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基本的に無人兵器は搭載AIによる自律行動中、受動的な戦闘行動を行う。


索敵時に攻撃目標を補足しても入力されたデータとの整合性を確認する。


そして、一致しない場合は識別信号を確認する。


敵対勢力の識別信号ではない、あるいは識別信号を確認できなかった場合はさらに画像認識で機体に描かれたエンブレムやマーキングで確認。


さらに危険度の確認……と、それぞれは一瞬で行われる処理だが如何せん数が多い。


レーダーなどで遠隔から敵味方の識別が行える場合は例外となるが、そもそも地上兵器である以上、必ずレーダーを積んでいる訳でもない。


この動作は、攻撃だけ自動化している場合でも実行される。


安全性の観点から仕方のないことだが、攻撃に移るまでのプロトコルが多く、反応速度が遅くなってしまう。


そのため、研究所の模擬戦で相手をした完全自律型を宣うスコルピウスは名前の通り驚異的な性能だった。


安全性は不明だが。


そういう訳で無人兵器を扱うならセミオートかマニュアルで機体を操作し、僚機の無人兵器のAIにはその行動を模倣させるのがベターである。


セイカも扱う機体数が多くなるとこの方法を使う。


セイカの強化人間の性能として無人兵器をマニュアルで扱えるのは6機まで。いろいろと試しているがセミオートであればもっと使えそうだと感じている。


今回はたったの3機である。


この新米兵士は自律行動する無人兵器の初動の遅さと受動的な戦い方をする点は理解しているらしい。待ち伏せをする気なのか、演習場に用意された陣地から出てこない。


無人兵器専門のオペレーターを舐めすぎている。


なので、戦術的に先制攻撃はあまり好きではないが、積極的に攻め、何もさせないままに潰すことにした。


陣地から動かず攻めてこないなら、長距離砲のスコルピウスは隠れる必要がない。


演習場なので敵の初期位置も分かりきっている。


長距離砲のスコルピウスは悠然と陣地から出て行き、仮設演習場の端で四脚を広げアンカーを大地に打ち込んだ。


クラッドビートルと機関砲(マシンガン)のスコルピウスは縦列を組み、クラッドビートルの機体と盾で機関砲(マシンガン)のスコルピウスを庇う形で突撃。


セイカは研究所で行った最後の模擬戦で相手のスコルピウス3機が取ってきた作戦を過激にアレンジすることにした。


相手が隠れていることなど分かった上で、陣地に向かって長距離砲を発射した。


樹脂弾のカバーの中身は名前の通り金属の弾芯ではなく蛍光樹脂が詰まっている。


貫通力は無い代わり、着弾した弾丸のカバーが弾けると、発射の熱で液状になった蛍光レッドの樹脂が放射状に飛び散る。


長距離砲の樹脂弾は新兵の隠れる陣地に着弾すると、バリケードを真っ赤に染めた。貫通力はなくても衝撃はある。2段に積まれた土袋のバリケードが僅かに傾いた。


容赦はしない。


長距離砲のリロードが終わり次第発射する。長距離砲のスコルピウスはそれをひたすら繰り返す機械にする。


樹脂弾でも同じバリケードに当て続ければ崩すことができる。


2機を前進させながら砲撃への反応を確認するが、出てくる様子はない。あくまで待ち伏せで対処する気のようだ。


4mの高さのバリケードに隠れているということは、人型であるMⅢクーガーは最低でも屈んだ状態、または膝を付いて可能な限り姿勢を低くしているのだろう。


クラッドビートルも機関砲(マシンガン)を断続的に発射する。狙うのは遠距離砲のスコルピウスが撃ち続けているバリケードと同じバリケード。


途中で傾くのが止まっているのをみる限り、反対側からMⅢ支えているのだろう。


突撃させている2機をどう動かすか決まった。


クラッドビートルも機関砲(マシンガン)のスコルピウスも傾いたバリケードに突貫させる。


距離を詰めつつ、2機の機体は少しずつ距離を開けていった。


陣地を構成する土のバリケードが間近に迫ってくるが、クラッドビートルの速度は落とさない。


「あはは。なるほど」


男の笑い声が耳に入ったが聞き流した。


クラッドビートルが上半身を格納し、装甲板を背負ったスコルピウスのような形状となってバリケードに激突する。


クラッドビートルの自重と突貫による運動エネルギー、長距離砲での射撃での破損も合わさり、バリケードが倒れた。


「ちょ、待って待って待って!!」


誤操作なのか分からないが、反対側で支えていたMⅢクーガーのパイロットであろう新兵の悲鳴がオープン回線を通して耳に入ってきた。


後ろから追随していた機関砲(マシンガン)のスコルピウスが速度を上げて跳躍する。バリケードにのしかかったクラッドビートルをジャンプ台にしてさらに飛び上がった。


スコルピウスのカメラ映像がセイカのもとに届く。


流石にバリケードへの突撃は見越していたようで、残りの2機はバリケード両端に隠れていた。


跳躍したスコルピウスの機関砲(マシンガン)がフルオートで火を吹く。


セイカから見て右翼側に隠れていたクーガーが蛍光レッドで真っ赤に染まった。


「アルファ3撃破判定だね」

「そんな!?」


笑っていた男の声が耳に入る。審判を行っている人物だったようだ。


跳躍したスコルピウスがいよいよ着地する。


左翼側のクーガーが前に出るでもなくスコルピウスが着地するのを待ち構えていた。


「機動兵器が起動しないのは愚策よ」


バリケードを押し倒したクラッドビートルがバリケードにのしかかった状態で上半身を展開しなおしていた。


こちらも模擬戦用に機関砲(マシンガン)を装備している。


機関砲(マシンガン)が火を吹き、もう1機のクーガーも蛍光レッドで染められた。


「アルファ1も撃破判定。これは終わったね」

「あっ、くそっ!!」


着地したスコルピウスは半身がバリケードの土に埋もれたクーガーに機関砲(マシンガン)を突き付けていた。


「撃つ必要あるかしら。審判さん?」


「あっはっは!アルファ2も撃破判定だね。ベータチームの完勝だなあ」


「音声通信の声掛けなしに連携行動を行えるのか」


どうにも護衛のMⅢ2機のパイロットが審判を兼ねていたようだ。


笑っているのはどちらの機体のパイロットだろうか。


「傍受する機転があっても作戦行動を読めないし、これは一方的になりそうね……」


通信の傍受をしてもいいのか。アンナの一言で、セイカの手札が増えた事を新米たちは知る由もなかった。


そして、アンナの言葉通り、残りの4セットの演習も一方的なものとなった。


新米が攻めに転じれば長距離砲による狙撃の餌食となり、守りに入って籠もっても傍受した通信から位置と作戦がバレてしまい、裏をかかれる始末だった。


結果的にアイアス軍の新兵教育の目的は果たされたのだが、肩を落とす新兵の他に不満をこぼす者もいた。


「現役の傭兵に勝てるわけがない」だの「こんなの先輩パイロットでも勝てないに決まってる」だの「先輩も戦ってみたのか」だの。


「実力差を分からせるべきかなぁ?」


口調は朗らかだが、この笑っている男の言葉からは脳筋的な考え方が漏れていた。


「キース中佐、俺達の武装は実弾だが……」


「無人兵器を壊さなければいいんだろう?クライヴ准尉、どうかな?」


「予定にないことは……」


アンナが苦言を呈そうとしたが、口を止める。誰かと話し合っている声が耳に入ってきた。


「……許可が、出たわ。新米に言い訳させるなとのことよ」


ため息とともにアンナは手のひらを返した。しかし、セイカとしても予定外の仕事をさせられるのであればタダ働きは避けたいところだ。


「……報酬分は働いたと思うのだけど?」

「追加報酬を出すわ。追加の模擬戦を受けてくれるなら満額の報酬をさらに倍にするわ。勝敗は問わない」


「誠心誠意、働かせてもらうわ」


金額でくるりと手のひらを返したセイカにアンナは笑いをこぼす。


「ふふっ、流石に現金過ぎない?」


「妹の機体の修理もあるし、お金はいくらあってもいいわ」


「あ、もしかしてブリーフィングで話を聞いてた娘?妹だったのね。私も弟がいて、傭兵をしてるのよ」


正規軍ではないのかと思ったが、突っ込むのは流石に初仕事の相手に踏み込み過ぎだろうか。


「ニコルっていうのだけど。あちこち飛び回っているから会う機会があったら仲良くしてあげて欲しいわ」


「……味方として出会えることを祈ってるわ」


思ったより気に入られてしまったようだ。仕事柄、どういう出会い方をするか分からないが、頭に入れておくことにする。


「そろそろいいかな?相手は俺で良いよね」


右腕が特殊兵装の黒いMⅢが重機関砲(ライフル)を捨てて前に出てきた。どうやら笑っていた男の機体のようだ。


たしかキース中佐と呼ばれていた。この軽薄な男が隊長ということだろうか。箔の有無でいうと、淡々としていたもう一人の男の方がありそうだ。


「ハロルド・キース。一応、隊長で中佐だ。じゃあ、始めようか」


そう言うが、出てきたのは彼の機体1機だけだ。


「……他の機体は?」


「3対1で構わないよ。武器は俺の機体の右腕のみだけど、掴まれたら撃破判定でいいかな?」


「……はい?」


さすがに舐め過ぎではないだろうか。

しかし、彼の言動に対して、もう1人の男も、アンナも口を出さなかった。


「じゃあセイカ、準備をしてくれるかしら?」


「……分かったわ」


少しムカムカしてきた。


少なくともアイアスのこの場の人間はセイカ以外、この1対3で対等か、この男が勝つと思っているということだ。


「……負けても言い訳しないでね」


「あはは。そんなつもりじゃ無かったんだけど」


「……3カウントで開始します。中佐、準備を」


アンナの言葉で、黒いMⅢの肩関節にあるユニットが展開し、光を吐き出し始めた。追加エンジンだろうか。


どうやら高機動に特化したタイプのMⅢのようだ。


「俺に勝てたなら、報酬をさらに倍にしてあげよう」


「言ったわね!!」


頭に血は登っていたと思う。


だが。


3分足らずで敗北するとは思わなかった。


----------


「強かっただろうあの人!」


話を聞いたクレアは楽しそうに笑っていた。


どうやらあの中佐が化物じみたパイロットであることはアイアスの軍人の中では共通認識らしい。


「掴んだスコルピウスを盾にして突っ込んできたわ」


「それをMⅢ掴んだ場合でもやる人だからなぁ」


「……というか、あなたの都市、性格悪過ぎではないですか?」


「私も一緒にその仕事すればよかった」


セイカの話に対して、レーション片手に皆が思い思いの感想を述べた。アルフレッドだけ、顎に手を当てて何やら考え込んでいる。


「どうしたの?」


「いや、結局さ。アーノルド少尉とお姉さん、その仕事でも会ってなくないかなって思ってさ」


「うぐっ……」


セイカもあえて黙っていた事実を蒸し返してクレアがダメージを受ける。


「いや、本当に似てるんだ!待て待て待て。セラの写真もあるから実際に……あったあった」


もはやムキになりつつあるクレアにセイカとツバキは苦笑する。ミヤビの方は興味が無さそうだ。


しかし、アルフレッドは自分が蒸し返した手前、クレアが見せ付けてきたモバイル端末の画面を見ないわけにもいかず、覗き込んで眉間にシワを寄せた。


そのままの表情でセイカとクレアのモバイル端末を二度見する。


アルフレッドの様子を見て興味が湧いたのか、ミヤビが少年の隣に行く。


画面を覗き込んで……目を丸くした。


「……AIとかの合成?」

「いや、そこまで私、信用無いか?」

「まぁ、言いたいことはわかる。俺はお姉さんに生き別れた双子でもいたのかと思った……まぁ、世の中に同じ顔の人は3人いるって言うけど」


訝しげなミヤビの一言にクレアはガクりと肩を落とした。少年の方は自身の中で偶然もあるものだと片付けたようで、すでに興味を失っている。


「え、私にも見せて」

「むしろ貴女に見てもらいたいよ」


2人の反応に、セイカも俄然興味が湧いてしまいクレアに催促する。彼女は是非にとモバイル端末を渡してきた。


画像を見て、セイカは背筋が寒くなった。


そこには自分がいた。


もちろん、先ほど撮った写真ではない。


自分はこんな笑い方はしないし、髪型も違えば、血色のいい健康的な肌色をしている。


だが、自分と同じ顔をしていた。


思わず、先程クレアが共有してくれたツーショットの自分の写真と見比べてしまう。


「な、似てるだろう?」

「そうね……そっくりね」


可能な限り平静を装う。会ったばかりのクレアは誤魔化せても、妹は姉の様子がおかしい事に気付いているようだった。


なんとなく、写真の女性……セラの身元が予想できてしまう。あまり考えないようにしていた、自分達の出自に関する嫌な予想でもある。


だが、聞かずにいれなかった。


「どんな……人なの?」

「フルネームはセラ・キースというんだ。アルビオン・バイオニクスの研究者らしい。都市外の任務で保護して仲良くなったんだが……」


ツバキが「キースってよくある姓なんですか?」など、アルフレッドが「珍しくはないんじゃないか?」など口を挟まれつつクレアは説明を続けた。


セイカも相槌を打っていた気はするが、途中からの話は覚えていない。


楽しそうに話していたから、クレアにとっては良い思い出なのだろう。


----------


就寝時間が過ぎ、ツチグモの居住スペースでミヤビもツバキも寝息を立てている中、セイカは身を起こした。

クレアはテントで眠ると譲らず、野営のテントで寝ている。


2人を起こさぬようすり足で、隅にある鍵のかかった収納棚に手を伸ばす。母の遺骨と遺品をまとめて収納している棚だ。


お金の問題と、定住する決心がつかず母の遺骨はここに入れたままだった。


遺骨を入れる箱と弔うための道具らしいものは宗教道具を扱う店で購入して一緒に入れてある。


数珠と言われる丸い玉を繋いだブレスレット。


木製の"仏"と言うらしい人形。


位牌というらしい母の名を刻んだ木の札。


どれも母の趣味ではない。調べると、この宗教が火葬を肯定的に捉えるものだったので、この宗教の道具屋を選んだのだった。


位牌には"ミランダ・キース"と書かれている。


母の、あの女の名前だ。


「貴女は何をしたのよ……」


あの白髪の女性は誰なのか。生きていれば問いただしていただろう。


この女の過ちが後ろから着いて来ている気がしてならない。


状況からして、模倣品は……


「姉さん?」


後ろから声をかけられ、セイカは肩を震わせた。

見れば、ミヤビが寝袋の中からこちらを見ている。


「……寝よ。明日も早いよ」

「……そうね」


促されて、棚の鍵を閉め直し、妹の隣の寝袋に戻る。

ミヤビは寝袋から手を伸ばしてセイカに抱き着いてきた。


「姉さん。難しいこと考えてる」

「……そうね。でも、ミヤビだって……」


他人事ではない。薄々、セイカと同じ考えに辿り着いているのではなかろうか。


妹は頭を振るだけだった。


「寝よ」


ミヤビがギュッと抱きしめてくる。


不安になっている子供にするように。


これではどちらが姉か分からない。


「……そうね。おやすみなさい」

「おやすみなさい」


眠れるかは分からない。


返事を返すと、セイカは目を閉じた。

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