operation.65_アルフレッドの女性関係
この先下記作品の既読前提で進めていきます。
City State 隔たれた世界
時間軸的にもCity State 隔たれた世界の終章→Sisters of LAWS 2人の軌跡の序章となっています。
「また俺の勝ちだな」
「なぜ⋯⋯」
「うう⋯⋯」
セイカに着いて宿泊予定のホテルに到着すると、遊技場の方から聞き覚えのある声が耳に入った。
「ミヤビ達かしら?」
「にぎやかですね」
「楽しそうだな」
セイカ、コバルト、ハワードが思い思いの感想を述べる。遊技場を覗き込むと、ミヤビ、アルフレッド、ツバキがカードゲームに興じていた。
周囲にカズサとグリッドの他、傭兵だろうか、黒髪の女性や銀髪の男性が周囲で観戦している。
カズサが遊技場を覗いていたこちらに気付いて手を振ってくれた。
「お疲れだね。コバルトの部屋も取ってあるよ」
「ありがとうございます」
カズサから鍵を手渡され、コバルトは礼を返す。
「ええタイミングで来たやん」
「妹がボロ負けしてるのがいいタイミングなのか?」
どうも黒髪の女と銀髪の男はセイカと顔見知りであるらしい。セイカが妹の卓を覗き込むと、ミヤビが腰に抱きついてきた。
「⋯⋯姉さん助けて。アルがいじめる」
「ミヤビさんは攻め過ぎてるだけです⋯⋯」
「もはや狙ってるのかって感じだよな」
「それにゲームでしょ⋯⋯まさかお金賭けてるの?」
「コインは形だけだよ」
セイカの心配事にアルフレッドが苦笑いで答える。卓を見る限り、ミヤビはもはやスカンピンである。
「え?でも1番負けた奴は1番勝った奴の言う事なんでも聞くんやろ?」
黒髪の女性の言葉にセイカはアルフレッドに向き直る。
「言い出したのはミヤビだし、本気にしてねえよ」
「いやいや、なんでもやで?女の子相手に。アル、意味分かって言っとるんか?」
「分かってるよ」
やたら食って掛かってくる黒髪の女性にアルフレッドは鬱陶しそうだ。コバルトはこの女性が何を言いたいのかなんとなく分かってしまった。
「あんた性欲無いんか。一緒に風呂入れとか、胸揉ませろとか。せめてデートとか」
歯に衣着せぬというか、開けっぴろげ過ぎる発言に銀髪の男があからさまに呆れた様子のため息をついた。
「賭けに乗っても、その命令が駄目だってことは流石に分かる」
「いやいやいや。おま⋯⋯」
「止めておけ」
まだ何か言いたげな女性を男が制した。
当のミヤビはと言うと、姉からの追求を避けるように目を逸らしていた。ツバキも目を逸らしている。
銀髪の男によって、少女2人の名誉は守られたようだ。
ということは2人揃って少年狙いか。ミヤビの競争相手とはツバキのことらしい。
コバルトとしては彼の何が良いのか分からなかった。何というか、子供っぽい気がする。
「じゃミヤビには貸し1つってことで」
「ぐぬ⋯⋯」
「うう⋯⋯」
「なんやつまらへんなー」
少女2人の下心は、当の少年の手によって健全無事に幕を下ろすこととなる。
どうにも、セイカが来るまでカードゲームで時間を潰していたらしくお開きとなった。外野で観戦していた者たちも散っていく。
「じゃあ、姉ちゃんも来たことだし、美味いものでも食べに行こうか」
「え、私を待ってたの?ミヤビも?」
「⋯⋯ううん。カズサが姉さんと飲みに行きたいって」
セイカの問いに妹は頭を振った。
ミヤビ達はガレージで話していた通り食事は終えているようだ。
「へえ、俺もご一緒したいな」
「駄目だよ。女通しでしかできない話もあるからね」
「そいつは残念。じゃ、セイカちゃん。俺とは明後日ぐらいでいいか?」
「なんだって?これは姉ちゃんに詳しく聞くしかなさそうだね⋯⋯」
カズサから肩に手を回されたセイカはそのまま彼女に連れ去られていってしまった。置いていかれたグリッドにハワード、コバルトは顔を見合わせてしまう。
「お前達は飯は済ませたのか?」
「いや、まだだな。コバルトちゃんはどうする?おっさんと一緒でよければ奢るぜ」
「では、ごちそうになります」
「俺もいいだろうか」
「3人分の割り勘お願いしても?」
「かまわんさ」
奢ると言っておいてハワードはちゃっかりしている。
コバルトは男2人に挟まれて夕食をとることになった。
これも両手に花や逆ハーレムというのだろうか。
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「⋯⋯喉がかわきましたね」
夜半。
あくまで泊まるための部屋である1室にはあまり飲食物を置いておくスペースがない。流石にユニットバスの蛇口から出る水を飲むわけにもいかず、最低限の身なりを整えて、コバルトは部屋の外に出た。
廊下の突き当たりに自動販売機があったはずだ。
「ラピスさんは本当にお喋りしたいだけでしたね⋯⋯」
この喉の渇きは彼女との長電話の賜物である。
ちゃんとご飯は食べているかとか、怪我や病気はしていないかとか、いつでも帰ってきていいだとか、いい人はできたのかとか⋯⋯ひとり暮らしをする子供に向けた母親のような話題を延々と話すこととなった。
「いや、一応、親みたいなものですか⋯⋯」
コバルトの青い髪はラピスのゲノム配列を利用したものだ。培養槽から出てすぐもラピスとニコルの2人に面倒を見てもらった。これだけでも親と言って差し支えないのかもしれない。
もともとコバルトはニコル・オレームという傭兵の性能をデザイナーズベビーに利用するためのテスト個体として作られる予定だった。
だが、計画途中でラピスという特異体質者を手に入れたキース博士は急遽彼女の遺伝子情報も利用することにしたらしい。
結果、キース博士の思惑通りラピスの特異体質も受け継いで、コバルトと命名された。
自身のオリジナルとも言える2人と過ごす日々に、思う所は多々あり、今の方が気が楽だ。嫌だったわけではない。重装備の狙撃型MⅢを操る青年には憧れもあるし好意もある。しかし、その隣にはすでに女性がいて⋯⋯。
1人になると余計なことをいちいち考えてしまう。ルージュも引っ張ってくるべきだったか。奔放でお喋りな彼女といると、相槌を打つのに忙しくこんな事を考える時間など無かっただろう。
「あれもこれも、あんなものを見たのが悪いんです」
あのアルフレッドとかいう子供、あれだけ近くに女性がいて、アプローチされていて気付かないものだろうか。見事なまでの三角関係ができてしまっていた。
「何が悪いって?」
独り言に対して後ろから返事があり、コバルトは弾かれたように振り返った。
噂をすればと言うべきか、アルフレッドが目を丸くしていた。
「悪い。脅かしたか?」
「⋯⋯いえ。何してるんですか?」
「何って。たぶん同じ用事だと思うぞ。この先自販機しかないし」
「⋯⋯そうですか」
彼も飲料水目当てらしいが、いつから後ろにいたのだろうか。そのまま着いてくるつもりらしい少年を一応警戒しつつ、歩を進めることにした。
わざとなのかクセなのか、アルフレッドが歩いても足音が全くしない。
「⋯⋯そんなに警戒しなくても、他所の傭兵だからって後ろから撃ったりしねえよ?」
「こんな夜中に⋯⋯待ってくださいなんて言いました?」
こんな夜中に異性と鉢合わせたら警戒ぐらいすると言おうとして、彼が無視できない発言をしたことに気付いた。
少年は首を傾げている。
「だから、他所の傭兵だからって撃ったりしないって」
「⋯⋯」
コバルトが傭兵であることは誰にも言っていない。
少なくともここにいる人間には。
ただの勘違いなのか、どこかでバレたのか、アウトベースで見られた事があるのかハッキリとしない。
とぼけるべきか。しかし、確信を持っての発言なら逆に怪しまれるかもしれない。
「⋯⋯自己紹介しましたっけ?」
「歩き方が同年代のガキじゃないし、戦闘職と非戦闘職じゃ歩き方が違うしな。あのキャラバンの護衛だろ?」
勘違いだが、完全に傭兵とは見抜かれているようだ。下手な嘘をつくほうがトラブルのもとになりそうだった。
「そういう貴方も足音1つたてないじゃないですか。後ろに着かれると気になるんですが」
「まあクセだし。夜中だし」
コバルトの指摘に肩をすくめつつ、アルフレッドは立ち位置を隣に移してきた。先に行くつもりはないらしい。
「⋯⋯先に行けばいいじゃないですか」
「ホテルだけど、流石に女子供1人で彷徨くと危ないからな。お節介だよお節介」
結局、自販機まで付かず離れず着いてくるようだ。
「どれ飲むんだ?」
率先してお金を入れると、少年はそんな事を聞いてきた。
「⋯⋯自分で買えます」
「先輩は後輩に奢るもんなの」
アルフレッドは邪気の無い笑顔でそんな事を言う。コバルトは唇を尖らせつつも、サイダーを指差した。
「機体は何乗ってんの?」
「なんで手の内を晒さないといけないんですか」
「俺の機体は見てただろ?」
「⋯⋯そっちが話すならいいですよ」
そう言えば少年は見たことのないMⅢに乗っていた。
対してコバルトの機体は新型とはいえ市販される量産機だ。情報の価値から考えると、少年の機体の話を聞けるなら話してもいいだろう。
「俺のは専用機だから参考になるか分からないぞ?」
「言わないなら話しません」
「機体名はMⅢオロチだな。俺の専用機だから聞いたことないだろうけど」
わりとすんなりと話してくれた。しかし当然ながら聞いたことのない機種名だった。
「⋯⋯ベースはMⅢスキュータムですか?」
「そんなとこかな。かなり軽量化してるけど」
軽量化。重装備を積載するためにということか。あの大量のサブアームは見た目通り重そうだが、戦闘スタイルが一致するとも限らなそうだ。
活発そうな少年に防御重視の戦い方はイメージと一致しない。
「私の機体はMⅢリンクスです」
「アルビオン・バイオニクスの新型じゃん。強がってるけど財布の中身大丈夫か?高かっただろ。もう1杯いるか?」
「飲みきれないので大丈夫です」
新米が新型に乗っていたら、そういう反応になるのだろうか。どちらかと言うなら、身の丈に合わないとバカにされるのかと思っていた。いや、彼だけの反応かもしれない。
「万能型だけど、あの機体なら中〜長距離射撃機?」
「⋯⋯私は中口径砲での狙撃が好きですね。足は止まりますけど」
「出力が高いから、重くても速度出るもんな」
「⋯⋯貴方は?」
「基本的に白兵戦と格闘戦かな。そのためのサブアームと強化人間インプラントだし。砲撃支援はできなくもないけど狙撃は無理」
「私は格闘が無理です。白兵戦なら予備兵装の重機関砲でしますね」
単にこういう話がしたかっただけなのだろうか。他の人ともできる気がするが。
「色は?」
「青です。貴方は白でしたね」
「部隊色だからなー。いいなギルドの傭兵。髪も青だし、青が好きなのか?」
「っ⋯⋯まぁ、はい」
"好き"という言葉に思わず反応してしまうが、そういう意味ではないことは明らかだ。
素直に頷いておく。
「好きな色に塗れるのは羨ましいな。俺も好きな色に塗りたい。こればっかりは隊長になるしかないんだけど」
「そうなんですか。専属も大変そうですね」
「まあなぁ。ありがとうな。話に付き合ってくれて。同年代でこんな話できる奴、ミヤビくらいでさ」
「⋯⋯い、いえ」
少年の邪気のない笑みと素直な言葉に、少し頬が赤くなった気がした。コバルトは思わず顔を逸らす。
この少年は天然の女誑しだ。
そうに違いない。
「⋯⋯では、私は部屋に戻ります」
「そうか。部屋まで送ってってやるよ」
アルフレッドの言葉に思わず警戒するが、顔を見ると彼は首を傾げている。
その表情に下心らしきものは見て取れなかった。女性にはそうするべきと教えられて、その通り対応しているだけなのかもしれない。
そもそもその手の知識が無いのかもしれない。
「⋯⋯貴方、そんな調子だといつか刺されますよ?」
「え?なんでだよ?」
人懐っこく、気遣いを教え込まれていて、それをそのまま実行するくらい素直。性知識に欠けていて関心も薄く警戒する必要がない。傭兵をしているから腕っぷしはもちろんあり、そばにいて安心感がある。
歳上の女性からしたら可愛らしい少年だろう。
同世代からもモテるだろう。
しかし、コバルトの好みではないのだ。
「そういう気遣いは、特別な相手だけにした方が、その相手に喜ばれるという助言です」
「え?あ⋯⋯あー、そういうもんなのか?そういうのよく分かってなくてさ⋯⋯」
コバルトの言葉の意図に気付いたようで、アルフレッドはバツの悪そうな顔をした。色恋に全く無関心という訳ではないようだ。
どっちに気があるかなど知る由もないが。




