DAYS 13:Find the blue
プレゼン大会いよいよ最終日です。
午前八時、アラームを止めて太郎は起床した。
「ふわあ~~~~~~」
大きな欠伸をかきながら着替え始める。もう朝はすっかり暖かい。
昨日は珍しく夜更かしをした。
いろはとのフィールド・ワークが終わり叶荘に帰ってくると、太郎はそのまま乙女の部屋に向かった。実技初日、最後の選手が彼だったからである。しかし乙女は原稿の締め切りが近く、昨日と今日とが山場だという事で太郎の相手をしている場合ではなく、代わりに渡されたのがテレビアニメ「魔法少女キラキラ☆トゥインクル・クイニズム」のビデオ・ディスク・ボックスだった。
「完全予約限定版、フィギュア、ストラップ、タペストリー、ポストカード、ビジュアル・ブック、設定資料集、絵コンテ集という特典に加え、限定デザインのキラキラ☆ホログラムパッケージ、そして全話に副音声コメンタリー収録という超豪華仕様だ。とりあえず今俺が君に推したい作品がこれだから見てくれ。自習という事で。実技のひとりあたりの持ち時間が2時間らしいから2時間分、第1話『ドッキドキ☆キラキラパワーで超変身』と第9話『はわわっ!? おいしいケーキが食べられない』、それから第37話『ギラギラ×キラキラ超熱戦☆白星血飛沫に燃ゆ』と第49話『集まれキラキラ☆パワー! デイ・ドリーム・キャッスルのたたかい』、最終話『これがわたしたちのクイニズム』の計5話を見てくれ。この作品の良さがきっとわかる」
早口にそう告げて乙女は扉を閉めた。
その後指示通りに鑑賞したのだが、思いの外面白く他の話も夜中まで見ていたのである。アニメという物を久し振りにじっくりと視聴したが、高校生になった今でも十分楽しめる内容だった。
そして今日が最終日。残る選手はふたり。午前の相手は桐悟だ。食事を終え少しゆっくりした後、例の如く太郎は彼の住む203号室を訪ねた。
「よっ! 待ってたぜ」
桐悟は軽くあいさつをするとコントローラーを掲げる。
「んじゃ、やるか」
「予想通りゲームするんですね」
「他に何をするってんだよ」
「確かに……けど僕、あんまりゲームした事無くて……初心者でも簡単に出来るのがいいんですけど」
「ん~、やっぱそうだよな、お前そんな感じだもん」
言いながら彼はゲームソフトのディスクを漁っていく。
「オレとしてはぜひともオムニスをやってもらいたいんだが……あいにく端末はひとつしかねーからな。それに2時間じゃ何も出来ねーし……まあそれを言うと全部のソフトにあたるんだが、オムニスは特にな……今日は何本かやってもらいたいんだよな。ゲームにも色んなジャンルがあるから、色んなゲームを体験して欲しい訳よ」
「はあ」
「1本あたり30分で計4本。30分じゃ物足りねーだろうけど、もっとしたかったら自分で買うか、もしくは俺の所に遊びに来い。1本目は……これにするか」
「……『ドラゴン・ナイツ・ウォー』……?」
「おう。まだ去年出たばっかの比較的新しい奴だ。オムニス始める前に結構やり込んでたんだけどな」
桐悟はハードにディスクを挿入し、ソフトを起動した。
「まあよくあるアクションゲーだよ。竜に乗って戦う竜騎士を操る。キャラを育ててステータスを上げて強くしてボスを倒す」
「へえー……おお、かっこいいですね」
オープニング・ムービーを見た太郎はその感想を述べた。
「そうそう、迫力あるんだよなあこのムービー。実際のプレイ時はさすがにここまで出来てないんだけどな……よし、ほれ」
メニュー画面を経て、桐悟はコントローラーを太郎に手渡す。
「やっていいぞ」
「あ、はい。えっと操作は……」
「シンプルだ。これでパンチ、これでキック……」
操作説明を聞くと早速キャラクターを動かしてみる。若い青年エヴァンスが主人公の様だ。
「今街中にいるだろ? とりあえず前に進め。走り回ってるとどんどん敵が出てくるから、そいつらをどんどん倒してってどんどん先に進めばいい」
「は、はい」
スティックを動かして時にはボタンを押していく。エヴァンスは順調に敵を倒していき、路上に停めてあった車を奪い市街地ステージを軽快に走り抜けていく。
「おっ、車パクったな? ちなみにそのままひき殺す事も出来るぞ」
「物騒ですね」
「何を今更」
街を出ると突如ムービーが始まった。
が、桐悟が横から手を伸ばしコントローラーのボタンを押す。ムービーは若い女性のキャラクターが喋っている途中でぷつんと途切れ、再びプレイ画面になった。
「ムービー見てる場合じゃねえ」
「……でもあれを見ないとどんな話かがいまいちわからないんですけど」
「気になるんなら自分で買うんだな」
確かにそれは一理ある。
その後も太郎はエヴァンスを操り敵キャラクターを殴り倒していった。敵は銃や剣を使ってくるが、こちらは素手のみである。ぽちぽちぽちぽちぽち……。
「……あのトーゴ先輩」
ぽちぽちぽちぽちぽち。
「何だ?」
ぽちぽちぽちぽちぽち。
「いつになったら竜に乗れるんですかね」
ぽちぽちぽちぽちぽち。
「いつまで経っても乗れないぞ」
ぽちぽちぽちぽ……。
【アァァァウチッ!】
思わずボタンを押す指を止めてしまい、そのせいでエヴァンスがダメージを受け痛そうな声を出した。
「え……だってこれ竜騎士の話ですよね。竜騎士戦争ですよね」
「そうだ。でもこのモードでは乗れん」
【アァァァウチッ!】
「何でです」
「だってこれ別シナリオだもん」
【アァァァウチッ!】
「……トーゴ先輩は僕にドラゴン・ナイツ・ウォーのメイン・シナリオではなく、こっちのサブ・シナリオをさせたかったんですか?」
「いいや? 竜を操って大空を駆って欲しいとは思ってるよ」
【アアアアアァァァウチッッ!!】
「じゃあご要望通り、竜を操って大空を自由に駆りたいんですけど」
「あ、やっぱそう思う?」
【ウィイオオオゥッ!!】
「だってこれずっと殴り倒すだけですもん」
「けどシンプル操作だろ?」
「それはまあそうですけど」
悪く言えば退屈である。
「それに聞いて驚け。何とこのモードでエヴァンスのステータスを上げると、その分がメイン・シナリオのエヴァンスの体術ステータスに還元されるのだ!」
「つまり僕はずっとステータス上げをやってる訳ですね?」
「そういう事だ! 退屈だろう? だってステ上げだもん!」
太郎はコントローラーを投げた。
【アアアアアウチッ! オウオウオウッ! アアアアアアアウチッ! ウィオゥウィオゥッ! オーノー!】
画面の中ではエヴァンスが悲痛な叫びを上げている。
「悪かった!」
「いや、まあ冗談ですけど……でもどうせなら竜を操りたいですよ」
「だよな、やっぱそうだよな。いやーメインを進めるにはわりと体術スキルも重要になってきてさ、こっちの方もちまちまやんないといけない訳。けどこっちがまた恐ろしく退屈でさ。さすがにオレは匙を投げたよ。今のお前の様に」
「で、この際どうせだから僕を使って少しでも上げとこうと」
「そういう事だ」
桐悟はメニュー画面に戻し、今度こそメイン・シナリオを選択した。
「ほらよ、んじゃあやってみな」
「操作は……」
「んーとな、これが攻撃、これがスキル1、これがスキル2。これは溜め攻撃だけど、ここのゲージが溜まるとスペシャル・スキルになる。んでもってこれがメニュー、これが武器チェンジ、これがアイテム使用。でこれがマップ表示……」
何だか途端に操作が増えたぞ。
「今のは通常時な」
「へ」
「竜に乗った時は……」
「ちょちょちょちょっと待って下さい! 一体どれだけ覚えればいいんですか!」
「どれだけって……全部だよ」
「そんなの急に言われても覚えられないですよ」
「でもそれを全部覚えないとやってけないぞ」
「ええ……!?」
「ほら敵が来た」
「え、ええっと……攻撃は……!」
「ここは3コンボ決めた後スキル1を使えば楽だぞ」
「ス、スキル1は……」
そうして三十分が過ぎた。
「な、何も出来なかった……全然竜を操れなかった……」
「だからステ上げの方やらせてたんだよ」
「何であんなに操作がいっぱいあって複雑なんですか」
「オレに言うなよ」
桐悟は次のディスクをすでに手に持っていて、それをドラゴン・ナイツ・ウォーと取り換える。
「気を取り直して次のいこうぜ」
「次は何のゲームなんですか」
「次はなあ……恋シミュだ」
「……恋シミュ?」
「ああ。恋愛シミュレーション。意中の女の子とコミュニケーションを取って親睦を深めて、恋人になる……まあ簡単に言うと、そんな感じだな」
「なるほど……それの何が楽しいんでしょう」
「んなあっ! お前なあっ! 可愛い女の子を見てテンション上がんねーのか! お前は乙女から何を学んだんだ!」
「命の素晴らしさを学びました」
「ほんとに何を学んだんだ」
昨夜見たトゥインクル・クイニズムの感想を端的に言っただけである。
「まあいい。これは疑似的な恋愛を体験出来るんだよ。インターフェイスを使ったVRゲーもこのご時世数え切れんぐらい出てるが、そこにまで手を出すとオレは現実に帰ってこれない気がしてやってない。ほら見ろ」
桐悟は起動しっ放しにしているパソコンを操作し、太郎にディスプレイを見る様に促した。そこに映っているのはまさに今テレビにタイトル画面が表示されているソフトのホームページだ。桐悟はキャラクター紹介のページをクリックする。
「こんだけ魅力的で可愛い女の子と疑似恋愛が出来るんだぞ! しかも全員と! もちろん攻略はひとりずつやってくんだが、太郎、これを見てお前は最初に誰を落としたい?」
「え? うーん……」
太郎は顎に手を当てて真剣に考えた。
「……朝比奈さん……かなあ」
ビジュアルと簡単な性格説明からしか判断出来ないが。
「ほうほう、朝比奈花恋か…………」
それを聞いた桐悟は少し黙り。
「……お前、巨乳好きだろ」
「ぶっ!!!」
太郎はつい吹き出す。
「な! なななな何を言ってるんですか!!」
確かに、よく見ると朝比奈花恋は巨乳ヒロインだった。そこまでじっくりと見てはいなかった……はずだ。胸の大きさで選んだ訳ではない。はずだ。自分に言い聞かせる。
「べ、別にそういう訳じゃないですよ!!」
「そういやお前、美月が引っ越してきた日にあいつの胸に顔を埋めたとか何とか……」
「ああちち違います! あああれは事故で……! ととととにかく俺は巨乳が好きとかそういうのでは決してないです!」
「動揺し過ぎて一人称変わってるぞ」
「とにかく違うんです!」
「まあまあわかったから。じゃあ今からじっくりおっぱいを味わおうぜ」
「だから違うんですって!!」
その後、食堂でひとり太郎はインスタント・ラーメンを食べていた。基本的に早苗は昼食を作らない。というのも普段昼間は学生住人は出払っているため、作る必要が無いのである。しかし今の様な連休や、夏休みなどの長期休暇中は厚意で作ってくれる時も多分にある。
あれから恋愛シミュレーションを予定通りやり(当然ながらフラグがほとんど立つ事無く時間が過ぎた)、パズルゲーム、シューティングゲームをやって桐悟の実技は終了した。
朝比奈花恋……プレイしていて出会っただけで終わってしまったが、癖のある黒い髪に、大きな胸……どことなく美月と重ねてしまったのは太郎だけだろうか。
「ええい、今は最後の実技に向けて英気を養うのみだ!」
ぶんぶんと首を振り、ラーメンのスープを一気に飲み干した。
「……」
最後の実技の時間、太郎は水槽にぴたりと顔を張り付けてひたすらに中を見つめていた。
「……」
そのすぐ隣には静音の顔もある。ふたりの視線の先には彼女のペットである亀のコーラ(オス)がいた。石の上に佇んでおり、全く動かない。
「……」
「……」
静音がつんと甲羅をつつくと、コーラは数秒遅れてのそりと反応を見せる。それを目にした静音は口元を緩めた。
「……にこっ」
「……」
「……」
「……」
静音の趣味って亀との触れ合いか―――ッ!
終始無言だったジェスチャーのみのあのプレゼンの内容がまさかこんな物だったとは。しかも亀って。
叶荘ではペットを飼う事は禁止だが、水槽の中で飼える生き物ならば基本的に大丈夫らしい。亀なら仮に逃げ出してもそこまで大事にはならないという事で許可が下りているそうだ。このコーラは以前御笠川の畔で静音が拾ったとの事である。
彼女が横から餌の入った袋を太郎に渡す。あげてという意味なのだろう。それを受け取ると彼は指で餌を摘まみ、ぱらぱらと水槽の中に落とした。しかしコーラは何の反応も見せない。
「……あのー、コーラさーん……」
先ほどの静音と同様につんつんと甲羅をつつくとようやく動き始め、餌を食べ始めた。
「……」
「……」
その様子を静音はじっと眺めていた。
「……」
「……」
静音って暇な時はずっとこうしているのだろうか。キャンパーが焚き火を見つめて無心になれるみたいな、ああいった境地なのか。わからなくはない。
十数分後、ふと時計を見た彼女はコーラを水槽から取り上げると徐に甲羅に紐を巻き付け始めた。
「……静音……?」
きゅっと結んだ紐の先を持ち、合図の様にくいくいと軽く引くとコーラを後ろから先導して前へと進ませる。
「ま、まさか、散歩に行くのか……!」
「さて、それではいよいよこの時がやってまいりました! 第1回太郎君争奪チキチキプレゼン大会、結果発表の時間です!」
夕方になり、食堂には学生住人全員が再び集まっていた。そこには無事に山場を越えたらしい乙女の姿もあった。
「選手の皆さんお疲れ様でした。さて、先ほどをもちまして全てのプレゼンが終了しました。果たして太郎君に選ばれるのはどの選手なのか! 早速太郎君ご本人から発表してもらいましょう! さあ太郎君! 君が一番気になったのはどの選手ですか? ダララララララララララララララララ……」
司会の美月はセルフ・ドラム・ロールを鳴らす。
「ダンッ! どうぞ!」
「え、ええっと……き、決められないです」
一同の間に沈黙が流れる。
「……そこを何とか!」
「せやで太郎! みんなそのために頑張ってプレゼンしたんやで!」
「え、ええそれはわかってますけど……でもやっぱり決められないです」
「……という事は、まさかの延長戦に……?」
「いやいやそうじゃなくてですね! ええっと、決められないんですよ。というか決める必要が無いというか。その、皆さん自分が好きな物に凄く夢中になっててそこに優劣は無いと思うんです。だからこの場で僕がどれが一番かなんて言えるものじゃないというか……」
「でも、向き不向きがあるし……」
「だからです。向き不向きがあるからこそみんなの前でわざわざ比べる必要が無いんですよ」
「なるほどね~、その理屈はお見事だな」
旭が感心した様に笑う。
「ええ~、それじゃあ太郎君が惹かれる物を見付けるっていう今回の大会の主旨自体が間違ってたって事……?」
「いえいえ! 間違ってないです! ただ誰が一番よかったかなんて決める必要は無いと思うんです。それに、お陰様で見付けました。多分」
「え? ほんと?」
「はい、何となく、ですけど。この3日間、楽しかったです。僕の暇潰しに皆さん付き合ってくれて、ほんとにありがたかったです。それで思ったんです。ふとした時にこういう気持ちを思い出せたら、何かいいなって」
「それはつまり……?」
「ありがとうございましたー」
連休が明けてさらに週末、博多駅の近くにある家電量販店で買い物を済ませた太郎は一直線に叶荘へと帰る。最初に撮るものは既に決まっているのだ。
「えーっと、すいません皆さんもうちょっと真ん中に……はいオッケーです。玄さんもギリギリ入ってます。それじゃーそのままで……ってあれ? すいませんもうタイマー入ってました!」
「太郎君早く!」
「はっはいっ!」
スタンドにセットしたカメラから離れるとばたばたと彼は自分の立ち位置へと向かう。撮影者という事で中心に立たせてもらうのだった。
太郎が正面を向いたのとほぼ同時にシャッター音が鳴る。ちゃんと撮れたのだろうかと彼は急いでチェックに向かった。
「どうだ? 太郎」
「はい、何とか全員入ってますね」
「ん~? オレの写りがいまいちな気が」
「あんたは元からこんな顔よ」
「あの、いいんでしょうか、学生のみんなの中に私なんかがまじって」
「それを言うならワシなんか住人ですらないよ」
「二次元ならタイミングよくスカートが捲れたりするものなんだけどね」
「あれ、姉ちゃん太った?」
「嘘っ!? まさかそんな……!」
「ぶははっ、何や太郎お前この顔! 全然笑えてへんやんけ!」
「あ、焦ってましたからね」
「……にこり」
「どうする太郎? もっかい撮るか?」
「いえ、これで大丈夫です」
太郎は満足そうにもう一度カメラのディスプレイに視線を落とす。そこには叶荘の前に住人全員と、それから大家の玄十郎が並んで写っていた。
「僕の趣味の産物、記念すべき第1号ですね」
Life goes on...next DAYS.
今回でSEASON 1が終わりです。といっても次シーズンでも特に変化はありませんが。そこら辺は活動報告にちょろっと書きますね。




