うでどけい
夏休みが終わり、二学期が始まった。
なんてことはない、いつもの学校生活。ひとつ変わったことといえば、如月さんが「新しく」なって、いろいろな子と遊ぶようになったことだ。
学校が始まってしばらくは、彼女は人気者になっていた。僕はこっそり鼻高々だ。
でも、そのうちにちょっと引っかかるようになってきた。
具体的に説明はできないけど、如月さんは如月さんになったけど、如月さんじゃなくなったような。
……なんだか、友達じゃなくなってしまったような。
じっさい、如月さんはいろいろな子と遊ぶけど、僕とは遊ばない。昔はよく遊んでいたけど。
まあ、こうなる前から遊ばなくなっていたんだけど。でも本当は、僕が「一番」の友達のはずだったんだ。
僕は面白くなくって、家でゴロゴロしていた。
いつもみたいにいろいろ検索する気にもならなかったし、図鑑を見てもワクワクしないし、自転車もここ最近は乗っていない。どこかへ行くときは乗るけど。
「はあ……」
ため息一つ。机の片づけでもしよう。
出しっぱなしになっていた図鑑を棚に並べる。新しい配置だ。ダブル金賞を獲った自由研究はカギ付きの引き出しにしまう。
「なんだっけ、これ」
机の上に無地の白い箱。僕は開けて中身を確かめる。
黒い腕時計。すっかり忘れていた。パパに買って貰っ……おねえさんに売りつけられた腕時計だ。
そういえば、如月さんは服は捨ててしまったけど、腕時計は捨ててなかった。いつだったか、付けてるのを見た。
僕は腕時計を巻いてみる。放って置いたけど、別に電池切れとかはしていない。まだ買って一ヶ月くらいだし。
ボタンを押して機能を試してみる。アラーム、ストップウォッチ、電波受信、それと……。
『ヒメトヒメケンカ』
なんだこりゃ。呪文みたいな言葉だ。ヒメトヒ、メケンカ?
なんだっけか。酷い説明書に書いてあった。トゥギャザーウォッチ機能だっけか。そんなのがあったな。子供だましの。
予言なんて迷信だからありえない。
だいたい、当たりそうなことを言ってるか、どうにでも解釈できることを言ってるだけなのだ。
この場合だとどういう風に考えられるか。謎解きだ。
ヒメトヒ、メケンカ。逆さに読んだらカンケメヒトメヒ。さすがにないか。
――じゃあ姫と姫、ケンカ?
ドキリとした。心当たりがある。僕の周りで“姫”といえばふたり居る。
ひとりは如月さん。如月美姫。みんなにはミキって呼ばれてるけど、美姫って書いてヒメだ。
もうひとりは道明寺さん。道明寺花子。
あの子も自分の名前が嫌いで、みんなに「ヒメ」って呼ばせている。
こっちは苗字で呼んでも、名前で呼んでも怒るんだ。どうみょうじは長いしみんなも従ってる。
“どう”とか“じ”の語感が嫌いらしい。デブゴンが“ドゥーミョウジ”とか“ドウミョ、ウジ”だなんて言ったからだろうか。
下の名前はまあ、お察し。僕も下の名前が太郎じゃなくてよかったと思う。
このふたりは仲が悪い。といっても、悪くなったのは最近だ。道明寺さんはピンクや水色の鮮やかでレースの付いた服を着ている。
ときどき黒。お人形みたいな、お姫様みたいな服装だ。そういうのが大好きで、親に買って貰ってる。
いっぽう如月さんも、一学期まではそういう格好をさせられていた。ぶっちゃけ、道明寺さんの百倍は綺麗だった。
でも、如月さんはあまり元気が無かったし、道明寺さんみたいに「とりまき」が居るわけでもなかったから、道明寺さんは如月さんのことを「眼中に無い」とよく言っていた。
それが、如月さんが「ボーイッシュ」な格好に変わって人気が出た途端、やたらと突っかかるようになったんだ。
でも、如月さんはそういうのには乗らない。わざわざ口で言わないけど、「眼中にない」のは如月さんのほうになっている。
デブゴンも「おとこおんな」とか言ってからかったけど、如月さんは「いいでしょ」って自慢げに一蹴した。
まあ、話はちょっとそれたけど、ヒメとヒメのケンカなら、明日、あのふたりがケンカをするという事なんだろうか?
単なる占いや、当てずっぽうの予言なら、個人名やあだ名が出てくるはずはない。
もしも、万が一、ひょっとして、これが本物なら、明日、ふたりはケンカをするのだろうか?
「まさかね」
如月さんが道明寺さんの挑発に乗るはずがないし。
僕は腕時計の箱を畳んで机にしまった。時計は机の上に置いておいた。
……。
翌日。大変なことになった。
本当にふたりがケンカをしたのだ。
道明寺さんは最近、イライラしている。まあ、如月さんのことが気に入らないのだろう。
それで、あんまり関係ない子にもいじわるな事を言ったりすることが増えた。男子連中は陰で“女デブゴン”と呼んでる。
唯野さんっていう、たまに男子のボール遊びに参加する女子が居るんだけど、その子が中休みが終わって走って帰ってくる途中に転んで、ヒザを擦りむいたんだ。
それでちょっと騒ぎになって三時間目の授業が遅れたんだけど、道明寺さんが「女子のクセにボール遊びなんてするから」とか「野蛮だから罰が当たった」とかイヤミを言ったんだ。
唯野さんは顔を真っ赤にして「だって」と言った。それに対して道明寺さんは「だって、何? おとこおんな」と言って鼻で笑ったんだ。
それに対して怒ったのが如月さんってわけだ。
「女子がボール遊びして何が悪いの?」
そこから言い合い。先生が止めるのも聞きやしない。
言い合いの内容については、端折るけど、ほとんど道明寺さんはやり込められていた。
本物のデブゴンだったらもうちょっと上手く言い返せないけどね。当の彼は珍しく口を挟まずに面白そうに如月さんのことを見ていた。
さて、その話はともかく、この腕時計のええと、なんとか機能が本物だって信ぴょう性が生まれた訳だ。
立証するためにはもっと材料が必要だ。
僕は家に帰ってすぐに時計の機能を使った。
『カレージャナイ』
カレーじゃない。明日の夕御飯はカレーではないという意味だろうか。
そんなの、ふつうに考えて当たる確率が高い。やっぱりインチキか?
「ママ、明日の夕御飯は何?」
聞くのが早い。
「え? 明日? 今日じゃなくって? カレーの予定」
さっそく外しそうな予感。当たる確率が高い予言をしておきながら。
……しかし、これもまた的中することになった。
なんと、翌日の晩御飯は“ハヤシライス”だったのだ。
ママがサラダにする予定で買ったトマトをぶつけて潰しちゃったらしくて、それで急遽ハヤシライスになったらしい。
僕はハヤシライスが好きだ。好きだけど、ハヤシライスはよく「カレーのニセモノ」だとか「カレーじゃない」なんて言われる。
つまり、予言が正確に的中したことになる。
それからというもの、ぼくは毎日時計の機能を試した。
大抵は夕御飯が何だとか、誰かがどうしたとか、大したことじゃなかった。しかし驚いたことに、全部的中した。
こうなったらもう、時計の機能については信じざるを得ない。
だけど、地味すぎる。
唯野さんの忘れ物やデブゴンが叱られるのを当てたってしょうがない。
どうせなら、もっと大事件を当ててくれればいいのに。
あのおねえさん、如月さんの事を知っていたし、僕のことも覚えていた。
ひょっとしてどこからか僕らを監視していて、それで起こる出来事を推理して、電波で僕の時計に……。
バカバカしい。
それでも毎日試していたけど、そのうちに飽きてきてしまった。
それよりも僕にとって嫌な時期が来たから、そっちのほうが問題になった。
運動会。僕は運動音痴だ。運動会前になると練習のために体育の授業が増える。
毎日体育がある。体育の授業は嫌いだ。もちろん運動会も嫌い。
競走の類についてはもう諦めてる。本当は良い格好したいんだけど。
けど、それとは別に4年はソーラン節をすることになっている。1~5年は音楽に合わせてダンスのたぐいをやらされて、6年生は組み立て体操だ。
僕はこれがすごく嫌だった。みんなが綺麗に合わせてるのに、自分だけズレていたらどうしよう。
それは自分たちからでは分からない。いつも先生に指摘されるんじゃないかって、ドキドキしっぱなしだ。
運動会なんてやめてしまえばいい。
組体操は危なくて問題になってるらしいし、学校は勉強するところなんだから、運動じゃなくて、勉強の大会でも開いてくれればいいのに。
僕は運動会の練習でへとへと。それなのに、如月さんは放課後にみんなと遊んでいるみたいだ。……元気だな。
そんなのが続くうちに、僕のテンションは最低になった。もう宿題もやる気が出ない。
運動会の練習に加えて、宿題までしっかり出してくる。先生は僕たちに恨みでもあるのだろうか?
「……めんどくさい」
計算ドリル。最近は分数のひっ算だ。書く量が多くて勘弁してほしい。
こんなの一行で、暗算で簡単に解けるでしょ。
それに、「余り」が出るのはおかしい。小数点まで出せば、大抵の数字は正確に答えが出る。
3.333……の答えなら三分の一とでも表記すればいい。違うかね?
僕はまったく面白くない。どうせ満点なのは同じだ。結末は変わらない。
僕は答えを写してさっさと宿題を終わらせた。終わらせても、やることなんてないんだけど。
ある日、5時間目の授業が眠すぎて、うっかり寝てしまいそうになった。
僕は先生に注意されたあとに、当てられて黒板の前に出された。普段なら恥なんだけど、眠すぎてさっさと黒板に答えを書いて机に戻った。
普通は正解かどうか答え合わせをしてから机に戻る。先生が解説しようとしていたけど、気にせず戻った。
だって、意味が無いだろう? なぜなら正解だから。考えなくても分かる。もちろん正解だった。
先生はなぜか怒っていた。正解したというのに。
そのあとの休み時間、如月さんが僕の席に来た。
「ケンサクくん、最近元気ないけど、どうかしたの? 大丈夫?」
「別に。運動会の練習で疲れてるだけ。体育苦手だから」
僕はそう言うと机に突っ伏した。5分でも寝るのだ。如月さんは何も言わずに自分の席に戻って行った。
「あ、菅原がまた寝てる」
頭の上で女子の声。顔を上げると、そこには道明寺さんが居た。
「……なんか用?」
「別に。菅原って如月さんと仲良いよね」
「そうかな……」
「幼稚園も同じだったんでしょ? 家も近所で」
「だから何?」
からかうつもりだろうか。
「あの子って最近変わったじゃん? なんかあったのかなって」
ニヤニヤしながら言う道明寺さん。動作までデブゴンに似てきたぞ。
要するに、気に入らない相手の弱点を見つけようと、探りを入れているんだ。
誰が教えるか。道明寺やデブゴンでなくとも、教えるもんか。
「知らない。そんな仲良くないし」
僕はまた机に伏せる。同時にチャイムが鳴った。
放課後。道明寺さんに呼び出された。
「あんたスマホ持ってるでしょ。番号教えて」
うちのクラスにも携帯電話を持っている子は何人かいる。大抵は親が仕事で家に居ないとか、習い事や塾がどうとかで持たされている子だ。
僕はどっちにも当てはまらない。連絡用というのは同じだけど。
一方、道明寺さんもどっちにも当てはまらないクチだ。
彼女はスマホで色々やって遊んでいる。オモチャなんだ。
みんなは持っていてもランドセルに入れて人には見せないんだけど、こいつだけは休み時間にこっそり使ったり、見せびらかしたりしている。
「番号交換? 何のために?」
面倒くさい奴だ。町下みたいにダッシュで帰れば良かった。
「いいでしょ、別に。なんかあった時に、連絡とかできて便利でしょ」
どうせ如月さんの事を聞こうと企んでいるんだろう。僕はさっさと帰って寝たかったから、番号を交換した。急がば回れという奴だ。
「“ヒメ”って登録しておいてね」
僕はヒメって登録した画面を見せて、さっさと帰った。
家に帰ってから登録名を“女デブゴン”に変えて、震える電話を無視して横になった。
運動会前日。予行だから学校全体で丸一日練習。
実際に走ったりとか踊ったりはしない。列の最初の奴だけ確認で走らされる。ご愁傷様。
並んだり手順を確認したりがほとんどだったから、午前中だけで終わりだ。
午後は普通の授業。6年だけ運動場で組み立て体操の最後の追い込みをやっている。
明日は晴れだ。台風でも来て欲しいところなんだけど。
気象庁のホームページでレーダーや週間天気予報を見たけど、降水確率ゼロパーセント。晴れだ。
僕はまさかの神頼み、というか腕時計頼みをやった。
『アメガフル』とか『チュウシニナル』とかが表示されれば嬉しい。この際、『カゼヲヒク』とか『ダイジシン』でも良いや。
……『ヒーロータンジョ』。
ええと。ヒーロー誕生ってことだ。この時計はカタカナで8文字までしか表示されない。
だから、ときどき予言も途切れていたり、要領を得ない形で表示されたりする。
ヒーローか。じつのところを言うと、今年の運動会の競技には、ちょっとだけ自信があった。
二人三脚リレーだ。しかも、アンカー。普段ならリレーのアンカーなんて罰ゲームもいいところだ。
だけど僕は、クラスで一番足が速い町下と組んで走るんだ。
あいつは「練習の時は本気を出さなくていいでしょ」とか言って、僕とゆっくり走っていたけど、それでも他のクラスの連中よりも上手く走れていた。
本番は町下も本気で走るはずだ。僕がどれくらいついて行けるか分からないけど、ひょっとしたらぶっちぎりになるかもしれない。
あいつが僕の倍速いとして、5+10=15。15÷2=7.5だ。他の連中がそれ以下なら勝ちだ。
僕は運動会の本番が、ちょっとだけ楽しみになった。
だけど、僕の期待は裏切られることになった。……違う。僕が間違いをしでかしたのだ。
僕は本気でやった。一番になりたかったから。必死に走った。
でも、町下は「無理に早くしなくていい、頭の良いキミなら、分かるでしょ」と言って全力を出さなかった。
僕は腹が立って、もっと速く走ろうとした。
結果として、僕たちは転んだ。ふたりそろってバンソウコウだ。
……転んでから気が付いた。あいつは本気を出さないから早くしなくていいって言ったんじゃない。
「息を合わせるのが速く走るコツ」だって知っていたから、そう言ったんだ。ネットで検索したときにもそう書いてあったじゃないか。
僕のせいで全学年リレーに出る町下がケガをしてしまった。
昼の弁当はひとりで食べた。休みを取って観に来ていたパパがヒザのケガを見て「子供のヒザのケガは勲章だからな」と言って笑った。
なんだよ、それ。普段は仕事で観に来ないクセに、よりにもよってこんな日に観に来るなんてさ。
そして、全学年リレーの時間が来た。
女子は僕らの青組が勝った。男子のほうはと言うと……。結論から言うとビリだった。
しかし、想定外の結末。僕が考えていたのは「町下がケガをしたせいで負ける」という最低の結末だった。
だけど、あいつはそれを覆した。すごく格好が良かった。まったくお手上げ。
まず最初に、ヒザのケガから仲の良い奴が何人か代役を名乗り出たけど、町下は断った。僕は出てくれないほうが気が楽だったのに。
次に、全員リレーは1年から走って、6年で終わりという形で、走るスピードがどんどん速くなっていくっていうのが見どころだ。
だけど、それがまったく極端な形で現れたのだ。
1年坊がありえないほど遅かった。どうして代表になったのか分からない。
そのせいで2年も3年もやる気をなくしたのか、あまり本気で走ってるように見えなかった。
町下がバトンを受け取ったころには、他のチームはちょうど5年が走り始めるタイミングだった。
でも、あいつは諦めなかった。全力で走っていた。バンソウコウが剥げて血が見えてた。
あいつは5年の連中なんて目じゃない位のスピードでトラックを一周した。
多分、次に走った青組の5年よりも速かっただろう。観客席から歓声が上がっていたし、マイク放送でも「町下カケルくん速い! 速い! 駆けろー!」と言われていた。
ところで放送席に居たサングラスの女の人は誰だろうか。先生ではなかった。
PTAの人とかかな。行事になると良く分からないおとなが出てくるよね。
最後の6年はさすがにひとりで走るハメになっていたけど、ひとりだったせいか彼もすごく速く見えた。
リレーが終わるころには拍手の嵐だ。最後の組み立て体操よりも盛り上がってた気がする。
大盛り上がりを見せた運動会、終わったあとの教室も町下の話題で持ちきりだった。
仲の良い奴はもちろん、如月さんも近くに行って褒めていたし、道明寺さんや、あのデブゴンですら手放しで褒めていた。
僕はというと、ちょっと安心した反面。複雑な気持ちだった。
最初は安心のほうが強くて、席に座ってそれを眺めていたんだけど、誰から町下の事を「一番を超えた一番」だなんて褒めたから、すごく腹が立った。
足が速くたって大して意味なんてない。
自転車のほうが早いし、もっというと電車や飛行機の方がよっぽど早い。町下はオリンピック選手にでもなればいいさ。
僕はその日からもさらに面白くない日々をして過ごした。
僕だって褒められたい。一番になりたい。じっさい、勉強ならいろいろな科目が一番だ。
国語算数理科社会、図工だって得意だ。でも、今やそれは当たり前のことなのだ。
予言を見て、僕がヒーローになれそうなことはないかなと探す。あるわけない。そんな都合のいい事。
それからしばらく経った。
僕はやっぱり目立たないままで、どうしても活躍がしたかったのだけれど、土曜日だったから目立つ要素が無いのは分かっていた。
金曜と土曜は予言を見ても、ガッカリするだけだ。
21時ごろ、僕はそろそろ寝るつもりだった、そこへ携帯電話がメッセージの着信を知らせる。
▼メッセージ着信:女デブゴン
『ねえ、聞いた? 唯野さんが家出したんだって』
▼メッセージ返信
『それは大変だ。朝になっても戻ってなかったら、探しに行こう』
その後、僕は連絡先を知ってるクラスメイト全員にメールをばらまいた。
唯野さん。彼女は最近、デブゴンにしつこく絡まれて、「ウソツキ」呼ばわりされている。
家出とか行方不明とか、そういう事件の話を聞くと、僕はまっさきに「死んでしまうこと」を想像する。
念のために言うけど、死んでしまえばいいと思ってるわけじゃない。
死ぬということは、とても恐ろしいことだ。それでもう、オシマイということなのだから。
僕は恐る恐る腕時計の機能を試した。
『ウマハジンジャ』
馬は神社。馬。これは唯野真実さんのことだ。
デブゴンお得意のあだ名。ウソツキマミ、ウソマミ、ウマ。つまり、唯野さんは神社で見つかるとかそういうことだ。
だけど、これはあくまで明日の話で、今、神社に居るとは限らない。
それだけじゃない。神社でどういう形で「発見される」かとかも……。
今からでも探しに行ったり、大人に知らせたほうが良いかもしれない。でも、僕はもうこの腕時計の力を完全に信じていた。
――おきることはゼッタイです。ミライはかえることはできません。
そう、結末は同じなのだ。
翌朝。僕は寝不足だった。朝食を食べてるとママとパパが唯野さんの話をしていた。
やっぱりまだ見つかっていないらしい。
僕は何も言わずに、自転車にまたがり、まっすぐに神社へと向かった。
唯野さんは神社に居る、あるいは来るはずだ。……生死に関わらず。
生きてるなら早く見つけに行ってあげなきゃいけない。きっと怖い思いや寂しい思いをしたに違いないから。
でも僕は、神社の敷地に入った途端、それ以上進むのが怖くなった。
もし、万が一、唯野さんが「無残な姿」で見つかったとしたら……。
「菅原くんも、唯野さんを探しに来たの?」
僕に声を掛けてきたのは町下だった。それに彼と仲の良いクラスメイトがふたり。
「うん。みんなも? 僕は自転車だから、もっと遠くから探してみようかな」
僕は限界だった。神社から逃げたかった。
町下なら大丈夫だろう。唯野さんはここに居る。もう見つかったも同然だ。僕の出番はもうない。
けっきょく、僕はそのまま家へと帰り、正午あたりにまた道明寺さんからのメッセージを受け取って、唯野さんが無事に発見された事を知った。
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