operation.67_都市外施設を後に
この先下記作品の既読前提で進めていきます。
City State 隔たれた世界
時間軸的にもCity State 隔たれた世界の終章→Sisters of LAWS 2人の軌跡の序章となっています。
「コバルトちゃん。運転うまいねー」
「⋯⋯ありがとうございます」
ハワードの世辞に、コバルトはハンドルを握ったまま返事を返した。MⅢの操縦に比べれば、大型輸送車両の運転などかわいいものである。
「じゃあ、休憩のタイミングまでよろしく」
「はい」
結果だけ言うなれば、コバルト・キースは無事にジパング・インダストリーの都市外施設を後にすることができた。
プライドやら自信やらは傷だらけになってしまったが。
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「君はアルビオン・バイオニクスの人間だな」
「⋯⋯なぜそう思うのですか?」
ウェインの言葉に肯定はせず、コバルトは問い返した。
「結論から言うと、アルフレッドと君の知り合いから聞いた。まあ、運が悪かったとしか言えないな」
未だに認めないコバルトに、ウェインは呆れると言うよりバツが悪そうな様子だ。
やはりと言うか、元凶はあの少年兵だったようだ。
「まずアルフレッドでないと君が普通の子供ではないと気付けなかっただろうな。俺も他の連中も、警戒している時でもないと他所に所属してる子供の歩き方まで見ていない」
確かに彼はコバルトが戦闘訓練を受けていると看破してきた。それでも興味本位で声をかけてきただけだった。
「⋯⋯それで、知り合いとは」
「ウチに研修で来ているクレア・アーノルド少尉殿だな」
青い少女は天を仰いだ。
そう言えば、ニコルから彼の姉の友人がこちらに来ていると言っていた。
軍人がどこに配属されているかは世間が考えるよりも機密性が高い情報の為、誰が来ているかまでは聞くことなどできなかった。
「アルフレッドが世間話で少尉殿に君の事を話したようだ」
その結果として、クレアからアルビオン・バイオニクスの名前が出てウェインまで報告が上がってきたとのことだ。
アルフレッドは奔放な少年のように見えて、報告、連絡、相談がきっちりできる人物らしい。
「⋯⋯それで、私をどうするんですか?」
もはや投げやり気味に問うと、ウェインは首を傾げた。
「言っただろう。情報交換がしたいと」
「⋯⋯え、まさかそれだけですか?」
「俺は君の事を上には上げていない。情報は重要だ。命を天秤にかけているような人間にとっては特にな」
つまりは裏取引ということか。
「俺はアルビオン・バイオニクスの情報が得られ、君も危ない橋を渡って得ようとした情報を得られる。互いに悪い話ではないと思うが」
などと彼は言うが、端からコバルト・キースに選択肢など無かった。
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思い出したら腹が立ってきた。
とりあえず、ウェインにクレアと繋いでもらってクレームを入れておいたが、そもそも後の祭りである。
「コバルトちゃん?なんか嫌なことでもあったか?」
「⋯⋯いえ、大した事ではないです」
表情に出てしまっていたのか。コバルトは小首を傾げるハワードを流す。
ひとまず、コバルトが正体を知られたのはウェインとアルフレッド、クレアの3人のみで済んだ。
ただ、コバルトはなんだかんだ言いつつも、見知らぬ土地での知り合いとは貴重なもののため、都市外施設を離れる日までの間ちょくちょく会いに行っていた。
また、正体を知ってから、特にアルフレッドが世話を焼いてくれた。特定の2人からの視線が痛いことを除いてはありがたいことだった。
「そうか?もし体調悪かったら言ってくれよ」
「はい。ありがとうございます」
女性のあの日と勘違いしてくれたようで、ハワードはそれ以上コバルトの機嫌については言及してこなかった。
コバルトはアウトベースへ帰るキャラバン、バンジュウの車列にて自身の運転する大型輸送車両の位置取りを再確認する。
基本的にキャラバンの荷運びにおいて、帰りが身軽になるという事はほぼ無い。帰りは帰りで荷物を請け負い、自分達も戻った際に販売するための商品を仕入れたりもする。
ハワードの整備会社が担当する大型輸送車両に関してはむしろ荷物が増えていた。大型輸送車両の牽引車は
普段引いているコンテナ車両の後ろにもう1台荷台を繋ぎ、そこにMⅢレプスが積載されていた。
「報酬にMⅢなんてもらってどうするんですか?」
彼らの今回の仕事の報酬の一部らしい。
「単純に趣味だが、部品取りに使えるし卸値で貰ってるから販売しても普通に利益が出るぞ」
パイロットでもないのに物好きなものだ。
MⅢと言うなら、ギルドの傭兵のMⅢクーガー3機が車列の護衛をしている。
「そう言えば、帰りの護衛はセイカさんではないのですね?」
「そもそも、セイカちゃんの無人兵器群の輸送も仕事の内だったらしいからな。アウトベースに戻しちまう訳にはいかないんだろ。新米らしいが、ジパング・インダストリーのお膝元で襲ってくる賊もいないだろ」
アウトベースからMⅢ用の輸送ヘリでわざわざやってきたらしい。新米ということもあって、護衛としての配置はカズサが行っている。
そしてもう1機、都市迷彩のMⅢレプスが随伴していた。
「んで、あっちは遠方の都市国家の少尉さんらしいな。道連れついでに護衛してくれるらしい。えーっと、名前は⋯⋯」
「クレア・アーノルド少尉殿です。都市国家アイアスの少将のご息女ですよ」
「見た感じお嬢様〜って感じじゃなかったけどな。カッチリした軍人さんだったな」
軍人としては礼儀作法もしっかりしるためそう見えるのだろう。
コバルトからすると、人柄はともかくあまり秘密の共有はできないノンデリな女性といった印象だ。ジパング・インダストリー都市外施設でのトラブルの元凶でもある。
立ち位置を共有していなかった事は所属組織が別のため棚に上げているが。
「MⅢ用の輸送ヘリで軌道エレベーターまで移動してもいいだろうに」
「セイカさんとも面識があるようですし、友達の友達は友達というタイプの人なんでしょう」
「俺等からするとありがたい事だな」
本当はコバルトがいたからというのも理由の1つなのだが、流石に口にできる事ではない。
「しかし、都市国家の軍人とギルドや企業連合の傭兵ってなると、どっちが強いんだろうな?」
「⋯⋯セイカさんとミヤビさんも彼女の事は話してましたけど、下にはみてなかったですよ。人によるのではないでしょうか」
ハワードの世間話に相槌を打ちつつ、コバルトはこれ以上自身の身の上がバレないことを祈るばかりだった。
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「へえ、少尉さんはもう結婚してるのかい」
「ええ。まぁ⋯⋯父の紹介で」
ジパング・インダストリーの都市外施設を出て初日の野営。クレアはやはりと言うかカズサに絡まれていた。
カズサ・オオザキという女性は特に若い女性に対してお節介と言うべきか、やたらと世話を焼こうとしたり話を聞こうとしたりしてくる。
こういう人柄の人物が中心にいるからこそ、このキャラバン所属の運送会社は女性の比率が高いのだろう。
それよりも、クレアがチラチラとコバルトに目を向けてくる事の方が問題だ。
「なんだい。コバルトちゃんが気になるのかい?まぁ、こんなちっさい娘が働いてるとなると気にもなるか」
「ああ。私が同じくらいの歳だと学生だったので」
ジパング・インダストリーの事もあり気にしているのだろうが、この軍人は致命的に隠し事が下手だ。
こんな事で軍の秘密を守れているのだろうか。
流石に少し鬱陶しい。
「⋯⋯クレアさん。私と知り合いであること位は話していただいても大丈夫です」
「あ、そ、そうか」
「なんだい?2人とも知り合いなのかい?となると、やっぱりコバルトちゃんも良いとこの娘なのかい」
「良いとこの⋯⋯と言えば確かに⋯⋯」
「そこは隠してください」
コバルトからピシャリと制止され、クレアは口を噤む。
彼女に余計なことを話させないためには話題をこちらでコントロールした方が楽そうだ。
「そこは駄目なのか」
「駄目です。私の身内を他と比較するのもNGです」
「こ、細かいな」
「クレアさんが知り合いと話した時点で、私が暗黒大陸出身とバラしてるようなものなんですよ」
「それは⋯⋯そうか」
「なんだい。別に人に言いふらしたりしないよ」
コバルトの指摘にクレアは話題選びに苦心している様子で、対してカズサは唇を尖らせている。
「それなら⋯⋯、暗黒大陸の方って治安が悪いとは聞くけどどうなんだい?」
「悪いな」
「悪いですね」
口を揃えて肯定する2人にカズサは目を丸くする。
「そんなにかい」
「そもそも、気候的に先進技術無しに生活できる土地が少ないからな」
「似た地域をあげるなら中央大陸の南西地域でしょうか。そこから難民や敗残兵が流れてくるのも理由ですが」
流石に中央大陸の地域情勢は把握しているようで、カズサは想像したのか渋い顔をした。
「あそこかい⋯⋯確かに腕っぷしに自信のある輸送会社か傭兵しか近付かないね。稼げるらしいけど。アタシたちはゴメンだね」
「この辺りは武装勢力やテロ組織が少ないんだな。都市軍が腑抜けているというか世間知らずというか。ジパング社⋯⋯企業連合の車列に攻撃してくるとは思わなかった」
「⋯⋯そんな事があったんですか?」
コバルトは知らなかったフリをするが、その事件は把握している。
「あれか。企業連合からの要請もあったが、ギルドも警戒してキャラバンのルートから外したよ。申し開きや謝罪がないと輸送は再開させないだろうね」
「実際のところ、キャラバンが来なくなって都市国家とは平気なものなんですか?」
「すぐに乾上がることはないにしても、経済的には大打撃のはずだ」
「あんまり縁起の悪い話をするもんじゃないよ。噂をすればって事はわりかしあることだからね」
迷信を理由に上げてあからさまに嫌そうな素振りをするカズサに、女性陣から笑いがこぼれた。
ひとまず、コバルトは自身の情報を守ることができたようで嘆息をこぼす。
ひとまず、アウトベースに戻るまでの休憩時間はクレアに貼り付いた方が良さそうだ。




