operation.72_共同作戦
「次の作戦行動にはアルビオン社の傭兵も参加するで」
ブリーフィングルームのモニター前で、エマ・タマモノマエがレーザーポインター片手に任務内容を説明する。
軽薄な態度を仕舞い込んだ彼女は凛々しく、普段の彼女が以下に残念かが強調されてしまっていると感じるのはセイカだけではないはずだ。
横目で妹を見ると、誰だコイツと言わんばかりの顔でエマを見据えていた。
「目標は廃都市にある隠し研究所の入り口やね」
全体の作戦計画としては旧時代に栄えていた都市⋯⋯廃都市の包囲殲滅戦のようだ。
廃都市の入り口となる旧道には執行部隊と教導部隊の小隊長格が指揮する閉鎖部隊を配置。把握できている旧地下鉄、地下道は爆破して物理的に閉鎖する。
ウェインやエマといった大隊長格、アルフレッド、ミヤビの専用機持ちであるエース級は空挺降下部隊として先行し目標を征圧。
仕上げはセイカの操縦する大型機動兵器が指揮下の無人兵器群で殲滅といった流れだ。
外部から誰も入れず、内部から誰も出さないことが最も重要となる。
アルビオン・バイオニクスの傭兵は空挺降下部隊に加わることになるらしい。
「配置の詳細は各自の端末に共有しとる資料を確認してな。総指揮は情報部や。細目詰めは各小隊長格と部隊員で行っとくように」
作戦概要と出撃の日程の共有を終えると、ブリーフィングは終了となった。
出撃機体や武装は細かく指定されていないものの、各パイロットの適正に合わせた部隊配置が行われているようだ。
ただ、ミヤビと組むことになるのは⋯⋯
「私達、アルビオン社の傭兵とだ」
「⋯⋯どうなのかしらね。これ」
MⅢバードイーターは遠隔操縦の状態でミヤビのMⅢジョロウと行動するのはいい。ただ、会ったこともないアルビオン・バイオニクスの傭兵と連携をとれるだろうか。
難しい顔をする2人の様子にアルフレッドが気付く。
「どした?」
「私はともかく、ミヤビのこの配置はどうなの?」
ミヤビと組む相手を資料で確認したアルフレッドは苦笑いを浮かべた。
「あー⋯⋯それは、エマと組めるのが俺とウェインしかいないからだな。後、連携って意味でも新参と俺が組むのも、新参と外部部隊が組むのも大差ないって思われたかもな」
「⋯⋯それなら私のクラッドビートルとスコルピウスの方が」
「そっちの機体には別の役割の期待値が高いからなー。相手の無人兵器を封殺できるなら、後衛部隊でも安全に殲滅できるわけで」
「だったら、大型機動兵器の無人兵器を先行させた方が安全じゃないかしら」
「それはそうなんだよなぁ。やられても機体の損失だけで済むし」
アルフレッドも全ての事情を把握している訳ではないのだろう。
詳しく話を聞くならウェインだろうか。彼は教導部隊の隊長である。
「他社製の無人兵器部隊なんぞに大事な役割が回ってくるわけないだろ?」
「⋯⋯どちらさまかしら?」
会話に割って入ってきた男に対して、セイカは態とらしく首を傾げた。
どこの所属かは制服を見れば分かる。黒服の若者なので、執行部隊の新人だろう。
ミヤビがすごい顔で睨み返している。
「制服見たら分かるだろうが!隊長に気に入られてるからって⋯⋯」
「おいよ⋯⋯」
「ふーん?ウチのお気に入りとってわかってからんどるん?」
先輩の隊員が止める前に、その若い部隊員の顔側面に蹴りが入ってきた。誰の足なのかは言うまでもない。
顎を大きく揺さぶられ、新人隊員は一瞬で意識を持っていかれてしまった。椅子をなぎ倒して床に転がってしまう。
「跳ねっ返りな新米やな。ちゃんと教育しとくんやで」
「り、了解しました」
「次に止めへんだらアンタも同じ目に合うで」
「⋯⋯了解です」
屈強な中堅らしき隊員を顎で使い、エマは散らかった椅子とのびた新米を片付けさせる。
セイカとミヤビはなんだかんだエマの砕けた面をよく見ているため麻痺しているが、武闘派の部隊をまとめ上げる隊長なのだ。
「悪いなぁ。ウチのアホが迷惑かけて」
「⋯⋯貴女って本当に隊長だったのね」
「見直したかも」
「せやねん。ウチって隊長やねん。一晩どうや?」
「それは遠慮するわ」
「私も」
「つれへんなぁ」
このエマという女は残念な面を見せないと死んでしまうのだろうか。
「ま、冗談は置いといてやな。今の跳ねっ返りの言動が半分答えやね」
そう言い、エマはため息混じりに説明してくれた。
「アルメニア社なら知らんが、ウチの人間も多数は人間至上主義ってことやね。安全装置()セキュリティ)のついた自律AIが弱いってのもあるけど。本社の年寄り共は、態度はともかく偏見はあれより酷いで」
「そういう会議にあなたやモニス教授は出ないの?」
「30手前のウチは若造扱いやけど、ジイさんは発言力あるんやけどなぁ⋯⋯そこは本人問い詰めてほしいわ」
童顔のため同年代くらいに思っていたエマが想定より歳上だったことに内心驚きつつも、作戦内容について確認する相手が定まった。
あの変人博士も役職者なのだ。
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「え?いいじゃないか後備。ギリギリまで大型機動兵器の調整ができるし」
エガス・モニス教授の研究室。
キョトンとした様子の教授から返ってきた答えはこれだった。
つまりは自分達の都合に合致したため、戦力を読み違えている作戦に異を唱えなかったらしい。助教授の女性が同席していなかったら胸倉を掴んでいたかもしれない。
「⋯⋯え、なんでそんな怖い顔してるの?安全に越したことはないでしょ?」
「私は安全かもしれないけど、妹は先行する空挺降下部隊の配置なのよ?⋯⋯慣れない相手とチームで」
「ま、待ってください。ちゃんと理由がありますから!?」
声のトーンが幾分か下がったセイカとモニス教授の間にシェリー助教が慌てた様子で割って入ってきた。
その理由とやらをちゃんと説明してくれるらしい。
「たしかに大型機動兵器のハード面の近代化改修は完了し、無人兵器の指揮機としての機能は復旧しました!ただ、あの機体と搭乗者が最強と言われた理由の主兵装のシステム調整が済んでいません!後備であれば工程的に作戦投入に間に合うのです!」
「⋯⋯主兵装?無人兵器の指揮機能以外にもあるの?」
「⋯⋯搭乗されてて、まだ使った事のない装備があるのは把握されてますよね?」
「⋯⋯それは、たしかにそうね」
ただ、あの装備が戦闘で何の役に立つのかがセイカにはイメージできなかった。あれを兵装と言っていいものなのか。
「あの装備も無人兵器の指揮機能も主兵装の付属品でしかないんだよね。そもそも無人兵器を指揮するだけなら、小型化して見付け難くした方がいいからね」
楽しそうに話す教授が腹立たしいが、未完成の兵器を前線投入するのが危険であることは理解できた。
特に、セイカの制御下で動作が最適化された上に安全装置が外れた状態の無人兵器が暴走した日には目も当てられないだろう。
「⋯⋯まあ、理由は分かったわ」
ひとまず研究者側の考えを聞けたセイカは、ため息を付きつつもすっくと立ち上がる。
「あ、主兵装の説明は⋯⋯」
「実際に試す時でいいわ。お邪魔したわね」
セイカは話し足りなさそうなモニス教授とシェリー助教の研究室を後にした。
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「⋯⋯それで、俺のところにも来たわけか」
「どうにかならないの?」
「君は妹のこととなると極端に能動的になるな」
屋内演習場の管制室。教導部隊の隊長であるウェインのところにまでセイカはやって来た。
演習場のカメラと繋がっているモニターには 教導部隊本体の小隊に対して、中隊規模の訓練部隊がのされていく様子が映されている。
ミヤビのMⅢジョロウは教導部隊の小隊側である。アルフレッドのMⅢオロチと連携して、訓練部隊のMⅢレプスとMⅢスキュータムを演習用の樹脂塗料弾で蛍光色に染め上げていく。
MⅢジョロウもMⅢオロチもサブアームの追加装甲には樹脂塗料弾の被弾跡があるが、本体フレームは綺麗なものである。
2機のMⅢが互いの死角をカバーしつつ前衛を務めていた。
アルフレッドのMⅢオロチに気を取られれば、MⅢジョロウから砲撃が飛んでくる。
ミヤビのMⅢジョロウの重機関砲の射角を避ければMⅢオロチのサブアームの重機関砲からの砲撃が訓練部隊のMⅢに襲いかかった。
強化人間の操縦形式の大きなメリットの1つに安全装置を無視した攻撃が可能な点がある。標準レーダーが互いに当たってしまう位置に対しても躊躇いなくミヤビとアルフレッドは砲撃していた。
訓練だからと言うのもあるだろうが、互いに外套型の装甲を纏う機体であるため、中口径砲やレールガンといった高火力武器や機関砲のフルオート射撃をしない場合であれば誤射を気にする必要が無い。
MⅢジョロウのサブアームも、MⅢオロチのサブアームも必ず1つは味方側に向いていた。互いにフォローしやすくする為だ。
さらにもう1機、見慣れぬ細身のMⅢが翻弄された訓練部隊のMⅢに狙撃で無慈悲に撃破判定を与えている。形状はMⅢスキュータムのサブアームを取り払ってしまったような機体だった。よく見ると、MⅢの特徴である後方にせり出すコクピットブロックが無いように見える。
この見慣れぬMⅢも教導部隊側のようで、MⅢオロチとMⅢジョロウの影に隠れつつ、重機関砲で訓練部隊の死角を刺していた。
「⋯⋯これだけ連携できているのに何が駄目なのかしら?」
「君の妹とアルフレッドは相性が良く、即戦力であることは俺も上に伝えている。だが、エマと同じく俺も本社では若造扱いだ」
「⋯⋯貴方いくつなの?」
「30後半だ。⋯⋯なんだ?」
「⋯⋯いや。何も」
エマが童顔で子供のような見た目に驚かされたが、ウェインはウェインでエマより一回り近く歳上だった。
セイカは思わず引いてしまい、その感情が表情に出てしまったようだ。
「一応弁明させてもらうがエマの方が夜に迫ってくるんだ」
「でも、やる事はやってるんでしょ?」
「⋯⋯それはそうだな。アイツはバイだが男嫌いで俺も嫌われていると思っていたが⋯⋯今する話ではないな」
ウェインは脱線しかかった話を強制的に引き戻す。セイカも気になる部分はあるが、今は妹の事が優先なので異論はなかった。
「俺も上に伝えるべき事は伝え、君のMⅢバードイーターを前に出す許可は取付けた。俺にできたことはそこまでだ」
「そう。でも組むならアルビオン社の傭兵より、あの見慣れないMⅢを使ってるパイロットの方が良いわ」
「⋯⋯あれを動かしているのは君の妹だぞ」
思わぬ答えが返ってきてセイカは目を丸くする。
「強化人間用機、MⅢジェミニの子機ジェミニ'だ。大型機動兵器の無人機技術をダウングレードしMⅢに落とし込んだ機体になる。本来、MⅢ本体は隠れて無人機を前に出すんだが⋯⋯君の妹は自身の支援機として併用している」
ミヤビもセイカほどではないが無人兵器を並行して操縦できる。だが、メインで動かすMⅢジョロウの操縦の邪魔になるため細かい操作は苦手なはずだ。
「ミヤビは無人兵器の並行操作は⋯⋯」
「訓練させている。1機までなら問題なくなった。君程ではないものの無人兵器とセットならアル相手に勝てるレベルにはなっている。一対一じゃないとアルは認めないがな」
「そう⋯⋯初めて聞いたわ」
ミヤビからその手の話が出てきたことは今のところないはずだ。妹の成長が嬉しい反面、話してもらえていなかった事がショックでないと言うと嘘になる。
「専用機開発に関わる部分だからな。彼女には他言しないよう指示が出ている」
「身内にも?」
「マニュアル上はそうなっている。通常、家族が関係者とは限らないからな」
それは確かにそうだ。
兄弟姉妹、親子で同じ会社に勤めるとは限らない。
「それと、アルビオン社の傭兵の件だが君や君の妹との相性と言うなら問題ないだろう」
「⋯⋯どういうこと?貴方は相手を知ってるの?」
「俺とアル、君達も知っている相手だ⋯⋯呼び出しか。詳しくは明日、奴等がここに来てから話そう」
ウェインはモバイル端末の通知を確認すると、煮え切らない返答だけ残して管制室から出ていってしまった。
流石にこれ以上、仕事の邪魔をする訳にはいかないだろう。明日話すと言うのであればそこで問い詰めよう。
セイカは今は不得手を克服しようとしているミヤビを労う事を優先することにし、管制室を後にした。




