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「2泊とも夜の見張りは俺がやるよ」


遠征を行う上で見張りのローテーションは決めねばならない。特に敬遠されがちなのは夜の当番なのだが、アルフレッドは率先して手を上げた。


「いいの?」

「バカがやらかすのは夜だし」


因縁でもあるのか、単に突っかかってくるのが癪に障っているのか、少年の先程の少年グループへの言葉には棘しかない。


気になるが掘り下げる事でもない。


「その代わり、明日以降の午前の車両護衛はミヤビにやって欲しいんだ。その時に俺は寝る」

「……わかった」


行軍時の起床時間は6時。強行軍でもないので3時間毎に15分の休憩も挿むらしい。


食事の時間も加味すれば、アルフレッドは夜の見張りの後でも7時間は寝られる計算となる。


「なんだか良心的ね」

「訓練兵がいるってのもあるけど、1番の理由はあれの移動だな」


少年は移動に使われる車両やMⅢとともに並ぶ巨大な機体を指差した。


矢尻をそのまま大きくしただけのような平たい上半身に鳥の脚のような脚部が付いていて、背中に当たる部分から翼のような巨大な腕部が伸びていた。翼のようと言っても、あの機体のサイズでの厚みを考えると翼というより盾のような用途なのだろうか。武器を掴むようなマニピュレーターはなく、腕部の内側に砲のようなものが見える。


脚部が折り畳まれた状態でもMⅢより全高が高く、幅はツチグモの幅の2倍……道路でなら4車線は占領してしまいそうな幅だ。上半身が矢尻のような形状のため全長はもっと長い。


「骨董品の大型機動兵器。名前は……覚えてないや。インプラントでしか動かせないんだけど、負担が大きいから、教導部隊の強化人間パイロットが交代で動かすんだってさ。研究所に持っていくらしい」

「そうなのね」


MⅢだけでなく、大型機動兵器(あんなもの)も作っているのか。


「何でも、ちゃんと動かせる奴がいなくなって倉庫で眠ってたらしい。あれの護衛も俺達の仕事の内だ」


セイカは、何やらウェインから似たような話を聞いた気がするが、覚えていない事にした。


ややこしいが、セイカとミヤビは護衛対象でありつつ、あの大型機動兵器(デカブツ)の護衛もしなければならないらしい。この3人の中ではアルフレッドの命が一番軽く、次がミヤビ、最重要はセイカとの事だ。


セイカは自身が最重要である理由は深く考えない事にした。


「あ、あの……」

「おーう」


声のした方に3人の視線が集中する。黒髪くせ毛の少女がビクリと肩を震わせた。


「積み終わったのか?」

「は、はい。テントと私達分の食料……積み終えました」


気を使ってか使わずか、アルフレッドが先回りして話を進め、少女はそれに答える。


おどおどと視線を泳がせているが、視線はセイカとミヤビに向けられていた。


「訓練兵のツバキだ。あの燃料車を運転する」

「ツバキ・ナツです……よ、よろしくお願いします」

「セイカよ。よろしく。」

「ミヤビ。よろしく」


自己紹介をし、ツバキはペコリと頭を下げた。挙動不審な様子でアルフレッドと姉妹を見比べている。


「あの、私の見張りの順番とかは……」

「あれ、お前は訓練兵のテントじゃないの?」

「きょ、教官から、こちらで世話になれと……」

「ふーん……聞いてないな」

「えぇ……」


アルフレッドに首を傾げられ、ツバキの挙動不審度合いが増している。指示された話が通ってないとなると気持ちは分からないでもないが、彼女自身はもう少し堂々としててもいい気がした。


「ちょっと確認してくる」


少年はすっくと立ち上がると、年重な男達が打ち合わせをしている方へと歩いていった。


仕方のないことだが、よりにもよって共通の知り合いがいなくなり、気不味い沈黙が流れる。

沈黙を破ったのはツバキだった。


「あの……お2人は先輩と、どういうご関係で?」

「……仕事仲間」


含みのありそうな質問だったのだが、妹が端的に答えた。いや、だからこそピシャリと言い切ったのかもしれない。セイカが補足する。


「私達がギルドで傭兵業してる時からの知り合いよ。専属傭兵になっても、縁あって一緒に働く事になった感じかしら」

「そうなんですね……」


ホッと息を吐く少女に、セイカは分かりやすくて思わず頬が緩んでしまった。聞くのは野暮だろうかと思いつつ、アルフレッドが戻って来ていないか確認してしまう。


「あれが好きなの?」

「うえっ!?」

「ミヤビっ!!」


妹のデリカシーの無さに、流石にセイカも声を上げた。叱責され、妹はつまらなそうに唇を尖らせる。


対してカズサの方は茹でダコのようになって俯いてしまっている。


「そんな……私、分かりやすい……ですか」

「……まぁ、そうね。アルフレッドの前ではかなり挙動不審だったから」

「本人に、バレてますかね……」

「どうかしら。あの子、色気より食い気な感じだし」


セイカと話している内にカズサは少しずつ持ち直していく。過度に挙動不審なのはアルフレッドの前だけなのだろうか。気の弱そうな印象は抜けない。


「あの子、モテるの?」

「う……狙ってる人は、割といます」


あの少年はモテるらしい。少なくとも訓練兵からは。しかし、それもそうか。すぐに傭兵として引き抜かれて専用機まで持っているのだから憧れと嫉妬の的だろう。


「お金目当ての人もいます……」

「ああ……仕事柄、扱うお金の額は大きいものね」


出費も大きい訳だが。しかし、カズサの言い草からすると、彼女はお金目的ではないらしい。


「でも、アルフレッド、お金には苦労してるって」

「な、なんで先輩の懐事情を……?」


ミヤビが割って入ってきた。なんだか牽制するような物言いだ。


ミヤビは姉に対して少年など眼中にないような事を言っていた気がする。妹の心境の変化があったのだろうか。


手強いライバルの登場だとセイカは内心ワクワクしているが、年長者として表には出さない。


「おいこら。人の失敗をペラペラ後輩に話すな」

「ひえっ」


アルフレッドの声が背後から飛んできて、ツバキはビクリと肩を震わせた。


彼の前ではいつものことなのか、アルフレッドは彼女の挙動不審な態度を気にした様子はなかった。


「ツバキはこっちの班らしい。仲良くしてくれよ。特にミヤビ」

「……何で名指し?」


指名して釘を差されて、ミヤビは不満を隠さない。対して、アルフレッドは呆れた様子だ。


「お前だってツバキの運転する燃料車には世話になるんだぞ」

「……よろしく」

「あ、はい。よろしくです」


指摘されてミヤビは素直にツバキと握手を交わす。別段嫌っているわけではないのか。

その様子を見てアルフレッドは満足そうだ。


「それで、私の見張りの当番は……」

「ツバキは3日通して運転するから、見張りの必要はない」

「い、いいんでしょうか……他の訓練兵は見張りもしますが……」

「寝不足で運転される方が困る。他の奴はほとんど運転しないだろ」

「り、了解しました」


たしかに彼女の言う通り、本来なら負担の大きい夜の見張りは交代でやるべきだが、言いくるめられてしまいツバキは頷いた。


「じゃあ、それぞれ機体と車両に乗り込んでくれ。搭乗後は別命あるまで待機」


30分を待たず、アウトベースから研究所へ向けて出発することとなった。


大型機動兵器を中央に、斥候と殿は教導部隊所属の専属傭兵達が務める。大型機動兵器を挟み前側が訓練部隊。後ろ側にセイカ達が追随した。


地雷除去を行う斥候の特殊戦車の速度に合わせて進むためキャラバンの行軍速度と大差がない。セイカにとっては慣れた速度感で車両が進んでいく。


準備で慌ただしく人が走り回っていた時よりも周囲のMⅢや車両を観察できた。当然ながら護衛のMⅢは全てジパング社制だ。


だがMⅢオロチの他に専用機らしい機体は見当たらない。それを考えると、アルフレッドは特異な存在なのだろう。


ただ、ウェインの機体である大盾と大剣装備のMⅢオオタチも見当たらない。いずれかの輸送車両に格納されているのか。


大型機動兵器の横にMⅢスキュータムが2機。


ミヤビ達の護衛にはMⅢオロチ。


他は同じ機体だが、知らない機体だった。


訓練部隊の護衛に1機と斥候と殿に2機ずつ展開しているMⅢだ。


サブアームはなく、標準的な人型のMⅢだ。強いて言うなら大腿部が大型であり、ホバーエンジンがそこに入っているのかもしれない。

武装は揃って盾を装備している以外は思い思いの武装をしている。


「アルフレッド、あのMⅢは?」

「ん?あー。MⅢレプスだ。見たことないか」


通信でアルフレッドに問うと答えてくれた。アウトベースから出たばかりでまだ襲撃の心配も少ないこともあるのだろう。少年は気軽に雑談に応じてくれた。


「ウチで1番売れてる傑作機だな。重心の位置が高い高機動MⅢで瞬発力の高さが人気の機体だ」


「だから兎座(レプス)なのね。でも強化人間用じゃないってことかしら」


可愛らしい名前だと思ったが、きちんと理由があったようだ。言われてみると、頭部についているアンテナがウサギの耳のように思えてきた。


「どっちも使えるから人気なんだ。あと、強化人間だからって多腕の機体を使える訳じゃないからな」


「え?」


姉妹揃って規格外だから、勘違いしてそうだとは思ってたと言われてしまった。


「ほとんどの強化人間は、通常のマニピュレーターを自在に動かせたり、姿勢制御や回避機動が良くなる程度だ。跳躍や回避、射撃や格闘に身体能力の補正が入ったり、MⅢを操縦できない奴がすぐに操縦できるようになるのが強化人間のインプラント手術の本当のメリットだ」


生身で狙撃が得意だからといって、MⅢの操縦で狙撃が得意になるとは限らない。装備が異なるだけでなく、標準を合わせるのは操縦桿とコンピューターだ。経験則と感覚で行う生身の狙撃とは動作がまるで異なる。


それを生身の感覚に近付けることができるのが強化人間のインプラント手術だと少年は語った。


「まあ、教本に書いてあったんだけど」


観心したが、全て受け売りの教科書通りな文言だったようだ。


話を聞いたあとで機体を見比べ直すと、装備がパイロットの得意分野と分かり面白い。


そんなレプスの中で1機だけ塗装が異なる事に気付いた。白基調のなかで、灰色の市街戦用迷彩の機体がいる。よく見ると、口枷の猟犬のエンブレムが左肩に描かれていた。


「1機色が違うわね」


「ああ。海外研修でウチに来てる都市連合士官のMⅢだな。訓練方法の情報交換や機体の勉強に来てるんだ。確か女だから、声かけると喜ばれると思う。基本、軍も傭兵も男所帯だし」


アルフレッドも顔見知りではあるそうで、野営で手隙になった時に声をかけてくれるそうだ。


傭兵という仕事柄、顔を広げておいて損はないだろう。ありがたくお願いすることにした。


初日の行軍は何事も起こらず、行程よりもスムーズに移動を行えた。

野営は予定の時間通りに行うことになった。

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