operation.43
ミヤビもアルフレッドも野営の準備は慣れたものでテキパキとテントを組み立てていく。
ミヤビが研究所でサバイバル訓練をした時は敷地内でひたすらテントを組み立てては分解して片付けるといったものだった。あとは動物の解体か。
キャラバンの護衛を始めてからはいくらか野営の機会があった。ただツチグモが着いている時は牽引車両に生活スペースが入っているためオートキャンプのような形になるし、テントがある場合はセイカと別行動でツチグモを使用しない時だ。
姉妹揃って本格的な野営の準備は初めてかもしれない。
ただ、セイカにできることは邪魔をしないように離れて眺めているくらいだった。
それだけミヤビとアルフレッドの作業は手際が良かった。ツバキも手際が悪いわけでは無いが、2人の手際に比べると見劣りする。
「そっち頼む」「わかった」「そっち持って」「了解」など短い掛け声だけでテキパキ組み立てており、手が空いた方がツバキのフォローに入っていた。
勝手の知った仲のように見えなくもない少年と妹を見るツバキは気が気で無さそうだ。セイカとしては妹を応援したいが、彼女にも頑張って欲しい。
なので、セイカ自身は眺めるだけにし、ツチグモに積載していたアントを使って、重量物の運び出しや焚き火用の穴を掘っていたのだが、機械が行うだけあって荷出しも穴掘りもすぐに終わってしまった訳だ。
手持ち無沙汰なセイカは周囲を確認する。訓練部隊の訓練兵達はわりと手間取っている……というか、明らかに人手が必要なのにサボっているものがいて遅れている印象だ。
教導部隊の隊員はおおよそミヤビとアルフレッドと同じペースで準備を進めていた。訓練部隊を険しい顔で睨みつけている隊員もおり、後で怒りに行く姿が容易く想像できた。
ウェインも見つけることができた。タープテントの下で、組み立て式のテーブルを囲んで男達とブリーフィングをしていた。明日の動きの確認でもしているのだろう。
その中に1人だけ女性が混じっていた。男性の兵士に負けない背丈の女性だ。栗色の髪は邪魔にならないショートヘアで凛々しい印象を受ける。服装もジパング社のものではない。あれは軍服だろうか。
研修に来ている都市連合士官とは彼女の事かもしれない。
そんな女性士官を眺めていると目が合った。
すると、なぜかにこやかに手を振られた。
初対面だと思うのだが。
呆気にとられてキョトンとしていると、女性士官の動作に気付いた、隊員もこちらを見てウェインと何かを伝えていた。
何を話していたのかは、1時間も経たない内に知ることになった。
その女性士官が野営道具を持ってこちらに来たからだ。ウェインという男は気遣いができるらしい。
だが、セイカは再び呆気にとられることになる。
「セラじゃないか。こんな所で会えるとは思っていなかったよ」
にこやかに手を握られ挨拶をされた。男性に混じっている時の凛々しい顔付きは異なり、眦の下がった笑顔は可愛らしい印象を受けた。
「髪型を変えたのか?短いのも似合っているな」
「あの……」
アルフレッドとツバキは知り合いだったのかという顔で、ミヤビは誰だコイツという顔でこちらを見ている。
友好的なだけあって対応に困ってしまう。
セラと偽名を使った覚えなどない。
確実に彼女とは初対面だ。
「……人違いじゃないかしら?」
「えっ……」
女性士官が固まった。
彼女の手汗がすごい。
軍人だけあって代謝は良いようだ。
記憶力は分からないが。
「……私の名前はセイカと言うわ」
「……すまない。私はクレア・アーノルドという。城塞都市アイアスにて、少尉を務めている」
クレアの口の端が歪み、耳が真っ赤になっていた。
耐え切れなかったのか、アルフレッドが噴き出す声が聞こえた。ツバキが小声でお客さん相手にまずいとか何とか言っている。
酷く気不味い。何か話題を変えるべきだ。そう言えば、アイアスの仕事を受けたことがあった。
「アイアスって、暗黒大陸のアイアスかしら。仕事を受けたことがあるわ」
「そ、そうか。あはは……すまない。その時に顔だけ見ていたのかな。記憶力は悪くないと思っていたんだが……」
会ったことはないが深く突っ込まない。うまく話を逸らそう。
「ちゃんと話をしたのはアンナという名前のオペレーターだったわ。弟がいるらしくて気が合ったのよ」
「アンナと知り合いなのか。私は彼女と寮が同室で友人なんだ。優秀で美人だっただろ。弟もアンナと顔がそっくりなんだ」
彼女もこれ幸いと話題に食い付いてくれた。内心安堵のため息をつく。
「よし、アンナに自慢してやろう。写真いいかい?」
「それくらいなら」
了承すると、クレアは肩に手を回してきた。頭がぶつかりそうな距離感だ。もう片方の手でモバイル端末のインカメラを構え自撮りする。
その様子を見てミヤビが絶句している。
「ズルい!」
案の定ミヤビが割って入ってきた。
「おや?もしかして妹さん?」
「妹のミヤビよ」
「よし、一緒に撮ろう」
ミヤビも間に入って一緒に撮る。ミヤビが割とノリノリで、両手でピースしていた。
クレアは撮った写真を眺めながら満足そうだ。ミヤビも覗き込んでいる
「私にも共有して」
「もちろんだ」
SNSのIDまで交換を始める。そんな様子を眺めていると、離れて見ていたツバキがボソリと「陽キャ……」などと呟いていたので、後から巻き込んでやろうと心に決める。
「ほら、気が済んだんなら、野営の準備を終わらせようぜ」
「ああ、それもそうだな」
アルフレッドに指摘されて、クレアは思い出したように、放り出したテントを組み立て始める。
「そうだ。後で、ウチの仕事の感想を聞かせてくれ」
テントを組み立てつつ、彼女はそんな事を言うのだった。
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アイアスと呼ばれるの城塞都市の外縁。
予定より早い時間の午前中。模擬戦は正午からだ。
スコルピウスの装備は注文を付けた通りだ。機関砲のタイプと長距離砲のタイプが1機ずつ。
もう1機はクラッドビートル。武装は基本装備の大盾と剣状のメイス。メイスは盾の裏に格納し、機関砲も装備している。
「機体の状態はどう?」
「良いわね。ラグも想定より少ないわ」
アンナの問いかけに、3機を動かしながら答える。
機関砲のスコルピウスは足先のローラーで大地を疾走させている。細かな進路変更を差し込むが、動作の遅れはさほど感じられない。急制動でもかけない限りは問題なさそうだ。
クラッドビートルに盾を振り回させる。整備状態も良い。ほとんど新品なのかもしれない。
長距離砲のスコープの設定距離は初期値のままだったため、模擬戦での戦闘距離に合わせて調整する。
「……そんな自由に動かせるものなのね」
アンナの観心した声が耳に入る。悪い気はしないが、セイカも誰もがこれをできると思わせてしまうのは不味い気がした。
「……騙しているわけではないけれど、タネも仕掛けもあるのよ?」
「どういうこと?」
「私は強化人間で、脊髄に沿って付けたインプラントの直接入力で動かしているの。全部マニュアルで動かしてるようなものなのよ」
説明しつつ、手すきになっている長距離砲のスコルピウスをピョンピョン跳ねさせる気分で跳躍させる。結果的にはドスンドスンと大地を踏み鳴らすことになった。
その様子を見ている一団がいる。新米のMⅢパイロット達だろう。明らかに異様な動きをしている無人兵器を目にして顔を青くしている者もいた。
「誰でも自在に操れる訳ではないのね」
「MⅢのコクピットユニットとの連携機能があるから、それで1機の遠隔操作の指揮機に無人兵器のAIを連動させて部隊行動をとらせるのが主流らしいわ」
そろそろ慣らし運転も良いだろう。
走らせていた機関砲のスコルピウスをクラッドビートルと並べた。
「もういいの?」
「ありがとう。充分よ」
「了解したわ。新米の準備ができるまで待機でお願い」
予定では5セットの模擬戦での演習だったか。
セイカは今のうちに、模擬戦のフィールドとなる仮設の演習場を確認することにした。
事前の説明通り起伏は少なく、その代わりに障害物が設置されている。
陣地用の仮設バリケード。2mの立方体で土を詰める防弾タイプのものが2段積まれ、陣地が作られている。
金属板のシンプルなバリケード。
どのバリケードも樹脂弾を防ぐのには十分だろう。
後は竜の歯と呼ばれる対機動兵器用の四角錐型のブロックが所々配置されていた。
本来は対戦車用の障害物だが、MⅢのホバーエンジンによる滑走にも有効だ。
それでも障害物は多くない。MⅢの高速機動地上戦や遊撃戦あたりを想定しているのだろうか。
時間制限は30分というが、そこまで必要だろうか。
相手のMⅢを確認する。
練習機らしいMⅢが6機。フェデラル・エンジニアリング製のMⅢクーガーだ。
無骨で重装に見えるが、良くも悪くも標準的な性能の人型MⅢで、誰でも扱いやすい機体ということで多くの都市軍に採用されているらしい。
後は護衛らしき2機。
1機はカタログで見たことがある機体だ。
MⅢレックス。
アルメニア・エレクトロニクスの2脚型MⅢ。上半身が大きく前に飛び出していて、その先に頭が付いてる。腕部は小ぶりだがマニピュレーターはなく機関砲がそのまま接続されていた。
鳥か恐竜のような形の脚に、前方に飛び出た上半身とバランスを取るためのテイルスタビライザー……尻尾の着いた姿は、ファンタジーに出てくるリザードマンのようだ。
もう1機は右腕が特殊兵装となっている人型MⅢ。
おそらくアルビオン・バイオニクス社製。
盾であり巨大なマニピュレーターとなっている右腕が特徴的で、肘辺りから円柱状の武装の一部と思われる部品が盾から飛び出していた。肩関節部に大型のパーツが着いているが、何の装備だろうか。左腕には対機動兵器用の重機関砲。全体の装甲はステルス戦闘機のような鋭角なデザインをしていた。
2機に共通しているのは口枷の猟犬のエンブレムが描かれている点だろうか。
「相手はあの6機のMⅢということかしら」
どうせなら、無人兵器のAIが絶対しないような戦い方をしようかと考えながら独りごちる。
「うち3機は破損した場合の予備機だけどね」
独り言にアンナが補足してくれた。
「そろそろ、仮設の演習場内に入ってくれるかしら。新米共も準備が終わるわ」
アンナに誘導され、機体を移動させる。同じタイミングで、クーガー3機が演習場の陣地に入っていた。
見たところ、3機とも重機関砲と機関砲の白兵戦装備だが、盾を持った機体が見当たらない。
敵味方の識別と判断をしてから射撃するため初動の遅い自律行動状態の無人兵器相手であれば十分かもしれない。だが今回セイカが扱うスコルピウスはそうではない。
分かっていてか知らずかは知らないが、新米共に舐められていることは分かった。
叩き潰そう。
セイカはそう心に決めた。
クレアはこちらで出てくるキャラクターです。
なろうで書いている同タイトルはリテイクです。ご興味ある方はぜひに。
City State プロローグ
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5548739




