城下町4
「今日はただ城下町を楽しんで欲しかったのですが…そうも言っていられませんね」
オディットは悲しそうにそう言うと、息を吐いてからオレに向き直る。
オレはオディットの隣の壁に背を預けて、腕を組んだ。聞かせてくれるまで動かないぞという姿勢だ。
「まずは…そうですね。"デブリ"について、お話しましょう。これについてはゲームの中でも"真実の愛"ルートでしか触れられないようですので」
そう言ってオディットくんはオレに"デブリ"について話してくれた。
まずこの世界は人族含め六種族の国で構成されている。
それは正しくもあり、間違いでもあるんだと。
絆の乙女が成立するまではこの世界には多種多様な種族がいた。それは先ほど会ったゼタのような人狼族であったり、フェイのような幻蟲族であったり、様々だ。
それらは統一戦争と呼ばれる昔の戦争で敗者となった。
統一戦争の勝者は、天翼族、精霊族、機人族、竜族、鉱星族。そう、今この世界にある国を持つ種族だ。この五つの種族は人を中心として同盟を結ぶこと、これから半永久的に隣人となることに是と唱えた。しかし、それに反対したのがその他の種族だ。その種族の数は多かったけれど、一丸となった五つの種族と人の持つ回復魔法に勝つことはできなかった、と。
そうして、世界は人と五つの種族によって支配されることとなった。敗者となった種族は"故郷を持たぬもの"と呼ばれ、迫害や差別の対象となっているらしい。彼らは各地を転々としたり、各国の闇に潜み、今はひっそりと暮らしているらしい。
"真実の愛"ルートでは、そんな彼らが世界に反旗を翻し、戦争となる。そこで色々あって王家に対する憎しみを飲み込み王家の一人として戦うオディットくんと人のために戦うヒロインちゃんが結ばれることとなる…らしい。結構な大事じゃねえか、とオレは話を聞いてびっくりした。オレが知ってる逆ハーレムルートや、各個人のルートはそれなりの障害はあっても(その障害というのがオレ、アイリーンなわけだけど)比較的穏やかな話だったのだ。一番被害が出たのもミスティルートのモンスターによる大虐殺だしな。…いや、これも結構な大事だった。
そしてフェイはそんな"真実の愛"ルートにおいて、暗躍する暗殺者であるという。
初めて登場するのは何を隠そう、オレを殺すときだ。
オディットくんは何度かフェイと対立することになるそうで、その顔をしっかりばっちり知っていたわけだ。
「あの者はアイリーン様を殺害するだけでなく、これから始まる戦争においても暗躍をします。あれに殺され、こちら側…六花同盟軍が不利になる状況も多々ありました。これからこの世界で、彼らが戦争を起こすかはわかりませんが、危険の芽は摘んでおいた方が良いと判断しました。…あの者は手強い敵でありましたが、味方となれば心強い筈です。幸い、といいますか…幻蟲族は『誓約』と呼ばれる特殊な技がありました。『誓約』を結ぶことで幻蟲族は力を得る。けれど、それを破った場合は命を落とすという高いリスクのある技です」
「なるほど…。それがあの赤い光か」
「はい、そうです。…『誓約』がある幻蟲族は統一戦争においても最大の敵であったと言われています。彼らの『誓約』はまるで人知を越えた力を彼らに与える、と。武勇を誇る天翼族や巨大な竜の体を持つ竜族でさえも彼らには勝つことができなかったそうです」
「えっ、じゃあ、どうやってこっちは勝ったわけ?」
オレはびっくりして聞き返す。そんなに幻蟲族と呼ばれる種族が強かったことにも驚きだが、そんな強い幻蟲族に勝ったのも驚きだった。
「彼らは『誓約』故に自由が少なかったと言われています。機人族の母体"マザー"がその弱点を演算し、大量に作り出した機械化兵の物量攻撃によって敗北したと歴史書にはあります」
「…なんかこっち側の方が悪役みたいだな…」
オレが思わずそう溢すと、オディットはオレを見て小さく返す。
「…歴史は血によって作られていますからね」
「…ま、それもそうだな」
オレは向こうの世界を思い出して言った。
平和だった日本でも、過去にはたくさんの血が流れたし、オレが知らないだけで他の国では今でも血が流れているところがあったはずだ。
争いは人の本能かもしれないな。
「それにしても…"デブリ"ね。この世界でも反旗を翻そうと画策されてたりするのか」
「それは…申し訳ありません。今はまだわかりません。明日、フェイが来たら聞き出そうと…。けれど、おそらく計画自体はあることかと」
「だよなあ」
オレは空を仰いで大きく息を吐いた。
この世界に来てから女になったり、王女だったり、婚約者がいたりと頭がパンクしそうなことばかりだっただけど、とうとうどうにも手に負えないやつがやってきた。
オレは王女だけれど、権力なんてものはないに等しいのだ。
国の一角を解放して、彼らのための土地を用意するなんてことはできないし、そもそもそんなこと他の国が許しはしないだろう。なんなら人だって反対するはずだ。
「戦争、か」
オレは視界の隅でミスティたちがこちらにやってくるのを確認しながら、大きく溜息を吐いた。
願わくばそんなこと起こらないように。
柄にもなく神様に縋りたくなった。




