operation.68_都市軍強襲
この先下記作品の既読前提で進めていきます。
City State 隔たれた世界
時間軸的にもCity State 隔たれた世界の終章→Sisters of LAWS 2人の軌跡の序章となっています。
「コバルトちゃん、少尉さんと知り合いだったのか」
「⋯⋯ええ、一応」
「つまり暗黒大陸方面の出身か。かわいい見た目に似合わずたくましい訳だな」
コバルト自身からカミングアウトしたのだから、ハワードの耳に入っていても当然か。
どちらにせよアウトベースに戻ればアルビオン・バイオニクスの傭兵としての仕事に戻る。そのためコバルトはこの程度の情報漏洩は仕方ないと諦めていた。
「じゃあジパング社のMⅢや機器は物珍しい感じ?」
「そうですね⋯⋯ただ、規格や仕様は似通ってるので困りはしないですね」
「まぁ量産品はその辺りは足並み揃えてるよな。基本的にMⅢは初期ロットを作ったフェデラル・エンジニアリングの規格がベースだ。整備性に関わってくるから仕方ないが」
MⅢの構造上、ジパング・インダストリー製のMⅢのボディにアルメニア・エレクトロニクス製の脚部を取付けるといったことは物理的には可能だ。
ただ、操縦システムや重心の調整を行わなければ反応速度や安定性が極端に低下する上に整備性が悪化する。そのため、大掛かりな改造はよほど稼いでいるかこだわりのある傭兵しか行わない。
基本的にはエンジンやアクチュエーター、ベアリングといった重心やシステムへの影響が少ない内装面の改造が多い。
ハワードは運転をしながらそんなウンチクをコバルトに聞かせてくる。
「⋯⋯そんな仕事に関わること、私に話していいんですか?」
「ジパング社で手伝ってももらって思ったんだけど、コバルトちゃん器用だし気が利くし、良い整備士になれんじゃないかなって。ウチはいつでも歓迎だぜ?」
口説かれていたらしい。
カズサが聞いていたら目くじらを立てている所だろうか。だからこそ2人きりのこのタイミングにそんな話をしたのか。
まあ、アウトベースに戻ったら行方を眩ませる予定なのだが、悪い気はしなかった。
「⋯⋯考えておきます」
「ああ、考えといてくれ」
そんな軽口を叩きながら変わり映えのしない景色を進んでいく。大型輸送車両は車高が高いため、普段のコバルトの目線よりも遠くを見渡すことができた。
気温が下がって乾燥した青空は淡く、遠くの鳥も見渡せる。
だからこそ気が付いた。
「あれは⋯⋯?」
「ん?なんだ、鹿か鴨でも⋯⋯」
ハワードの冗談半分の言葉ともにサイレンが鳴り響いた。甲高く鳴り響く警告音は空の脅威を報せる空襲警報だ。
ハワードは肩をビクリと震わせる。
「この音は何度聞いても慣れねえ⋯⋯」
「全車両!全機!3時の方向だよ!目の良い奴は機影を確認しな!!」
カズサの怒鳴るような指示が通信機越しに響き渡った。
「輸送ヘリ⋯⋯MⅢを懸架した輸送ヘリです!」
「え?コバルトちゃん見えんの!?」
「シルエットだけですが⋯⋯」
目を凝らしても、流石に機体にマーキングされている所属の紋章や文字までは見えなかった。
遺伝子レベルで調整されている人造人間だからこそ当然のスペックだが、本来は肉眼でこの距離を視認できるのは一部の人間の能力だ。
「了解だ⋯⋯、目視で確認!MⅢを吊った大型輸送ヘリだ!所属は不明!」
「はあ!?あんた見えんのかい!?」
「望遠鏡だよ!目で見えるのは点だけだ!」
それでもハワードはコバルトの言葉を信じてカズサに報告してくれた。
「点が見えるだけでも大したもんだね⋯⋯。速度上げるよ!新米傭兵ちゃんはさっさと目標を確認しな!」
「も、目標確認!数⋯⋯およそ10機!都市国家ヘイロン都市軍!」
新米傭兵が重機関砲の望遠カメラでようやく目標を捕捉した。あがってきた報告にカズサは舌打ちをする。
「報告にあった都市国家か⋯⋯!ギルドに救難信号出しな!新米傭兵ちゃん達も報酬は減るけど文句は無いね!?」
「ありません!」
「ってか、なんで都市国家が襲ってくるんだよ!?」
「ギルドからのメールを読めと言ってるだろ!」
「ガタガタ言ってんじゃないよ!!」
くだらないことでモメる傭兵にカズサが一喝を入れ黙らせた。戦闘が本職ではないにしても流石に場馴れしているようだ。
「少尉さん。指揮を任せていいかい。新米傭兵じゃ荷が勝ち過ぎてる」
「了解した。目標は増援到着までの時間稼ぎでいいな」
「ああ。頼んだよ」
密偵や間諜のような情報戦の分野ではポンコツ気味なクレアだが、小隊長を務める本職の軍人である。現状から妥当な作戦目標を即座に決定した。
「重機関砲持ち!君はアルファ1だ!大盾持ちがアルファ2!ミサイラーはアルファ3!」
「は、はい!」
「おい勝手に⋯⋯!」
「アルファ3了解。黙って役割をこなせ」
新米と言っていたが、彼らも最低限の訓練を受けているように見える。特に誘導兵器と最低限の機関砲と腕部追加装甲のみのパイロットは比較的落ち着いていた。
任せても問題ないかもしれないが、コバルトは外に目を向けつつモバイル端末を素早く指で操作する。
「コバルトちゃん何やってんの?」
目敏い⋯⋯というか、整備士達をまとめているだけあってハワードはしっかり周囲を見ているようだ。
「ちょっと⋯⋯メッセージを」
「⋯⋯まぁ、気持ちは分かるけども。もう少し楽観的にいこうぜ」
何やら遺言でも打ってるのかと勘違いされたようだが、それならその方が都合が良かった。
ハワードへ苦笑いを返しつつ、コバルトは送信ボタンをタッチした。
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「あ、コバルトちゃんからメッセージ来た」
「ホント!?」
「いや、そんな嘘付かないよ」
アウトベース内、アルビオン・バイオニクスが活動拠点を置く駐屯地エリアのガレージ。そこで機体チェックをしていた赤毛の女性⋯⋯ルージュはモバイル端末の通知音に気が付き、ポケットから取り出した。
「でも、私の方には来てない⋯⋯」
「仕事用のチャットじゃないね⋯⋯ちょっと機体から降りるよ」
内容を確認したルージュは
赤毛の女性の言葉に、簡易テーブルにセットされたコンピューターに向かっていた白衣の女性はそわそわした様子でルージュのMⅢ、ファングの足下まで寄ってきた。
「ドリー!そこにいられたら降りれない!」
「ご、ごめんなさい!」
このコバルトとルージュの専属チームドクターは能力はあるもののどうにも現場慣れしていない。
そもそも戦闘用の人造人間についているというのに、命の危険のある仕事に出ることを嫌がる始末である。ルージュとコバルトは愛玩動物でも偶像でもないことをきちんと理解してほしいところだ。
ルージュはMⅢファングから降りると、自分のモバイル端末をドリーに投げてよこした。
「私はパイロットスーツに着替えてくる。整備士連中に私のファングとコバルトのリンクスを輸送ヘリに繋がせて。私が戻ったらすぐ出すから」
「ええ!?」
ルージュはそう言うと、そそくさと更衣室のある通路へと姿を消してしまった。
ドリーは目を丸くしつつ、赤い女性のモバイル端末のメッセージを確認した。
"帰還道中襲撃あり。救援求む。ギルドの緊急依頼を確認"
「せ、整備士長さん!!」
「どうしたドリーちゃん?血相変えて」
普段からドリーを挙動不審な様子を見慣れてしまっている整備士長は首を傾げつつ、モバイル端末を覗き込む。
そして、すぐに顔が険しくなった。
「MⅢファングとMⅢリンクスの出撃準備だ!ウチの輸送ヘリ2機!すぐに持ってこい!!」
「コバルトちゃんはいませんよ!?」
「コバルトちゃんとこに持っていく為だ!馬鹿野郎!!ギルドに来てる!手隙の奴はキャラバン救援依頼を確認しろ!ジパング社の都市外施設との輸送経路座標のやつだ!!」
「了解ー!!」
唐突に怒鳴り声で周囲に指示を飛ばした整備士長にドリーは思わず耳を覆っていた。
ドリーとしては、この汗臭くてオイル臭くて耳に悪い現場の雰囲気はどうにも慣れない。
「ドリーちゃん」
そして、自分の事もちゃん呼びである。
「医療設備、再生ポッドはいつでも使えるようにしといてくれ」
「わ、わかりました!」
やはりというか、戦闘に出るのだ。
ドリーは眉間に皺を寄せつつも整備士長の言葉に頷いた。




