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城下町1


 オレが住んでいる城があるのは人族の国であるヴェール国であるが、実は厳密には少し事情が異なるらしい。グランヴェール城があるヴェール国ヴェール地区は絆の乙女とその伴侶である5つの種族の族長が上に立つという事実から政治的緩衝地帯あるいは政治的不可侵地域として見なされている。つまりここはヴェール国であってヴェール国でないのだ。

 そんな事情もあり、ヴェール地区はあらゆる種族を受け入れる多様な街となっていた。その結果、あらゆる文化、あらゆる物と人、知識が集まる一大都市として形成されることとなった。ちなみにゲームの舞台である王立学園があるのもこのヴェール地区だ。

 

 オレは城下町に降りて、まず人の多さに驚いた。

 古いヨーロッパのような建物が並ぶ街に、人族はもちろん、天翼族、機人族が垣根なく過ごす空間がそこにあった。もちろん、精霊族だと思われる人や鉱星族だと思われる人、数は少ないが竜族っぽい角の生えた人もいた。オレは改めて目にするファンタジーな景色に思わず目が奪われる。

 種族に関係なく店を構えそこで売り買いをし、街にあるベンチなどでは和やかに会話をする。ある種、理想郷のような光景がそこにあったのだ。


「絆の乙女が現れるまではこのようにあらゆる種族が集う街はなかったと言います。種族ごとに対立することもあれば、それだけに収まらず戦争をすることもあった。絆の乙女とその伴侶たちが混乱する世界に終止符を打ち、このようなあらゆる種族に平等な世界を作りだしたと言われています。ですから、絆の乙女はこの世界の平和と調和の象徴なのですよ」

「そうだったんだな…」


 きょろきょろと物珍しげに街を眺めるオレに、オディットがそう説明してくれる。

 ゲームの中では逆ハーレム形成のために都合の良い設定だな、としか思わなかったけれどこうして実際の街を見るとその言葉が実感を持って伝わってくる。この世界で絆の乙女はしっかりと生活に根付く存在なのだ。オレは天翼族のおっちゃんの魚屋で買い物をする精霊族の子連れをみてそう思った。

 思わず考え込むオレにオディットは小さく微笑んで言う。


「…今日は難しいことを考えず、城下町を楽しんで下さい。アイリーン様がご所望の屋台街もあちらにございますよ」

「…うん。そうする。それにしても…お前、オレが城下町に出ることに反対するかと思ったのに」


 オディットはオレの言葉に何も言わずに微笑む。

 そうなのだ。オディットはオレが城下町に行ってみたいと言い出してから、少し考える素振りを見せつつも反対はしなかった。それどころか城下町にいくための平民服の準備など積極的に手伝ってくれた。

 オレが疑問に思っていることが伝わったのか、ゼロセブンとミスティが少し離れたところにいるのを確認してオディットは口を開いた。


「…私が知る"しなりお"の中で、アイリーン様は一度も城下町に出たいと仰ることはありませんでした。…アイリーン様が城を出たのは物言わぬ屍になってから。ですから、私はアイリーン様が城下町に出たいというのならそのお手伝いをしたいと思ったのです」

「それだけか?」


 オレは淀みなく答えるオディットにそう問う。

 ゲームの中で城の外を知ることなく死んでいったアイリーンを哀れんでというならそれでもいい。けれど、まるで用意しておいた台詞を読むかのようなオディットの態度が気になったのだ。

 訝しげな視線を向けるオレに、オディットは根負けしたように渋々と口を開く。


「…そうですね。理由に付け加えるならば、ここならばアイリーン様の"真実の愛"の相手がいないと思ったからです。"しなりお"の中のアイリーン様は城から出ることがなかった。ならば、"真実の愛"の相手はヴェール城に登城できるほどの立場をもつお方。こうして城下町を気軽に出歩ける身分である可能性は低いでしょう。…城下町でなら、サカマキアキヒコ。あなたにそうした心配をさせず思う存分羽を伸ばしてもらえると思ったのです。あなたは城で自由に振る舞いつつも、どこか窮屈そうに毎日を過ごしていた。…たまには日頃の憂いを忘れて過ごして欲しいと願うのはおかしいですか?」


 オディットは"オレ"に向けて、そう言葉を口にした。少し照れたように、少しだけむず痒そうに。それは主人を心配する執事としての表情ではなく、この世界にきてどこか空虚感を拭いきれないオレに向けての言葉だった。

 オレは心の底からわき上がる喜びの感情に口元を緩め、オディットの肩を思い切り抱きしめた。

 アイリーンの細い腕から伝わるオディットの熱が、彼がここにいるという事実がたまらなく嬉しい。


「オディットくんはオレをよく見てるな!実はオレが大好きなのか!」


 思わず照れてそう茶化したオレにオディットは悪戯に笑いながら、そうですね、と言葉にした。


「実は私、アイリーン様とサカマキアキヒコのことが大好きなのです。ご存知なかったのですか?」



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