お出かけ準備
オレの思いつきで言ってみた『城下町でオレとデート』は思ったより大事になった。
というのも、今までオレが城の外に連れて行ってもらえなかったのも、当代の絆の乙女(オレの母親な)を継ぐ資格があるのがオレだけだということ。つまり勝手に出かけたりして勝手に死なれちゃ困るわけだ。ゲームではあと数年であっさり死ぬというのに…と思ったのは内緒だ。
またオレは回復魔法も使えず、もし怪我をしたりしたら万が一が起こりえるかもしれないということ(これについては使えるようになったが、そのことを伝え忘れていた)。ついでに今は現絆の乙女とその伴侶たちが他の国へ外交及び治安維持のための旅に出ているため、オレの護衛につけられる人が限られてしまうということ。
オレの我が儘で城の人を振り回すのもちょっと問題と思い、オディットくんに休暇でもあげるかと声を上げかけた。
そのとき、ミスティの声が響いた。
「姫の護衛にはわしが付こう。天翼族の長が護衛につくのじゃ、これ以上の護衛なぞいらんだろう」
「じゃあ、オレもついていこうかな。護衛って意味じゃ役に立たないけど、城下の案内くらいはするよ」
これで案内人もいらないね、というゼロセブン。族長二人の鶴の一声であれよあれよ、とオレのはじめてのお出かけが実現することとなった。
いいのかな?という気持ちもあるが、ここは素直に喜んでおこう!ビバ、はじめての城下町だ!
オレは嬉しくなってオディットくんの背中をバンと叩いた。
「やったな。はじめて外に出かけられるぞ!お前のそのピアスもう少しまともに直したくてな、良いパーツ売ってるといいな。あ、あと、ついでに買い食いとかしてみたい。屋台とかあるの?」
「…このままでも十分ですのに。ありがとうございます。…ええ、城下町は賑わっていますからね。けれど…アイリーン様に外でお食事をさせるなんて…」
ゲッ。もしかして、お姫様って外でご飯とか食べちゃいけない系か?毒味係がー!ってやつなのか。
オレはショックの隠せない顔で、嘆いているとミスティがなにやら懐から取り出してオレに渡してくれた。
ピンク色のオシャレな小瓶だ。中には並々と透明な液体が入っている。
「毒が心配だというのなら、魔法を使いながらこれを飲んでみよ」
「なにこれ?毒?」
と問いつつも、ミスティがまさかオレに毒を渡すわけないと軽く蓋を開けて匂いを嗅げば甘い香りがした。先に飲むタイプの中和剤とか?オレは自分にヒールを掛けつつ、一気に瓶の中身を開ける。
ん、甘いだけだな。
オレが瓶を片手に首を傾げていると、カガリとなにやら話していたゼロセブンがこっちをみてオレが持っている瓶をみてぎょっと目を見開いた。
「ちょっと、姫様何飲んでるの!?」
「え、なんかミスティがくれた…甘いやつ?」
「ミスティ!なんてものを渡しているんだい!」
ゼロセブンはオレの手から瓶をひったくると、機械の目をキュインキュインと動かして何かを見ているようだった。そして少しだけ残っていた液体を舌に乗せ、顔を顰める。
その様子をミスティは愉快そうにみていて、不安になったオレは流石にこれが何か気になり尋ねた。
「で…これ、もしかして毒とか?ゼロセブンがこんなに慌てるの初めて見たんだけど」
「毒と言えば毒かもしれんなあ。姫、体はなんともないか?」
「なんともないけど…」
オレはにやにやと笑っているミスティに若干引きつつそう応えると、怒った様子のゼロセブンが話に割り込んでくる。
「毒じゃないかも知れないが、これは媚薬だよ。しかも、これ精霊族に作らせたマナ入りの強力なやつじゃないか」
「おっと、そうじゃった、そうじゃった。いやあ、うちのジジイどもがな、もし姫が好みじゃなかったらこれ飲んで一発致してこいと言ってたのう。なんでも半分も飲めば精力絶倫、朝まで元気いっぱい子沢山と…。そういえば、お前さんはなんともないのか?」
「馬鹿じゃないのか!」
オレは毒は効かないように作られている、と鷹揚に笑うばかりのミスティにゼロセブンが吐き捨てる。そんなゼロセブンにミスティは「残念じゃのう」とほけほけと笑ってた。…残念って、もしゼロセブンがここで発情したら被害に遭いそうなのオレなんだけど…。というかオレに効いたらどうするつもりだったんだ。それもよしと股間のナニをオレにカツアゲされるつもりだったのか。
ゼロセブンに怒鳴られ続けているミスティはこっちを見て、ぐっと指を立てた。
「これで姫にも毒が効かんことがわかったな」
良いことをしたとばかりに笑うミスティにオレは頭が痛くなった。…なんか近所にこういうジジイいたな。元気で親切なのはいいけど、なんかその親切の方向が3センチくらいずれてる下ネタジジイ。いやあ、元気かな、あのジジイ。殺しても死ななそうだったけど。あと百人切りするまでは死ねないとか言ってたし。
オレはハハハ、と笑い続けるミスティを呆れた目でみて、オディットが用意してくれていた平民服に着替える。一応衝立の向こうで着替えてるよ。普通なら男と同じ部屋で着替えるなんて…!とカガリの悲鳴が聞こえそうだが、当のカガリはオディットくんとどこかへ姿を消していた。
「アイリーン様、お待たせしました」
「姫様!?まさかここでお着替えされたのですか!?」
オディットくんの落ち着いた声とカガリの甲高い悲鳴のような声が被って聞こえてくる。ほら、先に着替えといて良かった。カガリが来てから着替えようものなら、別室に移動してそれから化粧やらなにやらで二時間はかかってたね。
オレはてへへと誤魔化すように笑い、同じく平民服に着替えたオディットくんをみた。
麻のシャツに黒い革のジャケットと、シンプルでどこにでもありそうな服なのに見目の良いオディットくんが着るとまるでパリコレモデルのようだった。
「ほう、オディットくんそういう服も似合うんだね」
「元が貧相な男ですから、服も貧相で釣り合いがとれて丁度いいのかと」
オレが本気で褒めると、カガリの吐き捨てるような言葉が返ってきた。カガリからみて貧相じゃない男ってどんな男なのかオレは気になって仕方がないよ。
カガリがオディットにふんと顔を背けつつオレの方へやってくると、丁寧な手付きで髪を梳いてまとめてくれる。その優しい触り方はオディットくんへと態度とは大違いだ。
カガリは手早く髪を二つにまとめると、オレに小さな可愛らしいポシェットを渡してくれる。なかには小さな革の財布が入ってた。
「これがお財布です。ここにゼロセブン様から貰ったお金をいれてお使い下さい」
「おお、ありがとな!」
そう、今、オレの手元にはちゃんとお金があるのだ!
スッポンとトイレットペーパーとタイプライターのアイデア料及び売上金の一部。それをゼロセブンが少なくて申し訳ないけど、と言いつつ定期的にオレに渡してくれていたのだ。いつもは使い道もなく、雑に机の中にしまってあったが、今日は違う。ちゃんと使ってやれるぞ、お金ちゃんよ。
オレは革の財布を開いて、さて、と迷う。
机の中には金貨が五十枚と銀貨が四十枚ほど。ものの相場をオレは知らないのでどれくらい財布に入れていいのかわからない。
オレはオディットの腕をくい、と引いて尋ねる。
「街でそれなりに買い物をしたいんだけど、どれくらい持って行けばいい?」
「そうですね…。銀貨が五枚もあれば十分かと」
「へえ、それだけでいいのか」
オレはぽいぽいと銀貨を五枚財布にいれてポシェットにしまった。ちょっと心許ないかな、金貨一枚くらい入れておくべきかなと思ったけど、オレはオディットくんを信じることにした。長をやってる他の二人よりまともな金銭感覚をしていそうだと思ったからだ。
オレは未だにやいのやいのと言い合いを続けている二人に声を掛ける。
二人も平民服にお着替え済みだ。…まぁ、機人族のスチームパンクなところとか、ミスティの翼とか平民服で誤魔化せないくらい目立ちそうだけど、ここは気にしないで行こう!
さぁ、いざ、城下町へ!




