operation.54
「ともかく、ウチの研究所にお土産が増えたな。助かっわ」
「え、ええ……」
セイカは中身に気をとられてしまい、呆けた返事を返した。
エマは中身に対して特に気にした様子もなく、MⅢキツネビに鹵獲したスコルピウスを抱えさせようとする。
「バランス悪いなぁ。壊したくないし、迎えに来させた方がええか」
抱え方を試行錯誤していたが、仕方ないとスコルピウスを降ろした。そのまま、ウェインに手伝いを寄越すよう依頼を出す。
鹵獲できたと聞くと、ウェインからはふたつ返事で了承する返答が来た。
「あなたは、何とも思わないの?中身を見て」
エマのあまりにドライな反応に、聞かずにいれなかった。
いくら戦闘職で人の死骸や内臓を見慣れているとしても、戦闘用機械の中身に人間の脳が入っていて何も思わないのだろうか。
「まあ、研究所の連中から聞かされとったしな」
「中身を知ってたの!?」
「え……?そりゃそうやろ。何機も鹵獲しようとして、潰れた残骸だけは回収しとったからな。研究者から回収して欲しいユニットのイメージももろとるし」
突然声を荒げたセイカに、エマは困惑して説明する。
そういえば、そんな事を言っていた。相手にする事も、鹵獲の試みもこれが初めてではないのであれば、多少の部品や残骸から中身を予想はしていたのかもしれない。
「そっちこそ中身なんて見慣れとるんちゃうん?あの隠し研究所出なんやろ?今更どないしたん?」
「それは……」
模擬戦で相手取ったことはある。母から触り程度に話は聞いていた。実質有人機とは言っていたが、まさかこのような代物だとは知らなかった。
「……私たちは、別の研究に使われてたのよ。私の機体にもミヤビの機体にも、そんなものは着いてなかったし、中身なんて知らなかったわ」
「あー……そうやったんやね。ウチも残骸から潰れた脳みそだけ出てきた時はドン引きやったよ」
嫌なものを見せてしまったとエマは謝ってくれたが、セイカにとっての問題はそこではない。
「まあ、悪い事ばかりちゃうで。壊さずに鹵獲できたってことは、こいつの移動ログも取れて出処も分かるってことや。こんなもん作っとる奴らに一泡吹かせられるで」
「……そうね」
あの時の母の話の通りであれば、これはセイカを作る前の試作品……姉妹にあたるモノなのだ。
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その後のことはあまり良く覚えていない。
気が付いたら、宿泊先に到着していて、すでにベッドに腰掛けていた。
ベッドが2つにテーブルセットと最低限のものしかない簡素で味気ない部屋だが、清潔感はしっかりしている部屋だ。出張者などでの宿泊者向けのホテルなのだろう。
妹は、飲み物を買いに行くと言っていた気がする。
ということは、迎えのジパング社の部隊と合流し、無事に研究所に到着できたわけだ。
あの中身が頭から離れなかった。
「姉さん、大丈夫?」
「……ええ、大丈夫よ」
戻ってきたミヤビに声をかけられて戻ってきたことに気付いた。飲料の入った瓶を渡され反射的に答える。
「大丈夫に見えない」
「……そうね、そうかも」
見透かされていると言うより、分かり易すぎると自分自身でも思う。
あの無人兵器について、ミヤビに全てを話してはいなかった。機会がなかったのもあるが、あの女には母として綺麗な記憶でいてもらうつもりだった。
あの無人兵器や作ったもの母の負債の処理ではなく、仇討ちという扱いにしていた。
だが、流石にアレはキツイ。
「アレを見てから変」
「アレは誰でもショック受けるでしょう?」
アレとは完全自律型と言われていた無人兵器の中身だ。口で誤魔化しても、ミヤビは訝しげにこちらを見ている。
話すしかないだろうか。たぶん、隠していたことは怒られるがそれだけの話だ。
飲み物を飲んで気分を切り替えようと、瓶の中身を煽った。
「あ」
喉がカッと熱くなり思わずむせて咳込んでしまった。
「これお酒じゃない!?」
それもかなりアルコール度数の高いものだ。香りはいいが、瓶で直に飲むものではない。
「ラベルに書いてある。エマが、相手の口を軽くするなら酒だって」
「うぐ……」
見れば、ラベルにアルコール度数まできっちり書いてあった。呆けて読んでいなかっただけだ。
だが、流石にやって良いことと悪いことがある。
キッとミヤビを睨み付ける。
だが、妹の顔を見ると言葉が詰まってしまった。
「私じゃ、頼りにならない?」
俯きがちにミヤビはそんなことを言う。
こんな悲しげな顔をする妹は見たことがない。
「……そんな事ないわ」
そう答えるものの、説得力はなかった。1人で仕舞い込んでいるのだから。
「……話すから、そんな顔しないで」
「うん」
妹のはにかんだ顔を見て、安堵の息を漏らす。たぶん、今後、妹に隠し事はできなさそうだ。
「正直に言うと、アレの中身を見てかなりショックだったのよ。ずっと嫌な想像が頭の中でぐるぐる回っているわ」
「なんで?あんなの全部敵じゃないの?」
模擬戦でも、母と因縁がありそうな男が扱っていた機体だ。ミヤビとしては、中身が何だろうと知ったことではないとでも言いたそうだ。
「そもそも、あれを作ったのは母さんだからよ」
やはりと言うか、妹の顔色が変わった。
当然だ。セイカとミヤビを作ったのが母なら、アレの中身に関しても想像ができてしまう。
「……聞いてない」
「ミヤビには言うなって言われてたのよ」
こうなったらあの女の所為になってもらう。
嘘は言っていない。
「でも、中身が私達に関係あるとは……」
「私を作る前の試作品だったと言ってたわ」
母からの言葉が、別物であってほしいという淡い妄想を潰していく。おそらく中身をゲノム検査にかければ、予想通りの結果が出るだろう。
アルフレッドいわく、そもそも強化人間の施術は誰にでも適正があるわけではないらしい。何十機分も適正のある人の脳を集められるとは思えない。
「……ちゃんと、調べないと……」
「そうね。ちゃんと調べてもらうつもりよ」
流石に、ミヤビも聞かなければよかったと思っているだろうか。見れば、青い顔をして俯いていた。
「……姉さんは、今日、それをずっと考えてた?」
「そうよ……それに、私たちも、ああなる可能性があって、未だに狙われてると思うと……怖くてたまらないのよ」
ミヤビが腰に手を回して、ギュッと抱き着いてきた。顔は見えないが痛いくらいに抱きしめてくれている。
「聞かなければ良かった?」
「……ううん。話してくれて嬉しい」
そうは言うが、声が震えていした。
セイカは妹を抱き返した。
「姉さんは、どうするの?」
「母さんは、あんなもの叩き潰してほしいと言っていたわね」
ミヤビは目を丸くする。
「……作ったのに?」
「動作確認のための試作品って、言ってたわね。たぶん、私達のインプラントや機体のテスト用だったのよ。それが盗まれたらしいわ」
母が何を使ってテストしたのかは考えない。
もしかしなくても、碌でもない実験に違いない。
「……じゃあ、殺すの?」
「……それしか選択肢が無ければ」
たとえ、アレの中身が血縁だとしても、被害者だとしても、助けられる気がしない。
企業連合はどうするのだろうか。ウェインの話を真に受けるなら、元凶を根絶やしにする方針のようだが、セイカとミヤビを味方に引き抜いている。
役に立つなら利用するかもしれない。
「ウェインに、アレに対しての方針も聞きたいわね」
すでにジパング・インダストリー内にある技術のように言っていたが、研究所を直に見てみないと分からない。研究者とも話す機会はあるだろう。
「それから決めても、遅くないのよね」
アルコールで思考がボヤケているだけかもしれないが、自分の考えが整理できてきた気がする。
「ミヤビのおかげで、少し気持ちと考えが整理できた気がするわ。ありがとう」
「うん」
お礼を言うと、スリスリと頭を擦り付けてきた。まだ抱き着く力は強いままだ。
「……嫌な話を聞かせてごめんなさいね」
「ううん。私の知らない、母さんの事を教えてくれて嬉しい」
母に懐いていた妹にとってはショックの大きい話だと思う。
あの女が演じていた母親の仮面の裏側、研究者としての顔は目的に対して酷く冷酷で手段を選ばなかった人だ。
言葉とは裏腹にミヤビは離れてくれそうにない。
「眠れそう?」
「……」
質問に対して、抱きつく力で帰ってきた。
「一緒に寝る?」
「……一緒に寝る」
気遣ってくれた妹の希望に応えないわけにはいかない。セイカは妹を抱いたままベットに横になった。
ミヤビに話を聞いてもらって、何かが解決した訳ではない。ただ、どうするか決めるためには、確認すべきことがまだまだある。
まずはジパング・インダストリーの研究所で、彼らの大型機動兵器の開発に協力しつつ情報を集めなければならない。




