operation.70_戦場への帰還2
この先下記作品の既読前提で進めていきます。
City State 隔たれた世界
時間軸的にもCity State 隔たれた世界の終章→Sisters of LAWS 2人の軌跡の序章となっています。
「あの娘はいったい何なんだい!?」
「知らん⋯⋯が、即席のMⅢで少尉さんのサポートできるような子供⋯⋯ってなったら在籍は限られるな」
コバルトが乗り込んだMⅢレプスは切り離した荷車をひっくり返すような跳躍をしたかと思うと、流れるように前線に加わっていった。
「理路整然としていて、薬物の臭いもしない少年兵を抱える組織⋯⋯ジパング・インダストリーの連中は初対面そうだったが⋯⋯」
「⋯⋯その辺りはあまり考えたくないね」
ハワードの推論を頭を振ってカズサは拒絶する。
巨大組織に関わるのは確かに稼ぐチャンスではあるが、敵対する組織からも狙われることになる。ちょうど今のように。
コバルトは、今はクレアのMⅢレプスの真逆の位置取りをして追跡者を撹乱している。1機、盾持ちのMⅢクーガーが落とされたものの、ミサイル持ちが盾を回収して代役を務め、9機に対して半数以下の4機で戦線を維持していた。
ミサイラーのMⅢクーガーが1機撃墜した。
相手は残り8機。
「少尉さんとコバルトちゃんは飛び抜けてるが、新米傭兵2人もしっかりしてんな。盾や障害物に隠れる戦法を軽視する馬鹿傭兵もいるが、こっちに射線を取らせない堅実な防衛戦法だ。どっかの都市軍の脱走兵か?」
「そこは詮索してやらないのが優しさだよ。そんな事より、さっさとギルドから援軍が来てくれないかね⋯⋯」
クレア、コバルト、傭兵2人も攻撃よりも自分達がやられない事を優先に動いている。
傭兵2人は特に防衛に重きを置いてくれているが、クレアとコバルトは機体の特性上そういった戦闘には不向きだ。そのため、攻撃よりも回避運動と牽制が主軸に置かれている。
流れ弾でキャラバンが被弾しても多少の被害で済むが、クレアとコバルトがやられると戦線が崩壊するため当然の戦術だ。
だが、どうしてもセイカの行う無人兵器による戦術と比べてしまう。多少の相手はスコルピウスの長距離砲がアウトレンジで仕留め、クラッドビートルが確実に射線を塞ぐ。
そして、無人兵器のため、やられたとしても人的被害は出ない。
本職ではないカズサにとってはクレアとコバルトが危ない綱渡りをしているようにしか見えないのだった。
「アウトベースの方角に飛翔体確認!」
「やっと来たかい」
「数⋯⋯え?」
言い淀む通信担当に、カズサは首を傾げる。
「どうしたんだい?」
「きっ企業連合、アルビオン・バイオニクスの識別信号です!数2!」
「はぁ!?何だって他社経済圏に!?」
「いや、姉さん。この増援は答え合わせみたいなもんだろう」
増援の連絡にハワードはため息をついた。
コバルトの年齢と見た目に似合わない戦闘練度。
暗黒大陸の都市国家アイアス出身のクレア・アーノルド少尉と顔見知り。
そして、暗黒大陸を経済圏に収める企業連合は1つしかない。
「コバルトちゃんはアルビオン社の傭兵かい⋯⋯。全く、若い娘が命を粗末にする仕事になんて就くもんじゃないよ⋯⋯」
「そこは個人の価値観の問題だろ」
世話焼きなカズサらしい物言いにハワードは肩をすくめる。
「こちら、アルビオン・バイオニクスのルージュ・キース。そこのキャラバン、聞こえてる?」
「こちらキャラバン所属の輸送隊バンジュウだ。救援感謝する。状況は見ての通りだと思うが⋯⋯」
グリッドがルージュと名乗った軽薄な口調の女性の声に返信する。
「OK、OK。コバルトちゃんからデータ貰ってるからね。ところで、コバルトちゃんは?」
「ウチのMⅢレプスを使って戦闘中だ」
もはやコバルトの所属を隠すつもりもないらしい。
「なるほどね。では、後はこちらにオマカセでよらしい?」
「よろしく頼む 」
「頼まれました。じゃあこのまま降ろして。一直線に行くよ」
通信が切れる前にバンッという爆発音が遠目に耳に入ってきた。おそらく大型輸送ヘリと接続していた分離ボルトが炸裂したのだろう。
遠方に見えていた大型輸送ヘリのシルエットから人型のような影、MⅢが分裂した。
わずかに間を置いて、真っ赤なMⅢが砲弾のように輸送車両の車列とすれ違っていった。
「あれはアルビオン社の最新モデルMⅢファングか?かなりの重装備に見えたけど、あれであの速度が出るのかよ」
シルエットが変わるほどのフル装備だったが、戦闘機のような胴体形状をハワードは見逃さなかった。
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「増援来ました!突っ込んで来ます!」
「了解!」
「アルファ3了解」
「アル⋯⋯あ、アルビオン!?助かった!!」
全機がレーダーに映った新たな機影の存在に気付いた。
敵味方含めて。
隠れることなどまるで考えていない、真っ赤な塗装を施されたMⅢだ。
「あの機体はルージュのMⅢファングか」
乗り手を知っているコバルトとクレアは真っ直ぐに敵隊列に向かっている機体がアルビオン・バイオニクスの最新量産モデルのMⅢファングだと分かった。
機体を覆うように展開された増加装甲のせいで、他のパイロット達は機種を特定できなかった。
分かるのは明らかに出力に特化した突撃型のMⅢであることだけだ。陣形を喰い破り、連携を破綻させるために狂った獣のように突っ込んでくる。
「砲撃中止です!タイミングを合わせて掃射します!」
「タイミング!?」
「見てればわかります!」
両翼をクレアとコバルトのMⅢレプスに抑えられた状態で、ヘイロン都市軍のとれる対応は少ない。
「そんな小雨じゃ私の機体の装甲は抜けないよ!!」
とられた対策は4機のMⅢによる集中砲火だった。
残りの4機はクレアとコバルトから目を離せないため、現状出せる最大の火力だ。
だが、赤いMⅢは重機関砲の砲弾を弾き、ミサイルの爆炎を突き抜け、速度を落とす事はない。
「⋯⋯あれ、衝突しませんか?」
「あの装甲はそういう武装です」
アルファ1の懸念に答えたのはコバルトだった。
明らかな正面衝突ルート。
全く減速や跳躍の兆しを見せない赤いMⅢはむしろ加速して突っ込んでくる。
そのチキンレースに臆したのは当然ながらヘイロン都市軍のMⅢクーガーの方だった。
逆噴射で速度を殺し、軌道を変更しようとした。
「あ、あの動きですと弾け飛びますね」
この状況でMⅢファングを避けることができるのはMⅢレプスのような小回りの利く軽装のMⅢか、運動性能の高いアルメニア・エレクトロニクスのMⅢレックス程度のものだ。
数で勝っているのだから、本来ならホバーエンジンの出力を押さえるか、最大出力で衝突して足を止めさせるべき所だ。
MⅢクーガー2機の最大出力であれば、追加のホバーエンジンが搭載されているMⅢファングでも十分受け止められる。
機体は正面フレームと腕部フレームが歪み、スクラップになるだろうが、衝撃で脱出装置が作動しパイロットが死ぬことはないのだから。
正面から鉄塊が迫る状況で、そんな事を冷静に考えられるパイロットはヘイロン都市軍にいなかったようだ。
「あはははははは!」
赤いMⅢのパイロットの高笑いが通信越しに響いてきた。
前方に進むための推力が抑えられてしまったMⅢクーガーではMⅢファングの凶行を静止できなかった。
轟音とともに、2機が後方に転倒し、1機がその転倒に巻き込まれ姿勢を崩し、膝をついた。
対して赤いMⅢは追加装甲に凹みと傷ができるものの、それだけだ。MⅢクーガー2機を弾き飛ばすとそのまま通り過ぎる。
後ろから見るとわかるが、増加装甲は肩関節部に接続されており、裏面には追加のホバーエンジンとバーニアが備え付けられていた。
そのため、ホバーエンジンで半浮遊状態のMⅢに衝突したところで、機体フレームにダメージはほとんど入っていない。
赤いMⅢはホバーエンジンの出力を急激に落として脚部と大地の摩擦を復活させる。
足裏のスパイクが大地に擦れることで急制動がかかりオートバランサーが悲鳴を上げるが、大地の摩擦と脚部側面のバーニアが火を噴くことで、赤いMⅢはドリフトしつつ180°機体を回転させた。
機体が静止すると、追加装甲が左右に開かれた。
MⅢファングの両腕には多弾倉砲が2つ。
「反応が遅い!!」
転倒した状態、または背面、側面を見せている無防備なMⅢクーガー8機に対機動兵器用の貫通弾が装填された多弾倉砲が火を噴いた。
両翼にいたクレアとコバルトのMⅢレプスも、ルージュのMⅢファングに合わせフルオートで掃射する。
意図を理解したアルファ1とアルファ3もワンテンポ遅れて砲撃を開始した。
結果的に、新米傭兵達が思っていたよりも呆気なく勝利を収めることができた。




