operation.63_コバルト・キースの人間観察
この先下記作品の既読前提で進めていきます。
City State 隔たれた世界
時間軸的にもCity State 隔たれた世界の終章→Sisters of LAWS 2人の軌跡の序章となっています。
「私は贈り物を届ける必要があるからここまでよ。後はジパング社の職員の指示に従ってちょうだい」
「了解。今回も助かったよ!姉ちゃんまた後でね」
「ええ」
ジパング・インダストリーの都市外施設へはあっさり入ることができてしまった。
キャラバン所属の職員に偽装しているため、当然と言えば当然なのかもしれないが、コバルト自身が産まれたアルビオン・バイオニクス都市外施設も似たような形で容易く侵入できてしまうのかと考えると不安になってしまう。
ジパング・インダストリーの施設でアルメニア・エレクトロニクスの無人兵器が我が物顔で進んでいく姿には酷い違和感があった。
指揮車両のコロニーと、無人兵器のスコルピウス、クラッドビートルが離れていく。
「ハワード。あんたらは姉ちゃん達の方だろ?どうするんだい?」
「なら、お言葉に甘えようかな。企業連合様のMⅢハンガーに入れる機会なんてなかなか無いからな」
どうやら、整備士の面々は件の姉妹と会いに行くらしかった。それも、彼女達の機体の整備のためなので、ジパング・インダストリー実動部隊が利用している施設に入るようだ。
思わずコバルトは助手席のカズサの方に目をやった。上手く同行できないだろうか。
「あの、カズサさん」
「ん?どうしたんだい?」
「ハワードさん達について行っても⋯⋯」
コバルトの言葉に、カズサは眉間に皺を寄せた。
「⋯⋯あんたね」
「ど、どんな人達か興味があって⋯⋯」
彼女達に対してコバルトは世間知らずな少女で通している。そのため仕方の無い反応だが、どうにも必要以上に世話焼きな性格のようだ。
カズサは長いため息をつき頭をかく。
「若い娘が戦闘職なんて、なる必要がないならなるもんじゃないよ。あの娘達は訳ありで、才能もあって、それしか選択肢が無いからやってるんだよ」
この女性はある程度あの2人の事情を知っているようだ。カズサから聞く選択肢もあるにはあるが、変に掘り下げると奇妙に思われるかもしれない。優先度は低い。
可能な限り媚を売ることにした。コバルトは俯きがちに目を潤ませてみる
「で、でも⋯⋯」
「⋯⋯仕方ないね。ただ、これだけは覚えておくんだ。あの娘等に会ったら小綺麗で格好良く見えるかもしれない。自分もああなれるかもなんて思わないことだよ」
「わかりました!ありがとうございます!」
カズサが若い娘に弱くて助かった。早い段階で接触することができそうだ。
「ハワード!ウチのおチビちゃんも連れてってやっておくれ。社会見学だよ」
「構わねえけど、そっちの人手は良いのかい?」
「1人抜けてまわらない会社なんて3流未満だよ。降ろすから拾ってやってくれ」
「了解したよ姉さん」
ハワードから了承の返事を貰うと、カズサはコバルトに向き直った。
「コバルトちゃん。次の信号で運転変わるよ」
「はい」
カズサの指示で車両にサイドブレーキをかけ、運転席側から飛び降りると、後ろの大型輸送車両でハワードが運転席で手を振っていた。
コバルトはそそくさとハワードの隣の助手席に転がり込んだ。
「拾ったぜ」
「あとは頼むよ。コバルトちゃん、宿泊先へは姉ちゃんか妹ちゃんに案内を頼むんだよ。あの娘らに紹介してもらったホテルに泊まるからね」
「わかりました」
道中、些細なやらかしはあったものの、大事には至っていない。ここまで順調だ。
「じゃ、オッサンで申し訳ないがエスコートさせてもらうぜ」
「よろしくお願いします」
ハワードの茶目っ気混じりの挨拶に苦笑いを返す。
ジパング・インダストリーの駐屯地まで一息つけると思った矢先、モバイル端末が通知で振動した。
「出ちゃっていいぜ」
「ありがとうございます。お言葉に甘えます」
取り出して通知を確認する。急ぎの連絡かと思ったが、メッセージの通知だった。
宛名を見て、コバルトは口の端を歪める。
「微妙な顔してどうした?噂のお兄さんか?」
「あ、いえ⋯⋯兄ではないんですが⋯⋯」
「そうか。まぁ、嫌な相手なら無視するのも悪いことじゃないさ」
「嫌って訳でも⋯⋯。ちょっと複雑な⋯⋯」
続いて通知が届き、モバイル端末が振動した。これはニコルからだった。
ニコル"すみません。口が滑りました"
短い謝罪文。
誰に対して口が滑ったのかは、1つ前のメッセージの宛名を見れば分かった。
ラピス"コバルトちゃんへ。私ともお話できる?"
どうしても嫌いになれず、邪険にもできず、そして誰よりも妬ましい相手からのメッセージに、コバルトは、ポーカーフェイスは貫けなかった。
「どっかで通話の時間とるかい」
「⋯⋯いえ、心の準備がいるので、仕事に集中します。お手伝いもさせてください」
既読を付けなければ、無視しているとは思われないはずだ。
「それって先延ばしって言わないか?」
ハワードの指摘に何も言い返せず、コバルトはモバイル端末を額に押し付けた。
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そんな感情も、調査対象を直接目にして吹き飛んでしまった。
ジパング・インダストリーのMⅢハンガーが並んだガレージ。
その一角にコバルトの実姉、シーラ・キースと瓜二つの少女がいた。
大型輸送車両のような車両の前で研究者らしき白衣の人物達に囲まれて何やら話をしているようだ。
「あの人が⋯⋯ミヤビさんですか?」
「お?よく分かったな。顔見たことあったっけか?」
「あっ⋯⋯えっと、雰囲気と言いますか⋯⋯」
「あー。わからんでもない。ミヤビちゃんの方が少し当たりキツめだからな」
面識があるらしいハワードの言葉にそうなんですかくらいの感想しか言えず、コバルトはミヤビを凝視する。
背は姉より少し低い。培養槽から出てまだ数年なのだろう。髪の色は染めているのか、白と淡い紫色グラデーションになっている。シーラの銀髪とは異なるが淡い色味と雰囲気が近いため一目で気付けてしまった。
ふと、ミヤビの視線がこちらに向いた。目が合ってしまい、コバルトはギョッとする。
横を見ると、ハワードが手を振っていたためこちらに気付いたようだ。
「お、気付いた気付いた」
ミヤビがハワードを指差すと、立ち話でのミーティングはお開きになったようで、研究者達はそそくさと離れていった。
セイカとミヤビという番外個体ともいえるホムンクルスは、ジパング・インダストリーでそれなりの立ち位置を気付いてしまっているのかもしれない。
研究者達を散らしたミヤビが駆け足でこちらにやってきた。
「ミヤビちゃん。久しぶり」
「⋯⋯久しぶり」
ハワードにオウム返しの返事を返したミヤビの視線がコバルトに向いた。思わずビクリと肩が震えてしまった。
「こんにちは。私はミヤビ。よろしく」
「こ、コバルトです!よろしくお願いします」
柔和な笑みで挨拶され、コバルトは頬が赤くなってしまった。ハワードの言っていた雰囲気と大きく異なっている気がする。
「あれ?俺等と対応違くないか?」
「当たり前。車両はあっちに停めて」
「えー⋯⋯。まぁ了解だ。お姉ちゃんの方は?」
「無人兵器を格納してるところ。まだ機体の中」
「ああ、そりゃそうか。なら、機材だけ先に出しとくか」
ミヤビの反応に不服そうなハワードだが、ミヤビの指示に従ってハンドルを切った。
彼が駐車を終えると、コンテナ車からハワードの整備会社で働く職員がぞろぞろと顔を出す。職員もミヤビと顔見知りなのか、手を振って挨拶などしていた。
ミヤビは無表情で手を振り返すくらいには応じる。
「では、私は⋯⋯」
「じゃあ、コバルトちゃんにはミヤビちゃんと一緒にセイカちゃんを呼んできてもらおうかな」
「え、荷卸は⋯⋯?」
「コバルトちゃんから頼んでもらえば二つ返事で呼んできてくれそうな気がするんだよな」
「わ、分かりました」
先程のハワードとの対応の違いからの指示なのだろう。コバルトは頷くと、小走りでミヤビの方へ向かう。
「あの、ミヤビさん。セイカさんを呼んできて頂きたいのですが⋯⋯」
「連絡はしてある。仕事が終わったら来る」
淡々と返される。どうしたものかと腕を組むと、ミヤビの眉がピクリと動いた気がした。
見ると、ミヤビが恨めしそうにハワードの方を睨んでいた。ハワードはというと、態とらしく肩をすくめる。
なんとなくハワードの意図がわかった。ミヤビは先日にコバルトを泣かしてしまったことを気にしているのだ。
「じゃあ、一緒に迎えに行く」
「あ、ありがとうございます」
部外者をウロウロさせて大丈夫なのだろうかという思いはあるものの、僥倖でもあるので断る選択肢は無かった。
ミヤビに手を引かれてジパング・インダストリーの施設を進んでいく。見れば、ミヤビの襟足には強化人間インプラントが埋め込まれていた。
アルビオンでは採用していない技術だ。コバルトには見慣れないものだが、物珍しさより生理的に受け付けないグロテスク差を強く感じ、眉間に皺を寄せた。身体に、それも脳に関わる部位にこんなものを埋め込んで何とも思わないのだろうか。
近代建築はどこも代わり映えないかと視線を逸らしていると、すれ違う研究者らしき人物と目が合ってしまった。
すれ違う職員の視線が痛い。当然ながら、皆が奇妙なものを見る目を向けてくる。
あまりキョロキョロしない方が良さそうだ。
連れてこられた先は、屋内演習場のようなドーム状の空間だった。一部の区画ではMⅢの機動テスト用のコースが仮設されてMⅢが滑走している。4つの盾を携えた機体はジパング・インダストリーのMⅢスキュータムだったか。
「姉さんはこっち」
目的地は仮設のバリケードで覆われている区画のようだ。ミヤビは研究者や整備士らしき人物たちの奇異な視線など気にした様子もなく進んでいく。
コバルトとしては少しは気にしてほしいところだった。
「大型機動兵器⋯⋯!?」
「姉さんが動作テストしてる機体」
見たことのない巨大な機体に目を丸くすると、ミヤビが補足してくれた。新型の機体なのだろうか。コバルトの頭に入っている機種に目の前の大型機動兵器に該当するものがない。
「姉さんいた」
ミヤビの言葉に、コバルトは視線を上から目の前に戻す。視線の先にいた白髪のショートヘアにした白い女性と目が合った。研究者達に断りを入れてこちらに向かってくる。
そして、その姿に絶句してしまう。
セラ・キースはアルビオン・バイオニクスで研究職につくシーラ・キースから調整を加えられた第二世代のホムンクルスだ。安定性を重視し、本格的な量産体制をとられた個体でもある。
そのため、同タイプの姉妹達が多く、コバルトとしてもセラと瓜二つの姉妹は見慣れた存在だ。
そう。見慣れているはずだ。
「ミヤビ、こんな所で何してるのよ?」
「迎えに来た」
襟足から腰までにかけての背中から複数本も伸びた、配電線のようなコードを除けば。
いったい彼女の背中はどうなってしまっているのか。
セイカが引き摺るそれは大型機動兵器と繋がっているようだった。
「後で行くって伝えたでしょ?こんな所に部外者を連れ込んじゃ駄目でしょ」
「⋯⋯子供だし」
「お目溢しはされるでしょうけど」
セイカとミヤビは気にした様子もなく、平然と会話をしている。
何故、平気なのだろうか。
「あなた、コバルトちゃんよね」
「あ、はい⋯⋯」
コバルトは、セイカの背中の配線の先を追うように再び大型機動兵器に目を向けた。ふと、大型機動兵器下部に半球状の可動カメラが目についた。
「私がセイカよ。ごめんなさいねこんな所に」
「⋯⋯」
セイカが小首を傾げると、大型機動兵器のカメラもセイカの動きに連動して、動物的な、機械としては無駄な動作を再現していた。
セイカが困ったように視線を逸らすと、それと合わせて大型機動兵器の下部カメラも同じ方向に向く。
人間の、セイカの動きと連動来ていた。
そういえば、アルビオン・バイオニクスでは鹵獲に難航している無人兵器に搭載されていると予想されているものは何だったか。
ゲノム解析で、姉妹のクローンと判明したもの。無人兵器の残骸から回収した肉片が脳裏を過る。
「コバルトちゃん?」
視線が揺れる。
気が付いたら、膝をつき、今朝食べたものを吐き出してしまっていた。
コバルトちゃん今のところポンコツでいいとこないですね⋯⋯。
更新再開です。よろしくお願いします。




