表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絵本の中からこんにちは!?  作者: 鳥遠かめ
絵本の中からこんにちは!?
PR
5/15

4.ゆうしゃ


 ……。


 夕日。いつの間にか夕方になっている。空はドラゴンに焼かれたワケでもないのに、まっかに燃えていた。

 でも、街はドラゴンに焼かれたからまっか。壊れたビル。折れてしまった電柱。炎でできた植え込み。


 そして、夕焼けに沈んだの街の中、折れた剣を杖に膝をつくドロシー。


 息をつき、苦しそうな顔は煤けて、ドレスはぼろぼろ。

 あんなにキレイだった髪も焦げてチリチリ。ぼくのとなりには、ドラゴンのしっぽにぶたれて伸びたペジタが転がっている。


 それに対してドラゴンはノーダメージで、世界中に響くような雄たけびを上げていた。

 ドロシーはさっきからずっと、ドラゴンのしっぽ攻撃と火炎放射攻撃から逃げるのだけで精いっぱいだ。


「イーッヒッヒッヒ! なぜか攻撃が当たらないねえ。ほらほら、逃げないと黒焦げになるぞ!」

 魔女はわざと攻撃を外してるみたいだった。


 ……どうして? 本の通りなら、これでドラゴンをやっつけて終わりじゃないの!?


 ドロシーとペジタは頑張っていた。だけど、ドラゴンは巨体に似合わず、動きが素早かった。

 ドロシーの剣は簡単に避けられてしまうし、ペジタがドラゴンを食べようと噛み付いても鱗が硬くて、文字通り歯が立たなかったんだ。


「そろそろ飽きたねえ」


 竜は大きく息を吸い込み始め、炎を吐く準備をする。


「ちょっと! 何してるの! カケルくん!」

 また声が聞こえた。声のほうを見ると、電柱の陰からおねえさんが見ている。あのおねえさんには見覚えがあるぞ。ぼくに本を売りつけたおねえさんだ。


 ドラゴンの吸い込む音が途絶える。準備オッケーってことだ。


「もう!」

 おねえさんは電柱から飛び出すと、ドロシーを突き飛ばした。ふたりの居た場所がまっかになる。


 剣が吹き飛ばされて、ぼくの足元に転がってきた。


「カケルくん! キミがやるんだよ!」


 ぼくは息を呑む。剣を拾い上げる。剣はぼくの手の中でガチガチ鳴った。


「だめだ。手が震えるよ」

 手だけじゃない。足だって。


「カケル、お願い。魔女を倒して」

 倒れたドロシーがぼくに言う。


「剣だって、折れてる」

 折れた剣は包丁よりも短くなっている。


「カケル、おらぁドラゴンの弱点見つけただ」

 ペジタはドラゴンの脇腹辺りを指さした。

「あすこだけ、鱗が逆さまに生えてるんだ。あすこなら、折れた剣でもやっづけれる」

 赤いドラゴンがまた大きく息を吸い込み始めた。今度はさっきよりも深く、深く。


 ドロシーも、ペジタも、動けない。おねえさんも倒れたままだ。


「うわああああ!」

 ぼくは剣を握って突進した。ドラゴンの弱点目掛けて。


「マヌケめ! そんなへっぴり腰にやられるか!」

 ドラゴンはうしろに飛びのく。

 ぼくは何度も何度も突進した。


「イーヒッヒッヒッヒ! 若い子と踊るダンスは“ホスト”くらい楽しいねえ!」

 飛び跳ね楽しそうに攻撃を避けるドラゴン。声も一緒に飛び跳ねる。

 ぼくはすぐに疲れてしまった。


 もうダメだ。みんなと一緒になって、伸びてしまおう。それで、みんなと一緒に、ドラゴンに丸焦げにされてしまうんだ。

 デブゴンの言う通り、ちょっと足が速いくらいじゃ、偉くもなんともない。ドラゴンには追い付けないんだ。


「おやおや、もうおしまいかい。それじゃ、仕方ないねえ」

 竜が炎を吸い込む。辺りの空気がちりちりと音をたて始める。


「カケルぅ……」

 お姫様が情けない声をあげた。 


 ぼくは立ち上がる。最後にもう一回、もう一回だけやってみる。



 ――剣をもって、竜をぶっ刺してやっつけるぼく。


 

 ぼくは走り出す。でもフラフラで、剣を持つ手も震えてて。


「「「駆けろ! カケル!」」」


 みんなが叫ぶ。


 途端に足がしゃんとして、地面を捕まえる。


 ――ぼくは駆ける。ぼくは足が速い。


 ――クラスの誰よりも。

 ――学年の誰よりも。

 ――金曜日よりも。

 ――お姫様よりも。



 ――まっかなドラゴンよりも!



 ドラゴンは急に速くなったぼくに驚いて、動くのが一瞬遅れる。

 ぼくの手にした短い剣が、鱗の隙間に吸い込まれていく。


「ギョエエエエエエエエエ!」


 魔女が悲鳴を上げる。――「だんまつま」だ。


 脇腹に剣が刺さったドラゴンは、空気が抜けたみたいに小さくなっていく。

 そして、よぼよぼの魔女に戻り、さらにどんどん痩せていって、黒い枯れ木になった。

 街を秋の風が吹き抜けて、魔女を黒い粉にして吹き飛ばした。


「やったわね! カケル!」

「すんごいよ! カケル!」

 ドロシーとペジタが駆け寄ってくる。

 ふたりはぼくの手を片方づつとりながら、一緒になってぴょんぴょん跳ねた。


 ぼくは魔女をやっつけたというのに、なんだかぼんやりしてしまった。ぼくは勝ったのだろうか?

 ふと、道路に投げ出された例の本が目に入る。

 おねえさんが本を拾い上げた。


「カケルくん。カッコ良かったよ!」

 そう言うとおねえさんはぼくに親指を立てて、本を開いた。


 本が光り輝き、震え始めた。

 光がどんどん大きくなって、おねえさんを見えなくした。

 ペジタやドロシー、ぼろぼろになった街、そしてぼくを包み込んだ!


 ……。



***



 ――ピピピピピピピピピ!!



 うるさい。目覚まし時計の音だ。

 ぼくは手を伸ばして、目覚ましの頭を叩く。

「カケルー!? カケル! 7時よ! 学校行く時間よ!」

 身体が疲れている。筋肉痛だ。

 ぼくはのろのろと起き上がると着替えて、朝食のトーストをかじった。


 ……なんだかすごい夢を見ていた気がする。

 目が覚めてすぐは夢を憶えていても、ちょっと何かをすると思い出せなくなる。


 ぼくはいったいどんな夢を見ていたんだっけ……?


 今日は月曜日だ。この土日は何をしていたのか思い出せない。


『海ブツモンスター2.5 タコ&イカ! きみは新たなる伝説の目撃者になる!』

 テレビのコマーシャル。

 学校に行ったら、みんなは海モン2.5の話をするだろう。でもぼくは、どうでも良くなっていた。


 この前はあれだけ嫌だったのに、どうしてだろう?


 いつもは集団登校の7時45分ギリギリまでテレビにかじりついているんだけど、今日はなんだかそんな気にならなかった。


 ぼくはすぐに出られるように支度を済ませると、部屋に戻った。



 ……机の上にでっかい本がある。なんだったっけ、これ?


 ぼくは本を持ち上げる。重たい。

 本を開いてみる。黒いススが舞い上がった。


「そっか、そうだ……。あれは夢? 夢じゃなかったのかな……?」


 焦げ臭いニオイがする。本の表紙は少し焼けてしまっていて、でも逆に前よりもカッコよくなってる気がした。


 ぼくは本の分厚いページをめくる。


 本の内容はこうだ。


 むかしむかしあるところに、お姫様と召使いの男の子がいました。

 お姫様はワガママでみんなから嫌われていました。

 そして、召使いは言いなりでした。カエルを呑まされたり、イスにされたり……。

 でもある日、召使いは勇気をだしてお姫様に言います。


「友達になろう」

 ふたりは友達になってピクニックに行きました。


 しかし、幸せな時は長くは続きません。

 お姫様は見てしまうのです、お城のばあやが、じつは悪い魔女で怪しい薬を作っているところを。

 お姫様は王様であるお父さんや兵隊たちに魔女の正体を話しますが、信じてもらえません。

 仕方なくお姫様は自分たちだけで魔女をやっつけようと、友達と一緒に魔女を倒す剣を探します。


 剣が見つかり、いよいよ魔女との決戦です。

 魔女は悪い魔法でトカゲをドラゴンにしようとしました。

 でも召使いは素早くトカゲを捕まえると、丸のみにしてしまいます。

 怒った魔女は悪い魔法の薬を飲んで、みずからドラゴンに変身しました。

 火を噴く竜と、ふたりの戦いが始まります。


 ドラゴンは素早く、ふたりの攻撃をひらりひらりとかわします。

 どんどんと街は破壊され、ふたりも竜の攻撃を受けてぼろぼろになってしまいます。剣も折れてしまいました。


 そこに、ひとりの男の子が現れます。

 彼はずっと他のみんなと一緒に、お姫様たちの戦いを見ていただけでした。

 でも、ぼろぼろになったふたりを見て、魔女を倒すために立ち上がります。


 男の子はかけっこが得意でした。素早いドラゴンの動きに追いつけると思いました。

 でも、ドラゴンが怖くてなかなか攻撃が届きません。

 お姫様と召使いが男の子を応援します。


 ふたりの声援を受けた男の子はドラゴンの弱点に剣を突き刺しました。

 男の子の正体は、本当は素早さマックスの勇者だったのです。


 悲鳴をあげたドラゴンは魔女に戻り、倒れます。

 魔女は倒されて、世界は平和になりました。


――めでたしめでたし。


 急に出てくる勇者。お話としては“さんりゅう”だ。

 でもぼくは、この勇者が誰なのか、どうして出てきたのか知っている。「ぼくだけ」が知っている。


 ぼくは手を取り合う三人のページを見ながらニヤけた。


「カケル、そろそろ時間でしょ?」

 お母さんが声を掛けてくる。

「うん、今行く!」


 あれ……?

 最後のページがみょうに分厚い。どうやら、もう1ページくっ付いていたみたいだ。


 そこには、お姫様と、召使いと、それに勇者が描かれている。

 ヘタクソな絵だけど、ぼくは想像力を働かせて、何が描いてあるか解読した。


 ――えーっと、これは……ピクニックの絵だ!


「相変わらず狭い部屋ね!」

「んでも、おらの家よりは広ぇよ」

 うしろで声がする。


「カケル、ハンカチ返すの忘れてたわ。それと、今からピクニックに行きましょうよ」


 ……なんてこった!


***

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ