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3日目の行軍が開始された。


エマのMⅢキツネビと、セイカのMⅢバードイーターが加わり、車列を護衛するMⅢの機体数は12機となった。現在、その全機を可動させた状態で移動を行っている。キツネビは大型機動兵器の直営に、バードイーターはセイカ達の護衛に着いている。


警戒態勢を維持しつつの行軍だ。移動速度に影響はないが、これだとMⅢが増えたこともあり燃料が到着まで保たない。


そのため、研究所からも迎えの部隊が出てきている。動かず待っていても半日せずに合流できるとのことだ。


合流さえしてしまえば、研究所の実験部隊と執行部隊、教導部隊との混合大隊となり手出しなど不可能になる。


それまでに来る可能性がある襲撃は退けることができなくとも、耐えなければならない。


アイアス出身のクレアからすると、あれだけの損害を出してまた手を出してくるとは思えないとのことだったが、ウェインはまた仕掛けてくると考えのようだ。


第一目標は大型機動兵器とセイカとミヤビを研究所からの迎えと合流させることだ。それさえ達成すれば教導部隊は撤退が許され、敗走しても研究所の守備隊が回収に動いてくれるらしい。


大型機動兵器の運行は予備兵のパイロットが頑張ってくれていると言っていたが、持たなかった場合セイカに頼むことになるらしい。


接続を試したが、動かすだけならなんとかなりそうだ。システム面は……中身を少し確認してみて愕然とした。詳細は省くがとにかく古かった。骨董品と言われるだけのことはある。


出発前に、


「ウチあっちと違うん!?」

「お前のキツネビとバードイーターはこの上なく相性が悪い。諦めろ」


などと一悶着あったが、キツネビは味方の弾丸すら撃ち落としてしまうらしく、後衛がサポートできないとのことだった。


性能を見てみたい欲求に駆られたが相性が悪いのであれば仕方がない。クラッドビートルを連れてきていれば話は違っただろう。


「当たり前なのかもしれないけど、エマの機体も専用機なのね」

「それはそうだな。強化人間の才能が強い人は軒並み研究所で開発補助の仕事をして、出来上がった実戦試験機が専用機として渡されるんだ。特殊兵装だったり、完全新型だったりは人によるかな」


アルフレッドが軽口に答えてくれた。その試作機のデータから市販機体のグレードアップや新武装の販売に繋がっているらしい。


「分かりやすいのは、そこのスキュータムが2本のサブアームに積んでた迎撃レーザーだな」


そう言えば、そんな武装を積んでいた。MⅢスキュータムに目を向けると、同じく大型機動兵器についているMⅢキツネビも目に入る。


MⅢキツネビの黒い人型フレームはどことなくMⅢレプスと類似するが、合計4本の三日月状の光学兵器ユニットは肩関節の背面側から伸びているもののMⅢスキュータムのサブアームに近い気がした。また、三日月状のユニットは肩関節を覆う円形の車輪のようなフレームパーツに繋がっている。


「もしかして、エマの機体を覆ってるユニットって根本から動くの?」


「あ、まあじっくり見たら気付くよな。オロチやスキュータムと違う感じだけど、けっこう自由に動くぞ」


スカート状に広げたり、絵画の天使や悪魔が翼を畳むように後方に畳んだりできるらしい。


アルフレッドはエマと仲が良いようには見えなかったが、機体のことは詳しいようだ。


「ずいぶん詳しいのね?」


「む……んー、まぁ味方の機体だし?」


「シミュレーターでウチに負け越し中やもんな?」


「うるせえよ」


途中から聞いていたのか、エマが割って入ってきた。どうにも、模擬戦で勝つためにエマの機体情報や手の内を調べていく内に詳しくなったらしい。


「軽口もええけど、MⅢ全機出して警戒中なんやで」


「……エマに言われるとなんか釈然としない」


「人前やからねー」


「2人はどういう関係?」


聞く限りでは所属している部隊も別々のはずだがくだけたやりとりを行う2人に、思わず口が滑ってしまう。


研究所(むこう)着いて、落ち着いたら女の子同士で集まってお話しよや。今は仕事やで。たぶん襲撃はあるやろうし」


「MⅢを20機も失ったのに?」


ウェインも教導部隊の面々も追撃がある前提で話と準備を進めていた。戦力増強のためセイカのMⅢバードイーターもジパング社持ちで空輸してくれたわけだ。


「じゃあ、認識共有にためにエマお姉さんがブリーフィングしたるわ。妹ちゃんも、ツバキも、訓練兵も、ながらでええから聞いときや」


エマが話をしつつ、部隊全体に回線を繋ぐ。ウェインが口を出さないのが意外だった。エマの口調の問題で軽く聞こえるがマジメな話ということなのかもしれない。


「昨日、醜態さらした都市国家はヘイロンやな。この辺りの都市の特徴やけど、民族主義的な傾向が強い割にデカイ都市に忖度しとる。今、力が強いんは都市国家シンやったかな」


この辺りで民族主義と独裁は紙一重だとエマは言い切ってしまう。


「小さい都市は、自分達が1番やと思とるのに、大きい都市の腰巾着をせないかん。この矛盾が、この辺りの都市のヤバいところやな。小さい都市国家でも成り上がりを常に考えとる」


ただ、都市国家シンは、下につく代わりに小さい都市をテロリストから守ったり、投資したりもしとるんやけどねと予断を付け足した。


「軍事も経済も都市国家シンに依存しとって素人なのに、小さい民族主義……独裁の都市国家はプライドばっかりデカイ」


エマは因縁でもありそうな様子で嫌味たっぷりに言いきる。


「そんな所がなんや良さげなオモチャを手に入れましたとさ……条件付きかもしれんけど」


流石にこの言葉の続きは予想できた。


「暴走するわな」


まるで示し合わせたかのように空襲の警報が鳴り響いた。


「方角!」


「8時の方角!高速で接近する機影あり!対地ミサイルと思われます!着弾まで5分」


「上々!敵もそっちから来るで!!ミサイルの位置情報送って!」


「迎撃はエマが行う。足を止めるな。行軍速度を維持」


昨晩、襲撃があった際の打合せを行っていた。地上での高速機動が可能なMⅢだが、戦闘速度で走り回れば燃料は1時間も持たない。そのため、接敵するまでは行軍しつつ都度迎撃する方針となった


「さて、引き際も知らん素人は面倒くさいで」


エマのMⅢキツネビが補給ホースをパージし、跳躍する。動作はMⅢレプスと大差はないがより高く跳躍し、大型機動兵器の上に陣取った。


大型機動兵器の上であれば、キツネビは進行方向を向く必要もなく、レーダーがミサイルを捕捉した8時の方角に機体を向けることができる。


キツネビに取り付けられた光学兵器ユニットが、肩関節のフレームに沿って機体前方に展開された。


「距離が遠いと難儀やな」


エマの言葉から数十秒後、はるか遠方の空が瞬いた。数は3つほどだろうか。


「レーダーより機影、消失」


「引き続き警戒。エマは持ち場を維持しろ」


「ウチ、固定砲台扱いかい」


ウェインの指示に、エマの拗ねたような声が耳に入るが、引き続き数分ごとにミサイル攻撃が続いた。


「再びレーダーに機影。数6」

「任しとき」

「機影消失しました」


エマのMⅢキツネビは動いているように見えないが、光学兵器ユニットの縁が瞬いているように見える。隙間があり、中の機械やレンズが動いているためか。


「……レーダーに機影。数10」

「懲りへんな。同じやのにな」

「機影消失しました」


もはや、はらはらとしているのはセイカや訓練兵程度だろうか。もはやウェインは指示も出していない。最初は気を張っていたらしき教導部隊の隊員達も軽口を叩き始めていた。


「……レーダーに機影。数……50!?」

「ヤケクソになってきたんかなぁ?」

「……あれ?俺の反応がおかしい?」


表示された数にレーダー員は目を丸くするが、エマは先ほどと変わらぬ調子で、レーダー員の困惑する声が耳に入ってきた。


「ウェイン。流石に遠方で撃ち落とすんは厳しい数やで」


「……手伝った方がいいのかしら?」


「問題ない。エマはキツネビの光学兵器ユニットをフルオートに戻して降りてこい。各員は耐衝撃姿勢。爆風と衝撃波で車両を転倒させるなよ」


今まではマニュアルで迎撃していたらしい。


キツネビの前方に展開していたユニットの基部が背面側の定位置に戻り、機体を覆う形態に変わった。


そのまま大型機動兵器の上から飛び降りると、普通に並走し始めた。迎撃する気すらないように思える。


「……大丈夫なの?」


「迎撃って意味なら問題ないぞ。爆風と衝撃波はどうしようもないから、お姉さんの機体も通常車両の壁になってくれ」


アルフレッドに言われるまま、バードイーターとツチグモの巨体で、他の車両を庇う位置に移動した。


数分とせずに、ミサイルが視認できる距離まで迫ってきた。黒い点が無数に空に浮かんでいる。


いよいよ、点ではなくミサイルの形状が確認できる距離となったところで、ミサイルが光に変わった。


機体のカメラ越しではあるが、遠方での爆発による光とは比較にならない閃光に、セイカは思わず目を背けた。


間髪入れずに爆発音が響き渡る。


ただ、1発の爆発音ではない。


立て続けにミサイルが空中で爆散している。


つい望遠カメラ越しにミサイルを見ていたが、広角カメラで遠目から観察すると一定の距離に到達したミサイルが次々と光と炎に変わっていた。


まるでそこに不可視の壁でもあるかのようだ。


ただ、防げるのはミサイル本体だけだ。


衝撃波が機体を、車体を揺らす。


幸い、防弾ガラスで守られているMⅢのセンサーとカメラはこの程度で破損するようなことはないようだ。


遅れて、爆発による爆風がMⅢの機体を煽った。


嵐など可愛く思えるような暴風が、全高の高いMⅢや軍用車両を押し倒そうと猛威を振るう。


MⅢはオートバランサーを起動し、ホバーエンジンの出力も調整することで風圧に耐える。


通常車両はMⅢや重量の重い大型機動兵器や輸送車両を防風壁代わりとして耐え忍んでいた。


キツネビの迎撃で延々と爆発し続けるミサイルの音はもはや土砂崩れの轟音を聞き続けているようだ。永遠に続くのかと思えてしまう爆発音、衝撃波、爆風も、終わってしまうと数十秒ほどの時間でしかなかった。


「終いか」


エマの欠伸が混じってそうな声が通信から聞こえてきた。彼女からすると慣れたものらしい。


「流石にミサイルの無駄だと気付いて欲しいものだ」


対してウェインはため息交じりの声だった。異常なのはエマの方とわかってセイカも安心する。


こんなのが当たり前となると、企業連合の専属傭兵など真っ平ごめんである。


「再び機影を確認!」


レーダー員の言葉に、輸送部隊員は恐怖とは別の感情が浮かんだ。もはやMⅢキツネビの性能に誰も疑いはない。


ただ、先程の音と衝撃の暴力には辟易していた。


「またミサイルなん?」


エマを除いて。


「……いえ、速度が……輸送ヘリと思われます」


「なんや。お役御免か」


安堵のため息を吐いたのはセイカだけではなかった。

だが、輸送ヘリが飛んで来るということは、何を積んでいるかは言うまでもない。


「キツネビは後退。ジョロウ、バードイーター、ツチグモは戦闘準備」


これだけの光景を見せられると、エマ1人でなんとかなるのではないかと思ってしまうが、そこまで万能ではないらしい。


セイカのMⅢバードイーターとミヤビのMⅢジョロウが給油ホースをパージした。


ミヤビはエマに習ってジョロウを跳躍させ大型機動兵器を足場にして砲身の長い重機関砲(ライフル)を構える。


あくまで口径の大きい機関砲(マシンガン)であるため、スコルピウスの長距離砲や中口径砲(キャノン)と比べると威力も射程も見劣りする。

だが、選んでくれた整備士のハワードによれば、MⅢが片手で撃てる射撃武器の中では最も精度と威力が高い機種らしい。


ツチグモは上半身を展開した。大盾を持つ腕部を除いた3本のマニピュレーターには先日鹵獲したMⅢが装備する対機動兵器の重機関砲(ライフル)を搭載している。


ツチグモとバードイーターは上半身だけを8時の方角に向ける。これは純粋な人型ではない機体のメリットだ。


「敵の動きは平地戦でのセオリー通りだ。バードイーターは敵機の展開を妨害。ジョロウとツチグモは接敵までに数を減らせ。弾薬費は気にするな。こちら持ちだからな」


「お金ってあるところにはあるわね」


「……ホントにそう」


普段の仕事では弾薬費の問題でそうそう撃てないレールガンを好き放題に撃って良いと言われ気が遠くなる。


砲身の交換が必要になっても交換費を持ってくれると言うので、本当に弾薬費をケチる理由がない。


「レーダー車から目標の位置情報をリアルタイムで送って。確認次第、砲撃を開始するわ」


「白色姉妹のお手並み拝見やね」


何やら楽しそうなエマの言葉を流し、セイカは位置情報が送られてきたことを確認する。


「……そう言えば、本当に飛んでる相手を撃つのは初めてね。名前通りの性能を見せてちょうだい」


バードイーターのレールガンが、砲弾と共にプラズマを吐き出した。

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