operation.40
キャラバンが利用する倉庫街の一角。
輸送車両が数多く並ぶなかでMⅢ……中型機動兵器のジョロウがクレーンで吊り上げられていた。
肩関節部から4本のサブアームが伸びるシルエットはお世辞にも人型とは程遠かった機体だが、下半身も人型の腕部もサブアーム取り外された姿は見るも無惨なものだった。
「これは思ってた以上に酷いぞ?」
「……そんなに?」
修理を依頼された整備士は分解した脚部フレームを前に渋い顔を白い女性……セイカに向けた。
スレンダーな体型の女性の襟足からは太い配線が伸びており、四脚の虫と椅子を足して割ったような見た目の機械と繋がっていた。
「脚部関節は足首だけじゃなく全交換。右翼側のサブアーム2本と肩関節部の関節も全交換だ。この感じだと胴関節とフレームも歪んでる可能性がある。調べるのはこれからだが……」
「それだと、システムを別機体に乗せ換えた方が早そうね……」
体型からしてパイロットでは無さそうだと思っていたが、この人外のMⅢの隣にある四脚に四腕の化け物のような大柄なMⅢ……彼女がツチグモと呼んでいた機体を扱うらしく、人は見た目によらないものだと思った。当の大型兵器にはアントと呼ばれる作業に特化した小型の無人兵器が簡易的な点検を行なっていた。
そんな事ができるのならMⅢも直せるのではと聞くと、まるまるパーツをすげ替えるだけならともかく修理はできないらしい。
「それは企業の在庫次第だな。そこにあるフェデラル社のMⅢにコクピットの内部フレームとシステムをまるまる移植する方が圧倒的に早い」
「ジョロウのベースフレームは……」
「ジパング・インダストリーの重MⅢスキュータムだな。ホバーエンジンはフェデラル・エンジニアリングの高出力型……まぁエンジンは無事だったか。装甲はオーダーメイド。あんたらの機体、最近売出中の傭兵にしちゃ、やたらカスタムされてるな……。触る側からしたら楽しいんだが……」
専門用語を羅列しつつ、整備士はウキウキとミヤビを質問攻めにしている部下達を横目に見た。
確かに彼らは楽しそうだ。妹のミヤビは見たことのない特殊な性癖の人種に圧倒されて機体の質問に答える機械になっていた。
「装甲も歪んでたり破損してたりだから、スキュータムを買ってエンジンとシステムを移植した方が安い。こいつをバラしてジャンク屋に売った額を経費にできる。装甲のオーダーメイドなんて高い割に軽くするか機種偽装以外の意味がないからな」
整備士の提案に部下達から「そりゃ無いっすよ」「ロマンが無い」などと野次が飛んで来たが、彼は無視する方針らしい。
習ってセイカも無視することにする
「……装甲の厚みは?」
「リアクティブアーマーを溶接した方が安くて効果があるが……この程度の厚み増しなら基本装甲と変わらん」
機体から戦術がバレるということもあるが、エンジンを変えていて機動力が変わっているので意表を突く目的なら、偽装装甲はいらないと言い切る。
「見た目はけっこう変わるの?」
「パイロットの嬢ちゃんにも見せたが、こいつだな」
整備士は、ノートサイズのタブレット端末に機体画像を映してくれた。
4本のサブアームもジョロウと変わらず、シルエットだけなら同じに見える。
装甲が高速列車や航空機のような流線型をしていて、そこがエッジのあるジョロウの装甲とは大きく異なっていた。そして、サブアームの装甲が大きい。
「重量級と言う割には細いのね」
「サブアームの所為で重いだけだからな。そこのフェデラル社MⅢみたく、本体装甲が分厚いんじゃなくサブアームの装甲が戦車の前面装甲並みに分厚く重い」
そんなものを4つも持っていれば、重量級になるわけだ。本来は防御型の機体なのかもしれない。
装甲など、重心調整の必要こそあれど、後から付け替えのできるパーツだ。その程度ならセイカもアントで作業ができる。
前回の仕事での戦利品やギルドからの賠償金で懐は潤っているが、資金は無限ではない。そして、修理が終わらなければ受領できる仕事が限られてしまう。
「あなたの提案通り機体を買う方向でお願いするわ」
選択肢など一択しかなかった。
セイカの言葉に整備士の男は頷いた。
「じゃあ、今日の作業は一旦ここまでにして在庫の確認やら手配の方を……」
「在庫ならあるぞ」
横から飛んできた声に整備士もセイカもそちらに目を向けた。
いつから聞いていたのか、ウェインがセイカの後ろからタブレットを覗き見ていた。
「……あなたは教導部隊の隊長じゃなかったかしら?商品の在庫まで把握しているの?」
「正確に言うとうちの練習機が死蔵されている。アルフレッドが以前に使っていたものだが、強化人間用の練習機で1年以上使用者がいない。払い下げで安くできるぞ」
整備士は、途中から後ろで聞いていたアッシュグレイの髪の男と、白髪の女性を見比べる。
「……旦那様ってことでいいのか?」
「冗談はよせ」
「冗談はよして」
遠くから話を聞いていたミヤビが睨みつけていることを整備士の男は知る由もない。
質問攻めしていた男達もその形相に引いており、気付いたウェインも思わずセイカから1歩離れた。
「違うのか。じゃああんた、ジパング社に伝手があるってことか?」
「この男とは仕事の商談中よ」
金や伝手はあるところにはあるものだと、整備士は嘆息を吐く。
懇意にしているキャラバンの夫婦から新米傭兵だと聞いていたが、これはかなりの上客になりえるのかもしれない。
「そうかい。俺はしがないフリーの整備士でハワード・スミス。企業連合の隊長さんと会えて光栄だよ」
「ジパング社の教導部隊隊長ウェイン・リヒトだ」
ハワードは社交辞令だろうときっちり握手を交わしておく。どんな縁があるかも分からないものだ。
それを見届けたセイカが口を挟む。
「それで、何のようかしら?」
「内々の話が片付いた。研究所に来てもらう日程の調整に来た」
その言葉にハワードは目を丸くする。
新米と聞いていたのだが。
「なんだ。お姉さんジパング社に勤めるのか?」
「専属契約よ。でも世間的にはそうなるのかしら?」
振って湧いた上客だと思ったが、間髪入れずに雲の上の会社に取られてしまうらしい。
世の中はなんと酷いことか。
ふと、ウェインと目が合ってしまった。表情に出ていただろうか。ハワードはすぐに営業スマイルを作り直した。
「この姉妹の機体整備は今後も頼むかもしれないぞ」
「あれ?そうなのか?企業様お抱えの専属傭兵だろ?」
思わず本音が漏れてしまったが隊長殿は気にした様子もない。
「偏屈な姉の意向で基本はアウトベースにいるだろう。君達の腕次第になるだろうな」
「誰が偏屈よ」
企業に関わる傭兵となれば機体の消耗も大きく、かつ金には糸目を付けないだろう。これは大きなチャンスが巡ってきたものだ。
ハワードは営業スマイルではなく、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「これはサービスするしかねえな!」




