operation.69_戦場への帰還1
この先下記作品の既読前提で進めていきます。
City State 隔たれた世界
時間軸的にもCity State 隔たれた世界の終章→Sisters of LAWS 2人の軌跡の序章となっています。
「アルファ3!やれ!」
「アルファ3了解」
クレアのMⅢレプスに注意を引かれた敵MⅢに、アルファ3と割り付けられた新米傭兵のMⅢクーガーが対戦車ミサイルを放つ。
視界の外れた位置から高速で接近する誘導兵器に反応しきれず、ヘイロン都市軍のMⅢはコクピットブロックを撃ち抜かれた。
制御を失った機体はミサイル着弾の衝撃に対応しきれず、地に転がった。
「アルファ3よりアルファリーダーへ。ミサイル残弾6」
「アルファリーダー了解」
クレアの指示で新米傭兵の重機関砲持ちに都市軍へ先制攻撃させただけあり、時間稼ぎはできていた。
戦闘のMⅢ輸送ヘリを撃ち落とされたヘイロン都市軍側はヘリで輸送隊バンジュウの車列を囲むのは諦め、MⅢでの追撃に切り替えた。
アルファ1の重機関砲とアルファ2の機関砲で弾幕を張りつつ、クレアのMⅢレプスが前衛を務めて相手を撹乱している。
ヘイロン都市軍のMⅢ部隊は12機。2機大破し残り10機。
機関砲の弾幕に重機関砲の砲弾が混在しているため、追撃する彼等は新米傭兵の砲撃を無視できない。だが、足の早いMⅢレプスに回り込まれると機関砲と多弾倉砲の散弾でMⅢの武装を破壊される。
致命打になりかねない前方からの攻撃の対処を行いたいが、威力は低いものの火力を削いでくる側面からの攻撃も無視できない状況を意図的に作り出していた。
「アルファ2!アルファ3をフォローしろ!」
「くっそ!俺は盾役かよ!あんたも敵を落とせよ!多弾倉砲なら大口径弾も使えるんだろ!」
「⋯⋯それは駄目だ」
「なんでだよ!?」
アルファ2の愚痴にアルファ3がため息混じりに応じる。
クレアはあえて多弾倉砲では散弾のキャニスター弾のみ使用していた。ミサイラーの新米傭兵は理由を理解しているようだ。
回り込んでくるMⅢレプスに高い火力があると発覚すれば、都市軍の攻撃目標がクレアに定まってしまう為だ。
「今のところなんとかなってますが⋯⋯」
「それでも数の差はキツイ。早々にあきらめてほしいとこだな⋯⋯」
その様子を観察しながらコバルトは状況を確認する。
足の速さで言うなら、車両よりもMⅢの方がはるかに上である。まだ追い付かれていないのは、アルファ3の火力を中心にした防衛戦術が辛うじて機能しているためだ。
ただ、これは1機でも欠けると破綻してしまう。
欠けなくとも、アルファ3のミサイルが弾切れになるまでしか使えない。
「ハワードさん。後ろのMⅢレプスは動きますか?」
「え?そりゃ動作試験時の燃料も残ってるし、動くけど⋯⋯」
さすがに潮時だ。
保身を考えろと言うなら、今は正体を隠している場合ではない。
「機動は可能ですか?可能なら遠隔で」
「できるが⋯⋯って待て!?使い捨ての囮にするなんて言わねえよな!?」
「私が使うためです」
コバルトの言葉にハワードは呆然とする。明らかにコバルトは年端のいかない子供であるため、仕方のない反応だ。
「⋯⋯なんの冗談⋯⋯」
「あんたら何言ってんだい!?」
カズサも通信を聞いていたのだろう。割って入ってきた。だが、問答している場合でもない。
「冗談かどうかはプロに聞けば分かりますよ。クレアさん!」
2人のの返答を待たず、コバルトはクレアに通信を繋いだ。
「コバルトちゃん!?何だ!?」
「荷台のMⅢレプスで出ます。フォロー願います」
クレアの返答には、少しだけ間が空いた。
「⋯⋯いいのか?」
任務の事はジパング・インダストリーの都市外施設で彼女に話してある。本来であればコバルトは目立つ行動をすべきでない。
「ここでおかしな都市に拘束されるのも、死ぬのもゴメンです」
コバルトは軽業師のような動きで大型輸送車両の窓から運転席の上に飛び上がった。
「⋯⋯っと、見惚れてる場合じゃねえ!おい!後ろのMⅢレプスを起動しろ!電源は繋がってんだろ!」
呆気にとられていたハワードだが、すぐにコンテナ車両に控えている整備士達に指示を飛ばす。
「了解した。フォローさせる。アルファ3!ミサイルを1発使用しろ!敵の注意をそっちに向ける!MⅢの起動フォローだ!」
「⋯⋯アルファ3了解!」
「はあ!?明らかにガキの声だったじゃねえか!」
「お前は口よりも機体を動かせ!」
ミサイラーのアルファ3から怒鳴られ、アルファ2は舌打ちをする。
「ふざけんな!こんなの勝ち目なんて無いじゃねえか!!俺は離脱する!!」
「おい!バカな真似はよせ!!」
よりにもよって、このタイミングで精神面の限界が来るのか。コバルトは内心で舌打ちしつつも、コンテナ車両の天井を走る足は止めない。
大型輸送車両のコンテナの向こうで航空機のエンジン音のような甲高い駆動音が響いた。連結された荷車上に鎮座していたMⅢレプスのホバーエンジンに火が入ったのだ。
それと同時に連続する砲撃音が響いた。
「⋯⋯あのバカ!よりにもよって背を向けて逃げる奴があるか!!」
コバルトは起動させたMⅢレプスが狙われたのかと身構えたが違っていた。
迂闊な行動をとったアルファ2のMⅢクーガーに、フルオートで放たれた重機関砲の砲弾が襲いかかったのだった。
コクピットブロックに被弾し、コントロールを失ったMⅢが地に伏した。
「アルファ3よりアルファリーダーへ!アルファ2大破!」
「クソっ!クソっ!」
「⋯⋯っアルファ3!大盾を拾えるか!?」
アルファ1のパイロットも危うそうだ。コバルトはコンテナ上から梯子を滑るようにして下に降りる。する荷台へ繋がる足場から整備士の男が操縦用ヘルメットを片手に手を振っていた。
「コバルトちゃん!これが1番小さいサイズだ!」
「助かります」
「セイカちゃんから買ったヘイロン都市軍の重機関砲が荷台に乗ってるからすぐに使えるぜ!」
セイカがジパング・インダストリーの都市外施設に来る時、襲ってきた都市国家ヘイロンのMⅢを乗っ取って装備を拝借したことをコバルトは知らない。
コンテナに入り切らない分はMⅢレプスの荷台に合わせて積まれ、さらにはMⅢレプスのマニピュレーターに保持されていた。
「⋯⋯お言葉に甘えます」
なんでそんなものがと思いつつも、使えるものは使うしかない。頷いたコバルトはMⅢレプスのコクピットに転がり込んだ。
整備士達の遠隔操作ですでにシステムまで起動していた。
「アルファ3被弾した!右腕部破損!」
操縦用ヘルメットを被るとそんな通信が耳に入ってきた。あまり時間は無さそうだ。
「荷車を切り離してください!!」
コバルトが乗り込んだMⅢレプスのスピーカーから響く声に、整備士の男は黄色と黒のフレームに守られたコンテナ壁面のボタンに拳を叩き付けた。
分離ボルトに点火され、車両の接続部で小さい爆発が起こった。
MⅢレプスの積まれた荷車が大型輸送車両の速度から遅れ、離れてゆく。
コバルトは躊躇うことなく、ホバーエンジンの出力を最大⋯⋯戦闘出力まで引き上げ、脚部制御用のフットペダルを踏み込み、そして蹴り上げた。
コバルトの操縦の指示に従い、MⅢレプスは荷台の上で足を大きく折り畳んでから大きく跳躍した。
衝撃に耐えきれなかった荷台はひっくり返り、MⅢレプスが保持していた2台の重機関砲以外はともに地面に転がる。
「なるほど。MⅢレプスが軽量級の傑作機とも言われるわけですね」
まさにウサギである。高い運動性能による瞬発力の割に、慣性による操縦のストレスが少ない。そもそもこの小柄な機体が軽いのだ。
もしかしたら重機関砲2台は積載量ギリギリだろうか。そもそも2台もいらない。
コバルトは、左腕部のマニピュレーターに保持された重機関砲をマニュアル操作で隊列を組むヘイロン都市軍に向けて投げ捨ててしまう。
細い腕部の割に出力も瞬発力もある。アクチュエーターは人工筋肉が主体なのだろう。
バーニア制御のフットペダルを踏み込み、空中で姿勢を整えホバリングさせた。
ヘリのようにその場に留まることはできないが、自由落下の速度を大幅に遅らせる事ぐらいは通常のMⅢでも可能だ。
「狙う必要もないですか」
システムのオートロックがヘイロン都市軍のMⅢクーガー部隊に標準を定めた。
コバルトは即座に操縦桿の引き金を引いた。
高度差のついた状態から、重機関砲の砲弾が隊列を組むMⅢに降り注ぐ。
反応できなかった1機の頭部が吹き飛び、もう1機はコクピットブロックの上面に風穴を空けた。
着地しても足は止めない。
軽量級だからといって正面装甲を一撃で貫通されることはないが、機動力に突出した機体で正面から撃ち合うメリットはない。
「私は少尉の逆⋯⋯左翼側から撹乱します!」
「頼んだ!」
頭部を破壊したMⅢクーガーはまだ生きているようだ。クレアとアルファ3の撃破数を合わせて3機大破させているが、まだ9機⋯⋯3小隊分の戦力が残っている。
火力の高い重機関砲を搭載したコバルトの駆るMⅢレプスに注意が集中した。
クレアはその隙を見逃さない。
多弾倉砲の弾倉を切り替え、対機動兵器ようの中口径の貫通弾を装填した。
隊列の隙、クレアのMⅢレプスに対して側面を見せているMⅢクーガー。隊列が乱れによるフォローの綻びに向けて先程とは異なる砲弾が飛び込んだ。
側面から胴を撃ち抜かれたヘイロン都市軍のMⅢクーガーが1機、横転した。高い授業料と共に、ヘイロン都市軍は戦力の読み違いを痛感することとなった。
「撤退しろ!こちらには間もなく増援が到着する!」
クレアがスピーカーでヘイロン都市軍のMⅢ部隊に呼びかけるが、応じる様子はない。少なくとも残った3小隊を指揮している隊長機を潰す必要はあるようだ。
「警告はしたぞ!」
返答は砲弾で帰ってきた。
クレアのMⅢレプスはロックオンアラートに合わせて機体を切り返しており、オートロックの演算が狂った砲撃は明後日の方向に飛んでいく。
「コバルト!隊長機は分かるか!?」
「全機同機種なので識別できていません。このMⅢレプスに電子戦装備はないので特定もできません」
引き続き、時間を稼ぐ方針となった。




