operation.53
少し時間を遡るが、エマが伏兵と接敵したタイミングで都市軍側にも動きがあった。
「急に好戦的になったわね……!?」
蜂の巣でもつついたかのように都市軍のMⅢ部隊が肉薄しはじめた。機関砲の弾が五月雨式に飛んでくる。
「相手の足並みは揃っていない。近付けなければいい。足を止めて全機で迎撃に入れ。武器使用は自由。通常車両に被弾させるなよ」
「無茶言うわね!?」
攻撃は当然ながらレールガンを搭載しているバードイーターに集中していた。良くも悪くも囮扱いだ。
それをいいことに味方の教導部隊やアルフレッド達は鶴翼の形に広がっていく。
重機関砲を積んでいる機体でもいるのか、飛んでくる弾丸も重くなっていた。セイカはバードイーターの腕部の武装は弾除けにして機体の頭部を守ることを優先する。
さすが重装甲のMⅢだけあり、今のところ装甲は抜かれそうにない。
「2人は長距離武器を積んだMⅢを狙ってくれ。近付いてきた敵は他に任せろ」
「姉さん。私が重機関砲の望遠カメラと照準レーダーでスポッターをする」
「了解。座標をマーカーで共有して」
本来なら観測はセイカの役回りだが、スコルピウスは手元になく、バードイーターは目が良いものの攻撃が集中していてそれどころではない。
ミヤビがから攻撃目標の座標が送られてきた。喜ばしいことに、1機は敵MⅢが密集している地点にいる。
「さっきから鬱陶しかったのよ!その豆鉄砲!」
レールガンがプラズマと共に極超音速の弾丸を吐き出す。盾を構えていたMⅢは盾ごと腕部を貫通し、後方にまで弾丸が貫通した。
「……目標健在。腕部破損3。大破2」
「ならもう1発ね!」
斥候ごと後備を撃ち抜かれた相手をさらに極超音速の弾丸が襲いかかった。
姿勢を崩していたMⅢごと後ろにいる後衛の高火力機を撃ち抜く。
「目標大破。次」
装甲が分厚いはずの突撃機ごと部隊を撃ち抜かれる様を目撃した相手は明らかに動きが悪くなる。
バードイーターを狙おうとするが、近付こうものなら鶴翼に展開した教導部隊のMⅢが待ち構えている。
距離を詰めようと盾持ちのMⅢが固まったところに横から中口径の砲弾が横槍をいれた
「数が多いと当たるもんだな」
左翼末端、アルフレッドのMⅢオロチは背面1本と前面2本のサブアームをアンカー兼盾代わりとし、残り4本を砲撃用に展開するといった器用な体勢をとっていた。
口径は自走砲などの中口径の火砲なみだが、砲身が短いので精度は悪いデメリットを目標の多い座標に連射するという力技で補っている。
「ミヤビ、敵の密集しているエリアもマークできるか?俺もアルの射撃武装は火力があっても精度は低い」
反対の右翼末端ではウェインのMⅢオオタチが折り畳み式の中口径砲を構えていた。
盾の裏でも格納されていたのか。
こちらもサブアームで担架している大剣を後方に突き刺してアンカー代わりとしている。アルフレッドの砲撃方法は彼が教えたのかもしれない。
「できる。了解」
「私もそっち狙った方がいいかしら?」
「……アウトレンジで高火力機を先に潰さないと、損傷を負う可能性が高いのは君のMⅢだぞ?」
「損耗を抑えるのは大事よね」
レールガンの貫通力を考えればまとめて撃ち抜くのも選択肢としては良いのではと思ったが、ウェインの言葉で考えを改めた。早く終わらせるのも重要だが、部隊に被害を出さないのは大切である。
決して試作機は修理費が高いからではない。
高火力機や狙撃機はレールガンで狙い撃ち、頭1つ飛び出た小隊は中口径砲で出鼻を挫いて弾幕を浴びせることで後退させる。
弾幕役のMⅢレプスはリロードと砲撃を2機が交互に行うことで前に出た敵機に休む隙を与えない。敵に突貫するバカが出ればウェインかアルフレッドの支援射撃が飛んできて蜂の巣となった。
対戦車ミサイルやドローンでの特攻はMⅢスキュータムとMⅢバードイーターの対空レーザーが対処している。キツネビのような何もかも撃ち落とし敵機をも焼き尽くすといった派手さはないが、厄介な誘導兵器を落とすのが本来の光学兵器の役割である。
防衛のパターンが出来上がった頃には、徐々に攻め手が鈍ってきていた。
「任務完了や。そっちに戻るで」
「了解した。こちらも終わりそうだ」
エマからの通信が入った。
観測ドローンの映像は届いていたが、2機の完全自律型と呼ばれていたスコルピウスをなぶり出した辺りから見るのを止めていた。
ドローンの映像を横目に見ると胴体が溶解して燃えている機体の他に、バラバラになって転がっている機体の惨状がありありと映されていた。
「ウチの活躍見とったか?」
「ああ。お前はいい女だ」
「せやろ?」
ずいぶん適当な返事だと思うが、エマは満足そうだ。
20機を1機で蹂躙した彼女が戻ってくるなら、防衛戦の結果は確定したようなものだった。
「……敵機、後退を開始」
伏兵が全滅したためか、示し合わせていたかのようなタイミングでミヤビから通信が入る。
「損害報告」
「車両に被害無し。腕部破損2。武装破損5」
敵との戦力差を考えると奇跡的な損耗の少なさだった。
それだけセイカのMⅢバードイーターに攻撃が集中していたということでもあるが。破損こそないものの、装甲はボコボコで傷だらけ、当然ながら塗装も剥がれている。
「観測と牽制は継続してくれ。交代で補給だ。腕部破損のMⅢを優先。パーツも換装させろ」
「あ、なら時間ある感じなん?」
「……なんだ?」
エマの言葉に不穏なものを感じたのか、ウェインは少し間をおいて疑問で返した。エマは気にした様子もなく続ける。
「こっちにまだ這いずって頑張っとるのおるねん。サンプル回収せえへん?」
「以前、鹵獲しようと拘束したら自爆されただろう?」
「セイカちゃん、無人兵器に詳しいんやろ?ハッキングとかで何とかならへん?」
「……なるほど」
「え、私?」
突然指名された上に納得されてしまい、セイカは間抜けな声を上げてしまった。
「頼めるか?追加報酬も出す」
「……具体的には何をしてほしいのよ」
お金にめっぽう弱い自分に悲しくなるが、完全自律型と呼ばれていた無人兵器には興味があった。
ツチグモの中にデータはあってもセキュリティの問題で確認できていない母の研究の一端や、自分達セイカとミヤビの情報を得るチャンスでもある。
「あの挙動のおかしい無人兵器を鹵獲したい。これまでも執行部隊側で何度か試みた事はあるが、残骸回収のみでうまくいっていない。破損や拘束に限らず行動不能となると自爆するためだ」
「つまり、爆弾の分解をしろと?」
流石にそれは専門外である。
「方法は問わない。システム的にでも、物理的にでも、自爆させずに回収できればいい」
「了解よ。成功する保証はないけど……位置を教えて。アントを走らせるわ」
ウェインからの正式な依頼を受理してアントを2機、エマのMⅢキツネビのもとへ走らせた。
アントでも最高速度は時速80kmは出せるため合流にはさほど時間はかからなかった。
見れば、脚部の先端が切り落とされ、這うように逃げるスコルピウスをアントのカメラが捉えた。
エマはそれをずっと眺めていたのか。相手をいたぶるのもそうだが、機械相手とはいえ正直趣味が悪いと思う部分だ。
「お、かわいらしいのが来たな。あれやねん」
「……見ればわかるわ。護衛は頼むわよ」
「はいはい」
機関銃など撃たれれば、アントなど1秒も持たずスクラップである。軽い返事に一抹の不安を感じつつも、完全自律型スコルピウスにアントを中継してレーダー通信を繫ぐ。
『ーー……ーーーーー……』
あの時と同じく、やはりセキュリティがかかっておらず、ノイズのようなものが耳に入る。正直なところ煩わしいが、止める方法も分からないため無視する他ない。
「繋がったわ。相手が変な動きをしたら守ってよね」
「了解や」
今回は無理に操縦を奪う必要はなく、まず完全自律型スコルピウス内のシステムを確認するのが目的だ。
まずは、操縦系統のプログラムを手持ちのスコルピウスのデータと照合し、差異部分を検出する。
出てきた結果は予想と異なるものだった。
「追加のプログラムがないわね……むしろ自律行動用の汎用AIが入っていない?」
「ごめん。ようわからへん」
独り言に近い言葉に解説を求められた。
少し間をおいて、なんとか噛み砕いて説明する。
「MⅢで言うなら、オートパイロットが入っていないって言ったらわかるかしら。無人兵器が自律行動をとるためには、そのための汎用AIが入っていないと動かない……はずなのよ」
「追加のプログラムが無いってのは?」
「スコルピウスのシステム内から見ると、自爆するためのシステムが入ってないから、物理的にもそういった機器が着いてないことになるわね」
セイカの説明にエマは首を傾げる。
「それ、おかしない?他のやつは自爆したで?」
「あれは着いていないから自爆しない可能性は?」
「無いと思うわ。あのブサイクな外付ユニットは共通に付いとるし、仕様はそう変わらんと思うで?」
「そう……」
何か見逃しがあったのだろうか。または、セイカが使用していないだけで、スコルピウスにもともとそういった自爆機能が着いていることなのか。
流石に無人兵器のシステムをマニュアルで確認し直すのは考えたくないし時間が圧倒的に足りない。
「……なぁセイカちゃん?」
「なに?」
思考の海に浸りかけたところで声をかけられ、セイカは我に返る。
「爆弾にはどこまで詳しい?」
「素人よ。使うことはあっても仕組みには詳しくないわ」
「なるほどな」
エマが1人納得する様子に、セイカは首を傾げる。
「爆弾ってな、銃弾と一緒でアナログやで。プログラムなんか無くてもショートや振動だけで爆発するで」
「あっ……それは、そうね」
つまりは外付である。
自爆機構はスコルピウスのシステムに直接リンクしていないということだ。
「でも、それだと戦闘中に誤爆しない?」
「機構次第やなあ。MⅢの脱出装置も誤作動せえへんやろ?」
「……スコルピウスが自爆した時の条件は?」
エマに聞くと、スコルピウスが自爆したパターンは以下の通りだった。
機体のシャットダウン
機体の拘束
脚部の全損
罠からの脱出不能
「機体がシャットダウンしても自爆したの?」
「せやね。だからウチラは自爆装置が電力なり独立しとるやろうとは予想しとるけど、そのせいでお手上げってことやな」
「……少し待って」
エマの説明から1つ仮説ができた。
システムそのものはむしろ欠損しているような状態で自律行動は取れないはずの機体。
自律行動ができない無人兵器は遠隔操作で動かすしかなく、遠隔操作時に無人兵器は常にあることを行なっているはずだ。
完全自律型スコルピウスと呼ばれる機体の動作ログを確認する。
「……やっぱり遠隔操作になってるわね。常に機体の損傷状況をレーザー通信で発信し続けてる」
「レーザー通信ってあれやろ。妨害電波に強い代わり障害物には弱い通信やんな?」
「機体内部の爆弾に発信し続けるなら、障害物は関係ないわ」
つまり自爆装置は、機体のレーザー通信による損傷状況などのデータを拾い、特定の状況に陥った場合に爆発するようになっている可能性が高い。
「で、どないするん?」
「私があのスコルピウスの損傷状況のシステムを改竄するわ。終わったら、あの機体の武装と残った脚を破壊してみて」
「了解や」
作業は単純だ。機体がどれだけ破損してもオールグリーンしか発進しないようにしてやればいい。
ひたすら特定の発進内容をペーストし上書きするだけなので、書き換えはすぐに終わった。
「やって」
「よっしゃ!南無三!」
MⅢキツネビの光学兵器ユニットから赤い可視光がスコルピウスに当てられる。
機体下部の機関銃、背部の長距離砲、残った脚部の順番でパーツが切断され、完全自律型と呼ばれていたスコルピウスは無惨に大地に横倒しとなった。
『ーーーーーー!!』
「……どやろか」
「……前は、どれくらいで自爆したの?」
『ーーーーーー!!!』
「わりとすぐ」
できれば明確な時間で言ってほしいが、しばらく待っても爆発しない。
強いて言うなら完全自律型スコルピウスと繋いでいる通信のノイズが大きくなったが、爆発しないなら問題ない。
「爆発せえへん!よっしゃ!」
「この場である程度バラしてしまいましょう。爆弾は外したいわ」
「できるん?」
「無理だったら組み立て直せばいいわ」
輸送中に気が変わったように爆発されては敵わない。エマも同意見のようで、爆弾を外せるか確認することになった。
「ちなみに、爆発の威力と位置は?」
「この無人兵器の中身がぐちゃぐちゃになる程度。MⅢの装甲なら問題ない威力やな。起爆位置は……たしか後ろらへんかな」
そう言って、作業がしやすいようにエマはスコルピウスの胴体を持ち上げてくれた。
アントが張り付き、完全自律型スコルピウスの追加ユニット後方に移動する。
『ーー!?ーーーー!!』
「……なんか、五月蝿いわね」
「何が?」
『ーーー!ーーーー!!』
「あ、こっちの話。ノイズみたいなのよ」
そんな会話をしつつ、自律型スコルピウスの外付ユニットの外装をバラしていく。
被弾衝撃の吸収など考えられてなさそうで、シンプルな箱組みだ。ボルトを外してしまえば、防水の接着剤はアントの馬力を使って無理矢理剥がしていく。
「お、ユニット式の自爆装置やね」
「……見たことあるの?」
「ウチのキツネビの光学兵器ユニットにも似たようなん着いとるで。鹵獲防止用のシステムだけ破砕するやつや。簡単に外せるで」
エマの指示のもと、自爆装置の取り外し作業を行う。
内部機構からも独立していて、ボルトで固定されているだけだったので想像以上に容易く取り外せてしまった。
取り外した自爆装置をエマが面白半分にキツネビで投げ飛ばすと離れたところで爆発した。
「こんなんで、機密保持は大丈夫なのかしら?」
「普通な、戦場でクラッキングとかシステムの書き換えとかできへんのやで?プログラマーも兵士も」
あまりにも正論でぐうの音も出なかった。しかし、ここまで分解すると欲が出てきた。
「もう少し、分解していいかしら」
「外装取るだけならええけど……、今すぐに急ぐことやないで?」
「お願い」
「……まぁ、ウェインから指示ないしええやろ。フレームは外さんといてな」
「ありがとう」
「ええよ別に」
なんとなく察してくれた様子でエマは首を縦に振ってくれた。
前面の外装も外していく。
装甲と言うほど分厚くはなくとも、被弾時に中身にボルトが飛ぶのを嫌っているのか、後方と異なり前方は溶接での接続がほとんどだった。
アントの備え付けの工具と馬力に任せて溶接を剥がしていく。
左右から7割以上溶接を剥がしてしまえば、あとは脱落するように外装が剥がれ落ちた。
「……え?……何、これ……」
中に入っていたものを目にして、セイカは言葉を失った。
まず目に入ったのは半球状のガラスだ。
おそらく防弾ガラスだろう。
むしろ、せめて防弾であるべきだろう。
問題はその中身である。
防弾ガラス内は透明な赤い液体に満たされている。
そのさらに内側に、それは浮かんでいた。
「うっわぁ……。マジで人の脳みそ入っとるやん」
生きた人間の脳が、培養液と共に収められていた。
オープン ザ セサミ!




