しゅくだい
夏休みの日記 4年 2組 菅原 賢作
・7月19日(土) くもり
今日から夏休みです。始まりが連休と重なったので前の年よりも早く、19日から休みになりました。
夏休みが長くなって「得だ」と言った子がいましたが、くっついた休日はくっつかなくても休日だし、毎日する宿題がふえるので大して変わらず、得とは言い切れないと思いました。
今日はいつも通りの土曜日でした。お手伝いは皿あらいをしました。
……夏休みの宿題。量が多い。計算ドリル、漢字ドリル、日記と家の手伝い、自由研究に読書感想文、ドリルとは別の国語・算数・理科・社会のプリント。
日記以外は7月のうちに終わらせてしまおう。どうせ、いつやっても「結末は同じ」だ。
あとは星座盤で夏の大三角形を探すのがあるけど、別に提出するものじゃないから、きっとみんなはやらないだろうな。
僕は星座盤は個人的に何度も使ってるけど。
土曜日の朝っぱらから宿題。たぶん、この日のこの時間から宿題をしているクラスメイトは居ないだろう。僕が一番だ。
日記もいつ書いても同じだから、今日のぶんは今書く。
お手伝いは夕食の皿洗いなら毎日しているし、ときどき違うのをやればいいだろう。
読書感想文は厄介だが、自由研究は楽しみだ。
僕は菅原賢作。小学4年生だ。クラスで一番、頭が良い。
学校のテストではいつも満点だし、提出日の提出は一番早いし、一番もの知りだ。
体育だけは苦手だ。あれは頑張っても一番にはなれない。才能や遺伝もあるし。
どうせ、将来スポーツ選手になるつもりはないから、できてもできなくても同じだ。僕は探偵か学者になりたい。
さて、自己紹介しているうちに漢字ドリルが終わった。
まだお昼ご飯にもなっていないのに。目が痛い。
僕はメガネを置いて目薬をした。
今日はこの位にしておこう。無理をしても効率が悪い。どうせ、宿題がすべて終わるという結末は同じだ。
昼からは神社にでも行こう。あそこの「やぶ」には虫が多い。夏場ならなおさらだ。カブトムシやクワガタムシだって見かける。
とりたければ樹に砂糖水を塗って、早朝に見に行けば良い。だけど飼うほうには興味がない。虫はどうせ、死んでしまうから。
個人的にはカブトやクワガタよりも、カミキリムシが好きだ。
ルリボシカミキリがイチオシだ。あんな色をした虫はなかなか見かけない。
……。
僕はカメラに虫たちを収める。あとでネットで検索して種類を調べるのだ。印刷して自由研究のネタにしてもいい。
研究は他にもやりたいものがあるから、決定ではない。
帰り道、僕は身体中が痒くなった。蚊だ。数えて見たら十ヶ所も血を吸われていた。嫌な星座だ。虫よけをしていたのに。
しかも、今の今まで刺されていたことに気付かなかった。どうせ治るんだし、ちょっとくらい血を吸われても死にはしないんだから、痒くしなくてもいいだろうに!
家に帰ると、僕は虫刺されの薬を塗って、パソコンに向かった。
▼検索 蚊 痒くなる 原因
意外なことが分かった。
蚊に刺されると人間の体内にヒスタミンが生産されて、侵入者と戦うための成分を流れやすくする。
そのさいに毛細血管が広がるせいで痒くなるらしい。
つまり蚊に刺されて痒くなるのは、怪我や毒じゃなくて、アレルギーなのだ!
インターネットは便利だ。調べればなんでも答えが出てくる。
翌日。今度は社会のプリントを終えた。
この調子なら7月のうちに全部終わるだろう。僕は計画的だ。昼ご飯を食べたあと、神社に行く。
今度は腰かけタイプの蚊取り線香を焚いておいた。効果のほどはどうだろう。
虫を探していると、誰かの気配に気づいた。
岩を裏返したさいに背後から「なるほど、そんなところにも居るんだ」と声が聞こえたからだ。
振り返ると、クラスメイトの女子が居た。
「ケンサクくんも虫捕り?」
レースの付いた、いかにも女の子したスカート。長くてサラサラのよく手入れされた髪の毛。
「僕は研究してるだけ。如月さんは虫捕り?」
「まあね。といっても、家で飼うワケでもないんだケド。ママ嫌がるし」
首をすくめる如月さん。
「大人は虫が嫌いな人、多いよね」
「わたしも触るのは苦手。ちょっと眺めれたらいいかなって思って。でも、そっちに行くのも無理そう」
如月さんはやぶの外の砂利道からこちらを覗き込んでいる。
「服、汚れちゃうもんね」
僕はやぶから出る。
「探すのやめちゃうの?」
如月さんが訊ねる。
「いや、一匹見つけたから、見せようかと思って」
僕は岩の下に居た虫を一匹捕まえて、彼女に見せた。
緑に光るボディ、茶色い手足、縦筋の入った羽根。
「……? 何この虫? カナブンみたいなキレイな色」
「ゴミムシだよ」
「ええ!? これが? 名前は聞いたことあるケド、初めて見た」
僕の指先に抱き着くゴミムシを覗き込む如月さん。
風が吹いて、ちょっとシャンプーの匂いがした。
「キレイでしょ」
「うん。それなのにゴミムシだなんて名前を付けられて、酷くない?」
如月さんが少し怒る。
「ゴミの中でよく見つかるから、そう名付けられたんだ。ゴミを餌にしてる小さい虫を食べに寄ってくる。こいつは、岩の下に居た小さい虫や、ミミズを狙った来たヤツだね」
「へえ。じゃあ別に、ゴミを食べてるワケでも、特別にゴミの中で生活してるわけでもないのか」
如月さんがゴミムシに指を差し出す。
「あっ」
ゴミムシはびっくりして逃げて行ってしまった。
「逃げちゃった! ごめんねケンサクくん」
手を合わせて謝る如月さん。
「いや、別にいいけど」
「そっか、よかった。……ねね。ケンサクくん、今ヒマ? ちょっと相談に乗って欲しいことがあるんだケド」
……。
彼女は如月美姫。……違う、そうじゃない。「ミキ」じゃない。「ヒメ」って読むんだ。
キサラギヒメだなんて、昔話に出てくるお姫様みたいな名前だ。
彼女の親も彼女に「そういう服」を買って与えてる。
でも、僕は知っていた。如月さんは動きまわるのが好きで、「そういう格好」が邪魔になってるってことを。
それに、名前を呼ばれるのが好きじゃないってことも。
如月さんとは幼稚園のころからの付き合いだ。家も近所。斜向かいだ。石を投げたら届くくらいに近い。
あのころは「ヒメちゃん」って呼んでいたはずだけど、いつの間にか僕は彼女のことを「如月さん」と呼ぶようになっていた。
「それで、相談ってなに?」
ひと気のない神社。建物の階段に腰かける。本当は入ってはいけないのだけど、相談や内緒話をするなら、ここのほうが良いと如月さんは言った。
「わたしね、変わろうと思うの」
「変わる?」
「うん。ママが小さい頃から、わたしにこういう服を着せたがるの、知ってるでしょ? それをやめさせたいの。だって、高学年になってまでこんな格好してたら“イタイ”でしょ?」
「確かにね。でも、キレイだとはおもうけど……」
「けど?」
如月さんはちょっと照れたあと、すぐに口をとがらせて僕を問い詰める。
「似合わないと思う」
僕はサラッと言ってやった。
「はっきり言ってくれるね! でも、わたしもそう思う」
如月さんは笑った。
「これは、本当のわたしじゃない。鏡を見ても、違う姿が映るんだもの」
「鏡?」
「ううん。こっちの話。とにかく、もっと動きやすい格好をしたいし、男の子みたいに走り回りたいの!」
「ママを説得したらいい」
「説得ならもう1年以上前からしてる。ママもパパもダメ。“きくみみもたない”のよ。服を買ってくるのも、ママだしさ。ね、ケンサクくん。一緒に考えてよ!」
ふたたび顔の前で手を合わせる如月さん。
「うーん。親がダメとなるとなあ……」
僕は首をひねる。こういうのはパソコンで検索しても答えは出ない。
苦手だ。せめてヒントになるようなことさえあれば。
ちらと如月さんのほうを見る。彼女はやぶの中を遠い目で見ている。額には汗。
「暑そうだね」
「夏だからね。こういう服だと尚更」
彼女は髪の毛を掻き上げ、首に風を送った。またシャンプーの匂い。
「髪の毛も暑そうだ」
「うん。明後日、美容院の予約なんだよね。高っかいのにちょっとしか切らないんだよ? 本当は髪の毛、短くしたいんだケド」
「ママがダメっていうわけだね」
「うん」
髪の毛。僕の頭にひとつアイディアが浮かんだ。
「美容院はひとりで行くの?」
「うん。別にママに切ってもらうわけじゃないから、お金を貰ってひとりで行くよ」
「じゃ、勝手に短くしてしまえばいい」
「勝手に? ケンサクくん、ワルだね!」
目を丸くする如月さん。
「そんなに悪いことだとは思わないけど。髪の毛はどうせまた伸びるでしょ。怒られたとしても、伸びるまでの間は短い状態でいられるんだからさ」
「確かに……悪くないかも。でも、髪の毛だけじゃあな」
如月さんがスカートをぱたぱたさせる。
「服も、買ってしまえば? “既成事実”ってヤツだよ」
「キセージジツ?」
「既にそうなった事は認めるしかないってことさ。やったもん勝ちってね」
僕はメガネをクイっとやった。
「面白そう」
如月さんが笑う。僕は春に庭先で咲いていたデイジーの花を思い出した。
「でも、お金はちょっと足りないかな。男の子の服は少し安いけど、一式そろえるにはちょっとおこづかいが足りないよ」
花はすぐに萎れてしまった。
「それについても、いい考えがあるよ。」
クイっ。
「美容院をやめればいい。安い理髪店に行くんだ。そしたら数千円は浮くはずだ」
「……! ケンサクくん、天才?」
ふたたび満開。
「それは言い過ぎ」
にやける僕。
「うん、うん。上手くいく気がする!」
こぶしを握って、しきりに頷く如月さん。
「ねえねえ。明後日、火曜日のお昼から、ヒマ?」
「予定はないよ」
「じゃ火曜日、お昼から付き合って。……あ、しまった、どうしよう」
彼女は口に手を当てる。
「何が?」
「えっとね。火曜日の午前中に美容院の予約なの。予約は電話でキャンセルしとく。
でも、同じタイミングで切りに行かないと変じゃない?
それが終わってから服を買いに行こうと思うんだけど、お昼ご飯を食べるときに短くなった頭を見られたらやっかいだ……」
如月さんがまくし立てる。僕はどうすればいいのか、だいたい分かった。
「ええと。じゃあ、こうだ。昼をまたいで友達と遊びに行くことにして、髪を切った後、デパートでお昼も食べよう。服も買えるし、頭も見られない」
「さっすが! 昔から頭良いよね、ホント。ケンサクくんに相談して良かったよ」
僕の手がぶんぶん振られる。
「う、うん。また何でも聞いて」
「じゃ、火曜日、お昼前に街の理髪店で待ち合わせね。それからデパートで服を選ぶ! だから、わたしにどんな服が似合うか、教えてよね!」
如月さんは僕の手を離すと一方的にそれだけ言って、走って帰ってしまった。
さて、厄介な宿題がでたぞ……。
・7月21日(月) 晴れ
今日は一日中部屋にいました。がんばって国語のプリントを全部終わらせました。
ぼくは国語がきらいです。決まった答えが無かったり、問題が悪かったりするからです。
習っていない漢字を使ってはいけない所もきらいです。気を使わないといけなくて、つかれてしまいます。
宿題を終えた後は、インターネットで服について調べました。なぜなら計画があるからです。しょう細についてはまだ書けません。
手伝いはふろあらいをしました。
ママに「先週あらったばかりだから良いのに」と言われたけど、別に毎日あらっても、悪くないと思います。
なんだかふろをあらいたい気分だったのです。
火曜日。ママにデパートで如月さんの買い物に付き合うという話をしたら、おこづかいを貰った。
自分のおこづかいがあるから別に要らなかったんだけど、何故か強引に持たされた。
「お待たせ、待った?」
如月さんが理髪店から出て来た。髪の毛はばっさり短くなり、まるで別人みたいだ。
それでもいつものフリフリした服で彼女と分かる。靴だけ不釣り合いに運動靴を履いている。如月さんは体育の授業だけ靴を履き替えているのだ。
「お店の人に三回も“ほんとにいいの?”って聞かれちゃった。ショートボブにしてもらっただけなのに、ちょっと苦労したみたい」
「似合ってると思う」
僕は先回りして答えた。彼女は僕の回答を無視して、カバンから手鏡を取り出すと自分の姿をチェックし始めた。
「……うん、うん。良し! ちゃんと映ってる!」
満足そうな如月さん。
「そりゃそうでしょ。おばけでもないんだから」
おばけなんて非科学的なものは、存在しないが。死ねば「無」なのだ。
「おばけって逆に鏡に映らなくない? 鏡に映ったと思って振り返ったら……居ない! みたいなさ」
「そういえば、そうだっけ? どうせ居ないから関係ないよ」
「うん、そうだね。ここに映っているのは、わたしだ。よし、ケンサクくん。デパートに行こう!」
如月さんは手鏡をしまうと、のしのしと歩き始めた。
「やっぱり、わたしはテリヤキ派だな」
「僕はチーズが好きだ」
デパートのフードコートでハンバーガーをかじる。如月さんはテリヤキバーガーと水。僕はチーズバーガーとフライドポテトとバニラのシェイクだ。
ハンバーガーを食べ終え、僕がポテトをパクついていると、如月さんがこっちを見てきた。もの欲しそうな顔だ。
「ポテト、注文しなかったの? ダイエット?」
水をすする彼女に質問をした。失礼だったかな。
「ううん、服代作りたいから、節約しようかなって」
なるほど。僕はポテトの入った紙カップを彼女の方へ向けた。
「いいの?」
「別にいいよ」
「やったあ。ありがとう!」
如月さんがポテトに手を伸ばす。
シェイクを飲んでいるときもこっちを見てきた気がするけど、気のせいということにした。それはちょっと、困る。
デパートはいろいろな売り場がある。
1階ごとにジャンル分けされていて、僕が家族と来るときに用事があるのは5階と6階だけだ。
5階には子供なら誰でも好きなおもちゃ売り場がある。それとCDショップと本屋。本屋はあまり大きくないけど、図鑑の類がそこそこ売っているので楽しい。
6階はレストランエリアだ。お昼ご飯を食べる。
「子供だけで来るのは、初めて」
エスカレーターの上の段から弾む声。
「僕も初めてだ」
見上げる。如月さんがそれに気づいて、得意げになって見下ろしてきた。如月さんは僕より背が低い。僕は男子では高いほうだ。
でも最近、男子よりも背が高い女子が増えてきた気がする。高学年くらいになると女子のほうが高くなるらしい。
僕たちは5階に来た。迷いなく。
そこでたっぷり時間を潰してから下の服売り場に向ことにする。
僕は本売り場で気になる図鑑を見つけて欲しくなってしまった。CD付きで虫や鳥の鳴き声とかの音声も入っているらしい。
図鑑。図鑑は良い。正直なところ、インターネットで検索をすれば図鑑の代わりになる。虫や鳥の鳴き声も聞ける。
でも、なんていうか、……なんか良いのだ。
如月さんは如月さんで何度かサイフの中身とにらめっこをしたけど、「ダメだよ」ってアドバイスをした。
「ちょっと、カノジョ! 見ていかない?」
エスカレーターで下へと向かっていると、時計売り場から声が聞こえてきた。
如月さんは声に誘われるようにエスカレーターから降りた。子供服の売り場はもっと下だ。
僕は時計には興味がなかったけど、仕方なく彼女のあとをついて行った。
「へい! そこのカレシも時計はいかが? 良いの入ってるよ!」
誰がカレシだ。このおねえさんはデパートらしからぬ変な店員だ。魚屋じゃないんだから。
如月さんは少しの間ショーウィンドウと睨めっこをしていたけど、何も買わずにこっちに戻って来た。
「服に合わせるのがあればって思ってみてたケド、服が決まってないのに見ても、しょうがなかった!」
「そりゃそうだ!」
ようやく服売り場に辿り着いた僕たち。
如月さんは男の子向けと女の子向けの両方を行ったり来たりしながら、うんうんと唸った。
さて、僕は「宿題」をやってこなかった。いや、やったんだけど、正解が分からなかったのだ。
国語以上にややこしい。満点を取るのは無理な気がする。
服を見せられ「こんなのはどうかな?」「これは?」「あ、やっぱりこっちかな?」。
「試着してみたら? 着てみて、似合うのにしようよ」
こういうのは答えだけ見たほうが早いと思う。
「子供だけで試着したら、怒られない?」
不安そうな如月さん。僕は代わりに店員さんからオッケーを貰って来た。聞いたほうが早いのだ。
許可を貰ったことを伝えると、彼女はさっさと服を決めて試着室にこもった。
「ねえ、これどう?」
白の生地に、良く分からないガラの付いたシャツ。黒いハーフパンツ。シンプル。……ふむ。
「似合うと思う。格好いい」
「ホントに?」
「うん。なんていうか、それっぽい。普段と逆の格好だけど、如月さんっぽい」
やっぱり満点は無理だ。何て言ったらいいか分からない。でも、嘘は言っていない。
うーむ、やりづらい。今日の如月さんは、如月さんだけど如月さんではない。会話中は如月さんなんだけど。
「わたしも、まあまあだとは思う。もっと欲しいのあるんだケド、値段がね」
「それはしょうがないね。でも、既成事実にはなると思うよ」
「だよね!」
カバンから手鏡を取り出してチェックする如月さん。試着室の大きな鏡を使えばいいのに。
「うん、うん。ケンサクくんの言う通りだ。やっぱりこれは、わたしだ」
満足そうな新しい如月さん。僕の回答も間違いではなかったらしい。
服を買い、トイレで着替えを済ませて、最後に時計売り場でこれまた安くて黒いのをひとつ。
魚屋のおねえちゃんがしきりに僕に時計を勧めていたけど、断っておいた。僕は携帯電話を持っているので、腕時計は必要ない。
デパートを後にし、帰りの道を歩く僕ら。時間はあっという間に過ぎたみたいで、もう16時を過ぎていた。
でも、家に近づくにつれて、如月さんの表情は暗くなった。
「やっぱり、やめとけば良かったかも……」
のろのろと歩く如月さん。
「大丈夫だよ。この作戦は、怒られたってセーフだから。髪はもう切っちゃったし、服も買っちゃった。遊びに行くときにその服に着替えれば、走り回るのも余裕だ」
「そうだった。そうだよね。わたしと鏡だけじゃ不安で。ケンサクくんに来てもらったのが一番良かったよ」
どうして鏡が出てくるのか分からないけど、一番だと言われると僕も満足だ。
「それじゃ、行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
僕の家の前でさよならをする。さよならなのに行ってらっしゃい。不思議だけど、これで合っているのだ。
僕は家へと帰って行く如月さんの背中を見送った。
***




