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ミヤビのMⅢジョロウが動かせないからと言って暇になることはない。


ジパング社教導部隊からの払い下げという形で、ジョロウのフレームに使用されているMⅢスキュータムが安く手に入った事もあり、システムの乗せ換えは想定より早い工程で終えることができた。


MⅢスキュータムの強化人間用のコクピットブロックが余った為、そちらはセイカの方で利用させて貰う事にした。

先日の仕事で鹵獲したフェデラル社製MⅢのコクピットブロックに移植し、セイカでも動かせるようにしたのだ。衛星通信アンテナも搭載し、無人兵器の指揮機または中継機としても活躍してもらう。

ちなみに塗装は白くした。


脚部は太い四脚のように見えるが、大型のホバーエンジンと追加タンクになっており燃費を代償に重装甲と機動力、積載量を高い水準で両立した機体だ。


武装は重機関砲(ライフル)機関砲(マシンガン)、対人砲。肩関節部(ショルダージョイント)の上から伸びている砲身はレールガン。あと、外見からは分からなかったが対誘導武器レーザーが搭載されているらしい。

普段遣いできる武装は重機関砲(ライフル)機関砲(マシンガン)とレーザーくらいだった。護衛で無駄弾は撃てず、レールガンは弾薬費と整備費を考えると奥の手だ。


機体コードはMⅢバードイーターという名前だった。フェデラル・エンジニアリングは西方大陸由来の動植物の名前を機体コードにする慣習があるそうだ。


出処の怪しい試作機であったが、ギルドを介してフェデラル社から所有権を許諾してもらうこともできた。運用データを定期的に送る条件は着いてきたが安いものだ。


ツチグモ、ジョロウの次はバードイーター……なんだか蜘蛛の名前と縁がある。


ジョロウの修理中、バードイーターには早速働いてもらい、カズサ達の護衛の指揮機を担ってもらった。


「また随分と豪勢な護衛だね」

「……そうかしら?」

「複数の無人兵器を扱える(あね)ちゃんならではだねぇ」


整備を終えたバードイーターを見たカズサの感想はそれだった。バードイーターにスコルピウス2機、燃料車と電源車2台の車列で、輸送車両の車列に追随した。


燃費が悪いと言っても、より大型でMⅢの輸送もするツチグモほどではなく、活躍の機会が増えそうだ。


遭遇した盗賊にレールガンを1発だけ使用してみたが、ジャンクMⅢの上半身が直撃の衝撃で木っ端微塵になる威力だった……これは対攻城兵器なのかもしれない。


「もうそいつ1機でいいんじゃないかい?」

「射程も威力も申し分ないけど、弾薬費と整備費の相談になるかしら……」


しかし弾速もあり精度はスコルピウス長距離砲よりも遥かに高精度、速射しようと思えば長距離砲より早く連射ができる。


弾薬費と整備費、どれだけ威力が高くとも基本は1発で1機しか落とせないところに目を瞑ればオーバースペックと言わざるを得ない武装だった。


「弾薬費で破産したくないわ」

「そんなに高いのかい。金塊を撃ってるようなもんか。盗賊相手にゃ勿体ないね」


カズサ達の護衛が終わる頃には、ジョロウの修理も完了した……といっても、サブアームの装甲以外はMⅢスキュータムのままである。サブアームの装甲もエッジを削り落とし、いったんスキュータムに合わせてしまった。


エッジの効いたジョロウの攻撃的な印象は薄れてしまったが、航空機や高速列車のような流線型の装甲は無機質だが清廉な印象を受けた。


「ジョロウも直った!」

「じゃあ次の護衛はジョロウに出てもらおうかしら」

「うん」


ミヤビはその辺り気にしていないようだが。


武装も切り替え、狙撃もできる砲身の長い重機関砲(ライフル)機関砲(マシンガン)に変更した。先日のミヤビの戦い方から、射程と威力のある武器があった方が良いと考えたためだ。重機関砲(ライフル)に関しては搭載された望遠カメラにて狙撃にも利用できる特殊なタイプを選んだ。サブアーム裏の迫撃砲(グレネード)は現役である。


塗装はバードイーターと合わせて白をベースに、部分的にすみれ色が入っているのは妹の好みだ。


引き続き、指名をもらった城塞都市アイアスの無人兵器の教導依頼、他のキャラバンの護衛などもこなしつつ、ジパング・インダストリーとの専属契約も何とか締結できた。


ギリギリまでゴネていたのはこちらなのだが。結局、研究所への協力は断れなかった。


多忙な中、早々に1ヶ月が過ぎ去り、ジパング社の研究所に顔を出す日がやってきた。


「今日……だったわね」


毛布と羽毛布団の温もりから抜け出すのが億劫なのは気温だけのせいではないだろう。会社員とは毎日このような億劫さと闘っていると考えると尊敬の念すら覚える。


「どんな連中なのかしら」


ウェインが思わず変態とこぼしていたが、想像ができなかった。


現実逃避に再度布団に顔を埋めた。裸体で包まれていると、体温の熱を閉じ込めた布団の温もりに直に触れることとなり、尚更暖かく感じた。


まだ妹も胸元で寝息を立てている。多少の怠惰は問題ないだろう。


妹の裸体を撫でる。姉妹での関係を許容した自分も人からしたら同類かもしれない。


「姉さん?」

「あ、起こしちゃったかしら」

「ううん」


ミヤビも身体に触れてくる。


「……足りなかった?」

「え?」


----------


アウトベースの連合企業の傭兵部隊用の駐屯地。その中でもジパング社が利用している区画だ。傭兵部隊と言うと良いイメージがないが、整列して点呼を取っている姿はアイアスの仕事で目にした都市連合の軍隊と遜色ない。


場違い感からの居心地の悪さと、今朝のつけからくる気怠さを抱えつつセイカはウェインの手が空くのを待っていた。


姉妹の後ろにジョロウを積み込んだツチグモが駐機していることもあってか、視線を感じる。というか、通りすがりの別部隊のジパング社の人間からは普通に眺められていた。「あんな機体あったか?」や「新型か?」などの声も聞こえてきた。


幸い、道路からツチグモを挟んで真逆の位置にいるセイカ達を覗き込んで来る者はいなかった。ウェイン達教導部隊が車両やMⅢを並べて点呼を行なっていることもあるのだろう。


隊員が隊列を解き、作業に移りだしたあたりでウェインと目が合い、こちらにやって来た。


「……大丈夫か?」

「大丈夫よ……」


首を傾げるウェインに対して、セイカは頭を振る。


しかし、ウェインから見ても疲れているように見えるのは気の所為ではないように思えた。


「……移動に3日かかる。衛生兵もいるから問題があればアルフレッドに声をかけろ」

「気遣いありがとう。あの子も来るのね……」


流石に朝からしてしまったためとは言えず、セイカは話を変える。


「お前達のお目付け役兼護衛だ。顔見知りの方が何かと都合が良い。もうすぐオロチが……来たな」


燃料車と繋がれたMⅢオロチが車両と速度を合わせて歩いてきていた。


「……あれ?遅刻じゃないよな?」

「時間通りだ。問題ない」

「了解」


ツチグモの姿を確認してか、アルフレッドがスピーカーで声をかけてきた。ウェインが声を張り上げて答えた。


燃料車とオロチはツチグモの隣に駐機した。オロチのコクピットハッチが開き、アルフレッドが昇降ワイヤーで機体から降りてくる。


「アルフレッド・クサナギ、現着した」

「よし。研究所到着まで2人の事は任せる」

「了解」


ピシッと命令と了承をウェインとアルフレッドは行うが、それが済むとアルフレッドはあからさまに肩を落とした。


「マジで俺も行くの……?」


「オロチのブラックボックスの交換とお前のインプラントのメンテナンスも予定に入っている」


「嫌だぁ。アイツ等なんか怖いんだよ……」


「……なんだか、向こうとの温度差がすごいわね」


キビキビと動く青年、少年達との落差を感じる。悪い意味でアルフレッドの態度は傭兵らしい。


「あっちは訓練部隊だからな。傭兵として一人立ちしているアルフレッドに部隊行動は強制していない。限度はあるが」


「俺も、元々あっちにいたんだぜ」


「……想像できない」


「うるせえよ」


口を挟んだミヤビにアルフレッドは歯を剥いて言い返す。セイカからすると微笑ましく感じるのだが、ウェインは眉間にしわを寄せている。


おそらく、普段からの2人のやりとりを知らないから不仲に見えるのだろう。


「俺は全体指揮に入る。……トラブルを起こすなよ」

「了解」


ケロっと表情を戻してアルフレッドは返事を返した。ウェインは頷くと踵を返した。


ウェインを見送ると、少年は姉妹の方に向き直った。


「それじゃあ、今後ともよろしく頼むぜ」

「今後?」


ミヤビが首を傾げる。その反応に、アルフレッドは目を丸くする。


「ウェインからどこまで聞いてる?」

「私達のお目付け役兼、護衛と聞いているわ」

「あー……、まあいいか」


少年は口が滑ったという感じで考え込むが、すぐに切り替える。


「まだ予定だけど、この先の仕事では3人でMⅢの小隊を組むことになると思う。お……お姉さんが後衛で、ミヤビと俺が前衛の編成だな」

「む……?」


ミヤビが首を傾げるが、話の腰が折れるからだろう、ひとまずアルフレッドは妹の反応を流した。


「指揮系統の序列はお姉さんが小隊長。次点は俺、最後がミヤビ。本格的に仕事が始まる時までにはウェインからも言われると思う」

「……私が1番下?」

「俺が決めたんじゃねえよ。睨むな。2人とも前衛で役割が被るし、そこまで厳密じゃない」


ミヤビは不服そうだが、実戦経験はアルフレッドの方が圧倒的に多いのだろう。そこは順当だと思う。


「私が小隊長?」

「お姉さんの無人兵器使えば中隊規模の作戦行動もとれる。統括して指揮できるのはお姉さんだけ。以上」


そう言われると何も言い返せなかった。

当然、アルフレッドにはできないし、ミヤビだと機体の操縦に支障が出る。


「そういう訳で、訓練部隊と同行する間、俺達で団体行動をしないといけない。俺達の野営のテントは俺達で建てる。飯の準備も俺達の分は俺達で作る。まあ、普段やってることだと思うけど見本にされると思っといて」

「ほう」


体を動かせる機会にミヤビは乗り気だ。やたら大所帯で動くと思ったが、そういう意図もあった訳だ。


体力がないセイカにとっては億劫な話だ。それに、ツチグモの牽引車両には生活スペースがある


「でも……」

「あ、ストップ」


セイカがツチグモを指差して話そうとした事を、アルフレッドが手で制止した。さっきとうってかわり、小声で口を開く。


「寝泊まりはそこでいいけど、野営準備はしてくれ。訓練部隊はバカが多いから」

「それはどういう……」


「両手に花でいいご身分だな?」

「あ?」


外野から跳んできた声に、少年の目付きが鋭く攻撃的なもの変わる。


話してる途中に目の前で豹変するので、セイカは目を丸くするが、アルフレッドは気にした様子はなく踵を返した。


青年……少年のグループが5人、訓練兵だろうか。アルフレッドに嘲るような目を向けている。

背丈は高いものの、実動部隊と行動しているアルフレッドの方が立ち位置は上のはずだ。


「サボってる奴に言われたくねえな。こっちは仕事中なんだよ。そんなんだから未だに訓練兵なんだぜ、先輩?」

「てめえ」


煽り返されて少年は手を伸ばすがアルフレッドに景気よく弾かれた。


「って、てめ……!?」

「防刃グローブつけてて良かったな先輩?なかったら指飛んでたぜ?」


いつの間に引き抜いたのか、アルフレッドはナイフを片手でひらつかせていた。そのナイフで手を払ったようだ。


「仲間にやっていいことかよ!?」

「仲間じゃねえよ。お前等と違って、こっちは傭兵の仕事中。傭兵が、武器持って、仕事してんだよ。意味分かってるか?」


セイカは仕事がらもう見慣れてしまっているが、確かにアルフレッドはパイロットスーツの上からボディアーマーにサブマシンガンとその弾倉、軍用ナイフと戦闘用の装備だ。


対して、訓練兵達は防具は身に付けているが武器はない。許可がないと持ち出せないのだろうか。セイカも仕事中はコグモ以外に拳銃とナイフくらいは持っている。


アルフレッドの言葉に少年は舌打ちをし、視線がこちらに向く。ミヤビはすでに軽く膝を曲げて構えていた。


セイカもコグモの半歩後ろに下がった。椅子サイズのサポート用機体だが、70kg近い鉄の塊で体当たりくらいはできる。


「お前等も新入りだろ。つるむ相手は考え……」

「この2人が新入りに見えるんなら、お前の目は節穴だよ。これだから都市出身のお坊ちゃんは」


何か言う前に、アルフレッドが言葉を被せる。


「現役の傭兵で、俺と小隊組んで、護衛についてくれんの。失礼なことするんじゃねえぞ」


ただの事実に少年のグループは呆然とする。確かにセイカは鍛えているような体型ではないが、ミヤビもアルフレッドと同等の装備を身に着けている。


見ればわかると思うが、個人の色眼鏡で見てしまうとそうもいかないのかもしれない。


「……っ女に媚び売って恥ずかしくないのかよ」

「そう見えてんなら、まだまだ正規部隊にもなれねえな。2人とも普通に俺より強……」


「そこぉ!!何やってる!!!」


怒声が飛んできて、少年のグループは逃げるように去っていった。アルフレッドは挑発するように野犬でも追い払うような仕草をしている。


「お恥ずかしながら、ああいうバカもいる訳で」

「普通……誰かしら止めるものじゃないの?」


セイカの疑問に、アルフレッドは先ほどの連中との対応と異なり気さくに答えてくれる。


「それが俺の仕事。みんな人の仕事は盗らない」

「じゃあ、さっきの怒鳴り声は?」

「アイツ等がほんとにサボってたか、引き際の知らないバカが死なないようにかのどっちかかな?」


見せつけるようにナイフを回してから鞘に収めた。


「今日の仕事で俺は部隊長のウェイン直下。命令はお姉さんとミヤビの護衛が最優先。有事の際は武器使用自由ってところかな。2人とも危なかったらアイツ等の殺害や、自衛に武器の使用は許容範囲内ってところ」

「わかった」

「……よくわかったわ」


当然ながら、企業連合が大きい組織である以上、一枚岩ではないということだ。


今回は内部組織ごとの利権争いのような大事ではなく、嫉妬や衝動的なものでしかない下の下の部類だろう。


自分達が女である以上、キャラバンの護衛の仕事でも魔が差したような暴漢には気を付けている。いつも通りにしていればいいのだ。


念のためツチグモの中にアントも数機積載している。


「それはそうと、最後のは持ち上げ過ぎじゃないかしら?」

「何が?」


どれのことか分からないようで、少年は首を傾げる。


「ミヤビはともかく、私はそんなに強くないわよ?」


「俺はミヤビより、怒ったお姉さんの方が怖いね」


きっぱりと言い切られ、セイカはムッとする。失礼にもほどがある。基本的に交渉で済まそうと考えているし、穏やかな方だと自負しているのだが。


妹に擁護を求めようと目を向けると目を逸らされた。

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