能をダウングレードしたもので、扱える情報量が少ないため同時に動かせても3機。
そのため、基本的にはMⅢジェミニと子機のジェミニ'の対で運用する想定がされている。だから機体名が双子座というわけだ。
「なので、アルメニア社のスコルピウスやクラッドビートルと違って、子機の無人兵器ジェミニ'はそもそも強化人間用のインプラントで動かす想定の無人兵器なんですよ」
「⋯⋯具体的にどう違うの?」
ここまで前のめりに興味を持ってくれるのは珍しい。メアリはウズウズと話したい気分に駆られるが、当然ながら彼女の対応以外にも仕事がある。
「まず人型である点が大きなメリットなのですが⋯⋯、お昼にお時間ありますか?」
「⋯⋯なんで?」
「たぶん話すと長くなるのと、機体操縦に関係のない部分も多いですし、食事でもしながら世間話程度に聞いてもらえると」
必要があると感じるならば設計資料や仕様書も渡すと話すと、彼女は頷いてくれた。
「大丈夫」
「では、お昼休憩時、食堂のセルフレジの前で待ち合わせしましょう」
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「脳の電気信号で動く機械義肢をそのまま大型化しただけだから動かしやすいってこと?」
「簡単に言ってしまうとそうですね。正確には、強化人間用の操縦システムがMⅢの四肢が義肢と同じ動作となるよう動かすアクチュエーターを調整してるのですが⋯⋯」
そのため、アルメニアの無人兵器を強化人間のインプラントで動かすとなると、どのアクチュエーターでどう動くか感覚に落とし込まないとならないが、ジパング・インダストリーの人型フレームの機体だと、勝手に脳波信号をコンバートしてシステムが忖度してくれる。
「姉さんはジパング社の機体は動かすのにひと手間かかるって言ってた」
「セイカさんは規格外なので⋯⋯むしろコンバートするシステムが邪魔になるのかもしれないですね」
「OS全部上書きして動かしてるって」
「整備士の方が聞いたら卒倒しそうなことしてますねセイカさん⋯⋯」
ミヤビの言葉にメアリは苦笑いを返す。
「資料などはいりますか?」
「⋯⋯貰う。姉さんにも渡すから2つ」
「わかりました」
話し終えると昼の休憩時間は15分を切っていた。急いで食べねば昼からの業務時間に間に合わない。少しはしたないが、メアリは昼食のサンドイッチを口いっぱいに頬張る。
見るとミヤビも昼食をかき込むように食べ始めていた。物量はメアリの倍以上あるが、食べるペースはミヤビの方が早い。
「よふたへれますね(よく食べれますね)」
「ひふからもひせんははら(昼から模擬戦だから)」
消化が間に合うのだろうかと思うが、話に聞けばまだ10代後半で身体を動かす仕事をしているわけだからメアリよりもずっと代謝がいいのかもしれない。
メアリは若さが羨ましいと思う反面、10代だった頃の自分が同じ真似をすると激太りするだろうなとも思いながら口の中のサンドイッチだったものを飲み込んだ。
「今の話、訓練の役に立ちそうですか?」
「うん。ありがとう」
あまり感情の起伏を表情に出さない少女がふわりと笑い、妙にドキリとしてしまう。
メアリは照れ隠しのために、お茶を口に運ぶのだった。
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昼休み後、モニス教授の研究室でデータ入力のチェックをしているとセイカがやって来て嵐のように去っていった。
メアリは恨めしい目でモニス教授に目を向ける。
「教授、彼女らに説明していなかったのですか?」
「いやぁ、話したい事が多すぎて忘れてたね。まあでも彼女、本気で怒ってる訳ではないから大丈夫だよ」
メアリからするとかなりご立腹に見えたのだが⋯⋯教授はケラケラと笑っている。
「彼女は本気で怒らせると口も聞いてくれないし、研究所が更地になっちゃうよ」
「それ、彼女らがいたらしき隠し研究所の話ですよね⋯⋯冗談でもやめてください」
「僕は避けられちゃってるけど、君個人なら大丈夫さ。あとは本社が判断ミスをしなければ」
「最後のが一番怖いんですよ⋯⋯」
セイカとミヤビの凶行は事後の収集データのみだがメアリの目にも入っている。
そもそも敵対勢力の施設なので自業自得だと思うものの、あの姉妹はたったの2人で3桁を超える人間を虐殺し尽くしたのだ。
「ミランダ・キースってどんな人物なんですか?」
流石にあの姉妹に直接聞く勇気のなかった事を教授に聞いてみる。
著名な研究者であれば知っておくべきなのだが、メアリの頭の中には入っていない人物だった。
「セシリア・キース教授は知ってるよね?」
「はい。流石に」
アルビオン・バイオニクスにて戦闘用 人造人間を作り出した人物で、影では怪物の母と呼ばれている。
「年齢は⋯⋯私より教授に近いはずですが、見た目の若さにも驚きました」
「再生手術やら人造人間の技術の確認に自分自身も被検体にしてるって噂だよね。あと、人造人間は全て自分の子供だと言い張ってるとか。どこまで本当か、僕には分かんないけど」
クローン人間を兵士にするというのは以前のアルビオン・バイオニクスで行われていたが、完全にそれの上位互換にあたる人工的に作られる人間を開発した女性だ。
「あれこそまさに、現代のベクター・フランケンシュタインとその怪物だよね。僕達の技術がそう揶揄されることが多いけれど」
「一般的なイメージは頭にネジの刺さったツギハギの怪物とその博士ですからね」
どうしてもそのイメージと一致するのは義肢やインプラントで戦場に対応する強化人間の方なのだ。
「僕もね、ミランダ・キースはその従姉妹で同じ研究者ってことくらいしか知らなかったんだ。たまに論文が連名なことあるなーくらいの認識」
「では⋯⋯」
「でも、ウェイン君が調べてくれたよ」
なぜそこで専属傭兵のウェイン・リヒトが出てくるのか。
「アルビオン・バイオニクスが懸賞金をかけてギルドに指名手配させてる研究者だったよね」
その言葉にメアリは絶句した。
「それ⋯⋯あの娘たちには⋯⋯」
「怖くて言えないよねー。ウェイン君も苦虫噛み潰した顔してたもん」
「ですが⋯⋯アルビオン社の傭兵と共同作戦を行うんですよね?」
「だから、そういうきな臭い部分は当人に任せちゃおうってことだよ。ウェイン君も同意見」
道楽で研究職に就いているようなエガス・モニス教授だが、こういう都合の悪い部分に関しては抜かりがない。
企業連合という、競争社会の中で出世しているだけのことはある人物だ。尊敬はするが、同じように振る舞いたいかは別問題であるが。
「そんな心配しなくても、アルビオン社は社論として人造人間の人権を主張してるから大丈夫だよ。無理矢理どうこうにはならないと思うよ」
「そ、そうでしょうか⋯⋯」
「なるようになるさ。最終的にはあの娘達しだいだけど。人間、いきなり現れた生みの親より育ての親っていうじゃないか」
ジパング・インダストリーも、彼女達と契約してまだ日は浅いのだが⋯⋯たしかにアルビオン・バイオニクスよりは交流と言えるやりとりも行っている⋯⋯行えていると思いたい。
「もう少し自身を持ちなよ。ミヤビちゃんとあそこまで話せるの、アルくんやエマちゃんくらいだよ」
「そう、そうですね」
メアリは昼休憩でのミヤビとのやりとりを思い出す。淡々とした少女だが、ふっと気を許したような笑みを見せてくれた。
専属傭兵とのメンツとも似たような関係を気付けているのであれば、彼女達がここに所属する理由となってくれるだろうか。
研究者と被験者という立ち位置だが、いつの間にやら情が湧いてしまっていた。
「⋯⋯教授から見て研究者として、被験者を贔屓目してしまうのはどうなのでしょうか」
「論文内と計算内で隔離できてれば問題ないよ。お互いに信用してないと上手くいくものも上手くいかない訳だから。君はもう少しズルい人間になろうね」
教授は簡単に言ってくれるが、感情と理屈を時と場合によって分別することが簡単であれば誰も苦労などしないのだ。
この先拗れかねないであろう人間関係を想像し、メアリは内心で嘆息をこぼした。




