operation.51
「やっと5機目ね」
レールガンの望遠カメラで、MⅢの上半身に風穴が空くのを確認する。ツチグモの牽制とジョロウの狙撃で足止めはできているものの、如何せん数が多い。
ミヤビのジョロウも、大型機動兵器という高所から重機関砲の望遠カメラを使って状況を確認してくれている。
「……まだ20機以上いそう」
「増援の輸送ヘリはもう見えないわね。早々に輸送ヘリでの接近を見限ってきたのは厄介だわ」
3機ほどMⅢバードイーターのレールガンとMⅢジョロウの狙撃で輸送ヘリを撃ち落としてから、相手の動きが変わった。
より遠方のレールガンの射程外、星の丸みに隠れる10km以上離れた距離でMⅢを降ろし始めたのだ。
判断としては当然と言えば当然だ。輸送ヘリは対空レーダーに映ってしまうが、地上を滑走するMⅢはレーダーに映らない。
結果として、レーダーに映っていた輸送ヘリの動きからの予測した牽制射撃と、望遠カメラでの有視界範囲への狙撃で対応する羽目になっていた。
観測ドローンは飛ばして貰ったが、都市の正規部隊対策していないはずもなく撃ち落とされてしまった。おそらく対ドローン用の低出力の対空レーザーだ。
まだドローンのストックはあるらしいが、ウェインからストップがかかった。
「時間はこちらの味方だ。迎えの部隊には戦車隊もいる。接近を許さずに味方の射程圏内に入ればこちらの勝ちだ」
たしかに、状況確認に飛ばしたたった1機を見付けて落とされたのだから、何機飛ばしたところで落とされるのは目に見えている。無駄に損害を出すだけである。
だが、攻める側であるはずの相手が積極的な攻勢に出てこず、引く様子もないのは不可解だった。
「各機、周辺警戒を怠るな。敵にも増援がないとは限らない」
楽観的に考えるなら、命令に逆らえないため撤退命令が出るまでの間、言い訳の立つ範囲の行動を取っている風に見えなくもない。
それでも戦闘態勢は維持せざるを得ない。緊張の中で集中力を維持するのは精神的に摩耗していく。
「……敵が出てこない」
「地味にしんどいわね。アントを観測に出すと回収できなくなるし、スコルピウスも持ってくれば良かったかしら」
「本来は戦車がやる事をMⅢで行っている。時間さえ稼いでくればいい」
無い物ねだりをしても仕方が無いが、愚痴の1つでも言いたくなる状況だ。
「私が前に出て囮になれば……」
「「「それは駄目」」」
ジョロウが燃料切れで回収できなくなりかねないため、当然却下された。セイカだけでなくアルフレッドやエマにまで釘を差され、妹はむくれている。
ミヤビも痺れを切らしつつあるようだ。
「ここが踏ん張りどころやで……って言いたいけど長くなりそうやから、ウチらみたく景色でも観てリフレッシュしてもええんちゃう?せっかく高いところにおるんやし」
「景色を眺める……?」
エマの言葉にミヤビはため息をついた。
暇を持て余して適当なことを言っているのだろうが、周辺警戒のことを景色を眺めているとは言い得て妙だ。
聞かなかったことにし、牽制射撃を続けると"リロード"の警告表示が出た。主弾倉の弾が切れたのだ。
「リロード」
「了解。フォローするわ」
重機関砲内のアクチュエーターがMⅢからの電力供給で可動し、予備弾倉から新たな弾帯を巻き上げ始めた。
この重機関砲は射撃時に余計な振動で標準がぶれないようにするためアクチュエーターが動くのはリロードのタイミングのみだ。基本は人間のものと同じく反動で自動装填している。
電動で動くガトリングに比べリロードがあり隙ができるのは難点だが、弾は節約しやすく精度もよいため今回のような狙撃にも利用できる。
装填まで手持ち無沙汰となったミヤビはジョロウの構えを解き周囲に目を向けた。
決してエマの言葉に触発されたのではなく、味方の動きなど周辺状況を確認するためだ。
エマのキツネビの自動迎撃が姉妹の攻撃を撃ち落とさないよう、大型機動兵器を挟んで姉妹の対角線上の位置にて控えているので、ミヤビの位置からは四角である。
大型機動兵器の上はミヤビが思っていたより高い。斥候の地雷除去車両まで容易に見渡せた。流石に到着予定の研究所や迎えの部隊はまだ見えなかった。
1つ前の車列ではレーダー車がアンテナを回転させながら走っている。車体の割にアンテナが小さいのは走りながらの使用を想定しているのと、観測用ドローンも積んでいるためだ。大型の輸送車両がその後ろについている。
5機のMⅢが周囲に目を配りつつ並走していた。
ウェインのオオタチは武装も大型で見分けが付きやすい。今は大剣はサブアームで担架し、代わりに重機関砲を右腕部に持たせている。後ろから見ると、大盾の裏側に何やら予備兵装が格納されているのがよく見えた。
アルフレッドや姉は1つ後ろの車列だ。どうせならと、敵機のいない方向にも見渡すように機体を旋回させる。
ゆるやかな丘陵地帯が広がり、もともと農村が何かだったであろう廃墟と、地平線の向こうには山脈が見えた。
姉と苦労して脱出した研究所や廃都市は山脈の見える方向だったように思う。戦闘中でなければぼんやり眺めるのも悪く……
「なに?」
何か光った気がした。
反射的にジョロウのサブアームを動かし防御姿勢をとる。幸いというべきなのか、何も飛んでは来なかった。
「ミヤビ?何してるの?」
「何か……」
近接戦闘を想定したMⅢジョロウに搭載されたカメラの望遠では倍率が心許ない。ミヤビは重機関砲を構えて、望遠カメラの映像を確認した。
何もないように見えるが、丘陵のせいで死角も多く機影は見えない……が、妙に映像が不鮮明だ。
倍率を下げる。
不鮮明な理由が分かった。
土煙が上がっているのだ。
「……2時の方向!何かいる!」
「なんだと?」
ミヤビから応戦している方角と異なる方位の報告を受け、ウェインは怪訝な顔をする。
「観測ドローンを飛ばせ。2時の方向だ」
しかし、ジョロウが重機関砲を構えているのを確認すると、エマと話していた軽口の類ではないとすぐに判断した。
「し、しかし……」
「何もなければそドローンは回収できる。飛ばせ」
突然、明後日の方向に観測機を飛ばせと言われたレーダー員は渋るもののウェインの気迫に押し通され、マルチコプター型のドローンを1機指定の方角に飛ばした。
ドローンは玩具のようなローター音を発しながら戦闘を行っている方向とは真逆の方に飛び立った。玩具のようと言っても、砲撃の観測やレーザー通信の中継ができる優れものだ。
1機落とされていて出し渋る気持ちも頷ける。
「て、敵影確認!!距離、12,000。こちらと並走しています!どこから湧いて出た!?」
「……っ!敵機の機種を確認しろ」
ウェインは平静を装っているが、舌打ちする音が耳に入ってきた。偶然で早くに発見できたが、このまま都市軍にかまけていては気付けなかっただろう。
「無人兵器のスコルピウスが20。行軍速度が速い……距離を離されています」
「周り込む気か、迎えの部隊を狙っているのか」
「焦らんでも、やる事は変わらへんやろ」
エマが割って入ってきた。
MⅢキツネビが巡航速度を上げて、ウェインのMⅢオオタチと並んだ。
「爆撃も一段落しとるし。ウチが出るで。そのために来たんやし」
「……補給は?」
「待っとる間に済ましとるよ」
軽口を叩くように気楽な調子で話すエマにウェインはため息をついた。
「わかった。任せる。おそらく例の無人兵器だ油断するなよ」
「任されたるわ。本気で潰してくるで」
キツネビが速度を上げて車列から離脱していく。ウェインは黒い機体の背中を見送った。
「キツネビが離れるぞ。MⅢスキュータム2機は対空警戒に変更。ドローンは観測を維持。目標のスコルピウス部隊に動きがあれば報告しろ」
「ま、待って?この地形で1機で突っ込ませるの?」
淡々とMⅢキツネビが抜けた役割を他の機体に割り振るウェインの通信を聞いて、セイカは口を挟まずにいられなかった。
多数のミサイルを1発残らず撃ち落とす機体の性能は凄まじいと思う。それでも1機対20機はセイカの常識から外れていた。
「そっか。2人はエマの戦い方を見るのは初めてなのか」
指示出しをしているウェインに代わり、アルフレッドが答えてくれた。彼も特に焦っている様子はない。
「まぁ、見てればわかる」
などと言い切るが、全く説明になっていない。ただ、心配していないことだけは伝わってきた。
「……エマは問題行動も多く、決して良い兵士とは言えない」
指示を終えたウェインが割って入ってきた。
「そんな人間が、最上位に据えられている執行部隊の一部隊長の地位に就けられているのには、もちろんそれなりの理由がある」
ウェインはエマを心強い味方を誇るのではなく、どこかやるせなさそうな雰囲気で説明する。
「現状、ジパング・インダストリーにおいてワンマンアーミーと呼ばれるMⅢとそのパイロットはアイツしかいない」
「……何の冗談なの?」
ワンマンアーミーという言葉を知らないわけではない。一で多を圧倒するという戦場伝説のようなものは存在する。
ただ、基本的には地形的に有利であったり、気象条件、運、もちろん個人技術や経験も含まれるが、条件が揃っていたからこそ起こった事象と言っても過言ではない。
「エマの方にはドローンを飛ばしている。気になるなら観測映像を共有しておこう。見れば心配するのもバカバカしくなるだろう」
空から撮影している観測ドローンからの映像が共有された。




