わたし
お母さんとは意外な場所で会った。
わたしの家じゃなくて、学校の近所だ。
フシンシャに追いかけられたせいで、いちど学校に戻らないと帰り道が分からなかったから、デブゴンに戻ってもらった。
そこにお母さんがいたというわけ。
「あなた、マミのクラスの子? うちのマミ……唯野真美を見なかった?」
お母さんがデブゴンに訊ねる。
デブゴンは、わたしとお母さんを見比べると、はっきりとこう言った。
「唯野さんのお母さん。このニワトリが、マミちゃんです」
ニワトリを差し出すデブゴン。
お母さんの顔はみるみる赤くなり、鬼のようになった。
「どうしてそんなことが言えるの!? うちの子が昨日、家出をしたの知ってるハズでしょう!? 他の子は心配して探してくれたっていうのに、どうして、そんなウソがつけるの!?」
「違う、ホントウなんだ! それに、オレも探してたし! このニワトリはマミだし、さっきは刃物を持った男に追いかけられて、大変だったんだ!」
デブゴンも顔を真っ赤にする。
「そんなウソばかり!」
睨みつけるお母さん。こんなに怖い顔、見たことがない。昨日叱られた時よりも、もっともっと怖い。鬼だ。
「ウソじゃない!」
デブゴンは負けずに睨み返した。
「……うちの子も最近、やたらとウソが多いのよ。もしかして、あなたみたいなののせいじゃないでしょうね!? 知っているのよ。あなたが他の子をイジメてる問題児だって」
お母さんは激怒した。かの有名ないじめっこをもう一度睨みつける。
デブゴンは青くなった。何か言おうとしてたみたいだけど、出てきたのは「マミが…」の一言だけだった。
「ふん」
お母さんは「プイ」とあっちを向いて、立ち去ろうとする。小さくなるお母さんの後姿。
「待って! デブゴンは本当にわたしを届けようとしてくれたの!」
わたしは叫んだ。振り返るお母さん。あたりを見回す。
「わたしよ。マミよ!」
お母さんの前で人間の言葉を話すニワトリ。
「……?」
お母さんは首をかしげ、デブゴンのうしろを覗き込んだ。
「わたしだよ。このニワトリが、わたしなんだよ」
羽を広げて抗議する。
デブゴンがもう一度、わたしを差し出す。
「ホ、ホントウに、マミなの?」
目をお皿のようにするお母さん。わたしを受け取る手が震えている。
「そうだよ。昨日の晩ご飯、カレーだったでしょ。ちくわの入った」
わたしは「しょうこ」を出す。
「ああ……そんな、マミ!」
お母さんは泣き出してしまった。わたしも泣いてしまう。
「……どうして、こんなことになったの? 昨日に言ってた、くちばしの話、ホントウだったの?」
お母さんの質問。
「だから、ホントウだって言ったじゃん!」
「ああ! マミ!」
今さら信じてもらっても遅い、わたしはもうマミじゃない。わたしはニワトリ。
「……でも、違うの。こうなったのは、わたしがウソばっかりついたせいなの! ホントウは、ウソなんてつきたくなかった!」
わたしは力いっぱい叫んだ。
わたしのくちばしが光り輝く。いつものまぶしい白じゃなくて、きれいな虹色に。
わたしの小さな白い身体がにょきにょきと元の大きさに戻り、いつもの服とランドセルの姿へと変わる。
「あ……」
くちばしが落ち、こつんと地面に当たった。
「「やったあ!」」
わたしとデブゴンはお互い両手を握って飛び跳ねる。
お母さんは顔を濡らしたまんま、その場にへたり込んでしまった。
お母さんはしばらくして落ち着いたら、立ち上がってデブゴンに謝った。
デブゴンは鼻をこすると「当然のことをしたまでです」なんて言って笑い、カサをふりふり去って行った。
帰り道、お母さんはわたしの手をずっと握っていた。
帰ってからは特に何も言わなかった。くちばしのことはお父さんやお姉ちゃんには話さなかったみたい。
ところで、あのくちばしだけど……もう使わない事にした。机の一番下の段の、大きな引き出しの後ろに落として「ふういん」した。
地面に落ちた時に、当たったところの金色が剥がれて灰色になってたし、やっぱり安物だ。
次の日。朝ごはんの時、お母さんが「お母さん、あなたのことが心配だから、今週はまっすぐ帰って来て。外へ遊びにも行かないで」と言った。わたしも、ちゃんと返事をした。
遊びに行けないのは残念だけど、なんだかあまり嫌じゃない気がした。
学校の昼休み。わたしは放課後に遊べないぶん、たくさん遊ばなきゃダメだと考えた。
だけど、そういう風に考えれば考えるほど、何をしたらいいか分からなくなってしまう。
「ねえねえ。わたし、海モン2.5買ってもらったんだけど、カケルくんはやった? むずかしいところがあるんだけど」
「ぼくは2.5は持ってないや。でもストーリーは2と大体一緒だから、分かると思う」
ミキちゃんと町下くんがゲームの話をしている。ふたりはわたしの憧れだ。あまり仲が良くないけど、一緒に遊べたらいいなと思う。
ふたりは仲が良いけど、ふたりはふたりでそれぞれ仲のいい友達が他にもいる。
だいたいは誰かと遊ぶ約束をしている。わたしには、よく遊ぶ友達というのはそんなにいない。
「そこはね。ゴミ箱の中にスイッチがあるんだよ」
「ああ、そうなんだ」
わたしも、海モン買ってもらおうかな。1の中古でもいいから。どうせ今週はヒマだし、おねだりしてみようかな……。
「ようマミ、何見てんの?」
げ、デブゴン。いくらヒマでも、こいつはちょっと……。
「マミも海モンやりたいのか?」
ウマとかウソツキって呼ばなくなったのはいいけど、マミマミって、すっごく馴れ馴れしいんだけど!
「うん。わたしも、ちょっと興味あるの」
でも、正直なわたし。
「……ふーん。おい、カケル!」
デブゴンが町下くんに話しかける。「ろこつ」に嫌な顔をする町下くん。
「今日の放課後、海モンしようぜ」
「なんだよ急に。ぼくはおまえとは遊びたくない!」
「あはは! 町下くん、ハッキリ言う!」ミキちゃんが大ウケする。
「そんなこと言うなって、今日はマミも一緒にさ」
わたしのほうを見るデブゴン。
「マミって、唯野さん?」
町下くんもこっちを見た。
「え、大丈夫。わたし、しばらく遊びに行くの禁止だし、海モンも持ってないし……」
わたしは遠慮する。
「ふーん。じゃー、唯野の家で遊ぼうぜ。海モンはオレのを貸してやるよ。通信するために二個持ってんだよ!」
「ひとりで通信してるの? デブゴンおもしろい!」
ミキちゃんがまたウケてる。
「うるせー。おいカケル、今日は放課後、唯野の家な!」
「……分かったよ。おまえと遊ぶんじゃないぞ。唯野さんと遊ぶんだからな!」
勝手に決まってしまった。
「唯野さんちだったら、わたしも行ってみたいな!」
ミキちゃんも加わる。
「いいぜ。4人で遊ぼうぜ」
デブゴンがニヤリと笑った。
「仕切るなよ!」
町下くんが怒る。
「言い出しっぺのオレが偉いんだよ!」
デブゴンが胸を張る。
「は? デブゴンとは“遊んでやってる”からオレのほうが偉いし!」
町下くんが対抗する。
「あはは。じゃあ、海モンの対戦でどっちが偉いか決めたらいいじゃん!」
ミキちゃんはずっと笑ってる。
「いいぜ。じゃあ今日、唯野んちで勝負な!」
「望むところだよ!」
……まったく、わたし抜きで決めちゃって。
今日の放課後は、どうやら忙しくなりそう!
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